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アパレル界でAIはどう活用できるのか【利益率が上がる理由とは】

アパレル業界が不振にあえいでいる。人々が好む服をつくれないからだ。そこでAI(人工知能)に人々の感性を割り出してもらうことにした。すでに成功事例も報告されている。

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アパレル業界の不振が止まらない。ユニクロの売上高が2018年に2兆円を突破したことが話題になったが、それは例外であり、日本経済新聞によると大手アパレルメーカーでも6割は減益に転じたり赤字に転落したりしている。

なぜファッションや洋服は売れなくなったのか。若者はお洒落に興味がなくなったのか。

そのようなことはない。人々は服をほしがっているし、若者はファッションに興味津々だ。不振の原因は、アパレル業界が服の流行を捕まえられなくなり、流行をつくれなくなったからだ。

アパレル業界は今、AI(人工知能)に注目している。アパレルメーカーが見失った流行を、AIで捕らえようというのである。

本稿では、AIによる人々のファッション感覚の分析方法を解説しながら、AIが流行をどのように捕らえるのかみていこう。さらにAIの活用事例も紹介する。

流行を「捕まえられない」「つくれない」

日本経済新聞によると、2018年度前四半期のアパレル主要18社の業績は「7勝11敗」だった。営業利益を前年同期より増やすことができたのは、ユニクロ(ファーストリテイリング)や西松屋、ワークマンなど7社で、残りの11社は営業利益を減らしたり(減益になったり)、赤字に転落したりした。

洋服を含め、モノがあふれている時代である。人々はもう十分すぎるほどの洋服を持っている。だから大手アパレルでも苦心しているのである。また、2016年の数字になるが、帝国バンクによると、中小企業を含む国内のアパレル企業の半数は売上高が前年を下回り、20%は赤字に落ちっている。

しかし「洋服があふれているから」という説明では、業績を伸ばしているアパレルメーカーの動向を説明できない。

専門家による分析を総合すると、洋服やファッションが売れなくなった理由は次のようにまとめることができる。

AI アパレル大きく「業界の問題」と「若者の問題」の2つにわけることができる。

まずアパレル業界の問題として、企業がファッションや流行を捕らえることができなくなった。またこれまでは有力で著名なメーカーが出したファッションや服が流行になっていたが、そのような影響力が薄れてきた。

若者のファッション研究で定評がある共立女子短期大学教授の渡辺明日香氏によると、現代の若者は、ブランドやショップに興味を持たなくなってきているという。ただ、若者がファッションや服に興味を持っていないかというと、決してそのようなことはない。若者はいまもお洒落をしたいと考えている。

つまり現代の若者は、アパレルメーカーやブランドの「いうことを聞かなくなった」だけだ。安くても無名ブランドでも、気に入れば買う。「何を着るか」への執着心が減り、「どう着るか」にこだわるようになったのである。

しかしこの兆候にこそ、アパレル業界復活の鍵が隠されている。アパレルメーカーは、ファッションに興味がある人たちが抱える「どう着るか」という悩みに応えればよいのだ。さらに、流行を捕まえ、流行をつくっていけばいいのである。

ところが「どう着るか」の答えを用意することも、流行を捕まえることも、流行をつくることも、それができなくなったから衰退しているのである。そこでアパレル業界はAIに注目するようになった。そしてIT業界も、AIを使ったソリューションを開発すれば、アパレル業界に販売できることに気がついた。

新しいAIマーケティングの最新技術が今、次々とアパレル業界に投下されている。

アパレル業界でAIはどのように活用されているのか

日本IBMの戦略コンサルグループパートナーの河合拓氏によると、あるアパレル企業があるAIシステムを使ったところ、需要予測が格段に向上したという。仕入れた洋服のうち売れた商品の割合である的中率が5ポイント改善し、その結果利益が10ポイント改善した。

つまりAIは、アパレル業界がかつて持っていた流行を捕らえる力を見事に復活させたのである。しかも「儲け」という副産物までつけて。

河合氏はそのアパレル企業名もそのAIシステム名も明かしていないが、ただAIが「したこと」は教えてくれている。

・時系列分析

・画像認識分析

これらはいずれも重要な内容なので詳しく解説する。

時系列分析とは、過去から現在に至るまでの流行の動きの法則性を統計的に導き出すことだ。法則性さえ発見できれば、あとは現状を分析するだけで次に何が売れるかがわかる。

そう、実は感性には法則性がある。「この色を身につけたい」といった気づきや「タイトな服を着たい」という要望はいずれも感性から生まれる。したがって感性は極めて個人的かつ自由なもののようにみえる。しかしそうではない。感性は法則にのってしまっているのだ。多くの人は、いわゆる「流される」という状態から逃げられない。例えば、「流行っているものは着ない」という行動も、流されている人にカウントすることもできる。

ただ感性を支配している法則はとても複雑だ。したがって人間の目で感性をみれば、法則性などがない、ばらばらの動きにみえる。しかしこれは、人間が処理できる情報量が少ないからだ。

ところがAIなら、与えた情報を片っ端から処理して分析していく。AIに与える情報が多いほど、プロのスタイリストやアパレル会社のバイヤーでも見落としてしまう法則がみつかるようになる。

法則とは「順番」でもあるので、AIは「2年前に○が流行り昨年は□が流行ったので、今年は△が流行る」と予測できるようになるわけである。

画像認識とは、AIに意味のある画像をみせると、AIがその意味を理解する能力のことである。AIに画像認識能力を加えると、より高度な流行分析ができる。

例えば男性のカジュアルファッションで、ジャケットが流行し始めたとする。するとアパレル企業はこぞってさまざまなスタイルのジャケットを発売するだろう。

ところがあるメーカーのジャケットは売れるが、別のメーカーのジャケットは売れない、という現象が起きる。これは両社のジャケットのデザインが微妙に異なっているからだ。

そこで画像認識ができるAIに、過去に流行したジャケットの写真と、売れ残ったジャケットの写真を大量に読み込ませる。するとAIはジャケットの写真の時系列分析を行い、次に流行るジャケットのデザインを予想する。

あとはデザイナーがAIの予想を参考にジャケットをデザインすれば、流行を先取りしたジャケットをつくることができる。

ファッションポケットによるAIの活用方法とは

アパレル業界にいち早くAIシステムを導入したのは、ファッションポケットという会社だ。

同社の重松路威社長によると、そのファッションAIシステムは、洋服の画像と画像に関する情報を大量に集め、トレンドを分析、予測する。

ここまでは一般的なAIと同じだが、ファッションポケットは今、服を買う客の購買動向を分析しようとしている。

これまでの購買動向は、小売店やショッピングモールへの入店時と、商品を手に持ってレジの前に行く購入時の2つの定点でしか分析できなかった。しかしAIに入店した客の動きやその客が着ている服などを分析させることで、入店時と購入時の間も分析できるようになる。

ここまで詳しく客の動向を把握できると、店内にラインナップを季節ごとに入れ換えるだけでなく、曜日ごとに入れ換えたり、時間ごとに入れ換えたりすることもできる。店内のレイアウトを検討するときにもその情報は役立つだろう。

POCKET PARCOの紹介

ファッションビルを運営するパルコは、AIを搭載したスマホアプリ「POCKET PARCO(ポケットパルコ)」のサービスを無料で提供している。

全国のパルコ内の約3,000店の最新情報がチェックできるほか、事前にクレジットカード情報を登録しておけばポケットパルコで支払いすることもできる。

ただこれだけであれば、わざわざAIを使う必要がない。

パルコはポケットパルコのAIに、ユーザーの購買情報や閲覧記録を収集させ、ユーザーの好みを分析させる。そしてそのユーザーが好みそうなショップ情報やコーディネート情報を送信するのである。

つまりユーザーは「ポケットパルコから届く情報は、常に自分が知りたい情報ばかり」という体験をすることになる。

ポケットパルコはユーザーに2のメリットをもたらす。有益情報の獲得がひとつめのメリットであり、2つめのメリットは無益情報に接触しなくて済むことだ。

消費者は普通、無料の情報を得ようとすると、有益な情報と無益な情報の両方を受け取らなければならない。無益な情報に目をとおすことが、有益な情報を得る条件になっているのだ。

例えば、ユーチューブをみているとき途中で広告が入るが、有益な情報である動画コンテンツを閲覧するには、広告という無益な情報に接触しなければならない。

しかし無益な情報を得ることは消費者にとって大きなストレスである。ユーチューブなら仕方なく広告をみるユーザーも、コンテンツなしの広告単体が提供され、その内容に興味がなければ瞬時に離脱するだろう。

しかしポケットパルコなら、AIがユーザーの求める情報を分析し、なおかつ、提供する情報を選別できるから、ユーザーにストレスを与えないで済む。

ユーザーは有益広告だけを入手することができるし、パルコ側は広告を送ってもユーザーから嫌われずに済む。

SENSYの紹介

センシー株式会社が開発したAIシステム「センシー」は、顧客の行動やチャットでの言動から、その人の感性を割り出す。

センシーは、ユーザーが服を1着購入しただけでも、服の種類、ブランド、店舗、場所、買った日の天気、当時のトレンドなどの情報を一気に収集してしまう。この情報収集を繰り返すことで、センシーは「なぜこの人はこの服を買ったのか」がわかるようになる。

センシーの技術を使った製品のひとつに「センシークローゼット」がある。これは、ユーザーに自分の服やファッションアイテムをスマホのカメラで撮ってもらい、AIが画像分析を行う。そこに現在世の中で流行している服やアイテムの情報を加えて、ユーザーに新たなコーディネートを提案する。

つまりセンシークローゼットは、自分より的確に、さらにいえば、自分が行きつけのセレクトショップの定員より的確に、自分に合った服を提案してくれるというわけである。

まとめ~大量のデータで感性を割り出す

アパレル業界が挑戦しているAI化は、大量のデータを集めて顧客の感性を割り出すことだ。感性はコンピュータから最も遠い要素と考えられてきた。しかしビッグデータとAIがあれば、コンピュータは感性に急接近できる。

顧客の感性さえつかんでしまえば、あとはデザイナーの腕と店員のアプローチ次第で服は売れるようになる。――というより、AIを使えば確実に売れる服をつくれるようになるのである。

ファッションや洋服に興味がある人が、ファッションや洋服への興味をなくしたことはない。したがって業績不振に悩むアパレルメーカーは、間違った服をつくっているだけなのである。AIが出した予想でデザインを修正することで、「刺さる」服をつくることができるだろう。


<参考>

  1. 初の売上高2兆円超え ファーストリテイリングの1年を振り返る(WWD)
    https://www.wwdjapan.com/718414
  2. アパレル、業績分けた「商品の機能性」 ユニクロ好調(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34114910T10C18A8DTA000/
  3. アパレル企業を悩ませる“量産系女子”(日経ビジネス)
    https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/092900020/061600023/?P=1
  4. アパレルの「AI実用化」はここまできた~ヒット商品も先読み可能に(現代ビジネス)
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56225
  5. アパレルの「AI実用化」はここまできた~ヒット商品も先読み可能に(現代ビジネス)
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56225
  6. アパレルはAIをどう使うべきか、AIベンチャーのファッションポケットに聞く(WWD)
    https://www.wwdjapan.com/713127
  7. ポケットパルコ(パルコ)
    https://pocket.parco.jp/
  8. よくあるご質問(ポケットパルコ)
    http://pocket.parco.jp/webqa/
  9. 感性を学習する人工知能「SENSY」から見えるファッションの未来とは?(fashionsnap)
    https://www.fashionsnap.com/article/ai-sensy/
  10. Company(センシー)
    https://sensy.ai/company

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