コンビニやスーパーなどの小売店にとって、レジでの支払いは悩みの種になっている。レジ前が混雑していると、購入をやめる客がいるからだ。かといってレジを増やすと、売上に貢献しないスペースが増えるうえに、人を雇わなければならない。それにレジ前がいつも混雑するわけではない。
AI(人工知能)を搭載したレジは、これらの課題を解決するだろう期待されているし、すでに解決した課題もある。
AIレジの仕組みや性能、メリットなどを、Bakery Scan(ベーカリースキャン)というパン屋専用のAI画像認識機能搭載レジを紹介しながら解説する。
続きを読む画像認識機能とは
このあと紹介するベーカリースキャンは、AIの画像認識機能を使っている。そしてベーカリースキャンの画像認識機能は、例えばAI監視カメラに搭載されているものとほとんど同じである。
AIの画像認識は例えば、サッカー日本代表の試合や人気歌手のコンサートの入場口で使うことができる。
来場者にチケットを販売するときに、個人情報と顔情報を登録させる。来場者が会場にやってきて、チケットと自分の顔をセンサーにかざすと、そのチケットの購入者であることが認識され、入場が許可される。
もしチケットを購入した人以外の人がそのチケットを使って入場しようとすると、AIがエラーを検出する。AIが目の前にある顔と、チケットを購入したときに登録した顔が異なることを瞬時に見破るのである。
AIの画像認識を使えば、チケットの不正転売を防止できる。
ベーカリースキャンは、顔の造形ではなくパンの造形を検知する。そのことがどれだけのメリットをパン屋にもたらすのであろうか。
詳しくみていこう。
Bakery Scanとは?
Bakery Scan(ベーカリースキャン)は株式会社ブレイン(本社・兵庫県)が開発した「複数のパンの値段と種類をカメラで一括識別するシステム」である。
同社は「ベーカリーショップ(パン屋)のレジ業務に革新をもたらす」と胸を張るが、その自信に見合うメリットをパン屋にもたらすだろう。
ベーカリースキャンは、主に撮影ユニットとPOSレジの2つで構成される。つまりベーカリースキャンは、従来タイプのバーコードPOSレジにAIの画像認識機能を搭載したものである。バーコードPOSレジを完全にAIレジにつくり変えたわけではない。
しかし、それでベーカリースキャンの価値が落ちるわけではない。それはベーカリースキャンの「できること」を知ればよく理解できるはずだ。
Bakery Scanに画像認識機能はどのように使われているのか
ベーカリーショップと呼ばれるパン屋にはさまざまなパンが並んでいる。それぞれのパンは、形、大きさ、色、味、具材、硬さなどが異なる。そして、同じ種類のパンでも、形や大きさや色は「微妙に」異なる。
さらにパン屋では、それらのパンを「むき身」で商品棚に並べている。むき身とは、パッケージされていない状態のことである。
これらの要素が、パン屋のレジ業務を難しくさせている。
パン屋のレジ担当者はまず、パンの種類を覚えなければならない。なぜなら客はむき身のままのパンをレジに持ってくるので、商品名や値段などの情報が書かれたパッケージがないからだ。レジ担当者はパンを見たら瞬時に商品名を思い浮かべ、レジに金額を打ち込んでいかなければならない。レジによっては商品名のボタンを押せば金額を入力したことになるが、それでも商品名は暗記しなければならない。
Bakery Scanの使用方法とは
ベーカリースキャンを使えば、レジ担当者は暗記の苦痛から解放される。パン屋でパンを購入する流れを追いながら、その利便性を確認してみよう。
パン屋では、客は購入したいパンをトレイの上に乗せてレジまで持ってくる。レジ担当者はトレイごとパンを、ベーカリースキャンの撮影ユニットの下に置く。
撮影ユニットにはカメラが付いていて、トレイごとパンを撮影する。つまり、パンをスキャンするのである。
するとベーカリースキャンのAIがパンの写真からすべてのパンの種類を特定し、商品名と金額をレジに登録していく。それでレジ画面に金額が表示されるので、レジ担当者はそのお金を客から受け取ればよい。
Bakery Scanの認識力とは
ベーカリースキャンの認識力はパン職人並みかもしれない。
例えば、通常のクロワッサンと少し焦げたクロワッサンを見分けることができる。これはAIが「クロワッサンは少し焦げることがある」ことを学習しているからである。
さらにベーカリースキャンは、ソーセージ入りの総菜パンとちくわ入りの総菜パンも見分けることができる。ソーセージもちくわも「長くて細い棒」だが、表面の模様や微妙な形状の違いを検知できるからだ。
ベーカリースキャンがパンを見分けることができるのは、パンの種類を教えるからである。例えば「100円のメロンパン」があったとしたら、3~4個のメロンパンを用意して、それぞれをさまざまな角度から撮影していく。そのあと「メロンパン」「100円」と登録すれば、撮影画像と商品名と価格が紐づけされる。
これで、次に焼いたメロンパンをベーカリースキャンにかざすと「メロンパン100円」と、レジ画面に表示されるようになる。
さらに「ちくわの形に似てしまったソーセージが入った総菜パン」と「ソーセージの形に似てしまったちくわが入った総菜パン」も見分けることができる。
ただ、もしかしたら、ベーカリースキャンを店に導入した直後は、その両者を見分けることができないかもしれない。しかしAIは、あとから学習することで賢くなることができる。
ベーカリースキャンには、修正機能が搭載されている。例えば、ソーセージ入り総菜パンをスキャンしたのに、ベーカリースキャンが間違ってちくわ入り総菜パンであると認識したとする。
するとレジ担当者は手動で、ちくわ入り総菜パンを取り消して、ソーセージ入り総菜パンを入力し直すことができる。
これでAIの間違いを修正できるわけだが、AIはこれを学習する。つまり「なぜソーセージ入り総菜パンだと思ったものが、ちくわ入り総菜パンだったのか」を研究するのである。「ソーセージ入り総菜パンのイレギュラー・バージョン」を学習していくのである。
その学習はAIが独自に行うので、店員に手間はかからない。
AIレジのメリットとは
ベーカリースキャンのようなAIレジを、小売店が導入するメリットを考えてみたい。小売店としてはコストを上回るメリットがないと検討に値しないからだ。
ベーカリースキャンはレジを完全AI化、完全自動化しているわけではない。ここでは完全AI自動化レジについて考えてみる。
AIレジと、従来からあるバーコードリーダーを使ったPOSレジは、決済機能があること以外に共通点はないといってもいいだろう。決済とは、売買取引を完了させることである。
バーコードリーダーPOSレジは、1)店員、2)現金の授受、3)バーコード、4)カードやキャッシュレスでの決済、5)客の属性情報の入力、6)購買データの収集などが必要になる。
これらは便利さを追求して登場したものだが、今やそれが「あだ」になっている。
例えば、レジ業務を行うには店員が必要なので人件費が発生する。現金の授受には、金銭トラブルのリスクがある。バーコード操作は容易に思えるかもしれないが、カードやキャッシュレス決済などが登場して支払い方法が複雑化したことで店員指導も店員業務も煩雑になった。
つまり、バーコードリーダーPOSレジは、売上に貢献しないうえに、コストがかかる。
欠点はそれだけではない。
バーコードPOSレジでは、店員が客の風貌から性別や年齢を推測して「こっそりと」その情報をレジに登録している。そしてバーコードリーダーPOSレジで決済をすると商品情報や購買時期といった細かな情報を入手できる。
これらはマーケティングの重要情報になり得るが、そのためには分析を行わなければならない。したがって現状は、これらの情報は商品の受発注に使われる程度で、マーケティングにまで使われることはまれだ。
AIレジならこれらの欠点を一気に解決できる。例えばレジの無人化も可能だ。そうなればレジスペースもレジの担当者も要らないので、販売機会の拡大と人件費の抑制が可能になる。
また、AIで収集した顧客情報や購買情報は、分析用のAIを使えば重要な気づきが得られるはずだ。マーケティング戦略に大きな影響を与えるだろう。
まとめ~一部をAI化しただけでこのメリット
パン屋の経営者だけでなく、パン屋でパンを買ったことがある人も、ベーカリースキャンの威力を想像できるはずだ。
パン屋は、種類が多ければ多いほど楽しい。パン職人もできるだけ多くのパンをつくりたいはずだ。しかし新作パンが登場するたびに苦労するのが店員だ。それでもベテラン店員はいいだろう。1個の新作パンができれば、それを覚えるだけだからだ。しかし新人の店員は、一気にすべてのパンを覚えなければならないからだ。
実はベーカリースキャンのAIは、超高度なAIではない。ベーカリースキャンを開発した株式会社ブレインによると、ベーカリースキャンに搭載されているコンピュータは、市販のパソコンレベルであるという。
それでもAIは、これだけの効果をビジネスにもたらすことができるのである。
ハイスペック・フルAI完全自動化レジがどのような姿になるのか想像しただけでワクワクする。
<参考>
- トレイのパン 約10個 を 約1秒 で精算!(株式会社ブレイン)
http://bakeryscan.com/company/index.html - 300店のベーカリーに導入された画像認識AIレジの秘密に迫る(Ledge.ai)
https://ledge.ai/bakery-scan/
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