ディープラーニングとエキスパートシステム(ルールベースAI)の使い分け方

ディープラーニングとエキスパートシステム(ルールベースAI)の使い分け方を解説する。

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AIだからといってディープラーニングとは限らない

現在は「第3世代AIの時代」と呼ばれ、そのキーワードとして「ディープラーニング」がある。これは大量のデータを用意し、そこから特徴量を抽出することで、与えられた命題に対する答えとして確率の高いものを選択するという、人間に近い判断方法をコンピューター上に再現したものである。そしてこれにより第3次AIブームが起こり、多くの企業がここに参入したり、AIの利用を検討したりしている。

だが、展示会などでAIをうたう製品やサービスを見てみると、画像処理を行う製品やサービスはディープラーニングを利用していると考えられるものの、それ以外では第2世代のAIであるルールベースAIであろうと想定されるものも散見される。それはルールベースAIの方が、ディープラーニングよりも精度が高く、使い勝手の良いジャンルというのが存在しているからである。

では一体、どういうジャンルであればディープラーニングが有効で、どういうジャンルであればルールベースの方が有利なのだろうか。今回はルールベースAIの方が有利なジャンルや、ルールベースAIを構築する上で重要なポイントについて考えてみよう。

AI_ディープラーニング

ルールベースとディープラーニング

歴史的には1980年代に第2世代AIとして開発されたのがルールベースAIである。当時はエキスパートシステムとも呼んだ。この時代のAI開発は、専門家の作業を自動化することを目的としていた。この領域が自動化できると考えたのは、士業などの専門家の作業には一定のルールがあり、そのルールをコンピューター・プログラムに置き換えてしまえば良いと考えていたからである。

一例を挙げると、企業会計については明確なルールがある。もちろん企業ごとに設定される項目もあるものの、そのルールさえ決めてしまえば、簿記の手順に沿って作業を行うだけである。このように、業務をルール化できるジャンルにおいて、ルールベースAIは人間など足下にも及ばない無類の強さを発揮すると考えられていた。

ところが、ある程度までは上手く行ったものの、残念ながら最終的に汎用的な製品として実用化するにはほど遠かった。なぜかというと、一定のルールがあるとは言え、実際にはルールの数が膨大であり、プログラムが複雑怪奇になる、もしくは初期設定が煩雑になる、さらには当時のコンピューターの計算速度では時間がかかりすぎる、といった問題が発生したためだ。それに加え、ルールから外れた例外がかなり多くあり、この例外処理をプログラムに落とし込むことができなかったためでもある。会計の場合も簿記の範囲であればルール化は容易であるが、そこにも若干の例外が発生することがある。また、そこから決算書類を作成する段になると人間による判断が入り、それがルール化し難かったのである。現在でも

「簿記会計はAI化できるだろうが、会計監査はAI化不可能である」

と言われている。そのため、第2次AIブームは失意の下に終了してしまい、AIの開発は1990年代に冬の時代を迎えることとなった。

これをある程度克服する事ができたのが、第3世代AIとして現在注目を受けている、「ディープラーニング(深層学習)」である。「ディープラーニング」は膨大なデータから統計的な処理を行う事により例外処理にも対応しようとしている。

インターネット上にテキストデータや画像データがあふれるようになり、デジタルデータの入手が容易になったため、ここにあるデータを使って学習させることにより、例外までを含めた識別器を作成できるようになった。AIは近しいと思われるものを確率で表現することで例外が発生することをも取り込むことに成功したと言える。ただし、これをどの様に活用して製品化もしくはサービス化するかは、開発者の腕の見せ所ということになる。

また、全てのデータがインターネット上に無償で公開されているわけではないため、独自で取得するか、準備しなければいけないデータが必要になる場合がほとんどである。したがって、ルールベースAIと比較した際に、データの用意という大変な手間やコスト(人的にも金銭的にも)が発生することも念頭に入れておくべきだろう。

エキスパートシステムが向くジャンル

ここまでルールベースとディープラーニングの基本を説明してきた。昨今のAIブームがディープラーニングを中心に動いているが故に、全てのAIがディープラーニングを使っていると考えがちだが、実はそうでもない。ジャンルや使い方によってはディープラーニングよりもルールベースの方が良い場合がある。ここでは、いくつかの例をベースに、ルールベースAIが有利なジャンルを紹介しよう。

まずは教育業界において注目されている「アダプティブ・ラーニング」という手法を実現するためのAIを紹介する。このジャンルにはベネッセ・コーポレーションの「Classi」やリクルートの「スタディサプリ」などのサービスがあるが、ここでは「QubenaWiZ for Math」というサービスを例に説明する。

このサービスは「for Math」という名前の通り、算数・数学の学習を行うためのものである。このサービスを使って学習した時間や成績などから、次に学習するべき、一人一人に合った学習用教材を提示できるようになっている。この個々人に合わせた教材を提示するというのが「アダプティブ・ラーニング」という手法のキモであり、ここにAIが利用されている。だが、実のところ算数・数学に関してはディープラーニングを使う必要はないと言って良い。というのは、算数・数学は前の年度に学んだことがしっかりと定着していなければ、上の学年で学習する内容を理解することは難しいからだ。その根拠となるのが表1である。

  数と式 関数 資料の活用 図形
数と計算 関数 数量関係 量と測定 平面・空間
高校 3年 関数、極限、微分法・積分法   確率分布、統計処理   行列、式と曲線
2年 式と証明・高次方程式、微分法・積分法 三角関数、指数関数、対数関数 数列   平面ベクトル、空間ベクトル
1年 数と式、方程式と不等式 二次関数、三角比 集合と論理、個数の処理、確率   平面図形
中学校 3年 平方根、展開、因数分解、二次方程式 二次関数 標本調査   相似、三平方の定理、円の性質
2年 連立二元一次方程式 一次関数 確率   合同
1年 正負、一元一次方程式 比例、反比例 ちらばりと代表値   移動、投影
小学校 6年 異分母分数の乗除 比、比例 平均、度数分布、場合の数 概形、面積、体積、速さ 拡大、縮小、対称
5年 奇数・偶数、小数同士の乗除、異分母分数の加減 比例関係 百分率、円グラフ、帯グラフ 面積、体積、測定値、単位量当たり 多角形、円周率、角柱、円柱
4年 概数、小数の加減乗除、同分母分数の加減 四則混合式 二次元の表、折れ線グラフ 面積、角度 平行、垂直、立方体、直方体
3年 整数の加減乗除、小数、分数 式による表 表や棒グラフ 単位の測定、時間の計算 二等辺三角形、正三角形、角、円・球
2年 整数の加減乗 式による表現   単位と測定、時間 三角形、四角形
1年 整数の加減 式による表現   量の比較 身の周りにある物の形

表1 小学校1年から高校3年までの学習領域と、そこに含まれる単元
(山田が文部科学省の学習指導要領から作成)

例えば「数と式/数と計算」の学習領域では、小学校3年で学習する「小数」が身についていなければ、4年の「小数の加減乗除」は理解できない。またこれが身についていなければ5年の「小数同士の乗除」は理解できない。つまり、前の年度での同じ学習領域を理解できなければ、上の学年の同じ学習領域は理解できないというのが、学習を行う上でのルールとして明確に存在しているのだ。

ということであれば、学習者に合う教材を提示するには、対象となる学年の教材を一旦提示し、なんらかの基準を基に「完全ではないがそれなりに身についている」と判断できれば同じ学年の内容をさらに追加提示し、もし基準よりも成績が悪いようであれば、一つ下の学年の内容を提示する。このようなルールに則り、自動で学習する内容を提示するわけだ。これであればディープラーニングを利用する必要はない。つまりエキスパートシステムであるルールベースAIの出番となる。

エキスパートシステムと人間が協働するジャンル

2つ目の例としては先ほども紹介した簿記会計を挙げよう。簿記会計は基本的にルール化された世界である。ルールが明確になっていなければ、その企業の決算情報を信用できなくなるからである。ただし、企業ごとのルールがどうしても発生してしまうため、そこをどう考えるのかが重要なポイントになる。

例えば企業で自動車を購入したとする。通常は社用車として利用すると考えられるので、これは固定資産として計上する必要がある。当然会計ルールとして採用されている複式簿記でも、固定資産に相当する勘定科目で仕訳をすれば良い。これは明確にルール化できるし、されている。

ところがこれが自動車販売業であればどうであろうか。社用車の購入もありえるが、どちらかというと商品の仕入という可能性の方が圧倒的に高い。つまりこれは商品であるため固定資産ではなく流動資産として計上されるべき項目である。当然のことながら勘定科目も流動資産に関する勘定科目であるべきだ。

つまり、企業によって同じものを購入したとしても計上するべき勘定科目が異なるため、カスタマイズが必要となる。また自動車販売業の例で言うと、自動車の購入のほとんどは流動資産扱いであるが、社用車(固定資産)の購入という例外処理がどうしても発生する。そしてルールベースAIはこの区別を自動で行う事ができない。もしそこにまで自動で対応しようとすると、とてつもない手間がかかる。これが第2次AIブームを終わらせた原因だったわけだ。

とはいえ、そのためにディープラーニングを利用しようとしても、コストがかさむだけである。そもそもそのようなデータをどうやって準備すれば良いのか想像もつかない。現実的な対処法としては、基本はルールベースAIに任せてしまい、特殊な例外のみを人間が手作業で修正するというやり方である。つまりAIと人間による協働作業だ。この方が効率的である。

ただしルールベースAIの導入で注意しなければならないのは、このような例外をなるべく少なくすることだ。あまりにも例外の数が多くなると、頻繁に人間がチェックと修正を繰り返す必要が出てくるため、逆に非効率になりかねない。ルールベースAIを導入する場合、現在の業務にルールベースAIを合わせることではなく、ルールベースAIを活用しやすいように業務自体を見直すことも念頭に入れるべきだ。例えば、

「仕分けの基になっている領収書や請求書のフォーマットは企業ごとに異なるため、人間でないと判断できない」

という意見もあるが、これは

「このフォーマットで提出してください」

と相手企業にお願いするという手も検討してみると良い。

最後に: 最適なAIを選択するポイント

ここまで2つの事例を挙げてルールベースAIの活用方法について紹介してきた。業務に例外が少なく、ほとんどの場合にルールが存在するようなジャンルにおいては、圧倒的にルールベースAIの方が導入コストを抑えることができる。これはディープラーニングを利用する第3世代AIが大量のデータを必要とし、その作成や整備に人的にも時間的にも金銭的にも大きなコストが必要だからである。

もしAIを導入しようとしている業務が、(一部には例外があるにせよ)明確なルールに則って運用されているのであれば、ディープラーニングではなくルールベースAIを導入した方が良い。例え例外が多い業務だとしても、ルールに則った処理ができないかどうか、再検討してみるのも一つの手である。もし業務を再構築することにより一定のルール化が可能なのであれば、社員の再研修は必要になるかも知れないが、そのコストを払ってでもディープラーニング用のデータを用意するよりは安くつく可能性がある。そうであれば、わざわざ高いコストを払う必要はない。

「ルールベースAI=古い=役に立たない VS ディープラーニング=新しい=役に立つ」

という図式ではなく、

「ルール化された業務→ルールベースAI VS ルール化できない業務→ディープラーニング」

と捉えて判断して欲しい。


<参考>

  1. Qubena WiZ for Math
    https://wiz.qubena.com/lp/math_01/
  2. 「AI教師」が人間の学習能力・意欲を高める
    http://www.laboratory.ai/trend/224
  3. 「生きる力」は伸ばせるか。教育×AIの挑戦
    https://newswitch.jp/p/9174
  4. 現行学習指導要領
    http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/index.htm
  5. AIで士業は変わるか? 【第10回】「AIの進化がもたらす将来の税務の姿」
    https://profession-net.com/professionjournal/reading-192/
  6. freeeにAIが会計上のエラーを自動チェックする新機能、今後は修正提案の自動化も
    https://jp.techcrunch.com/2018/05/28/freee-ai-kansa/
  7. AI時代の経理財務の仕事とは何か?
    http://www.kaikeidiversity.jp/ai_jj05accounting.html
  8. 経理がAIに乗っ取られる、は本当か?
    http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/25/news031.html