AIの企業への導入は、様々なレベルで急速に進んでいる。ここでは、AIが企業にどのように導入されていくか、その利用と市場規模についてマクロ的に見ていきたい。
急速に拡大するAI関連製品・サービスの市場規模とその内容
AIの市場規模予測
AI(人工知能)の市場規模に関する見積りや予測値は、外観上、かなりのバラツキがある。
例えば、EY総合研究所は、AI市場規模を2015年で3.7兆円と見積もった上で、2020年には23兆638億円、2030年には約87兆円と予想している[1]。
一方、ミック経済研究所の市場予測「AIエンジン&AIソリューション市場の現状と将来展望」(2017年10月4日)では、2016年でAIソリューションの市場規模を2千億円と見積もった上で2021年の市場規模を8千億円程度と予測しており、AIエンジン市場と合わせたAI市場規模が1兆円を超えるのは2021年としている[2]。
また、IDC Japan の予測では「コグニティブ/AI(人工知能)システム」の国内市場規模は2016年の時点で158億8400万円(ユーザー支出ベース)、2021年では2501億900万円と予測している[3]。
一見すると、数字そのものには統一感が感じられないが、実は、これは後述のように、AI市場をどのようなものとしてどこまでの広がりで捉えるかの違いによるものである。むしろ、上記のいずれの予測も、成長率予測ではAIのインパクトが極めて大きいという点で共通している。
つまり、上記EY総合研究所のデータで、2015年から2020年までで3.7兆円から23兆638億円(すなわち、6.3倍)、ミック経済研究所のデータで、2016年から2021年までで2千億円から8千億円(すなわち、4倍)、IDC Japan のデータで2016年2021年までで158億8400万円から2501億900万円(すなわち、15倍)と、その成長率は、4倍程度から15倍といずれも非常に大きな値となっている。
AI関連製品・サービス
それでは、AIは具体的にはどのような製品やサービスに拡大していくのだろうか。上の予測を読み解くかたちで見ていこう。
(1) AIエンジンとAIソリューション
AIの根本にあるのは、上記のミック経済研究所の予測「AIエンジン&AIソリューション市場の現状と将来展望」にもあるAIエンジンである。AIエンジンはAIのソフトウエア的本体と言っても良いだろう。AIエンジンではIBMのWatson(ワトソン)に備えられているもの、GoogleのTensorFlowやベンチャー企業等の製品が有名だ。
AIエンジンとしては、現状では、ディープラーニングというアルゴリズムが圧倒的優位に立っている。ディープラーニングとは日本語では「深層学習」だが、一言でいえば、ものの概念化をコンピューターで可能にしたものである。
例えば、人間であれば、ネコというものを概念的に認識できる。つまり、三毛猫であれ、ヒマラヤンであれ、「なんとなくネコはこういうもの」という概念を持っている。この結果、例えば、マンチカンのようなもの(これは20世紀になって誕生した短脚で有名なネコだ)を見ても、それがネコだと認識できるのである。
しかし、これをコンピューターにやらせることは簡単なようで難しい。ネコの典型的な身体的寸法や毛の色を覚え込ませても、例外的なネコが出てきてしまう(例えば、三毛猫のような三色の毛色を持つネコは例外的なものだ)。人間がすべてを条件化してやろうとすると壁に当たってしまうのだ。コンピューターでこのような概念化を可能にしたのがディープラーニングである。
ディープラーニングにもさまざまなバリエーションがあるが、現在のAIエンジンの開発の大きな課題がディープラーニングを超える新たなアルゴリズムの開発である。それが生まれ、それを使ったAIエンジンが誕生すれば、AIにおいて革命的なことになるだろう。
さて、このAIエンジンをソリューションに落とし込んだものがAIソリューションであり、前述のIBMのWatsonもAIソリューションである。もっとも、AIソリューションの範囲はさまざまだ。わかりやすい例で言えば、ECサイト等で、顧客の挙動を記録・分析して商品をレコメンド(推薦)するECサイト用のAIソリューションがある(IDC Japanの予測は、このような「弱いAI」の市場規模を予測したものだ)。これをより高度化すれば、病気の診断等を行う医療システムにもつながる。
上述のようにこのようなAIエンジンとAIソリューションという意味でのAI市場規模が1兆円を超えるのは2021年だと予測されている。これはAI市場のコアの部分の数値の予測と言えるだろう。
(2)広大なAIのすそ野
もっとも、EY総合研究所のより大きな数値に示されているように、AIのすそ野は広大だ。
まず、画像認識の分野が挙げられる。上にネコの例を挙げたが、ディープラーニングでは画像認識における精度(正しく識別できるか)の向上が大きな成果だった。また、画像認識は応用範囲が広く、既に市場拡大期に入ったと言われている。
画像認識は、現在でも、iPhoneの顔認証機能「Face ID」でも使われているが、最近では顔認証眼鏡で犯罪防止(容疑者や危険人物の拘束)にも使われている[4]。顔認証眼鏡などはプライバシー保護の点で法律的な問題も生じるが、画像認識の利用実態としては、不良品の識別からアスリートの運動解析まで幅広い応用が可能だ。その他にも、自動運転などの基礎技術になる。
画像認識の次に来るのが音声認識と言語処理だ。現在でも、siriなどの音声認識機能はかなり高いものになっているが、音声認識による個人識別が可能になれば、扉の開閉や入退室の際解錠・施錠、自動運転の指示など口頭での命令が可能になる分野は多い。
言語処理の分野では、テキスト解析と自然言語処理が挙げられる。テキスト解析とは文章の意味を解析すること、自然言語処理とはいわば普通の文章の読み書きだ。音声や文章の意味の理解が可能になれば、実用レベルの自動翻訳や通訳も可能になる。
また、新聞や雑誌記事の自動生成、SNSなど膨大な量の人間の発言がビッグデータとして解析可能になる。これに伴い、バーチャルエージェントもより広く普及するだろう。
バーチャルエージェントとしては2017年にAmazonの Alexa(アレクサ)などのスピーカー型バーチャルエージェントが登場したが、その市場拡大はこれからだ。今後は、デジタルパーソナルアシスタントと言えるような生活に密着したバーチャルエージェントが登場するようになるだろう。
また、2030年には自動運転など運輸ロジスティクス部門で数十兆円の市場規模になるとされている(上記EY総合研究所による予想)。
このほか、SFに出てくるような人間型のスマートロボット、医療診断など様々な専門家システム、サイバーセキュリティーでの活用等を考えると、2030年での市場規模は約87兆円という数字になるのである。
AIの経済効果
IoT+AIが経済成長に与える効果について、総務省では、2030年に実質GDPを132兆円押し上げる効果があるとしている。AIのみの経済効果ではないが、市場規模における押し上げ効果は下図のように271兆円にものぼる。
(総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年))[5]
なお、図中、IoT+AIの影響を考慮したものが「経済成長シナリオ」、これを除くベースの成長が「ベースシナリオ」である。
AI関連投資規模
このような市場規模への経済的効果は、投資とその影響というかたちにまとめられる。平成29年版情報通信白書(総務省)では、これを下図のようなマトリクスで示している[6]。
すなわち、
(a)ICT産業が経済波及効果を与える側(すなわち投資を行う主体)で、ICT産業が経済波及効果を受ける場合(左上)
(b)ICT利用活用産業が経済波及効果を与える側(すなわち投資を行う主体)で、ICT産業が経済波及効果を受ける場合(右上)
(c) ICT産業が経済波及効果を与える側(すなわち投資を行う主体)で、ICT利用活用産業が経済波及効果を受ける場合(左下)
(d)ICT利用活用産業が経済波及効果を与える側(すなわち投資を行う主体)で、ICT利用活用産業が経済波及効果を受ける場合(右下)
の4パターンである。
それぞれの経済波及効果は下のグラフのように見積もられている。
すなわち、いずれも平成30年度の推計で
ケース(a)では15兆円
ケース(b)では29兆円
ケース(c)では4兆円
ケース(d)では223兆円
がIoT+AIの投資効果になっており、ICT利用活用産業が投資をすることによりICT利用活用産業が投資効果を受ける効果が最も大きい。
AIの国内企業における利用実態
上の予測のように、AIの投資効果は、ICT産業よりはICT利用活用産業が投資をすることにより最大の成果が得られる。現実でも、AIは、国内主要企業121社において約半分が利用している(毎日新聞調べ)[7]。
具体的な利用実態としては、現状では、口座開設方法や株価等に関する顧客からの問い合わせにAIが回答するというもの、顧客からの電話の問い合わせ内容をAIが文字化したり、回答例を担当者に示すものといった顧客サービス部門での利用、専門家や熟練工・熟練社員の技術を再現させる技術承継での利用、不良品のチェックなどが挙げられている。
この調査では17%が、今後もAI導入の予定はないと回答しているが、AI投資は非ICT産業(ICT利用活用産業)で最も大きな経済効果を示すのであるから、今後、非ICT産業(ICT利用活用産業)に対してAI投資を進めるような経済施策が必要となるだろう。
まとめ
AIの投資効果は、ICT産業よりはICT利用活用産業が投資をすることにより最大の成果が得られる。AI投資は人間の労働者の削減につながるが、社会全体としては経済規模を拡大させる結果となる。この点では業種に関わらずAI投資を進めることが、日本経済が生き残るために必須の条件と言えるだろう。
<参考>
- EY総合研究、人工知能の市場規模は2030年に86兆円に拡大すると推計(IoT News)
https://iotnews.jp/archives/5186 - [AI市場は2021年に1兆円超えへ(MONOist)
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1710/20/news046.html - 国内AIシステム市場は5年で16倍に急成長、IDC Japanが予測(日経XTECH
)
http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/news/17/111502666/
- 顔認証メガネで旅行者をスキャン —— 中国、すでに7人を駅で逮捕(Business Insider Japan)
https://www.businessinsider.jp/post-161823 - 平成29年版情報通信白書(総務省)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc135220.html - 上記と同じ
- 主要121社調査 AI導入企業47% 効率化へ研究進む(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20180106/k00/00m/020/124000c
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