機械学習を使ったソリューションが社会に広がっている。すでに機械学習の「すごさ」を体験している人も少なくないだろう。
ところが「AI(人工知能)は触ったことはあるが、機械学習は知らない」という人は意外に多い。だが、恐らくその人が体験したAIは機械学習のことである。
両者には次のような違いがある。
一方の機械学習は、AI研究者がAIを実現する方法を考えて編み出した具体的な技術である。したがって、機械学習の技術はまだ、壮大なAIの世界を実現できていない。AIとは夢の技術であり、いわば概念である。
しかし機械学習はすでに十分すごい。しかも、機械学習にはまだまだ発展すると思わせるすごさもある。
続きを読む機械が学習するには教師が必要
機械学習のすごさを紹介する前に、機械が学習することについて考えてみたい。子供が学習するときに教師が必要なように、機械学習にも教師が必要になる。
教師の違い、お茶の水博士とのび太
夢のAI技術を搭載しているロボットに、アトムとドラえもんがある。2体ともまだ現実のものになっていないし、そもそも漫画の登場人物である。
しかしアトムとドラえもんはAIの概念を捕らえようとするときとても役に立つ。なぜならこの2体のロボットを見た人々が「AIが究極に進化すると、こうなるのか」と感じることができるからだ。
そしてアトムとドラえもんは、かなりリアルに描かれている。この2つの漫画を読み比べると、教師によってパフォーマンスがまったく異なることがわかる。
アトムは天才科学者である天馬博士が開発し、その後、やはり天才科学者であるお茶の水博士に委ねられた。お茶の水博士は科学者として優秀なだけでなく、人格者であり正義感も強い。そのお茶の水博士の教えを受けたアトムは、世界の平和を脅かす極悪人たちと闘うまでに成長した。
一方のドラえもんの教師は小学生ののび太である。しかものび太は、小学生のなかでも落ちこぼれのほうである。したがってドラえもんものんびりしたロボットになってしまった。
ただドラえもんはとても優しい。それは教師であるのび太の優しさを受け継いでいるからだろう。(映画版のドラえもんはアトム並みに活躍するが)
アトムとのび太に教師がいるように、機械学習にも教師がいる。
機械学習の教師
機械学習の能力を搭載したコンピュータに大量の猫の画像を入力し、「これが猫である」と教える。すると、次に、これまで示したことがない猫の写真を機械学習コンピュータに入力し「これは何か」と尋ねると、「猫である」と答える。犬の写真を入力すると、機械学習コンピュータは「猫ではない」と答える。
これだけでも十分「すごい」ことなのだが、しかしこの事例だけでは、すごさを感じられない人もいるだろう。
しかし機械学習は、同じことを「がんの発見」でも行うことができる。
胃がんを見つける
理化学研究所と国立がん研究センターは2018年7月、機械学習で早期胃がんを高い精度で発見する技術を開発した、と発表した。
胃がんは、医師が患者の胃のなかに内視鏡を入れ、「目で見て」確認する。しかし、胃がんの「形」はまちまちで、なかには正常な状態にしか見えない胃がんも存在する。ベテランの医師でもそのような胃がんは見逃してしまう。
理化学研究所などは36万枚の胃がん画像を機械学習コンピュータに入力し「これが胃がんである」と学習させた。
その後、これまで機械学習コンピュータに見せたことがない写真を入力させたところ、次のような結果を得ることができた。
・機械学習コンピュータが「がんである」と判断した写真のうち93.4%が実際にがんだった
・機械学習コンピュータが「がんでない」と判断した写真のうち83.6%は実際にがんではなかった
胃がん発見器といっても差し支えのない精度だろう。
教師なし学習
機械学習は、教師がなくても「正解」を導き出すことがある。この技術は「教師なし学習」と呼ばれている。
教師なし機械学習は、データのなかの「特徴」を見つけ出す能力と、データのなかの「法則」を見つけ出す能力に優れている。
例えば、大量の顧客情報があったとする。しかし情報量が多すぎて、人間には、その顧客情報のなかにどのような有益情報があるのか見分けがつかない。したがってこの顧客情報を機械学習に分析させようとしても、教師をつけることができない。
しかし教師なし機械学習であれば、大量の顧客情報さえあれば、Aという商品を買う顧客は、Bという商品を買う特徴があることを見つけ出す。さらに、Aを買う顧客は、Aの広告を見てすぐに購入を決断する法則があることも見つけ出す。
教師なし機械学習を使えば、これまで持て余していた顧客情報をマーケティングに活用できるようになる。
機械学習が今「やっている」こと
機械学習が「やっていること」は、胃がんの発見やマーケティングのサポートだけではない。次に機械学習の活用事例を紹介する。
顔認識
機械学習は人の顔を認識する。ただ「顔認識」とだけ聞くと、「昔のデジカメでも、顔にフォーカスが当たっていた。顔認識をしているからではないか」と感じる人もいるだろう。それも広い意味では機械学習と呼べるかもしれないが、しかし現代の機械学習の顔認識はレベルが違う。
例えば指名手配犯の顔を最新の機械学習コンピュータに読み込ませ、空港の監視カメラが撮影した動画のなかから指名手配犯を探すよう指示したとする。当然ながら、指名手配犯は帽子をかぶってサングラスをしてマスクをつけている。それでも機械学習コンピュータは指名手配犯を見つける。これは人間にはできない技だ。
さらに進んだ機械学習は、顔を認識するだけでなく、男女や年齢といった属性も推測する。そして機械学習は、その人がモニターの前に立ったとき、その人の属性にマッチした広告を流すことができる。
文字のニュアンスを理解する
機械学習は、大量の文字情報を識別することができる。この能力を企業が使えば、企業に届く大量のメールを、有益なものと有害なものに仕分けることができる。
メールの仕分けは、機械学習を使わなくても可能だ。例えば「死ね」「カス」といったネガティブワードが含まれるメールを検出するだけなら、わざわざ機械学習を使うまでもなく、非機械学習タイプのコンピュータでも可能だ。
しかし機械学習は、その言葉が持つニュアンスも把握する。例えば「お前のところの社長死ね」というメールは、企業にとって有害である。しかし、「お宅の社員に死ねと言われました」というメールは、企業にとって重要である。
機械学習はその違いを理解できるようになる。
株価を予測する
SMBC日興証券は2019年7月、株の売りどきをユーザーに知らせるサービスを始めた。サービスの内容を紹介する前に、株式投資の基本を解説する。
株式投資は、値下がりした株を購入し、値上がりしたときにそれを売却することで利益を得る。
ところが投資家が「安い」と思って買った株が、その後さらに値下がりすることがある。そのまま保有していると含み損がさらに膨らむが、売ってしまえば損が確定してしまう。また、株価が再び上昇に転じるかもしれない。
投資家は常に、値下がりした株の売りどきに悩まされる。
もしくは、投資家が「十分高くなった」と思って、保有している株を売却して利益を得たとする。ところがそのあとに、さらに株価が上がることがある。この場合、損はしてないが、「もっと利益を上げることができたはずなのに」と猛烈に後悔することになる。
SMBC日興証券の売りどき通知サービスは、「まだまだ値下がりするから今のうち売ってしまいましょう」と提案したり、「そろそろ高値のピークなので売って利益を確定してしまいましょう」と提案してくれる。株主はそれにしたがって売ればよい。
もちろん、この提案はあくまで予想である。その提案にしたがって損することも十分あり得る。しかし「株の素人」が未熟な知識で売りどきを判断するよりは、正しい判断になる確率は高くなる。
この機械学習コンピュータは、企業の財務情報、日々の為替、金利、国内外の指標、個別株の値動きなどから、下落基調や上昇基調を判断する。
まとめ~夢と実益
ここで紹介した「機械学習の事例」は、マスコミやネットメディアでは「AIの事例」として紹介されている。AIという言葉は、機械学習という言葉を含むので「AIの事例」で間違っていない。
しかし、AIと機械学習の違いを明確にしようとすると、AIは夢を実現する技術であり、機械学習は実益を得るための技術といえるだろう。アトムが株価を予想してお茶の水博士が暴利をむさぼる姿はあまり想像したくない。
<参考>
- ATOM(講談社)
https://atom2020.jp/ - AIで早期胃がん領域の高精度検出に成功 早期発見・領域検出で早期治療に大きく貢献(理化学研究所、国立がん研究センター)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0721/index.html - AIカメラで顔認識、知っておきたい最先端リアル店舗の技術(日経XTECH)
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/nc/18/020600014/022800027/ - AIが株の売り時予想 SMBC日興がサービス開始(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47636880S9A720C1EE9000/
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