ファッション業界でもAIの活用が進んでいる。所有する洋服の写真を登録することで学習用データを大量に集めることに成功した例や、運用するメディアをフル活用してデータを集めた例などがあり、これらはコーディネート提案やECサイトでのリコメンドなどにも活かされている。
さらに服飾デザインの分野にまでAIは進出する可能性も秘めている。今回はファッション業界のAI活用最前線を紹介する。
続きを読むファッションにAIはどのように活用されているのか
AI(人工知能)の活用は多岐に及んでいる。よく知られているのはチャットボットで利用される自然言語処理や顔認証をはじめとした画像処理系である。そして、画像処理系のAIはファッション分野にも利用されている。
ではどのように利用されているのだろうか。だいたい3つの分野で活躍している。
まずは、画像処理系のAIを活用してファッションコーディネートを分析する分野である。何らかの形大量の画像を蓄積し解析することで、人間のファッションセンスがどのような判断基準でもって成り立っているのかを構築することができる。特に色の組合せや服の形状などは画像から解析が可能であるため、よくある組合せについてはセンスを修得できる。またデータをInstagramなどのSNSから取得することにより、現在流行しているファッションを分析することも可能となる。
2つ目としては、上記の内容を踏まえたリコメンド機能である。自分に合う、そして天候などをはじめとしたTPOに合わせたファッションコーディネートを選ぶというのはなかなかに難しい。しかしAIが学習した内容をベースに、自分の好みを考慮したコーディネートがリコメンドされるようになれば、出かける際に困らなくて済むようになる。特にTPOを考えて選ばないといけない場合などは重宝するだろう。
3つ目は、商品購入の際に店員に質問するのと同様に、商品についての質問を返してくれるチャットボットなどのボット機能である。チャットでも音声でも、質問し、相談に乗ってもらいたいタイミングは必ずある。その際に、しっかりと疑問を解消してくれる相談相手として、ボットは期待されている。しかも24時間365日、いつでもどこでも返事をしてくれる上、「変に空気を読むことがない」ために、率直な意見をもらうことができる。
アマゾンはファッションAI開発に力を入れている
AIというと大手企業かベンチャーが開発しているという印象が強いと思うが、ご多分に漏れず、Eコマース分野で世界トップクラスであるアマゾンは、AIの開発に力を入れている。同社は2019年6月5日に開催された「re:MARS 2019」というイベントにおいて「StyleSnap」というサポートシステムを発表した。このシステムは、ユーザーが欲しい洋服を上手く言葉で表現できない際に、要望する服装の写真をアップロードすると、アマゾンの取扱商品の中から似たような洋服をピックアップしてリコメンドする。つまり「こんな感じの洋服が欲しい」をユーザーが言語化することなく、写真からAIによる画像解析でリコメンドしてくれるわけだ。
アマゾンはさらに、Amazon Influencer Programに参加しているファッションインフルエンサーに対しても、StyleSnapを使ってもらいやすくするための施策を打っている。インフルエンサーのフォロワーがStyleSnapを使用して、彼ら・彼女らの投稿にある衣服を購入した場合、所定の手数料を支払うというものだ。
こういう取り組みを通して、アマゾンはファッション部門でも世界中のユーザーからデータを集めて、さらにAIの学習を促進させようとしている。
最新活用事例紹介!
ではファッションについて、アマゾン以外ですでにAIが導入され、サービスが開始されている事例を3つ紹介する。
XZ
まずはXZ(クローゼット)である。これはアマゾンのように新たに服を購入しようというのではなく、すでに持っている服を登録しておくと、その中からぴったりのコーディネートを提案してくれる。現在は、気象庁の天気予報をAIが参考にし、その日の天気や気温に合ったコーディネートを提案する機能まで持っている。
そして2019年5月には、ユーザーの手持ちアイテム登録数が1000万点を超えた。これだけのデータが集まったのは、AIがユーザーの手持ち服を使った着回しコーディネートを提案するという「着回しコーデ提案エンジン」の開発と強化を進めてきたことが大きいという。現在では40万人以上が利用する、世界最大級のオンライン・クローゼットとなっている。
PASHALY
2つ目はPASHALY(パシャリィ)である。サイジニア株式会社の提供するAI搭載型スマートフォンアプリで、基本的にはアマゾンのStyleSnapと同じ様な機能を持つ。つまり、ファッション写真をアプリから送るだけで、同じ洋服や似た洋服を見つけてくれる。この時にアップする写真は所有しているものでも構わないし、所有はしていないが気になっているものをネットで見つけても良い。モデルのファッション写真でも構わない。これらをアップロードするとAIが自動的に分析して、写っている洋服の商品カテゴリーを表示する。ユーザーはそこから欲しい洋服のカテゴリーを選択して、購入可能な一覧の中から自分の好みのものをECサイト内で購入できる。
AIチャットボット「Riko」と「Mika」
3つ目は、ファッションメディア「#CBK(カブキ)」などを運営する株式会社ニューロープは、LINE上でAIチャットボットとしてスタイリスト「Riko」と、ショップ店員「Mika」を提供している。どちらも同社が開発する#CBK scnnrをベースとし、「Riko」は着こなしを提案し、「Mika」はコーディネートを提案する。また、最近はファッションスナップを解析する「ファッションおじさん」もLINE上で展開している。
これらのチャットボットは教師データとして#CBKなど100万枚以上のファッション画像を読み込み、ニューラルネットワークのアプローチでパターン認識をしている。そしてこれらのチャットボットはLINEのみならず、APIとしても提供しており、自社のECサイトに組み込む事も可能となっている。
AIはファッション業界の未来をどのように変えるのか
このように、すでに活用の始まっているファッション業界でのAIであるが、今後はどの様に進化していくのだろうか。もちろんこれまでに紹介したような、商品リコメンドやコーディネート提案は精度が上がっていくものと考えられる。だがそれ以外に、大きく3つの分野での進化が考えられる。
まず1つ目は、リアル店舗のサポートである。ファッション業界に限らず、リアル店舗では、商品陳列を顧客動線に合わせることで、売上が変化することが知られている。顔認証などについてもガイドラインが設けられたことで、動線分析が一気に進んで行くものと考えられる。
2つ目は服飾デザインそのものをAIが行うというものである。実際にベルリンに拠点を置く大手ファッションEC企業「Zalando(ザランド)」が、Googleとともに実験を行い、その結果を2016年9月に発表している。この段階ではまだAIのみでデザインを行うまでには至らず、AIの提案をベースに人間が仕上げていくというスタイルが良さそうだという結論になっている。とはいえ、今後、すべてをAIに任せたファッションデザインが行われる可能性は秘めていると考えて良い。
そして3つ目はAIによるファッションの採点である。これは2つ目の応用編と言っても良い。つまり、「何が美しいのか」を判定できるAIができれば、デザインもできるし、当然のことながらその審査もできるというわけだ。いずれは様々なファッションショーで、審査員としてAIが採用されるような日が来るのかも知れない。
まとめ
AI(人工知能)はさまざまな分野で活用されてきているが、ファッション分野も例外ではない。現時点では大量のファッションのコーディネート画像の解析から、TPOに合わせたコーディネートの提案を行うものが提供されている。同時に、既に所有している洋服や、「こういうのが欲しい」と思った写真から、現在買える洋服をリコメンドしてくれるAIも展開されている。さらに、コーディネートの相談に乗ってくれるチャットボットも実用化されている。
今後は人間の独壇場であったデザインの分野にも、AIが進出してくる可能性がある。すでに実験段階ではあるが、AIと人間がコラボレーションしてデザインを行っているという例も出て来ている。AIが人間の好みや「美しさ」を解析できたときには、ファッションデザイン分野で新しい世界が開けるのかも知れない。
<参考>
- 「AI × ファッション」サービス5選。コーディネートを自動でレコメンド!?(アプリ開発ラボマガジン)
https://vitalify.jp/app-lab/ai-fashion-20190104/#3PASHALY - AIの可能性はどこまで広がる?ファッション分野でもAIが力を発揮する未来(EC-ORANGE)
https://ec-orange.jp/ec-media/?p=18025 - めざせ脱オタファッション!AIがあなたをコーディネート!(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-coordinate-0824/ - アマゾン、「StyleSnap」を発表–AIで洋服のショッピングをサポート(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35138062/ - XZ(AppStore)
https://apps.apple.com/jp/app/xz-%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%83%E3%83%88/id909369654 - PASHALY
https://pashaly.com/ - 動線分析でAI活用、経産省のガイドラインは後押しとなるか(BCN+R)
https://www.bcnretail.com/market/detail/20180330_56238.html - AIを活用したリテール店舗内解析ツール(ITOCHU INTERACTIVE)
https://www.market.co.jp/bcg/skyrec_lp/ - AIが洋服を「デザイン」すればECの未来が変わる?-Zalando×Googleによる実験的な取り組み「Project Muze」(DiFa)
https://www.difa.me/15103/ai-zalando - 100に1つプロのデザイナーが驚くものができればAIをファッションに使う意味はある(Harvard Business Review)
https://www.dhbr.net/articles/-/5863
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