AI化した鉄道は、より安全に、より速くなる

鉄道事業でAI(人工知能)の存在感が増している。JR東日本は人口が減っても収益を確保できるようにサービス向上で役立てている。ホームでの転落防止など安全策にも有効だ。

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鉄道事業ほどAI(人工知能)の導入の効果が期待される分野も少ないだろう。AI化された鉄道は、より安全になり、より速くなり、より快適になる。

なぜここまで断言できるのかというと、すでにAI鉄道が走り始めているからだ。

まだ一般客にみえない場所でしか成果があがっていないが、AIによって鉄道は確実に進化している。そして今後は、乗降客が「あっ」と驚くサービスが登場するだろう。

なぜ鉄道業界はこれほど短期間にAI効果を生み出せているのか。それは鉄道事業が、AIのビッグデータ処理能力と識別能力を遺憾なく発揮できるステージだからだ。鉄道は、高速処理が必要なビッグデータと識別が必要なデータをたくさん保有している。

AI-鉄道

JR東日本は明治維新に匹敵する改革をする

JR東日本は世界最大の鉄道会社である。その幹部がある講演で、AIが鉄道事業にもたらす変革は、明治維新が生んだ輸送革命に匹敵するだろうと述べた。

これはJR東日本の危機感の現れでもある。明治以降、日本の鉄道事業は人口増による輸送力の増強に対応すべくバージョンアップを繰り返してきた。

ところが平成終盤のJR東日本は、人口減のなかで収益を上げるという難題を突きつけられている。人口が減れば運ぶ人も運ぶものも減るから、鉄道事業ほど人口減によるダメージをダイレクトに受けるビジネスもない。

だからJR東日本は、人口減のなかで収益を増やす難事業に、AIで挑もうとしているのだ。

4つの課題すべてをAIが解決するわけではない

JR東日本は次の4項目を磨き上げることでこの難局を乗り切ろうとしている。

・サービスとマーケティング

・オペレーションとメンテナンス

・安全と安心

・エネルギーと環境

このうちAIによるソリューションと相性がよいのは「サービスとマーケティング」と「オペレーションとメンテナンス」だ。

4つの課題すべてをAIで解決しようとしない点は注目できる。AIで業務の効率化を図りたい企業は少なくないが、現代のAIの能力を見極めたうえで自社の課題とマッチングさせないと有効なソリューションとはならない。

それではAIが「サービスとマーケティング」と「オペレーションとメンテナンス」の課題をどう解決するのかみていこう。

AI(人工知能)-鉄道

JR東日本は「サービスとマーケティング」をどうAI化しているのか

JR東日本の客が最も望むサービスは混雑の解消である。もちろんJR東日本は最早単なる鉄道会社ではなく、不動産会社であり物販会社であり旅行会社でもある。それでも最大のテーマにして永遠のテーマは、通勤ラッシュと大型連休中の混雑の解消である。

JR東日本はこれまで、ダイヤ通りの運行こそ混雑解消につながると考えてきた。なぜならダイヤは、鉄道を走らせるタイミングの「最適解」だからだ。何十年もの運行データを分析し、無数に近い運行パターンのなかからダイヤを決めてきた。ダイヤ通りに鉄道を走らせても混雑してしまうのは、ある意味仕方のないことと考えてきた。

しかし事故や想定しなかった事態が発生したときもダイヤ通りに運行すると、かえって混雑することがわかった。ダイヤを作成するときは平時を想定しているので、非常時に非効率な運行になるのはやむを得ない。

また、ダイヤは完璧を追求してつくられているので、「こちらを立てればあちらが立たない」状況が生まれる。そのため非常時が起きたときに瞬時に「非常時用の最適解」を人の力で生み出すことは難しい。しかも非常時は、どの路線のどの列車にいつ発生するかわからないので、シミュレーションすることもできない。

朝に埼玉県で発生した事故の影響が、夕方の横浜のダイヤを乱すこともあるという。

そこでJR東日本は、AIの活用を考えた。AIに、列車の理想の運行状況と過去に事故によって発生したダイヤの乱れを学習させれば、非常事態が発生したときに瞬時に「応急処置的なダイヤ改正」を提案させることができる。

その提案さえあれば、あとは人が検証することですぐに実行に移すことができる。ある列車を速く走らせたり、列車を増便したりすることで、混雑を緩和させることができるようになる。

AIの記録力と予測力があれば、埼玉県の朝の事故のつじつまを、夕方の横浜で合わせることもなくなるだろう。

JR東日本は「オペレーションとメンテナンス」をどうAI化しているのか

車両やレールなどのメンテナンスのAI化については、JR東日本はすでに準備に着手している。山手線の車両の底部にセンサーを設置し、走行しながらレールの固定ボルトや表面の傷をチェックしているのだ。

さらに列車の上部についているパンタグラフの周囲に、次のような装置を取り付けている。

・パンタグラフ衝撃測定装置

・離線(紫外線)検出装置

・トロリ線高さ・偏位測定装置

・トロリ線摩耗測定装置

・電柱位置検出装置

これらのセンサーによって、走行しながら車両や設備の不良、周囲の環境変化などの情報を収集することができる。

AIは間違い探しが得意だ。AIに「これと異なるものを選べ」と教えると、どんな些細な違いもみつけることができる。

将来、すべての列車にこれらのセンサー群を搭載すると情報量は膨大になるが、AIならこうしたビッグデータのなかから異変や異常を検出することができる。

冒頭に紹介したJR東日本の幹部は次のように述べている。

「1歩先、2歩先のサービスを開発し、ビジネスモデルも見直して、IoT(ネットとモノ)とAIの時代が到来しても、鉄道は移動と輸送サービスの主役でありたい」

JR九州はAIでホーム転落事故を防止する

すでにAI鉄道の実用を開始しているのは、進取の気性に富むJR九州だ。無人駅のホームに監視カメラを設置し、その画像をAIにチェックさせている。無人駅とは駅員が1人もいない駅で、九州の過疎の街の駅では珍しくない。

JR九州がAIにチェックさせているのは、ホームの下に転落しそうになる乗降客だ。無人駅では駅員による観察ができないから、AI監視カメラに見張りをさせて客の安全を守るというわけだが、AIにそのようなことができるのだろうか。

なぜAIは「転落しそうになる」ことを察知できるのか

群集を撮影した動画のなかから「ある行動」をしている人物だけ特定することは、現代のAIにとってなんでもない仕事だ。例えばAIなら、靴ひもを直すために屈んでいる人と、腹痛を起こしてうずくまっている人を見分けることができる。しかも靴ひも結びの行動と苦痛でうずくまる行動の画像をAIにみせる(学習させる)だけでよい。AIは、苦痛でうずくまる前の動きや、うずくまって動かなくなってからの時間などから、うずくまりの特徴をみつけるのだ。

JR九州の転落予測AIも同じ原理を使っている。例えば「ふらふら歩く」といった、ホームの下に落ちそうな人の特徴をAIに学ばせることで、線路の上の鳩を眺めるためにホームの端(はし)に近付いただけの人と区別する。

無人駅のAI監視カメラがホームの下に落ちそうな人を感知したら、駅構内にアラームが鳴り警告する。

車いすの客に素早く手を差し伸べる

三菱電機は鉄道会社向けに、駅構内の車いすの客をみつけるAI監視カメラを開発した。

原理は先ほど紹介したホーム下への転落予防システムと似ていて、車いすの動きを学習させたAI、駅構内に設置した監視カメラが撮影した動画を読み込ませると、乗降客のなかから車いす客だけをみつけて駅員に知らせる。

駅員がすぐに駆け付ければ、乗降の支援をすることができる。

三菱電機はいま、鉄道事業ソリューションに力を入れている。これはAIではないのだが、ゲートのない改札口もそのひとつだ。

現在の鉄道の改札口は、競馬のスタートラインに設置したゲートのように普段は閉じていて、通過できる手続きをした人が近づいたときだけ開けている。

この改札口システムの開け閉めは、ICカードを使うことでかなり高速化されたが、それでも時間がかかる。そして何よりゲート自体が大きな障害物だ。

そこで三菱電機は、地面にICカードリーダーを埋設し、ゲートをなくした改札口を開発した。ICカードを持っていない人がこのゲートのない改札口を通ろうとすると、プロジェクションマッピングで床に停止を促す表示が出て不正を本人に知らせ、同時に駅職員に通報する。

AIを搭載していないITでも、鉄道をこれだけ便利にすることができる。

まとめ~AIにひとつずつ任せる

JR東日本、JR九州、そして三菱電機の鉄道AIへの取り組みは、一見するととても地味だ。例えば人々の記憶に鮮明に残っているAIといえば、囲碁の世界チャンピオンを破ったり、あたかも人のように会話したりする機能ではないだろうか。それらに比べると、鉄道AIには華やかさがないように思える。

しかし鉄道事業は安全第一で進めなければならないので、まだ技術的に発展途上のAIを全面展開することも、拡大適用することも難しい。

したがってひとつずつAIができそうな仕事を探し、少しずつAI化していくのだろう。


<参考>

  1. 人口減少時代を迎えた鉄道の未来–IoT×AIで実現するJR東日本の技術イノベーション(CNET)
    https://japan.cnet.com/article/35097615/
  2. 鉄道利用の“未来”は? 進むAI活用(NHK)
    http://www.nhk.or.jp/nc11-news/digest/20171120/index.html