AIの企業への導入が普通に話題になる時代になった。むしろ、話題にならないうちにAIが導入されているケースも少なくないだろう。ここでは、AIが企業にどのように導入されているか、その利用実態についてマクロ的に見ていきたい。
「人口知能」の時代から「AI」の時代へ
AIを活用するのに、その歴史を詳しく振り返る必要はないが、簡単に大筋だけ見てみよう。
そもそも「人工知能」という言葉は古くからあった。例えば、鉄腕アトム。その誕生は1951年だった。アトムというとロボットと見られがちだが、頭脳に注目して見れば人工知能だ。実際、人工知能学会誌では2003年(アトムがつくられるのは設定上では2003年4月7日だ)にアトムに関する小特集をしているほどだ。
もっとも、1951年から2003年まで人工知能は実用化にはほど遠い状態だった。ブレイクスルーは2006年に起こった。それがディープラーニングである。ついでながら、それは2003年とはわずか3年の差。手塚治虫氏の慧眼には驚くばかりだ。
ディープラーニングとは何か
さて、ディープラーニング、日本語では「深層学習」だが、これは「ものごとを深く考えて学習する」という意味ではない。AIでは、人間の脳の機能を何層もの神経ネットワークが重なったものに見立てるのだが、その際、以前よりもさらに多層の、つまりより深いネットワークを用いたのがディープラーニングだ。つまり、ディープラーニングとは、「ディープニューラルネットワークによる学習」を意味する。
それでは、ディープラーニングでは何ができるか。簡単に言えば、自動的に精度よく学習できるのである。
例えば、今、目の前に赤くて丸いものがあったとしよう。それがリンゴなのか赤いボールなのかは人間なら比較的容易に識別できる。しかし、ディープラーニング以前、それはコンピューターにはかなり難しいことだった。赤い色や丸い形といった特徴を教え、リンゴとボールの色や形の違いをカテゴリー化し、色や形がリンゴのカテゴリーに当てはまる場合はリンゴと判断する、という形で識別させていたわけだ。しかし、これではいくらでも例外的な事例が出てきてしまう。
ディープラーニングでは違う。コンピューターに大量のリンゴの写真を見せることで、コンピューター自らリンゴの特徴を捉え、高精度でリンゴを識別できることが可能になった。ハードウエアの進展と相まって、人工知能が実用的なものに進化したのだ。そして、もはや、人工知能というよりはAIと呼ばれる時代になりつつある。
急速に拡大するAI関連製品・サービスの市場規模とその内容
このようなAIの市場規模は、2015年で3.7兆円だったが、2020年でも23兆638億円、2030年に約87兆円に成長すると予想されている(EY総合研究所による予想)。
それでは、AIは具体的にはどのような製品やサービスに拡大していくのだろうか。
まず、画像認識の分野が挙げられる。上にリンゴの例を挙げたが、ディープラーニングでは画像認識における精度(正しく識別できるか)の向上が大きな成果だった。また、画像認識は応用範囲が広く、既に市場拡大期に入ったと言われている。
画像認識は、現在でも、iPhoneの顔認証機能「Face ID」でも使われているが、最近では顔認証眼鏡で犯罪防止(容疑者や危険人物の拘束)にも使われている。顔認証眼鏡などはプライバシー保護の点で法律的な問題も生じるが、画像認識の利用実態としては、不良品の識別からアスリートの運動解析まで幅広い応用が可能だ。その他にも、自動運転などの基礎技術になる。
画像認識の次に来るのが音声認識と言語処理だ。現在でも、siriなどの音声認識機能はかなり高いものになっているが、音声認識による個人識別が可能になれば、扉の開閉や入退室の際解錠・施錠、自動運転の指示など口頭での命令が可能になる分野は多い。
言語処理の分野では、テキスト解析と自然言語処理が挙げられる。テキスト解析とは文章の意味を解析すること、自然言語処理とはいわば普通の文章の読み書きだ。音声や文章の意味の理解が可能になれば、実用レベルの自動翻訳や通訳も可能になる。
また、新聞や雑誌記事の自動生成、SNSなど膨大な量の人間の発言がビッグデータとして解析可能になる。これに伴い、バーチャルエージェントもより広く普及するだろう。バーチャルエージェントとしては2017年にAmazonの Alexa(アレクサ)などのスピーカー型バーチャルエージェントが登場したが、その市場拡大はこれからだ。今後は、デジタルパーソナルアシスタントと言えるような生活に密着したバーチャルエージェントが登場するようになるだろう。
より現実的な予測では、2030年には自動運転など運輸ロジスティクス部門で数十兆円の市場規模になるとされている(EY総合研究所による予想)。
このほか、最初に挙げたアトムのようなスマートロボット、医療診断など様々な専門家システム、サイバーセキュリティーでの活用を考えると、2030年で約87兆円という数字はむしろ控えめな数字にさえ思われる。
AIの国内企業における利用実態
未来予想は別としてもAIの利用実態は、国内主要企業121社において約半分が既にAIを使用しているところまで来ている(毎日新聞調べ)。具体的な利用実態としては、口座開設方法や株価等に関する顧客からの問い合わせにAIが回答するというもの、顧客からの電話の問い合わせ内容をAIが文字化したり、回答例を担当者に示すものといった顧客サービス部門での利用、専門家や熟練工・熟練社員の技術を再現させる技術承継での利用、不良品のチェックなどが挙げられている。
この調査では17%が、今後もAI導入の予定はないと回答しているが、実際には、気が付かないうちにAIを導入することになるというのがAI利用実態の現実だろう。
まとめ
AIの利用実態に関しては、企業としても積極的に認めることに抵抗を感じているのかもしれない。それは人間の労働者の削減につながるからだ。もっとも、好むと好まざるとに関わらず、AIの市場規模も国家予算レベルに達し、AIは全生活に及ぶようになるだろう。
<参考>
- AIセレクション「小特集 鉄腕アトム」(人工知能学会)
https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIselection6.html - EY総合研究、人工知能の市場規模は2030年に86兆円に拡大すると推計(IoT News)
https://iotnews.jp/archives/5186 - 顔認証メガネで旅行者をスキャン —中国、すでに7人を駅で逮捕(Business Insider Japan)
https://www.businessinsider.jp/post-161823 - 主要121社調査 AI導入企業47% 効率化へ研究進む(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20180106/k00/00m/020/124000c
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