ビッグデータを処理するのに欠かせないAI。ビッグデータを処理するためには、大規模なシステムを用意しないとAIを利用できないと思う方もいるかもしれない。しかしAIを活用できるクラウドの登場により、アプリで容易にAIに触れることが可能になった。
今回はAIを使うアプリのなかでも、一風変わった国内アプリを5つ紹介する。
SELF
Appleの開発したSiriや、AmazonのAlexa、Googleアシスタントなど、海外生まれのAIアシスタントは数多くリリースされている。AIを搭載し会話を行なえる国内アプリが、SELFだ。
・AIアシスタントの基本となる処理
AIアシスタントを搭載したスマートスピーカーを使用した経験のある人なら、その機能をご存じだろう。「オッケーGoogle、照明を暗くして」とGoogle Homeに話しかけると、搭載されたAIがその会話を解釈し、命令にしたがって照明をコントルールする。
AIアシスタントのメインの機能が、音声から文字列への変換である。スピーカーなどで受信される音声は、文字情報を含んでおらず、電波や光のように周波数をもった波にすぎない。そのため周波数の違いから、言葉を認識する必要がある。そこで登場するのがAIで、音の「波」から文字列を作成する。たとえば、AIスピーカーに向かって「照明を暗くして」と発したとしよう。発せられた音声から、
しょうめひ おくら くして
ひょう めいおく らくして
しょうめい を くらく して
のように文字列が作成される。これが第1段階だ。次に言語の意味から、確からしい文字列を推測する作業である。この例の場合、複数の文字列から「しょうめい を くらく して」が確からしい文字列だと推測される。これが第2段階である。
AIアシスタントの場合、さらに発せられた言葉に適切な返答を行なう必要がある。この場合、「照明を暗くして」と命令した発話者の意図をくみ取り、設置された照明の明るさを落とす必要がある。これが第3段階である。
・さまざまなキャラクターとチャットが可能に
これら3つの処理にAIが用いられる。SELFはあくまでチャットアプリなので、AIアシスタントと異なるが、音声を言語化しそれに返答するという仕組みは、まったく同じである。
SELFに凝らされている趣向が、さまざまなキャラクターと会話できることである。アプリで設定されたキャラクターと、発話者の音声とを総合して、返答する仕組みになっているのだ。
SELFは、無料版と有料版が用意されている。無料版の場合、使用を重ねるにつれキャラクターと会話がかみ合わなくなったり、発話した内容が記憶から消去されるなど、制限が設けられている。会話を無制限で続ける場合には、有料版が必要になる。
yenta
・情報を有効活用するのがビジネスマッチングの鍵
少子高齢化による人材不足や終身雇用制の崩壊等の理由から経営環境が以前にも増して厳しくなり、ビジネスマッチングの需要が高まっているという。金融機関や商工会議所、財団法人等が、ビジネスマッチングを積極的に行なっている。
マッチング業務には、商談の場のみの提供から、商談の立会い、商談後のアフターフォローまで実施するなど、さまざまな形態が存在する。ところがアフターフォローまで行なうビジネスマッチングは少なく、さらにトラブルが発生した場合への対応も不十分など問題も残る。そのため、収集した情報をできるだけ有効活用することが望まれる。データベースを最新化するのはもちろんのこと、収集情報を有効活用するための専門知識が不可欠だ。
ビジネスマッチングでは、情報の質の高さが商談の成功へとつながる。そのため、データを定性的あるいは定量的に分析し、最適なマッチングを行なうことが期待される。データの分析のために、AIが用いられるのは自然な流れだろう。
・適切な相手との商談の機会を提供するyenta
yentaは、完全審査制AIビジネスマッチングアプリだ。アプリの使用目的は、採用だけでなく、営業や勉強など多岐にわたる。商談の場のみ提供されるようだが、それでもyentaは高い質を誇るビジネスマッチングをAIを活用して行なう。累計マッチング数が160万にも及び、マッチング率は92.85パーセントと高水準だ。
SNSでの登録や友達関係、アプリ内での行動などから、Yentaに搭載されたAIが相性を解析し、あうと判断した人をレコメンドする。レコメンドされた人に対し、「興味ある」「興味ない」に振り分け、マッチングが行われる。マッチングされると、あとはアプリでメッセージのやり取りを行なうだけだ。
SpeakBuddy
英会話を勉強したいが、ネイティブスピーカーと話す機会が少ないため、練習の機会が欲しい人もいるだろう。SpeakBuddyは英会話の勉強を支援する国内アプリだ。
・学習者にあった教育を支援するアダプティブ・ラーニング
SpeakBuddyに限らず、AIを活用して学習を支援するシステムが数多く開発されている。キーワードが、「アダプティブ・ラーニング(適応学習)」だ。アダプティブ・ラーニングとは、ひとりひとりの状況に応じた教育を実践し、生徒に学習させる方法である。従来の学校の場合、教師が能力の異なる生徒を数多く抱えるため、各生徒に合わせた教育を行なうのには限界があった。アダプティブ・ラーニングでは、ICT(Information and Communication Technology)の支援により、各生徒に合わせたきめ細やかな教育が可能になり、高い学習効果が期待できる。学習効果を最大限にする教育プランを組むのが、AIの役割だ。学校教育だけでなく、企業の人材教育などでも、AIを活用したアダプティブ・ラーニングが検討されている。
・最適な英会話の問題をAIが選別
SpeakBuddyの場合、アプリに表示されるキャラクターが英語を話しかける。これに対し英語で返答する。発話者の英語を解釈する仕組みは、前述のAIアシスタントの事例と同様なので、本項では割愛しよう。発話者の発した英語をもとに、アプリがスコアを表示する。スコアは記録され、最適な学習効果を期待できるよう、問題が出題される。まさに英会話用アダプティブ・ラーニングを実現するのが、SpeakBuddyだ。
SENSY CLOSET
・三越伊勢丹HDなどが採用するスタイリング支援アプリ
自分好みのファッションを提案するアプリがSENSYだ。社員数15人ほどのベンチャーであるカラフル・ボードがSENSYを開発、2015年には三越伊勢丹ホールディングスと提携した。SENSYをタブレットにインストールして、来店客の好みからおすすめの商品を提案するという。
・顧客のセンスをAIが分析
SENSYは顧客のお好みのファッションを選ぶために活用するデータが、顧客自身の感性だ。感性や知覚といったヒトのもつデータがマーケティングに応用される事例は、いくつも存在する。デジタルマーケティングでは、データに基づいて潜在的顧客のニーズを知るために、AIが活用される。AIで学習させるビッグデータには、ヒトのもつ感性や知覚が含まれる。
SENSYの場合、服のセンスを学習することで、その人の「カジュアル」や「フェミニン」、「デート服」や「元気になれる服」などが導かれる。学習によって出力された結果に、顧客の行動履歴や商品データが加味され、顧客にイメージにあったコンテンツを届けられるという。
Artomaton
・デザイン支援に欠かせないコンピュータ
AIの活用範囲は、単純な画像認識や音声認識にとどまらない。アートの分野にまで、AIは射程を置いている。デザイン支援の分野での研究も進んでいる。
コンピュータによるデザインワークが普及し、Adobe Illustratorに代表される描画ソフトの利用は、デザインに欠かせない。紙とペンで行なう旧来のデザインワークと同様の処理が描画ソフトで可能なだけでなく、それ以上の機能を描画ソフトが搭載することも少なくない。ところが描画ソフトの機能が複雑になるにつれ、描画を行なうユーザの負担も大きくなる。AIが描画の支援をすることで、ユーザの負担は小さくなるであろう。
デザイン支援には、写真を加工する機能も含まれる。写真用SNSとして世界中で使用されているInstagramにも、写真を加工する機能が搭載されている。またAdobe Photoshopにも同様の機能が含まれる。ところがInstagramの場合、加工の選択肢が多くなく、写真をユーザのイメージに合わせて変化できるとは限らない。一方Photoshopの場合、機能が多すぎて、一般ユーザが扱うのは一苦労だ。
・カスタマイズ可能で簡単に写真を絵画風へと変換
Artomatonは、写真を絵画風に加工するアプリだ。写真をもとに、まるで色鉛筆で描いたような絵画にAIが仕上げてくれる。さらにカスタマイズすることで、加工の強弱をつけられる。複雑な操作をしなくとも、アプリだけで写真を簡単に加工できるのは、SNSで画像を共有したい世代にとって渡りに船であろう。
まとめ
以上、AIを活用した国内のアプリを5つ紹介した。個別の機能自体は、音声認識、マッチングといったシンプルな方法ばかりである。ところがこれらの機能だけでも、アートや学習、ビジネスといったさまざまな分野で使用可能なアプリへと変貌するのだ。
<関連記事>
AIを駆使した海外アプリ紹介【必読5選】
<参考>
- SELF
http://self.systems/ - 人工知能(AI)と会話できるアプリ:SELF (SELF)
http://self.software/#page00 - 完全審査制 ビジネスマッチングアプリ yenta (yenta)
https://yenta.talentbase.io/yenta - ビジネスマッチングアプリ「yenta」で人脈が1ヶ月で100件超できた話 (LIG)
https://liginc.co.jp/243679 - AIがスタイリングを提案する「SENSY」の姉妹アプリが登場!手持ちの服とお店の服が合わせられる (Techable)
https://techable.jp/archives/44009 - 元祖!絵画風写真加工アプリ『Artomaton』を徹底解説!味のある芸術的な画像の作り方とアプリの魅力と使い方を大公開 (Popular Post)
https://wepli-dot2.hatenablog.com/entry/photo-processing-app-artomaton - Newton Special 人工知能革命(第2回)会話するAI : 人工知能が言葉を”理解”するしくみ (「Newton」2018年9月号)
- ビジネスマッチングの現状とあるべき姿 : 中小企業のビジネス活性化に向けたビジネスマッチングの活用 (「情報未来」42)
- ファッション あなたの「専属スタイリスト」 (「エコノミスト」2016年5月17日号)
- オノマトペを用いた描画支援ツールの提案 (「信学技報」 Vol.116 No.117)
役にたったらいいね!
してください
NISSENデジタルハブは、法人向けにA.Iの活用事例やデータ分析活用事例などの情報を提供しております。