トヨタやNTTも注目する有望AIベンチャーPFNとは?

プリファードネットワークス(PFN)は、トヨタやNTT、ファナックといった名だたる企業と提携するAIに特化したスタートアップ企業だ。PFNの基幹技術は、AIとIoT、エッジコンピューティングの3本柱である。

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人工知能(AI)分野での産業やビジネスに関心のある人なら、プリファードネットワークス(Preferred Networks: PFN)の名前を目にしたことがあるだろう。PFNは、さまざまな企業にAI分野の技術支援を提供する。トヨタ自動車やNTT、ファナックといった名だたる企業と提携する。100人足らずの技術者集団だが、国内外から就職を希望する者も多い。

PFNとはいかなる企業なのか。トヨタやファナックなどを虜にするその技術を紹介しよう。

PFN_人口知能_製造業

プリファードネットワークスとはこんな会社

資金調達力No.1のAIに特化したスタートアップ企業

プリファードネットワークス(PFN)が創設されたのは、2014年3月のことだ。前身となるプリファードインフラストラクチャー(Preferred Infrastructure)から、AI部門だけがスピンオフされた形で独立したスタートアップ企業である。もともとアメリカのIT関連企業が集まるシリコンバレーで使われ始めた「スタートアップ」だが、日本のスタートアップ企業のなかでも象徴的存在なのがPFNだろう。

PFNを支援する企業は多い。トヨタは2017年8月にPFNに対して105億円もの追加出資を行なっている。これにより、トヨタはプリファードネットワークスの外部筆頭株主に躍り出た。トヨタだけではない。2014年10月にNTTコミュニケーションズと資本・業務提携契約を締結、2018年1月には日立製作所とファナックとのAI新会社の設立を発表した。

注目を注ぐのは国内企業だけではない。PFNは、Chainerと呼ばれるディープラーニングに特化したフレームワークの開発を行ない、2015年にオープンソースで公開している。Chainerは国内の企業で多く採用されるだけでなく、GoogleやNVIDIAといったAI事業を先導する海外の巨大企業からも一目置かれる。これほどまでに、PFNが国内外の企業から注目される理由はどこにあるのか。

プリファードネットワークス自体は、スピンオフした企業

プリファードネットワークス(PFN)の前身となるプリファードインフラストラクチャー(PFI)は、社長である前川徹や副社長である岡野原大輔らによって、2006年に起業された。前川や岡野原は東京大学大学院情報系研究科出身者で、彼ら以外にも京都大学大学院出身者など10人からなる技術者集団としてスタートした。彼らは、ACM-ICPC国際大学対抗プログラミングコンテストに参加した日本の秀英たちだ。Googleに負けない事業を目指して、PFIを立ち上げた。これは大袈裟な話ではない。事実、岡野原はGoogleのインターンに参加しGoogleへの入社を当初想定していたものの、結果として日本で前川らとともにPFIの創設に参加した。

PFI時代から、前川らが決めていた「決まり」があるという。それが、「提携企業の下請けをしない」というものだ。自分たちが行ないたい事業、開発したい技術に向けて邁進すること、提携企業と対等な関係で契約することである。このような精神が10年経って、数々の名だたる大企業と業務提携を締結するというかたちへと結実したのだろう。

プリファードネットワークスのサービス詳細とその活用事例、メカニズム等

AIとIoT、エッジコンピューティングの3本柱で戦うプリファードネットワークス

前述のように、プリファードネットワークス(PFN)はトヨタやNTT、ファナックといった名だたる企業と業務提携を締結し、資金を調達する。PFNの基幹となる技術はAIとIoT、エッジコンピューティングだ。IoT(Internet of Things: モノのインターネット)もまた、人工知能とともに、現在注目すべき技術である。IoTとは、金融システムやロボット、家電製品などさまざまなモノをインターネットで接続することにより、新しい付加価値を生み出すシステムだ。PFNは、IoTを実現するネットワークとして、エッジコンピューティングへの取り組みを行なう。クラウドファンディングと異なり、端末から離れたクラウドサーバでデータを捌くのではなく、端末に近くに設置させた分散型のサーバでデータを捌く。エッジコンピューティングのおかげで応答速度が速まるので、IoTの実現には欠かせない。

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(出典:http://www.ntt.co.jp/news2016/1602/image/160216d.gif )

エッジコンピューティングを介してさまざまなモノを接続させることに伴い、取り扱うデータ量は爆発的に増大する。そのような「ビッグデータ」を迅速に捌くのに、AIが必要になるのはいうまでもない。PFNが人工知能とともにIoTやエッジコンピューティングにターゲットを置くのは自然な流れだろう。

トヨタと共同開発する「ぶつからない車」

トヨタは国内だけでなく、海外でも存在感のある大手自動車メーカーだ。自動車の技術は年々進歩するなか、注目される技術が自動運転技術だ。自動運転技術というとGoogleを思い浮かべる人も多いだろう。Forbesによると、Googleの自動運転への投資額は1200億円にも及ぶという。GoogleといったIT関連企業だけでなく、テスラやGM、フォードといった大手自動車メーカーも、自動運転機能を搭載した自動車の実現に向けて開発を行なう。

自動運転というと、その基幹技術としてAIが必要なのはいうまでもない。ヒトの運転操作に依存することなく、安全な運転の実現に欠かせないのが、人工知能である。ところが意外なことに、トヨタは人工知能分野での研究はそれほど盛んではなかった。トヨタがAI分野で本気になったのは、ここ数年だ。2016年1月に、人工知能技術に関する研究・開発を行なうToyota Research Institute(TRI)を、トヨタは設立した。自前で技術を開発する印象のあるトヨタだが、TRIはAI分野でプリファードネットワークス(PFN)とも提携する。ターゲットはまさに、人工知能を使った自動運転にある。

トヨタとPFNが、NTTと共同で開発したのが「ぶつからない車」だ。大手自動車メーカー・テスラが2016年に車の自動運転で死亡事故を起こしたことは、記憶に新しい。PFNが目をつけたのは、カーブなどの事故が生じるリスクの高い場所で、減速できるようにするシステムだ。

従来は、障害物にある距離まで近づくと減速するといった規則をあらかじめ用意する必要があった。ところがこのようなルールは、さまざまな状況での運転に柔軟に対応できない。そこで、機械学習を使って、自動車の運転パターンを取得できるようにした。最初のうちは、カーブでも減速することなく壁にぶつかるが、学習するにつれカーブの直前で減速するようになる。

「ぶつからない車」にも機械学習を使用

ぶつからない車の実現に用いられる手法が、「強化学習」である。強化学習とは機械学習の一種だ。速い速度で進めばプラスの報酬、壁にぶつかればマイナスの報酬というように各行動に「報酬」を与え、もっとも多くの報酬が得られる行動を選択するように機械に学習させるのだ。

最適な行動を得るために必要な入力データは、ぶつからない車に取りつけられたセンサーから得られる。センサーから周囲にビームを飛ばすことで、壁やほかの車、道路の中心線までの距離を取得できる。このようなセンサー情報をうまく統合して適切な判断を下せるようになる。学習開始時点では、センサーが何の入力を表すのか、どの行動がどのような結果を導くのかわからない。Q-learningという強化学習の手法を用い、ある状態sである行動aをとったときに、将来得られる報酬を表す関数Q(s,a)を学習する。行動の候補a1,a2,…に対し、Q(s,a1),Q(s,a2),…を求め、Qが最大になるaを選ぶ。

ところが最初のうちは、関数Qはわからない。そのため最初のうちはランダムに車を動かすことで、経験を積み、Q関数を学習する必要がある。これがε-greedy法と呼ばれる手法で、確率εでランダムな行動を、確率1-εでQが最大になるような行動を選択させる。ときどき違うことを試しつつも、現在判明する最善の行動をとるというイメージだという。

車の状態sを与えたときの各行動aに対する関数Q(s,a)を出力するニューラルネットワークを用いる。車に取りつけられたセンサーの総数273から、最終的には5つの成分を出力する7層のディープラーニングを構成する。この深層学習にも、Chainerが用いられる。

(出典:https://research.preferred.jp/2015/06/distributed-deep-reinforcement-learning/ )

Googleに肩を並べるポテンシャルをもつプリファードネットワークス

プリファードネットワークス(PFN)の強みは、自前でAIのシステムを構築できるだけの技術者が集まる点にある。企業規模のコンパクトさから、小回りの利いた研究・開発が行なえるのが特徴だと、前川はいう。PFNの開発したChainerのような深層学習用のフレームワークも魅力的だ。IoTやエッジコンピューティングを視野に入れたシステムの開発にも余念がない。PFNの方針は、大企業とAIに特化したスタートアップ企業とのあり方を示すモデルケースだといえよう。


<参考>

  1. 分散深層強化学習でロボット制御 (Preferred Research)
    https://research.preferred.jp/2015/06/distributed-deep-reinforcement-learning/
  2. CES2016でロボットカーのデモを展示してきました (Preferred Research)
    https://research.preferred.jp/2016/01/ces2016/
  3. Googleレベルの学生が起業した「Preferred Infrastructure」 (@IT)
    http://www.atmarkit.co.jp/news/200803/24/pfi.html
  4. AI×IoTのブレークスルーを生み出すPreferred Networks、原動力は成長と多様性
    http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1708/01/news038.html
  5. AIが勢力図を塗り替える業界とは PFNが絞った3つの領域 (BLOGOS)
    http://blogos.com/article/116573/
  6. トヨタ・PFN・NTT、「ぶつからないクルマ」のコンセプトを具現化 (NTT)
    http://www.ntt.co.jp/news2016/1602/160216d.html
  7. グーグルは「1200億円以上」を自動運転に投資 裁判資料で判明 (Forbes)
    https://forbesjapan.com/articles/detail/17789
  8. 「田原総一朗◎次世代への遺言34 西川徹」 (President 2016年10月3日号)
  9. 「東大発ベンチャー プリファード・ネットワークスの挑戦」 (日経サイエンス 2016年9月号)
  10. 「巨大市場を生み出す自動運転 出遅れトヨタが巻き返しに本腰 市場拡大に沸く部品メーカー」 (エコノミスト 2015年1月27日号)
  11. 「トヨタはAIで勝てるのか」 (週刊東洋経済 2016年2月20日号)
  12. 「深層学習技術の産業応用を目指すPreferred Networks」 (映像情報メディア学会誌 Vol.72. No.2)
  13. 「AIのデータを巡る「車×IT」ホンダは協調、トヨタは内製」 (Nikkei Electronics 2017年4月号)
  14. 「エッジコンピューティングの全貌」 (テレコミュニケーション2017年9月号)
  15. 『これからの強化学習』 牧野貴樹、澁谷長史、白川真一編著.
  16. 『Chainerで作る コンテンツ自動生成AIプログラミング入門』(坂本俊之著)