情報通信技術(ICT)の発達により、金融業界から革新的な技術(フィンテック)が数多く誕生している。パターン認識や意思決定等に応用の利く人工知能(AI)もまた、フィンテックを活気づける技術のひとつである。
融資する際に個人や企業の審査をAIに任せるのが、「AIスコアリング」と呼ばれるシステム
だ。AIスコアリングは、融資だけでなくさまざまな分野へ応用されている。
そこで、AIスコアリングとは何かやその応用範囲、日本国内における事例について紹介していきたい。
続きを読む注目を集める「AIスコアリング」とは?
スコアリングとAI
AIスコアリングは、融資の際に個人や企業の審査を行なうために、それらの信用度を測るのに用いられるのが一般的だ。だが、スコアリング(点数をつけること)自体は、われわれが日常でも行なう作業のひとつである。カラオケの歌の上手さを100点満点で点数表示したり、成績の判定を数値化したりするなど、あらゆるシーンでスコアリングが実施されている。
AIによるスコアリングに限ると、よく知られるのが評価関数と呼ばれるものだ。チェスや囲碁、将棋などのボードゲームで、コンピューターやプレイヤーがどのくらい有利な状態にあるのかが数値化されているのを知っている人がいるかもしれない。これらの数値は、チェスピース(駒)や碁石が盤面のどこに配置されているか、どれだけチェックメイトの可能性が高いのか、チェスピースがどのくらい敵に取られたかなどを総合的に判断し、数値が出される。この数値をもとに、コンピューターは最善のチェスピースの置き方を推論し、「置く」という意思決定を行なう。
融資審査のように個人や企業の信用力を計測するためにも、学習のためのデータが必要だ。AIスコアリングの場合、個人の資質をアンケートなどで収集することで、推論するためのデータが揃う。これらのデータを学習することで、個人の信用力の数値化がうまく機能するようになる。
AIスコアリングの背景にあるフィンテック
なぜAIスコアリングが金融業界を中心に登場したのか?それはフィンテックとの関連抜きには語れない。金融業界においてITや数学は以前から駆使されていた。だがAIやP2P(Peer-to-Peer)といった新しいテクノロジーとの融合により、革新的なサービスが可能になった。代表的なのが、仮想通貨(暗号資産)だろう。貨幣であるかのように振る舞う仮想通貨だが、その基盤となるブロックチェーンは流通業など幅広い応用が期待されている。AIスコアリングもまた、金融業界におけるAIの活用のひとつとして登場し、さらなる応用が期待されているのだ。
AIスコアリングはさまざまなサービスに導入が進められている
以下では、AIスコアリングの応用事例について挙げよう。
融資
AIスコアリングの代表事例が融資だろう。金融機関が個人や法人に融資する際には、企業や個人に返済能力があるかや、投資をもとにどれだけ事業を発展させられるか等が見極められる必要がある。日本を含めた先進国の場合、個人や法人の信用度を確認する基礎が確立されている一方、新興国や発展途上国ではどのくらい融資可能かを判定する情報が不足している。そこで携帯電話の通信料などのデータを収集しAIが信用度を判別するクレジットスコアリングが登場しだした。このようなAIスコアリングは、先進国においても使用されつつある。理由は、AIスコアリングによって、作業の効率化や人件費の削減につながるからに他ならない。AIスコアリングもまた、フィンテックによる金融業界の効率化の一環として行なわれているのだ。
キャンペーン
AIでスコアリングした個人の信用度を、企業からの割引や優待といった特典にも応用可能だ。融資条件とは別の基準で、特典用のスコアを算出。これらのデータをもとに企業はリワードを提供することもできる。もっとも個人情報にかかわるため、スコアリングを行なった個人の同意が必要になってくる。
インテリジェントパイロット
AIスコアリングの活用は、融資分野に限らない。「インテリジェントパイロット」と呼ばれる、地図データや交通事故の発生地点、ドライバーの運転資質などを総合的に判断し、事故のリスクを数値化する運転支援システムにも、AIスコアリングが用いられている。融資と異なり、交通違反やドライバーが実際に運転した際に用いた加速の強さや頻度等がスコアリングのための材料となる点で異なる。
婚活
婚活にもAIスコアリングが威力を発揮する。どの男性がどの女性と相性がよいなのかを判断するマッチングシステムがいくつか登場している。マッチングするためには、年収や年齢、価値観等から相性を判断する必要がある。AIにより、表面的な情報からだけでは見いだせない人の良さが評価できるようになり、従来よりも相性のよいマッチングが可能になるという。
AIスコア・レンディングはカードローンや消費者金融とは別
金融機関でカードローンや住宅ローンを利用する際、年齢や年収、勤務先や家族構成などを申告する必要がある。金融機関はこれらの情報をもとに、貸せるかや、貸せるとすればどの額をどの金利で貸せるのかを審査する。審査が終わると、審査結果が個人に通知されるものの、自分の社会的な信用力がどのくらいかは教えてもらえない。
AIスコアの場合、PCやスマートフォンを介して審査が行なわれるので、その場で情報を受け取ることが可能だ。数値化されているので、自分の信用力がひと目でわかるのも、従来のローンとは異なる。
もちろん、AIによるスコアリングにもデメリットがある。ディープラーニング(深層学習)を始めとするAIによる判断根拠はブラックボックス化されたままだ。これは、AIスコアリングによる評価が普及したときに、AIがわれわれ人間を選別する装置として働くことを意味する。融資だけでなく、運転免許や入学・入社試験などあらゆる評価がAIで代替されるとなれば、根拠がはっきりしないAIになぜ人間が左右されないといけないのかという疑問も湧いてくるだろう。実際、AIスコアリングを提供する企業には、従来の面前での融資の道も残している。このように、現状では人間とAIとの共存がスタンダードといえるかもしれない。
とはいえ、業務の効率化や人件費の削減といったメリットも大きい。利用者からみれば、融資審査の時間が大幅に短縮され、たとえばクレジットカードの発行までの期間が短くなる。アメリカや中国ではAIによるスコアリングがかなり普及しているという。日本はなお現金社会のため、キャッシュレス化が進んだアメリカや中国の状況を察知しにくい。だが、スマートフォンやPCによるキャッシュレスが進めば、AIによる融資を受け入れやすい環境へと変化することが予想されるだろう。
AIスコアリングは自分で手軽に調べられる
国内の代表的なAIスコアリングサービスがJ.Score(ジェイスコア)だ。みずほ銀行とソフトバンクによる共同出資で設立されたJ.Scoreは、個人を対象にAIで信用力を点数化し、それをもとに貸し付けを行なっている。
J.Scoreでは、PCやスマートフォンを通じて、年齢や年収、家族構成など18の項目に回答が求められる。回答が終わると、AIが何パーセントの利率でいくらまで借りることができるかが表示される。J.Scoreのターゲットは、20代から30代にかけてのデジタルネイティブ世代だ。子供の教育費などでの不足分を利用してもらうことを狙っているという。とくに若い世代は一般的に年収も低く、与信情報も足りないことから、お金が借りられないケースが従来あった。そのような場合でも、AIスコアリングにより適正な金利で融資できるようにしたという。スコアが表示されるまで2、3分というスピーディさも魅力的だ。
J.Scoreには、質問に答えれば答えるだけ、より精緻なスコアが表示される機能が搭載されている。使用しているSNSの種類や服を買うときに重視するポイントなど、一見審査に関係なさそうな質問も出されるという。SNSを利用しているから融資条件がよくなるという単純なものでもなく、回答項目の相関をAIがみて判断するという。
J.Scoreに共同出資するみずほ銀行とソフトバンクはそれぞれ、通帳の管理や携帯電話の通信業務に携わっていることから、口座履歴や携帯電話料金の支払い履歴等の情報と結びつけることでさらにスコアリングの精度を高めたいとしている。
まとめ
AIによる評価が浸透している背景には、「AIの判断が人間のそれよりも上回る」という信頼感に加え、フィンテック革命によってAIを活用した金融ビジネスが進化しているのも大きい。日本の場合、ようやくキャッシュレス社会に向けて一歩踏み出したところだ。今後は、融資など幅広い分野でスコアリングが浸透し、われわれも抵抗感なく受け入れるよう移り変わるのではないだろうか。
<参考>
- AIスコアリングサービスがミレニアルズたちの未来を変える!?(DIME)
https://dime.jp/genre/620287/ - パイオニアの先進運転支援システム インテリジェントパイロット、AIスコアリング機能を追加(response)
https://response.jp/article/2019/02/22/319417.html - インテリジェントパイロット(パイオニア)
https://intelligent-pilot.jpn.pioneer/ja/ - 婚活業界初「本物のAI」を導入、人柄まで見てマッチングする実力(DIAMOND Online)
https://diamond.jp/articles/-/197239 - 「先進事例レポート J.Score:AIスコア・レンディング 属性だけでなく趣味・嗜好をもとにAIがお客様の信用力をスコア化」(『近代セールス』2018年7月1月号)
- 「AI融資の「Jスコア」が始動、早くも見据える次のステージ」(『金融財政事情』2017年11月27日号)
- 「AIスコアサービスの可能性と倫理的諸問題への対応」(『金融法務事情』2019年10月10日号)
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