人口知能_デジタルマーケティング

デジタルマーケティングのAI活用成功事例から見えてくるキーワード

デジタルマーケティング分野へのAIの活用成功に導いた事例を、今回紹介する。3つの事例とも一見まったく違うように映るが、前回紹介した「データドリブン」と「オムニチャネル」が重要なキーワードであることを、3つの事例が示唆する。

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デジタルマーケティングへのAI(人工知能)の活用事例ひとつとっても、広範に及ぶ。今回紹介する企業は、どれもAIに特化したスタートアップ企業の事例である。大企業から投資や融資を受けて開発した事例や、研究機関と共同開発をおこなったものなど、多種多様だ。

どの事例も一見機械学習を活用してまったく異なるシステムを構築しているかに思えるが、データドリブンとオムニチャネルというデジタルマーケティングを構成する2つと密接に結びつきがある点で一貫する。

人口知能_デジタルマーケティング

成功事例1:マーケティングオートメーション

労働者不足時代に重要なマーケティングオートメーション

マーケティングオートメーションへのAIの活用事例を、最初に取り上げよう。マーケティングオートメーションとは、見込み客(リード)のリストを収集し、そのデータを統合することで、自動的にリードの獲得や選別が行なえるツールである。

マーケティングオートメーションがデジタルマーケティングにとって重要なのは、自動化によって時間やコストを削減できるだけではない。従来のマスマーケティングでは個々の消費者の趣向がブラックボックスだったのが、個々の消費者の心理を汲み取ったone-to-oneマーケティングへと移行できるのが大きい。たとえばカートに商品を入れたままで放置している顧客に対し、「カートに入れたままで買うのを忘れていませんか?」といったメールを自動的に送ることもできる。

マーケティングオートメーションに取り組む台湾企業

この分野に取り組むのが、台湾のスタートアップ企業であるAppierだ。日本からはソフトバンクやLINEなどから出資を受けるAppierは、急成長が見込まれるスタートアップ企業をリストアップした「AI100」にも選ばれている。大半がアメリカの企業であるだけに、Appierが選ばれている意味は大きい。マーケティング分野に特化したAIのスタートアップ企業でAI100に選ばれたのは、Appierを含めて4企業だけだ。

2004年にアメリカでマーケティングオートメーションの考えが登場以降、日本でも活用する動きが加速している。もともと「クロスデバイスマーケティング」と呼ばれる複数のデバイスを横断してユーザに広告をリーチさせるツール「CrossX」を、Appierは手掛けた。デジタルマーケティングへのAI活用ですでに実績のあるAppierが、次に目をつけたのがマーケティングオートメーションだ。2018年7月に、マーケティングオートメーションを行なうツールAIQUAを発表したばかりである。アジアから太平洋にかけての広い地域でサービスを開始している。

AIQUAは、マーケティングオートメーションで実績のあるインドのQGraph社の技術を活用している。Appierがこれまで開発したツールを活用し、AIフレンドリーなマーケティングオートメーションツールの統合に成功した。AIで顧客のセグメンテーション化を行なうことで、購買意欲をかきたてる適切なメッセージや、アプリケーションに表示されるお知らせを潜在的な顧客に届ける。

顧客の心理の把握には、ビッグデータからのセグメンテーション化が欠かせない。「CrossX」によって約20億ものデバイスを紐つけしたデータを、Appierは保有する。だからこそ、機械学習によって求められた顧客の趣向をマーケティングオートメーションに活用できるともいえる。

Appierの事例は、デジタルマーケティング分野での事業拡大が垣間見える好例だ。

成功事例2:コピーライティング

ゴールドマンサックスから融資を受けるAppier

ニューヨークに本社を構えるPersadoはAppierと同じく、マーケティング分野に特化したAIスタートアップ企業である。より多くの顧客に商品を購買させるという目的は同じだが、アプローチが異なる。Persadoが着目するのは「コピーライティング」である。

「AI100」にも選ばれるPersadoだが、Persado同様、大企業から支援を受けている。Persadoに3000万ドルもの資金を援助するゴールドマンサックスは、投資や融資により4.65億ドルもの収益を上げているという。音楽配信プラットフォームを提供するSpotifyや配車アプリのUberに投資したほか、スタートアップ企業にも積極的に投資している。

ゴールドマンサックスを魅了するPersadoのコピーライティング事業だが、AIが言語認識や音声認識といったパターン認識に力を発揮することはよく知られている。すでにAIを活用した自動翻訳機も存在するのも、周知であろう。何百万もの異なるフレーズをもとに、AIを活用して、顧客に届くメッセージを作り出すシステムをPersadoは運営する。

コピーライターを駆逐する可能性も

AIが生み出すコピーを届ける手段は2種類ある。メールとFacebookのようなSNSだ。送信するメールのタイトルを顧客の心に響くようなものを生み出すだけでなく、SNSの広告において見出しや文章のレイアウト、画像の選定まで行うというのだから驚きである。

Persadoが興味深い実験を行っている。それがカナダのフラッグシップであるエアカナダとともに、クリック率を上げるWebボタンのメッセージの作成に着手している。

「FOMO(fear of missing out)」と呼ばれるバズワードをご存知だろうか。SNS依存症を象徴する言葉で、「見逃してしまうことを恐れる」ことを意味する。このSNS依存症を逆手に取って、Persadoは気にせずではいられないフレーズを調査した。その調査を踏まえ、「Book now(いますぐ予約)」や「See deal(商品をチェック)」というメッセージに変えた。その結果、開いた人は40パーセント、実際に広告を見た人は220パーセント増加したという。

Persadoのコピーライティングが本業のコピーライターを脅かす時期も、そう遠くはないかもしれない。

成功事例3:WEBサイトの改善

マーケティングにAIを活用する日本のスタートアップ企業

日本のスタートアップ企業も負けてはいない。マーケティングに特化したAIスタートアップ企業であるWACULは、2010年に創業した。2011年からWEBコンサルティング事業を開始し、2015年には「AIアナリスト」と呼ばれるシステムをリリースした。

WACULが着手する事業は、WEBサイトの改善である。Persadoの成功事例で見たように、ペイドメディアやアーンドメディアといったデジタルメディアの重要性は述べるまでもない。デジタルメディアで忘れてはならないのは、オウンドメディアの存在である。広告の顔としての意味合いをもつだけでなく、顧客との接点を作るオムニチャネルとしての役割を、オウンドメディアが果たしている。

オウンドメディアをはじめとするWEBサイトは、顧客にとって魅力的なものであるだけでなく、顧客と企業とを結びつける存在でなければならない。そのため、WEBサイトの改善はマーケティングにとって欠かせない。

システムの構築は東大との共同研究

WEBサイトの改善にはビッグデータが不可欠だが、WEBを横断する情報のすべてがオープンにされてはいない。顧客がどのようなサイトにアクセスしたのか、どのアカウントが紐付けされているのかといったビッグデータは、GoogleやFacebookといったWEB上のサービスを提供する大企業が握っている。だからこそ、クロスデバイストラッキングのような機械学習によって顧客を特定する技術が必要になる。

ともかく、WACULはGoogleやFacebookと違って顧客を特定するビッグデータを保有しないので、必然的にGoogleアナリティクスのようなWEBアクセス分析ツールを活用しなければならない。Googleアナリティクスを活用したうえで、AIを活用してWEBサイトを改善する。

WACULが着手する研究のひとつに、「call-to-action」と呼ばれる商品購入のページにジャンプするボタンの改善がある。コンバージョン率が最善になるようなcall-to-actionボタンをWEBサイトから機械学習によって求めるのだという。とはいえ、上述のようにWEBサービスを利用するベンダーの側では、WEBを横断するビッグデータで把握できる部分は限られる。そこで、Googleアナリティクスのようなサービスを活用することで、コンバージョン率を上げる「call-to-action」ボタンを推定しようとする。

このWEBサイト改善ツール「AIアナリスト」の開発は、東京大学との共同で行なっている。WACULと東京大学の松尾研究室との共同で、ウェブサイトの改善提案を行う機械学習のシステムを開発したという。事実、上述の「call-to-action」ボタンの推定も、松尾研究室の学生が研究メンバーのひとりとして研究に加わった。

「AIアナリスト」の機能は年々バージョンアップしているので、WACULの動向から目が離せない。

人口知能_デジタルマーケティング

デジタルマーケティングの成功事例に共通するカギ

以上、マーケティング分野でのAIの活用成功の事例を3つ紹介した。デジタルマーケティングにとって重要なのは、データドリブンとオムニチャネルである。Appierの事例は、まさに機械学習によって顧客の心理をつかむシステムの構築をマーケティングオートメーションに活用するものだ。

Persadoもまた顧客の心理をつかむという点では、Appierの事例に類似している。ただしコピーライティングを生み出すことに特化する点で、独自性が見られる。コピーライティングのような言語処理に力を発揮するのが機械学習であることを思い出されたい。

最後のWACULの事例は、WEBサイトの改善に機械学習を活用していた。Persadoと似て、顧客の心理をくすぐる「call-to-action」のボタンを創り出す研究・開発に取り組む。データドリブンを心がけつつも、「AIアナリスト」を通じた顧客と企業との結びつきの強化(オムニチャネル)に着目している点を見逃せない。


<参加>

  1. 台湾発の人工知能スタートアップAppier(沛星互動)、シリーズCラウンドでソフトバンクやLINEなどから3,300万米ドルを調達 (THE BRIDGE)
    http://thebridge.jp/2017/08/appier-series-c
  2. Appier、AIでオーディエンス分析・予測するプラットフォーム「AIXON」を日本で提供開始 (MarkeZin)
    https://markezine.jp/article/detail/26767
  3. Appier launches AI-driven proactive marketing automation platform AIQUA (MediaOutReach)
    https://www.media-outreach.com/release.php/View/6208
  4. Appier、CrossXでLTVが高いユーザーの抽出・グルーピング自動化(マイナビニュース)
    https://news.mynavi.jp/article/20180605-642116/
  5. Appier が先行型マーケティング・オートメーション・プラットフォーム「AIQUA(アイコア)」を提供開始 (unyoo.jp)
    http://unyoo.jp/2018/08/appier-aiqua/
  6. AI-messaging based on the crowd’s preferences(The Next Web)
    https://thenextweb.com/full-stack/2017/12/29/these-startups-use-ai-to-optimize-marketing-messages/
  7. Company Overview of Persado Inc. (Bloomburg)
    https://www.bloomberg.com/research/stocks/private/snapshot.asp?privcapId=227976016
  8. もしかしてあなたはフェイスブック依存症? そうならないための5つの対策(日経トレンディネット)
    https://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20130823/1051646/?P=3
  9. テクノロジー・スタートアップへの投資額トップ10 1位はゴールドマン(ZUU Online)
    https://zuuonline.com/archives/182356
  10. クリック率を高めるタイトルをAIで自動作成するPersado(boater)
    https://boater.jp/article/757/
  11. AIがコピーライティングする「Persado」、Goldman Sachsをリードに3000万ドルを調達(TechCrunch)
    https://jp.techcrunch.com/2016/04/06/20160405goldman-sachs-leads-a-30-million-round-for-persados-ai-based-automated-copywriting-service/
  12. AIが人に感動を与える、心に響く広告メッセージはアルゴリズムが生成する(Emerging Technology Review)
    http://ventureclef.com/blog2/?p=3207
  13. WACUL(松尾研究室)
    https://weblab.t.u-tokyo.ac.jp/project/wacul/
  14. 企業理念(WACUL)
    https://wacul.co.jp/about/
  15. SEOで狙うべき検索キーワードを自動で提案!WACUL、「AIアナリスト」に新機能搭載(MarkeZin)
    https://markezine.jp/article/detail/27716
  16. WACULが「AIアナリスト」にCVと売上額などビジネス指標を自動でひも付ける機能追加(impress)
    https://webtan.impress.co.jp/n/2018/05/18/29279
  17. Webサイト分析の「AIアナリスト」を提供するWACUL「Tomorrow’s Marketer Campus~特別版~データを読み解く力!データを改善に活かす手法とは?」に登壇(PR TIMES)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000011052.html
  18. 『マーケティングオートメーション導入の教科書』(住岡洋光、長谷川健人、駒井俊一著)
  19. 「マーケティングオートメーションと印刷業の新しいビジネスの可能性」(パブリックステージ2018年1月号)
  20. 「中小企業のためのマーケティングオートメーション」(KinChu 2018年5月号)
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