モノとモノとがネットワークで接続されることで、相乗効果をもたらそうというのがIoT(Internet of Things:モノのインターネット)だ。現段階でもAIシステムがネットワークに取り込まれているが、さらに進めてAI同士をネットワークで接続するプランが官庁主導で行われている。それが「AIネットワーク」である。
本稿では、AIネットワークの概要や、AIネットワーク化が目指す社会像について紹介する。
続きを読むAIネットワーク化とは何か
AIと関連の深いIoT
インターネットが普及して時間が経つが、モバイル端末でも「5G(第5世代移動通信システム)」がまもなく開通するなど、高速かつ大容量のデータ通信が可能になる。とりわけ近年注目を浴びるのが、IoTである。スマートフォンのような通信端末はもちろんのこと、自動車や工場の設備、監視カメラなどあらゆる「モノ」がインターネットによって接続される。
AI(人工知能)もまたIoTを円滑にする潤滑油として作用する。端末に取りつけられたセンサーから収集されたデータが、遠隔に設置されたクラウドコンピューターや、端末とクラウドの中間に設置されたエッジコンピューターで処理される。処理されたデータをネットワークに接続されたモノに活かすことで、効率化を図ろうというのがIoTの狙いである。
AIネットワーク化は、モノだけでなくAIシステムそのものをネットワークで接続した、IoTを一歩進めたかたちのシステムを目指している。
AIネットワーク化の現状
AIネットワーク化を進めようとする官庁の動きは、AIがネットワークに組み込まれた社会に関する欧米の議論と切り離せない。
AIネットワーク化の背景にある欧米の動き
欧米ではすでに、AIに関する法律や政策についての議論が続けられている。特定分野ではAIが人間の処理を超えるパフォーマンスを発揮するまでに進化したことや、AIがネットワークに組み込まれることでサイバー攻撃などのセキュリティ問題が浮上したため、AIに関する法制化が課題になったのだ。
2016年以降、アメリカのオバマ政権時に、AIに関する政策提言を伴う報告書を公表したり、欧州議会がロボットに関する民事法上の問題についてEU法の策定を勧告する報告書を公表するなど、AIに関する法整備の検討が開始した。このような流れを受けて、世界中でAIをめぐる規範形成に向けた議論が盛んになった。
日本のAIネットワーク化に向けた取り組み
日本では、総務省が2016年2月に、「AIネットワーク化検討会議」を開催した。国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案を作成するなど、AIネットワーク化のガバナンスのあり方について検討中である。それと同時に、AIネットワーク化が社会や経済にもたらす影響やリスクの評価を行なったという。
2017年3月には、AIネットワーク化のガバナンスのあり方について、日米欧らが参加する国際シンポジウムが総務省主催で東京において行われた。この国際シンポジウムで、AI開発のガイドラインが作成された。
AI開発のガイドライン
以下の5つがガイドラインの基本理念である。
- 人間中心の社会実現
- 指針や業界標準を権利者間で国際的に共有
- リスクと利益のバランス
- 技術的中立性の確保
- ガイドラインの継続的な見直しと柔軟な改定
現状ではAIネットワーク化に向けたガイドライン案が完成したばかりである。AIの用途については自動運転や医療などで異なるため、各分野に即したガイドラインの策定が検討される必要がある。また国際標準となるべきガイドラインを策定するために国際的な議論を重ねることなどが現状の課題である。
AIネットワーク化が重要になる理由とは
なぜ官庁主導で議論が進められているAIネットワーク化が重要な意味をもつのか?その理由は、 AIネットワーク化が実現した社会におけるガバナンスの問題と関連がある。
社会の理想像としての「智連社会」
AIネットワーク化検討会議は、人間とAI(人工知能)とが共生する社会の理想像として、「智連社会(Wisdom Network Society)」と掲げている。
ネットワークの普及により、われわれはリアルタイムで海外の情報を手に入れることが可能になった。Wikipediaなどのウェブ上のコンテンツは、紙ベースの有料メディアに比べて更新されるスピードも速く、フリーで入手できることも大きい。このようなネットワーク化により、知識社会が形成されていった。
ここに新たに加わるのが、AIである。ウェブのようなネットワークにおいて、データや情報、知識など、AIで学習できるものが存在する。つまり、これらのコンテンツを組み合わせることで、智慧(Wisdom)が生まれ、それらがネットワークで共有される。このような社会が、智連社会と呼ばれるものだ。
智連社会における人間の役割
人間もまた智連社会のなかで主体的にかかわることが期待される。単にAIと人間とが共生するのではなく、ネットワークのなかでAIを主体的に使って、新しいデータや情報、知識を創造することが求められるのだ。
もっともAIと人間とが共生するためには、その下準備が必要になる。たとえば、AIが行なえることのひとつに、「信用の数値化」がある。金融機関が個人に融資を行なうか決定する際に、日本のような先進国の場合、それを判断するデータはすでに蓄積されている。ところが中国やベトナムのような新興国や発展途上国の場合、十分なデータが蓄積されていない。そこでSNSのデータや電子決済の記録などから、AIによる信用度のスコアリングが研究・開発されている。
確かにAIによって、従来よりも精度の高い信用度のスコアリングに可能になるだけでなく、人件費が削減されるといったメリットもある。ところが、スコアされる人間への影響もまた見逃せない。スコアの低い人たちは、融資を受けられないだけでなく、社会への参加が制限される可能性がある。たとえばスコアが低くなることで、ビザの取得ができなくなるといったデメリットも考えられるだろう。
そこで必要となるのが、AIネットワークにおけるガバナンスである。AIネットワーク化検討会議では人間が主体的にかかわっていくことが掲げられているが、個人がAIを活用するだけでなくAIネットワーク化した社会での規範作りを含めて、今後ますます個人の裁量が求められてくるだろう。
AI(人工知能)ネットワーク化がもたらすメリットとは
AIネットワーク化がもたらすメリットは、その相乗効果の大きさである。事実AI(人工知能)がネットワークに組み込まれた結果、発明や創作が増加しているのだ。
なぜAIネットワーク化が創作を増加させるのか
AIの代表格ともいえる「ディープラーニング(深層学習)」を稼働させるためには、データを大量かつ素早く処理するためには大型計算機が必要になる。とはいえ、誰もがこのようなインフラを準備できるとは限らない。だが、AmazonやMicrosoftといった企業がクラウドで利用できるAIプラットフォームの提供を開始したため、ユーザーは比較的容易にAIを活用できるようになった。
加えて、Googleなどプログラミングしなくても簡単にAIを活用できるプラットフォームの提供を開始した。従来は学習にかけるべきビッグデータやプログラミングに関するノウハウがないとAIに手を出すのは困難だったが、このようなプラットフォームの提供によりAIへの参入障壁がぐっと低くなった。これにより、AIを活用した発明や捜索が増加したのだ。
一例だが、AIによる創作活動の自動化が挙げられる。Googleは任意の画像を自動的に加工し、新しい画像を創作できる「DeepDream」を提供している。またケンブリッジ大学出身メンバーは、「Jukedeck」と呼ばれるディープラーニングによる作曲の自動生成サービスを手掛けている。このようなサービスを利用すれば、誰もがAIを活用してクリエイティブな制作が可能になる。
つまり、ネットワークに組み込まれたAI同士を連携させることでさらなる相乗効果が期待されるのだ。
まとめ
AIネットワーク化がもたらす相乗効果によって、クリエイティブな活動がますます増えるだろう。AIが人間の作業を代替するため、人間が行なえることが制限されるという懸念もある。だがむしろ、人間が主体的にAIネットワーク化社会で振舞うことが、今後求められてくるのだ。
<参考>
- 国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案(総務省)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000490299.pdf - 「AIネットワーク社会の推進」(『自動車技術』2018年5月号)
- 「AIネットワーク化の中で、自由で公平な社会をどうつくるか」(『三田評論』2019年2月号)
- 「AIネットワーク化の近未来予測と知的財産権」(『年報知的財産法 2016-2017』)
- 「AIネットワーク化をめぐる法的問題と規範形成」(『自由と正義』2017年9月号)
- 『AIがつなげる社会 : AIネットワーク時代の法・政策』(福田雅樹、林秀弥、成原慧 編著)
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