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海外製造業が取り組むAI活用事例

近年、国内外の製造業において、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)等を駆使した効率化に取り組む動きが急速に広がっている。今回は、海外の製造業が推進しているAI活用の事例を紹介する。

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製造業においてもAI(人工知能)の活用が広がっている。AIがデータ収集・分析を担当し、その結果を現場の改善に活かす、あるいはAIと人間が協力しながら設計や生産を進める事例がみられる。

近年、国内外の製造業において、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)等を駆使した効率化に取り組む動きが急速に広がっている。

まず、口火を切ったのはドイツである。ドイツ政府は2011年に「インダストリー4.0(第4次産業革命)」と称する政策を打ち出し、ほどなくして産官学の国家プロジェクトを開始した。また、米国では、2012年にGE(ゼネラル・エレクトリック)を中心とした「IIC(インダストリアルインターネットコンソーシアム)」が発足した。

この動きは、世界各国に波及し、さらに過熱する様相を見せている。今回は、海外の製造業が推進しているAI活用の事例を紹介する。

海外製造業AI活用事例の画像

クラウドベースのオペレーションシステムで工場の状況を一元管理

ドイツの電機大手シーメンスは、2017年にオープンなクラウドベースのIoTオペレーションシステム(OS)である「マインドスフィア(MindSphere)」を発売した。このシステムにより、工作機械の不具合、作業時間のかかり過ぎなど、工場内の状況を一元管理できる。

マインドスフィアには、IBMのAI「ワトソン」が組み込まれており、これによりプラントや工場に設置された工作機械などから収集した情報を収集・分析し、機械の故障予測や生産の最適化が可能となる。このOSは、シーメンス製に限らず、他社製の機器や設備などとも接続できるなどオープンな開発環境を提供している。また初期費用が不要で、月額数千円で機械1台の稼働状況が把握できる点でも注目されている。

米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)も、製造のスマート化に取り組んでいる。その代表的なものが、「ブリリアント・ファクトリー」である。ブリリアント・ファクトリーでは、3DCADといったバーチャル環境で設計された製品の組み立てをシミュレートし、それによって検証された製品や製造工程が現実の製造現場に反映される。   

GEヘルスケア・ジャパンの森本淳執行役員・製造本部長は、従来、手間がかかっていたデータ収集や分析を自動化できたことで、生産工程の「カイゼン」に時間を使えるようになったとし、「ある主力製品ではIoT技術の活用によって製造リードタイムを65%も短縮することに成功しています」と述べている。

AIを活用した設計システムでコストを抑えて質の高いデザインを実現

米国のオートデスクは、3D技術を用いたデザインや設計等のソフトウェアのリーディングカンパニーとして知られており、1982年に発売したAutoCADをはじめ、これまで様々な3Dソフトウェアを開発してきた。

同社は、最近、次世代設計プラットフォーム「ドリームキャッチャーシステム(以下、ドリームキャッチャー)」を開発した。ドリームキャッチャーにはAIが組み込まれており、これにより製品やその部品に関する情報(機能要件や性能基準、用いる材料の種類、コスト制限など)を入力すれば、その情報内容に見合った3Dデザインを生成することができる。

このようにAIにデザインを生成させる手法は「ジェネレーティブ・デザイン」と呼ばれる。ドリームキャッチャーに搭載されたAIに自動車の試運転や実験などで得られたデータを取り込ませ、学習させることで、最適なデザインの形成が可能となる。もちろん、デザイナーはAIが提示したデザインを自由に改変できるし、デザインに行き詰ったときには、AIが解決策等を提案することも可能である。このように、ドリームキャッチャーを用いれば、AIとデザイナーがインタラクティブな関係で設計を進めていくことができるのである。

なお、オートデスクは、ドリームキャッチャーを用いて自動車を開発する「Hack Rod」プロジェクトに鋭意取り組んでいる。同プロジェクトで開発された自動車は、「AIが生み出した世界初の自動車」として注目されている。

「ルンバ」の生みの親が開発した協働型の産業用ロボット

米国のボストンを拠点に産業用ロボットの開発・販売を行う企業の一つにリシンク・ロボティクスがある。同社の会長兼CTO(最高技術責任者)であるロドニー・ブルックス氏は、日本でもおなじみのロボット掃除機「ルンバ」の生みの親である。

最近、同社が開発して注目を浴びている製品の一つに、AIを搭載した協働型産業ロボット「ソーヤー(Sawyer)」がある。協働型ロボットとは、文字通り人間と共同作業ができるロボットである。

ソーヤーの特徴は、従来の産業用ロボットでは自動化が難しいとされた、精密作業向けに設計されていることである。ソーヤーには制御ソフト「Intera」が搭載され、人間が指示した動作を学習することができる。具体的には、「やって見せて覚えさせる」機能が搭載されているため、プログラミングの専門家でなくても「教育」できるという点に特長がある。

もちろん、人と接触するとすぐに停止する機能も搭載されており、安全性にも十分配慮がなされている。またロボットの顔にあたるディスプレイには、動作によって多彩に変化する表情が映しだされ、ユーザーにとって親近感がもてる設計になっており、今後、採用企業の拡大が期待されている。

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まとめ

海外の製造業によるAI活用事例を紹介した。

工場のスマート化に活用する事例では、機器や設備で生成される膨大なデータをAIが収集・分析することで、工場全体が可視化され、人の管理だけでは行き届かないような事象にも対応が可能となる。

また、製品の設計においては、AIがデータに基づいて提案したデザインに対して、人間がインタラクティブにやり取りをしながら、最適化するというプロセスを踏むことができる。

産業用ロボットについては、従来、動作を学習させるには、プログラミングの技術が必要であったが、そのような技術がなくとも「教育」できる協働型ロボットが登場している。

かねてより、AIが人間の職を奪うのではないかと懸念する声も少なくないが、今回みてきた事例によれば、いずれもAIが人間をサポートする役割に力点が置かれており、むしろユーザーフレンドリーな形で、人間の生産性の向上に寄与する点に期待がもてる。

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<参考>

  1. 独シーメンス、「工場IoT」で攻勢、中小に照準 (日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24332960W7A201C1X13000/
  2. 工場用IoT基盤、開発競争本格化−故障の予測・生産を最適化 (日刊工業新聞)
    https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00427235
  3. 独シーメンス、「工場IoT」で攻勢、中小に照準 (日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24332960W7A201C1X13000/
  4. 工場デジタル化”の実際を大公開!――「カイゼンを倍速に」 GEヘルスケア日野工場」 (GE)
    https://gereports.jp/hino-brilliant/
  5. オートデスク株式会社
    https://www.autodesk.co.jp/company
  6. アイ・メーカー「3Dデータ化はもはや自動。オートデスクのドリームキャッチャー」(i-MAKER)
    https://i-maker.jp/blog/dreamcatcher-8206.html
  7. Bob Pette「VRと自動車製造の融合:AIが生み出した世界初の自動車「Hack Rod」でGPUを利用」(nvidia)
    https://blogs.nvidia.co.jp/2016/08/08/hack-rod-car-ai/
  8. 精密作業向けのスマートな協働ロボット(リシンク・ロボティクス)
    https://www.rethinkrobotics.com/wp-content/uploads/2016/02/Sawyer_Cutsheet_Oct2015_jp.pdf
  9. 「リシンク、人間の隣で動作しても安全なロボットの最新版を発表」(ASCII.jp × Web Professional)http://ascii.jp/elem/000/001/433/1433283/
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