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AI搭載?最先端料理ロボットの実力とは

AI(人工知能)は家庭のキッチンを変えるかもしれない。料理ロボットが一流シェフの味を提供してくれるのだ。ただ実用化にはもう少し時間がかかりそうだ。

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家庭のキッチンに2本のアーム(腕)が取り付けられ、そのアームがスパゲッティを茹で、ソースをつくり、盛り付け、最後は調理台を清掃する――。

イギリスのモリー・ロボティクス社が2015年に公開したAI料理ロボットの動画は世界中で大いに話題になった。

人が料理から解放されるだけでなく、AI料理ロボットが提供するメニューは一流シェフがつくるものとまったく同じだ。なぜならAI料理ロボットはレシピをいくらでも暗記できるし、画像認識技術で一流シェフの動きを真似ることもできる。

しかしこの動画が配信されてから数年が経ったが、いまだに実用化されたというニュースは聞かれていない。2018年12月現在、モリー・ロボティクス社のホームページに掲載されている動画は、2015年当時のものから更新されていない(*)。

やはり家庭の料理をAIロボットにさせることは、一筋縄でいかないようだ。ただ、料理ロボット自体は進化している。

料理ロボットの「いま」を紹介する。

*:2018年12月現在のモリー・ロボティクス社のホームページ。動画の内容は2015年に公開されたものと同じ。

http://www.moley.com/

AI-料理

モリー・ロボティクス社のAI料理ロボットの概要

モリー・ロボティクス社が考える、AI料理ロボットのコンセプトはこうだ。

AI料理ロボットには胴体がない。2本のアームがキッチンの天井からぶら下がっているだけだ。

アームは産業ロボットのような単純な形状ではなく、SF映画の精巧なロボットのように「人間の腕」に酷似している。肩や上腕や前腕や肘関節や手首関節があり、アームの先端には指が5本ある。その5本の指も、親指、人差し指、中指、薬指、小指が、人間と同じ大きさで同じ配置でついている。

アームは調味料の瓶をつかみ、器用にキャップを外す。その動きは「まるで人間のよう」にしなやかで、産業用ロボットのようなカクカクした「ロボット動き」ではない。

そしてアームは、乾麺のスパゲティを適量つかんで鍋の沸騰した湯のなかに投入し、茹で上がるまでの間、ソースをつくる。みじん切りにした玉ねぎをトマトソースが入ったフライパンのなかに入れ、調味料で味を調えながらトマトソースが焦げないようにスプーンでかきまぜる。

さらに皿に盛った茹で上がったスパゲティの上にトマトソースをかけていく。

人間がスパゲティを食べている間、AI料理ロボットはスポンジを持って調理台の汚れをふき取っていく。

一流シェフの動きを再現できるのは、129個のセンサーと20個のモーターのお陰だ。センサーは人間の視覚や触覚などの感覚に該当し、モーターは人間の関節と筋肉に該当するが、人間の2本の腕よりはるかに複雑にできている。これなら人間より器用に調理することができるだろう。

AI料理ロボットは卓越した「料理テクニック」に加えて、優れた「頭脳」も持っている。AIが搭載されているからシェフの料理や食材の知識を学ぶことができる。AI料理ロボットの料理レパートリーは2,000種以上という。

以上が、モリー・ロボティクス社がホームページで公開している動画の内容(*)だが、これは完成品の動画ではなく、「プロモーションビデオのようなもの」のようだ。

ただ、仮にこればプロモーションビデオだとしても、インパクトやメッセージ性は十分にあり、未来のキッチンのイメージをつかむことができる。これが家庭用料理ロボットの「原形」になるかもしれない。

AI-料理ロボット

なぜ家庭用AI料理ロボットが実用化されないか

AIは企業の事務作業やマーケティングでは実用化が進んでいるが、家庭用AI料理ロボットの実用化は難航するのではないだろうか。というのも、家庭用という要素と料理という要素が大きな壁になるからだ。

家庭での料理は毎日カレーライスばかりつくるわけにはいかないから、その作業は複雑だ。レシピを覚えるだけなら、AIなら2,000種でも1万種でも難なくこなすだろうが、アームに100種類の料理の動きをさせることは簡単ではない。

そして家庭料理は繊細だ。例えば「塩少々」や「レモン小さじ1杯」「最初は強火を使い、フライパンが温まってきたら中火にして油をしき、肉を入れたら弱火にしてふたをする」といったことをしなければ、おいしいものはつくれない。高血圧の家族用に減塩メニューをつくるとなると、ロボットに別メニューを覚え込ませなければならない。

さらにニーズや費用対効果の問題もある。

5人家族の料理をつくるために何百万円もするAI料理ロボットを購入するのは富裕層に限られるだろう。しかも人間も料理をするのであれば、AI料理ロボット用のキッチンを別に用意する必要がある。AI料理ロボットとキッチンを共有するのであれば、人間が料理するときはアームを取りはずさなければならない。

そしてそもそも、家庭の料理作業をロボットで自動化させるメリットはそれほど大きくない。なぜなら美味しい料理を食べるのであればテイクアウトや宅配がある。最近は冷凍技術が向上し、高級料理の冷凍食品もある。

もし富裕層が「一流シェフの味を家庭で味わいたい」と考えるのであれば、AI料理ロボットにつくらせるより、一流シェフを家庭に呼んだほうが確実だろう。

しかしこうした壁は、家庭用の料理に限った話である。業務用のAI料理ロボットであれば、十分実用化できる可能性がある。

日本製の料理ロボット

業務用の料理ロボットには、「同じものを大量につくる」「宣伝効果」の2つの効果が期待できるので、実用化の可能性がある。

家庭用料理ロボットは「多品種少ロット」のニーズに応えなければならないため実用化が難しいが、業務用料理のニーズは「少品種多ロット」なのでロボット化するコストを吸収できる。

またロボットが料理をする光景は、パフォーマンス性に優れる。業務用の料理はおいしさや安さ以外に「魅せる」ことも大切だ。ロボットがまるで人間のように調理をすれば、客は「魅せられる」だろう。つまりレストランが料理ロボットを置いて客がみえる場所で調理をさせれば、それだけで集客効果が期待できる。

それではロボット大国ニッポンの、お好み焼きロボットやソフトクリームロボットをみてみよう。

東洋理機工業のお好み焼きロボット

大阪市の産業機械メーカー、東洋理機工業が、鉄板と「こて」でお好み焼きをつくるロボットを開発した。

お好み焼きロボットは上半身と両腕からなる。鉄板の前にお好み焼きロボットを据え、両腕がさまざまな動きをすることで調理を進めていくのは、先ほど紹介したモリー・ロボティクス社のAI料理ロボットと同じだ。

小麦粉を水で溶くことと、そこに具材を混ぜるところは人間がやる。お好み焼きロボットはまず、火がかかった鉄板の上に油をひく。次に具材の入った容器を手に取り、鉄板の上で容器をひっくり返して具材を広げる。

次にスプーンに持ち替えて、具材を平らにならしていく。

十分火が通ったら、お好み焼きロボットは両手に「こて」を持ち、具材の下に「こて」を潜り込ませて一気にひっくり返す。

焼き上がったら完成したら再び「こて」で皿に盛る。

お好み焼きロボットには会話機能がついていて、「豚玉にしますか? ネギ焼きにしますか?」と客に尋ねることができる。例えば客が豚玉を注文したら、豚玉の具材が入った容器を取り、焼き始めるというわけだ。

また焼き上がったら「味付けはどうしますか? ソースにしますか? 醤油にしますか?」と尋ね、客の好みの調味料をお好み焼きにかけるところまでを行う。

安川電機はソフトクリームロボット

北九州市の産業用ロボット大手、安川電機は、ソフトクリームロボット「やすかわくん」を開発した。

やすかわくんも上半身と両腕で構成されている。

やすかわくんはソフトクリームの注文を受け付けると、左腕でコーンを持ち、ソフトクリームを抽出する機械の前に行く。ソフトクリーム抽口の真下にコーンを据え、右手でソフトクリーム抽出機械のレバーを手前に引いてソフトクリームをコーンのなかに入れていく。

このとき左腕は、人間と同じようにコーンを回してソフトクリーム独特の「渦巻き状の山」をつくっていく。

ソフトクリームができあがったらトッピングのチョコレートを上にかけ、客に差し出す。

まとめ~見ていて飽きない

日本製のお好み焼きロボットとソフトクリームロボットは、AIが搭載されているとはアナウンスされていない。つまり業務用の料理ロボットには「まだ」、AIを使って高度化複雑化させるニーズがないのだろう。

しかし料理ロボットがAIを獲得する日はそう遠くないはずだ。AIを搭載すれば1台の料理ロボットで複数のメニューに対応できるようになるかもしれない。また温度センサーとAIを組み合わせれば、肉の焼き加減を微妙に調整できるかもしれない。

料理ロボットには、無機的な機械が料理という人間味あふれるものをつくる、という面白みがある。このエンターテイメント性が、AI料理ロボットの未来を広げることになるのではないだろうか。


<参考>

  1. 姿を変える調理空間「手間をかけずに食を楽しむ」(未来コトハジメ)https://business.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/mirakoto/design/h_vol9/?P=1
  2. ロボット料理人付きキッチン(LIXIL)
    https://www.lixil.co.jp/sp/square/kitchen-kaigi/column44/
  3. レパートリーは2000種類!調理ロボット・モリーは約180万円(ROBOTEER)
    https://roboteer-tokyo.com/archives/652
  4. Future is Served(Moley Robotics)
    http://www.moley.com/
  5. World’s First Robotic Kitchen Unveiled(Moley Robotics、YouTube)
    https://www.youtube.com/watch?v=NnUDhjG95jI
  6. ロボットの進化は料理人の仕事を奪うのか? 飲食業界の最新ロボ事情を探ってみた(Foodist)
    https://www.inshokuten.com/foodist/article/2502/
  7. 大阪の町工場発“お好み焼きロボ”に世界が注目! 原点は「鉄人28号」(zakzak)
    https://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140129/dms1401291209008-n1.htm
  8. ソフトクリームロボット「やすかわくん」が生まれた理由を安川電機に聞いてみた(Exite Bit)
    https://www.excite.co.jp/news/article/E1505452599023/
  9. 変なレストラン ソフトクリームロボット 安川くん(YouTube)
    https://www.youtube.com/watch?v=-JOTzsoOGlA
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