AI導入でコールセンターは劇的に変わる

コールセンター業務はオペレータにとって過酷で人手不足が深刻だ。AIの導入により、コ ールセンター業務が劇的に変化、顧客・オペレータ双方にとってやさしい環境になる。

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コールセンターに電話したものの、なかなか繋がらずに待たされた経験はないだろうか。
少子高齢化の影響で人手不足は深刻で、コールセンターもその限りではない。
AI導入は、このようなコールセンターの人手不足問題を解消するのに最適の方法である。

AI(人工知能) 電話

コールセンターが抱える課題に対するAIの活用法

コールセンターが人手不足になるわけ

コールセンターに電話をかけた経験はあるだろうか。顧客がトラブルや質問をしたい場合
に、その窓口となるコールセンター。ところが、なかなかオペレータに繋がらず、やきも
きした経験があるかもしれない。5分程度で繋がるならいざ知らず、結局繋がらず別の日
や時間帯に電話をかけ直すか、自力で問題を解決せざるを得なかったということも。オペレータに繋がらない原因はいたって単純。要するに、オペレータの絶対数が足りていないのだ。では、オペレータが人員不足の原因はどこにあるのか。

どの業種も総じて人手不足なのは否めない。少子高齢化が原因かと思いきや、それが原因
とは一概に主張できない。総務省統計局のデータによると、2018年8月の就業者数は6,682
万人で68ヵ月連続の増加、雇用者数も5,953万人でこちらも68ヵ月連続で増加する。

では、なぜコールセンターが人手不足になるのか。オペレータ業務に従事したがらないの
が大きな原因だろう。2018年の有効求人倍率が1を超える売り手市場であり、忌み嫌われ
る職種に就く必要性はない。コールセンターのオペレータになりたいと思う人材が少ない
ということだ。コールセンターに電話をかける理由は、顧客が悩みや不満を抱えて、それ
を対処してもらおうとするからに他ならない。時にはオペレータにその不満を直接ぶつけ
るだろう。オペレータにかかるストレスは想像以上だ。オペレータの離職率は高くなるの
は、必然的といえるだろう。
加えて、現状ではコールセンターの業務の効率化が図られているともいえない。顧客の問
い合わせ内容は多種多様だが、その内容が不明瞭な場合も起こりうる。あるオペレータに
繋がったものの、直轄の担当ではなかったために別のオペレータに回され、たらい回しに
なることもしばしば。業務の効率化が急務だ。

コールセンターのAIが導入できる理由

コールセンターでは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、IVR(Interactive Voice
Response)と呼ばれる音声認識を利用した自動応答装置が隆盛を極めた。IVRにより、顧客
から電話が入った場合、あらかじめ用意された音声案内や、顧客が電話を入れた理由に応
じて番号入力によりオペレータへと振り分けられる。IVRに音声認識を取り入れたシステ
ムも、一部企業で導入される。
ところが、IVRで活用される音声認識では会話の認識が行えず、あらかじめ用意された語
彙群から、単語の音声認識が行えるにとどまっていたという。

IVR導入後から約20年が経過し、コンピュータの処理速度の向上により高度な音声認識が
行えるようになってきた。その一端を担うのが、機械学習をはじめとするAI(人工知能)
の登場だ。音声認識や画像認識は、機械学習の得意とする分野である。Google Homeや
AmazonのAlexaに代表されるスマートスピーカーでは、AIアシスタントが搭載され、会話
を認識することはご存知の人も多いだろう。機械学習を活用し、顧客の会話を認識できれ
ば、効率的にコールセンターを運用できるのは想像つく。

もう一つの流れが、AIを活用してコールセンターの業務そのものを効率化できる環境が整
っている点だ。IBMが開発したWatsonは、経営における意思決定などマネジメントを支援
するシステムだ。2006年に開発を開始、2011年には米人気クイズ番組「ジョパディ!」で
クイズ王に勝利し、一躍有名になった。さまざまな手がかりから、最も可能性の高い解答
候補となる断片的な情報を集めることで、高い確信度をもった正解を出せるのだという。

IBM Watsonは、日本でも適用事例が多く、既に約200もの企業と契約した実績をもつ。日
本航空では最新情報や性格診断をもとに旅の提案を行なうなど、IBM Watsonの活用事例は
幅広い。実際のところIBM Watsonは、コールセンターの業務支援システムに多く活用され
る。たとえばJR東日本はオペレータ支援の仕組みにIBM Watsonを活用する。コールセンタ
ー業務に応用する企業も、みずほ銀行や三井住友銀行など事例が多い。
IBM Watsonがビッグデータから最適な解答を出力する流れを概略的に述べると、次のよう
になる。まず顧客からの問い合わせ情報をビッグデータとして収集する。このビッグデー
タをもとに、問い合わせの時期や内容の傾向等を分析する。分析した結果に基づき、デー
タサイエンティストと協働で、人員配置を最適化すればコールセンター業務が効率化され
る。

AI(人工知能) コールセンターで

AI導入により期待される効果

音声認識と言語認識が可能に(NTTドコモの事例)

IVR(Interactive Voice Response)に機械学習を導入しようとするのが、NTTドコモだ
。NTTドコモにおいても、顧客の意図を解釈して、天気検索や電話アプリ起動などを行な
う「しゃべってコンシェル」が提供されていた。さらに一歩進めるかたちで、複雑な操作
を必要とすることなく、用件を話すだけで適切にオペレータに接続させることができると
いう。
オペレータに入電を振り分けるシステムは、音声認識機能と意図解釈機能の2つに分かれ
る。音声認識機能では、顧客が発した音声の波形から、音素に分解、単語へと分類し、
最終的に文章にテキスト変換する。意図解釈機能では、テキスト変換された文章が、ど
のような問い合わせの意図によるものかを判別する。これにより、転送先の決定を行な
うという。転送先判定には、大量の発話例や単語辞書などから生成された学習モデルを
用いる。
NTTドコモによると、IVR利用者の約1~2割は総合受付センターを介さずに各専門センター
への転送処理が実行できている。今後は、転送成功率の向上をめざすとしている。

時系列解析とファセット分析で業務を効率化(三井住友海上火災保険の事例)

コールセンター業務にIBM Watsonを導入し、人員配置と表示の最適化に取り組むのが三井
住友海上火災保険だ。問い合わせの時期や内容の傾向を分析し、データサイエンティスト
がそれをもとに、人員配置や表示するFAQの最適化に反映させるという。問い合わせの時
期や内容の傾向を分析するのに用いられるのが、データ分析システム「IBM Watson
Explorer」だ。Watson Explorerはテキストマイニングツールで、2010年以降に作成した
360万件を超える応答履歴をもとに、時系列解析や、テキストから「控除」などキーワー
ドで分類する分類「ファセット分析」を行なったという。問い合わせの時期は人員配置の
最適化に、問い合わせの内容はFAQコンテンツの作成に活用したそうだ。
さらにFAQコンテンツのうちで頻繁に引用されるFAQは、AIで自動判別しているという
。FAQコンテンツの最適化には、Watson ExplorerとFAQコンテンツ管理システムの
「Oracle Service Cloud」を活用する。これにより、FAQのアクセス数が2年で7.2倍に増
加したそうだ。
三井住友海上火災保険によると、2013年度にはオペレータの人数が132人だったのを、2年
後の2015年には117人にまで削減できたという。その一方で、応答率が88.4%から96.4%
に上昇したことは、三井住友海上火災保険の構築したシステムが有効に作動したことを意
味する。

オペレータ業務からチャットボックスという潮流も

上記の2つの事例は、いずれもオペレータ業務支援にAIを活用するというものだ。実際の
ところ、コールセンターのAI活用は2016年中盤まで、オペレータ業務支援が主流だった。
その一方で近年関心を集めるのが、チャットボットだ。KDDIフィナンシャルサービスでは
、AIエンジン「BEDORE」を採用し、3ヵ月でチャットボットを構築したという。
チャットボットが、オペレータの業務に取って代わるかは不明だが、FAQにせよチャット
ボットにせよ、顧客にとってわかりやすいシステムの構築が期待される。

AI導入でストレスフリーな環境へ

コールセンター業務でAIを導入する素地は、既に完成していたと見るべきだろう。音声認
識や言語認識、時系列解析などは機械学習が得意とする分野だ。またIBM Watsonなどマネジメント支援システムも長年の実績があることから、日本でもさまざまな企業が導入、事
業の効率化に成功している。
コールセンター業務のボトルネックは、オペレータが顧客から受けるストレスの量だろう
。AIは単に業務を自動化するにとどまらず、オペレータのストレスを軽減するのに役立つ
。コールセンターの環境が劇的に変化するといえるだろう。


<参考>

  1. 労働力調査(基本集計) 平成30年(2018年)8月分 (2018年9月28日公表)(総務省
    統計局)
    http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html
  2. 有効求人倍率、新規求人倍率(労働政策研究・研修機構)
    https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0214.html
  3. 類型別に見たコールセンターの離職率の分析
    https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/jinzai/16_1_4.pdf
  4. CALL CENTER PROJECT PLANNING(Bell System 24)
    https://www.bell24.co.jp/ja/ccwiki/cat1/ivr.html
  5. AI初心者歓迎! 改めて「IBM Watson」の理解が深まるオススメ記事6選(IBM)
    https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/six-articles-for-ai-beginners/
  6. IBM Watson 活用例(IBM)
    https://www.ibm.com/watson/jp-ja/use-cases/
  7. コールセンタにおけるAIの活用(NTT技術ジャーナル 2016年2月号)
  8. AIによるコールセンターお客様満足度向上とオペレータ業務効率化―音声認識IVRの開発
    ― (NTT技術ジャーナル 2018年3月)
  9. コールセンター革命の最前線(日経情報ストラテジー 2016年7月号)