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経営戦略書売上ランキング1位「起業の科学」田所雅之さんが語る、失敗するスタートアップや新規事業に足りないもの

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Amazonの経営書売上ランキング1位の「起業の科学スタートアップ サイエンス」。その印象的なイエローの表紙を、本屋や同僚の机の上で目にしたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
5/29に開催されたQUMカンファレンスでも、起業の科学を読んだことがある! という方が何人もいらっしゃいました。そんな田所さんと、フィラメントCEO角の対談が実現。QUMカンファレンスに行けなかった! という方もぜひお読みください。まずは前編をお届けします。ライターは、複業で弊社の.コネクターを務める宮内俊樹です。

プロフィール

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー
株式会社ユニコーンファーム CEO

これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル のベンチャーパートナーを務めた。Pioneers Asiaというグローバルスタートアップイベントのスタートアップ責任者を務めるなど、これまで1500社以上の世界中のスタートアップを評価してきた) 現在は、国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、日本最大級のウェブマーケティング会社 ベーシックのChief Strategic Officerを務めながら、事業創造会社のブルーマリンパートナーズのChief Strategic Officerも務める。2017年にスタートアップ支援会社であるUnicorn Farm を立ち上げた。

世界で累計5万シェアされたスライド “Startup Science”、発売後、3部門(経営、起業、イノベーション)で24週連続ベストセラー1位(2017年11月2日~2018年4月10日)になった書籍 “起業の科学 スタートアップサイエンス“の著者である。

角勝(すみ・まさる)

角新氏
元公務員(大阪市職員)。前職では「大阪イノベーションハブ」の立上げと企画を担当し、西日本を代表するイノベーション拠点に育てた。 現在は、「共創の場をつくる」、「共創の場から生まれたものを育てる」をミッションとして、共創人材の育成や共創ベースでの新規事業創出を主導するオープンイノベーションオーガナイザーとして活躍。大手企業5社・ベンチャー企業1社と顧問契約を結ぶとともに、ハッカソンをはじめとするイノベーションイベントのスペシャリストとして年間で50件を超えるイベントに携わる日本でも有数の共創分野の実践者である。

1000社の評価、500社のメンタリングから生まれた「起業の科学」

角:それでは『起業の科学』を書くに至った経緯からおうかがいできますか?

田所:本の冒頭でも書いたんですけど、これまで僕は何度か起業をしています。そこで、多くの失敗をしてきました。過去の自分が、この本を読んだら自分の人生が変わりそうかどうか、そういう基準で書きました。起業していた時は、当然、成功したいと思い、いろんなところでいろんな情報を集めていました。いい情報は確かにありましたが、散在してたんですよね。そこで、One stopで起業のノウハウがわかるコンテンツを作れないか、と思い最初はブログから始まりました。

2014年から2017年までVC(ベンチャーキャピタル)投資家っていう立場でいろんなスタートアップに会い評価してきました。いろんなステージのスタートアップが無駄な失敗をしてしまうのをいっぱい見てきました。1000社以上のスタートアップを評価して、500社ぐらいのスタートアップのメンター/アドバイザーをやってきました。メンタリングなどで使ったコンテンツまとめようと思いだしブログを書き出しました。それが、徐々に増えてきました。最終的には3000枚近くのスライドになりました。そのスライドから抜粋してこの本になりました。

角:すごい分量ですよね、そのサイズで分厚い。

田所:これでもかなり絞り込んでいます(笑)。細かい施策の話とかはこの本にはあまりカバーしていません。スタートアップの最大公約数的な話にしぼっています。スタートアップのロジックは基本、日本、アメリカも中国もヨーロッパも同じだと考えています。なので、国内だけで通じるプレイブック(教科書)を作ってもしょうがないと考えています。目標は『リーンスタートアップ』をアップデートしたこの本を世界の標準にしたいと考えています。

(6/11時点 経営戦略売れ筋ランキングで1位「起業の科学 スタートアップサイエンス」)

角:なんか文章の一文一文が、すごいんですよね。研ぎ澄まされていて。

田所:『リーンスタートアップ』はいい本です。ただ、少し不親切なんですよね。内容が少し難しい。あとは、スタートアップに重要なUXやチームビルディングについてはあまり書かれていない。リーンスタートアップ だけではカバーできない部分をカバーしようと考えました。忙しい起業家が、この本を脇に置いてもらっていつでも見返せるようにしています。

角:失敗事例がここまで書いてある本ってのも、なかなかないですよね。

田所:日経新聞で「スタートアップ創業者が起こしがちな21の間違い」って記事がこの間出ました。これは本のコンテンツがベースになっています。ただ、21の間違いをすべて避けるってのは難しい。でも、できるだけ、避けるべきことは避けて欲しいと思います。

角:僕が思ったのは完全に網羅されてるってことですよね。一文一文に無駄がなくて、エッセンスがすごく詰まっている感じがする。たとえるなら実際に戦場に行かないとわからない、戦場での弾丸の飛び方はこうですみたいなことが書いてある。HowToでこういう風にやるべきとか、こういうフレームワークを使えとか、このタイミングではここを重視してヒアリングをするべきとか、そういう具体的な指示がたくさんある。これが書けるのってのはすごいなと、凄みが違うな、と。

田所:僕が尊敬するポール・グレアムっていうYコンビネーターを作った人に、好きな言葉があります。彼曰く「スタートアップは他人に殺されない、みんな自らを殺してしまう」。要は起業家やスタートアップは、競合にやられる前に、自滅しちゃうパターンが多いんですよ。その一つが、自分のやってることを過大評価したり自分の見方を検証せずに正当化してしまうことが多々あります。人間は、そのほうが楽ですし、直感的なんですよね、”易きに流れる”っていいますけど。お客さんの声を聞いたり、デザインシンキングの思考を活用して、深い洞察を見つけたりするのは、すごくしんどい、だから、ほとんどの人がやらないんですよ。でもそういうことをやらないと、ユーザーが本当に求めている潜在的な課題って見つからないんです。

角:なるほど、易きに流れる、か。

起業家に必要な「パラノイア」っぽい性質

角:印象に残っているのは、「スタートアップは実験研究組織だ」というフレーズがあって。これって新しい定義だなと思ったんです。実際にやってる事は課題がどこにあるのかインサイト突き詰めて考え続ける、そういう仮説と検証の繰り返しだし、それって結局答えがないところに答えを探している話なので、それがしんどいんだと思う。それが大企業の中でのスタートアップ的な取り組みが続かないそもそもの原因なんだと思うんですけど。それってどこかで稼ぐってことを考えているからだめなんであって、本質は実験研究をする組織なんだ、特にアーリーステージでは。

田所:まさにそうです。アーリーステージでは学習にフォーカスすることが重要です。学習にフォーカスするためには、パラメータが100個とか200個とかあったら多すぎて人間の頭では理解できません。さらに、パタメータが多すぎたら他人に伝えるフォーマットにできない。いかにして初期段階で仮説を立てて課題を発見していくかというプロセスが大事になります。「ストーリーファウンダー」と僕は言っています。課題検証じゃなくて課題発見です。

角:まず課題を発見できるかどうか、ですね。

田所:パラメータを少なくしながら痛みのある課題はどこかをあぶりだしていく。ある物事や事象の真因を明らかにしていくのが重要です。核心に近づいていくには、チームとして全力で、カスタマーや課題について学んでいく必要があります。

角:チームをどうやって作るかって話から書いてありますね。それから、起業家本人が興味を持てるとか、自分の体験からの蓄積があって強みがあるっていうことにフォーカスしろって書いてありますね。

田所:起業家は「パラノイア」っぽい性質が必要で。パラノイアは何かっていうと、こうあるべきだっていう理想がある状態をとことん求める資質なんですよね。その資質の前提条件として、取り組んでいる課題を自分ごととして強い共感がないとダメです。そうじゃないと、あるべきユーザーエクスペリエンスやカスタマーエクスペリエンスがイメージできないんですよね。

角:その人がくわしいこと、本当に好きなことじゃないと一生かけて打ち込めるってレベルにはいかない。

田所:僕はいまアクセラレータをやっています。その中のセッションの一つにミッション・ビジョン・バリューの再定義があります。なんでかというと、”ミッション”(なぜそれをやるべきか?)を磨き込むことは、自分たちがその事業をやる納得感を高め、メッセージ性も高まり、採用にもポジティブに効いてきます。”世界をこう変えたい”っていうメッセージやストーリーがないと良い人材って集まってこないと思います。でも、こういう自分のモチベーションや事業を考えた原体験に向き合うのは時としてつらいんことです。時として自分のコンプレックスとか劣等感とも向き合うことになりますので。

角:『起業の科学』も、向き合えというメッセージがすごく強い。自分自身ともそうだし、顧客とも向き合え、という。逆にいうと、それができてない人がいっぱいいるんだなっていうことも思いますよね。

田所:ピボットという言葉は、スタートアップ業界でバズワード的に使われてます。でも起業家としての”この課題を解決したい”という思いやパッションは変えちゃいけないんですよね。プロダクトを変えたり、ターゲットユーザーを変えたり、戦略を変えるのは別に構いません。『リーンスタートアップ』を表面的に読んだ人ってのは、ユーザーとだけ話してピボットしちゃうんですよ。でも大事なのはユーザーと話した後に、ちゃんと自分とチームで内省することです。ピボットをしてもいいけど、ユーザーの課題の核心に近づいていけるかどうか、誰もまだ解決できていないけど重要な問題を明らかにしていけるかがポイントです。顧客と話し、自分たちとも対話して、チームとして学ぶっていうことが大事なんです。学んだ結果、この先には成功はないと思ったらピボットするべきだなと思う。

角:大企業における新規開発とか組織開発にも使える側面ってありますよね。たとえば新規事業はサイドプロジェクトとして進めるのがよいっていう話。企業の中にいても、自分が課題だと思うものって見つけられると思うんですよね。その時に好奇心がないとダメだとか。そこから一歩超えてアクションができるとか、すごく重要な資質もあるんだけど。逆にいうとスタートアップとは実験集団なんだっていう定義と同様に、サイドプロジェクトを社内においても容認したり、場合によっては予算をつけてやらせるだったり、それが一緒にできたら企業の中でもスタートアップ活動でできるんじゃないかなっていう気もしてたんですよ。

田所:なるほど。

角:要は組織の手入れをしながら新規事業をやらないと、どっか歪みが来ちゃうんだろうなというのが僕の仮説です。それが今回のQUMにつなってるんですよね。でもどうすれば良いのかは僕も答えがないので、皆さんにお話を聞きながってながら考えていきたいと思っています。

後編はこちら

100点ではなく「10000点」をめざせ! 「起業の科学」著者・田所雅之さんが大企業に伝えたいこと


<注意事項>
この記事は株式会社フィラメントより許可を得て転載しております。

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