ほとんどの経理業務はAI化することができる

経理業務の多くはAI(人工知能)に置き換わっていくはずだ。そのAI経理時代に、経理担当者はどのように働くことが求められるのか。

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「経理担当者はつぶしがきく」と、ビジネスシーンではよくいわれてきた。経理の仕事は業界や企業が違っても同じなので、経理スキルを持っていれば仕事にあぶれることがない、という意味だ。

ただ「統一した経理ルールがある」「ルーティンワークが多い」という性質がある経理業務は、実はAI(人工知能)で置き換えやすい仕事といわれている。

AIの登場で「自分たちの仕事はなくなってしまうのだろうか」と懸念している経理担当者は少なくないはずだ。

ただ、経理担当者たちが生み出すアウトプットは、経営者にとって重要な経営指標なので、すべての経理業務がAIに置き換えられるとは考えにくい。

そこでAI化できる経理業務とAI化しにくい経理業務を考察し、そこからこれからの経理担当者の働き方について考えてみたい。

AI(人工知能)-経理

そもそも経理担当者の仕事とは

経理業務をAI化、非AI化に「仕訳ける」前に、そもそも経理担当者がどのような業務を行っているのか洗い出してみよう。

日次、月次、年次ごとの仕事

「経理の仕事は8割がルーティン」といわれることがあるのは、毎日やらなければならない仕事と毎月やらなければならない仕事と毎年やらなければならない仕事があるからだ。それらを日次業務、月次業務、年次業務という。

日次業務には、現金と預金の管理、帳簿への記帳、伝票の管理がある。毎日のお金の流れを管理・整理して、月次業務に備える。

月次業務には、取引先企業への請求と支払い、社員の給与計算、月次損益計算書と月次貸借対照表と月次キャッシュフロー計算書の作成などがある。

企業が1カ月間行った仕事を現金化するのが請求業務で、企業のコストを精算するのが支払い業務だ。社員への給与の支払いも企業コストの精算のひとつといえる。

企業が動くと必ずお金が発生するが、お金の発生に必要な事務を行うのが経理だ。

そして月次損益計算書と月次貸借対照表と月次キャッシュフロー計算書は、経営者や管理職の重要な資料になる。経営者や管理職はこれらの資料を元に経営戦略や年次計画を微調整していく。また月次損益計算書と月次貸借対照表と月次キャッシュフロー計算書の作成は、年次業務の準備にもなっている。

年次業務のハイライトは、決算書(年次損益計算書、年次貸借対照表、年次キャッシュフロー計算書)の作成だ。決算書は経営者にとっては「経営の通信簿」であり、投資家たちはこれをみて投資の可否を検討し、銀行は融資をするかどうか決める。

年次業務にはそのほか、税金や社会保険料の申告と支払い、年末調整などがある。

この経理業務はAI化できる

それでは経理業務のなかから、AI化できそうな仕事を考えてみる。

日次業務はAI化できそう

AI経理で有名なのが、freee株式会社が提供しているクラウド型AI経理ソフト「freee(フリー)」だ。

フリーには、AIによる自動仕訳機能がすでに登載されている。これにより経理の日次業務の現金と預金の管理、帳簿への記帳、伝票の管理が自動化されている。

フリーを銀行のインターネットバンキングサービスと連動させると、銀口座の入出金情報がそのまま帳簿への記帳へと変わる。つまり仕訳業務を自動化しているのである。

例えばインターネットバンキングの入出金情報は「トウキョウデンリョク、●万円」や「トウキョウエキ、オートチャージ、■万円」といった表記になっている。

フリーのAIはそれを「トウキョウデンリョクは東京電力なので、●万円を水道光熱費に計上する」「トウキョウエキ、オートチャージは東京駅、オートチャージだから、■万円を旅費交通費に計上する」などと判断し、次々仕訳していく。またレシートタイプの領収書をスマホのカメラで撮影するだけで、入力が完了する仕組みもある。

このように大部分の日次業務は、AIの進化とともにAI化していくことが予測される。もちろん人によるチェックは欠かせないが、それでも例えば日次業務を3人で行っていた企業なら、1人で済むようになるかもしれない。

月次業務もAI化できそう

次に月次業務であるが、月次損益計算書と月次貸借対照表と月次キャッシュフロー計算書の作成は、AIを使うまでもなく、すでに通常のコンピュータソフトで自動化できている。

給与計算も一部の手当の支払いは複雑なルールがあるかもしれないが、基本給や保険料や税金の天引きは自動化しやすい。

月次業務のうち、請求と支払いについては自動化やAI化は難しいかもしれない。自社で資金ショートを起こさないようにしなければならないし、取引先の経営に大きな影響を及ぼす可能性があるからだ。例えば購入した原材料に不良品が含まれていれば支払いをストップしなければならないし、資金繰りが厳しければ取引先に前金の請求を検討しなければならない。

ただ少額かつ定期的な請求や支払いは、自動化しても支障は出ないはずだ。

フリーには、AI月次監査機能がある。

一般的な月次監査では、税理士や会計士たちが、企業の経理担当者が作成した月次資料をチェックして修正すべき点をアドバイスしたりする。

フリーはこの監査業務をAIに代行させることができる。勘定科目の適用の逸脱をみつけたり、類似した仕訳作業の効率化をアシストしたりする。

結論:ほとんどの経理業務はAI化できる

年次業務は日次業務と月次業務を統合して調整する内容になるので、日次・月次業務をAI化していけば、その延長線上で年次業務もAI化させていくことができる。

ただ上場企業になると、経理資料は内部資料にとどまらず、重要な公開情報になる。企業規模が大きくなるほど、会計資料の社会的な影響力は増し、投資家や金融機関だけでなく、企業犯罪を取り締まる捜査当局も決算内容を注視するようになる。

それだけ重要な仕事をAIに任せていいものだろうか。

ところ「だから大企業の経理業務のAI化は難しい」とはならない。なぜならAI経理には業務の効率化だけでなく、ミスの防止や犯罪の抑止効果も期待できるからだ。

むしろ「大企業こそ経理業務をAI化すべきだ」となるはずだ。

このようにほとんどの経理業務は将来的にAI化が可能になる。

この経理業務はAI化しにくい

「ほとんどの経理業務はAI化できる」という結論は、企業がAIを導入すれば経理担当者の人数を減らして人件費を削減できることを意味している。

それと同時に、「ほとんどの経理業務はAI化できる」という結論は、最後まで経理担当者が担わなければならない経理業務は残る、という意味でもある。

例えば、普通の経理部長と優秀な経理部長の仕事内容を考えるとわかりやすい。

普通の経理部長は間違いが出ないようにスタッフを監視するが、優秀な経理部長は優秀な部下を育て、部下たちが作成した経理資料を元に経営分析を試みる。

経営者が経理担当者に求めるのは、正確な数字ではない。経理担当者にとっての正確な数字は、営業担当者にとっての営業回りと同じで、「当然の仕事」にすぎない。

経営者は、営業担当者にノルマの達成を期待するように、経理担当者に数字の解釈を期待する。例えば、前年を上回る純利益が計上されたとき、それがよい黒字なのか悪い黒字なのか解釈を加えることは欠かせない。

開発費をしっかりかけ、新製品を生み出し、それがヒットして売り上げが伸びたうえでの前年比プラスならよい黒字だ。

しかし、開発費を削り、前期の経費で製造した在庫品を原価割れで投げ売り、資産を売却して出した黒字は、過去の遺産を食いつぶしただけの悪い黒字だ。

黒字のよし悪しの判断より難しいのは、赤字決算の判断だ。特に「よい赤字」の場合、それを正しく評価して経営者に根拠をもって進言できる経理担当者は優秀だろう。

なぜなら赤字をポジティブに評価するには詳細な社内調査が必要であるし、なにより勇気が要るからだ。

このように数字や金額が持つ意味を掘り起こす作業は、AIにはしばらくできないだろう。

<関連記事>
AIには絶対できない仕事とは?

AI時代の経理担当者の働き方

AI経理時代に突入したとき、経理担当者には次の2つの働き方が求められる。

AI(人工知能)-経理

望ましいのは、AIを使いこなす働き方だ。AIをフル活用して経理業務を簡素化、省力化して必要人員を減らせば、会社の人件費削減に貢献することができる。

さらにAIを使って経営分析や業績予測ができるようになると、「戦略的な経理」を展開できるようになる。

一方、AIに使われる働き方も存続するだろう。ただ高い志を持って経理の仕事に就いた人には、これは望ましい形とはいえない。

例えば工場には、生産設備を導入したり生産管理をしたりする人がいる一方で、設備を監視するだけの作業員もいる。前者は生産的かつ創造的な仕事だが、後者は単純労働であり、いわゆる「代わりが効く仕事」だ。

経理担当者も、AIに使われたままだと、代わりが効く仕事しか任されず、当然ながら高給や高いポジションは期待できない。

経営者に緊急の資金繰りをさせない

月次や年次の損益計算書に好調な数字が並んでいても、現金がショートすることがある。このとき経営者はすべての仕事を中断して資金繰りをすることになり、その間、経営が滞ってしまう。

したがって経理担当者は、経営者に緊急の資金繰りをさせないようにしなければならない。そのためには、経理担当者が営業部門の管理職とコミュニケーションを取り、リアルタイムで営業状況を把握し、取引先からの入金が遅れそうなら、キャッシュが不足するかもしれないことを経営者に知らせる一方で、支払いを遅らせる手筈を整えなければならない。

また予想以上にキャッシュが潤沢になりそうであれば、それも経営者にいち早く知らせる。そうすることで経営者は設備投資や開発費の増額などを検討できる。

このように経理業務のアウトプットである数字と金額に意味持たせることができる経理担当者はAI経理時代を生き残ることができる。

新規事業の資金フローを短期間でつくる

経営者にとって、新規事業の立ち上げは重要懸案事項だ。新規事業に取り組まなければ企業は生き残れないが、新規事業が失敗すれば企業の存続が危ぶまれるからだ。

そこで経理担当者が新規事業の資金フローをシミュレーションできれば、経営者の決断の助けになる。

新規事業の資金フローのシミュレーションを精度の高いものにするには、経理担当者が自社の開発部門や営業部門、販売部門に聞き取りを行い楽観的な見通しと悲観的な見通しの両方を把握しておかなければならない。

また経理担当者に業界の動向やマーケティング情報、国内外の経済情勢などの知見があると資金フローのシミュレーションはさらに精度を増す。

ここまで「攻めの経理」ができる人は、単に生き残るだけでなく、AI経理時代をリードすることもできるだろう。

まとめ~経営者マインドはAI化できない

経営者は重要な経営判断をするとき、会計データを使う。会計データをつくる経理担当者は、自分がつくった資料が経営を左右することにやりがいを感じるはずだ。

AIは会計データをつくれても、経営判断まではAI化できない。

経理担当者は「AIに仕事を奪われるかもしれない」と心配するより、積極的にAI経理を研究し、AIを使いこなすことを検討したほうがよいだろう。

AI経理を研究するときは、経営者マインドを持つことをおすすめしたい。「うちの社長ならAI経理をどう使うか」と考えることで、経理担当者は自分がすべきことがみえてくるはずだ。


<参考>

  1. 経理業務の仕事内容と流れ(フロー) | 効率化ポイント・注目経費精算サービス解説(MAG BOXIL)
    https://boxil.jp/mag/a3360/
  2. SERVICE CONCEPT(freee)
    https://corp.freee.co.jp/company/
  3. freee が自動仕訳に関する人工知能(AI)技術の特許を取得(freee)
    https://corp.freee.co.jp/news/smb-ai-labo-0627-4966.html
  4. レシート類の取り込み機能(ファイルボックス)について(freee)
    https://support.freee.co.jp/hc/ja/articles/203309560-%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88%E9%A1%9E%E3%81%AE%E5%8F%96%E3%82%8A%E8%BE%BC%E3%81%BF%E6%A9%9F%E8%83%BD-%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
  5. AI活用で会計事務所の月次監査業務を楽に(freee)
    https://www.freee.co.jp/advisor/ai-monthly-audit/
  6. freeeにAIが会計上のエラーを自動チェックする新機能、今後は修正提案の自動化も(TC)
    https://jp.techcrunch.com/2018/05/28/freee-ai-kansa/
  7. 経理がAIに乗っ取られる、は本当か?(#SHIFT)
    http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/25/news031.html