人工知能が人間の仕事を奪うという話を聞いたことがないだろうか。
これまでも機械が人間の仕事を奪うことはあったが、人工知能の場合、さらに多くの仕事が奪われると主張されている。このようにニュースにもなる人工知能であるが、人工知能という言葉を聞いたことがない人はいないが、人工知能とはどのようなものなのか説明できる人は少ない。
また、人工知能と言っても人によって定義も違うのが現状である。そのため、今後人工知能がどうなるかという議論もさまざま存在しており、人間の能力を超えるという人もいれば、人間の能力を越えることはないという人もいる。
このように専門家の間でも意見が分かれる人工知能ではあるが、今後どのように発展していくかを考えるためにも、人工知能についての基本的な知識を身につける必要がある。
そもそも人工知能とは何なのか
前述したように人工知能は専門家によっても定義が違う。
東京大学大学院工学系研究科准教授の松尾は、以下のように各専門家の主張をまとめている。
専門家による人工知能の定義(松尾豊(2015)、No.468/2676)
人工的につくられた、知能を持つ実体。あるいはそれをつくろうとすることによって知能自体を研究する分野である。
出所: 公立はこだて未来大学学長 中島秀之
「知能を持つメカ」ないしは「心を持つメカ」である
出所: 京都大学大学院情報学研究科教授 西田豊明
人工的につくった知的な振る舞いをするもの(システム)である
出所: 北陸先端科学技術院大学院大学教授 溝口理一郎
このように多様な定義があるのだが、現在の人工知能はどのようなものだろうか。実は人工知能がブームになったのは今回だけではない。
今回の人工知能ブームは第3次人工知能ブームであり、今回人工知能がブームになっているのは、「機械学習」と「ディープラーニング」がその要因である。
「機械学習」とはその名の通り、機械が学習することである。
例えばりんごとみかんを見分けるためには色や形に注目する必要がある。人工知能が色や形に注目し、大量のりんごとみかんの画像を見せることで、この色や形はりんごで、この色や形はみかんと学習するのである。そして、正確にりんごとみかんを見分けることができるようになる。
それに対して、「ディープラーニング」もりんごやみかんの画像を大量に見せる必要はあるが、あらかじめ色や形に注目するという命令を出さなくても、自動的にその特徴を見つけることができるのである。
さらに最近では「ディープラーニング」と「強化学習」を組み合わせて「深層強化学習」という仕組みで人工知能は学習している。
「強化学習」とは人工知能に報酬を与えて学習させる仕組みのことで、人工知能は報酬が高い方を選ぶようになるのである。昨今、話題になったアルファ碁はこうした仕組みを利用して、人間よりも優れた戦略を用いることができるようになったのである。
こうした人工知能はさまざまな分野に応用されている。
人工知能の種類と未来
人工知能の定義がさまざまあるということ前述したが、この定義の違いは「強いAI」と「弱いAI」という分け方にも直結している。
「強いAI」とは人間の知能を持った「汎用人工知能」のことであり、「弱いAI」とは「心を持つ必要はなく、限定された知能によって一見知的な問題解決が行えればよいとする立場」である(松尾、No.582/2676)。
現在は「弱いAI」が主流であるが、今後「強いAI」が出てくるかどうかは議論が分かれるところである。人工知能に関して警告している人たちは、人工知能が人間の能力を上回り、人間の仕事を奪うだけでなく、人間に取って代わるようになると言う。人工知能が人間の能力を越えるというのは「シンギュラリティ」と言われ、さかんに議論されているところである。
例えば、ホーキング博士がAIの危険性について「人類が完全なるAIを開発すれば、それは自ら発展し、加速度的に自身を再設計し始める。完全なるAIの開発は人類の終焉(しゅうえん)をもたらす可能性がある」と指摘し、他にもマイクロソフトのビルゲイツが「当面、機械はわれわれのために多くのことをしてくれるはずで、超知的にはならず、うまく管理できている場合はプラスに評価できるが、数十年後には知能が強力になり、懸念をもたらす」とAIの潜在的な危険性を指摘している(産経新聞2015年2月11日)。
もちろんこうした主張に対して、多くの反論がなされているが、今のところ、決着はついていない。
人工知能の議論を注視しよう
人工知能はこれからもますます発展し、本当に人間の仕事を奪ったり、人間の能力を越えたりすることがあるかもしれない。しかし、大切なのは人工知能をおそれることではなく、正しい知識を持って、人工知能と付き合っていくことである。
そのためには人工知能の議論をしっかりと追っている必要があるだろう。このコラムを参考に、これから人工知能のニュースに注目しよう。
<参考>
- 松尾豊(2015)『人工知能は人間を超えるか~ディープラーニングの先にあるもの~』株式会社KADOKAWA
- 「人工知能=AI開発 ゲイツ氏も「危険」 過熱する「AIは人類を滅ぼすか」論争」(産経新聞2015年2月11日)
https://www.sankei.com/premium/news/150211/prm1502110001-n2.html
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