AI(人工知能)と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
・囲碁の世界チャンピオンに勝った
・空港の人ごみのなかからテロリストをみつけることができる
・人の代わりに単純な事務作業をやってくれる
・自動運転車には欠かせない技術
こうした便利な使い方は、確かにAIの可能性として注目されている。しかし、「AIでマーケティングが変わる」と言われたら、どうだろうか。「まあ確かに大量の情報を分析するには便利かもしれない」と感じる程度ではないだろうか。もしくは、「AIも将来的にはマーケティングに欠かせないツールになるだろうが、いまはまだベテランのマーケターにはかなわない」と考えるだろうか。しかしAIはすでにマーケティングの第一線に投入されている。AIマーケティングの最前線を追った。
JINSはメガネの「似合い度」で客にアプローチ
これだけ多種多様なマーケティングのメニューが出てくると、いざ新たなマーケティング戦略を練ろうとしたときに、どの手法を用いるか迷ってしまうだろう。そのなかでも、客に自社製品を使わせて快適な体験をしてもらうマーケティングは、昔からある「手あかがついた」手法だが、いまだに効果がある。効果があるのにこの商品体験マーケティングが古く感じられるのは、実行するのにコストがかかるからだろう。格安メガネチェーンのJINSはAIを使って、メガネを試着したときの快感を潜在顧客に提供している。
「JINSブレイン」は3,000人のメガネプロの意見を聞ける
JINSブレインは、サイト上でメガネのフィッティングができるアプリだ。メガネを探している人はまず、パソコンでJINSブレインのサイトを開き、パソコンのカメラで自分の顔写真を撮影する。その顔写真をサイトに登録するとパソコン画面に自分の顔が現れるので、そこにJINSのメガネを次々合わせていく。店で実際にメガネをかけて鏡で見るのと同じことをしているわけだ。客は自宅に居ながらにして自分にフィットするメガネを探すことができる。店で迷う必要がないので便利だ。
しかしこれだけなら「顔の画像」に「メガネの画像」を重ね合わせているだけなので、なんら新しさはない。JINSブレインの優れたところは、画面上でメガネのバーチャル・フィッティングをした後に「似合い度」を評価してくれることだ。例えば「あなたのこの黒縁メガネの似合い度は30%」とか「このフチなしメガネの似合い度は96%」などと表示される。
「似合い度」を評価しているのは、JINSの3,000人の店員の頭脳(ブレイン)を搭載したAIだ。つまり30%や96%は「メガネのプロの総合的な意見」といえる。客は、JINSブレインに「30%」と言われたらそのメガネは買いたくないが、「96%」と言われたら買いたいと感じるだろう。見込み客を楽しませるマーケティングとしては見事である。
それでは次に、JINSブレインがAIをどのように使っているかみてみよう。
教師データは貴重な財産
JINSはJINSブレインを構築するにあたり、3,000人のスタッフに約6万枚の「メガネをつけた人の写真」を見せ、「似合う」または「似合わない」を評価させた。ここまでは「人力」である。
次に3,000人の評価をAIに覚え込ませて、法則を見つけさせた。つまりAIが「こういう顔立ちの人はこういうメガネが似合う」「こういう髪型の人はこういうメガネは似合わない」ということを次々学習していったのである。ここまで賢くなったAIは、まったく新しい顔の画像とまったく新しいメガネの画像を組み合わせた画像を解析して、これまでに学習した中で「似た顔」と「似たメガネ」を検索する。そのうえで「似合う・似合わない」を判定するのだ。
3,000人のJINSスタッフが行った約6万枚の写真に対する判定は「教師データ」という。この教師データがAIに「この人にはこういうメガネが似合う」と教えているのである。
新生銀行のAIは誰がどの金融商品を買いそうか予測する
次の紹介するAIマーケティングは銀行がすでに導入したものだ。
新生銀行はAIに顧客が好みそうな金融商品を予測させ、顧客にその金融商品を重点的に紹介している。
新生銀行のこのマーケティングも、AIを使っていなければ新しい手法ではない。常連客1人ひとりの好みを分析し、その好みに合わせた商品をすすめることは、マーケティングの基本だ。しかしこの手法は、営業担当者が客ごとに営業トークを変えなければならないため、手間がかかりすぎる。しかもそもそも顧客分析が間違っていたら、せっかくのオーダーメード営業トークが無駄になる。だから顧客分析は綿密にかつ厳密に行う必要があるが、それだけ高いスキルを持っているスタッフを多数雇うことは簡単ではないし、優秀なスタッフを顧客分析に没頭させるのももったいない話である。しかも銀行の顧客となると膨大な数に達する。ちなみに新生銀行では、300万人分の顧客データを保有している。
例えば全300万人の顧客のうち売上貢献度上位1割の30万人の顧客分析を、人が行うとしよう。スタッフを10人集めて毎日8時間フルに顧客分析をさせたとする。顧客1人の分析を10分で終わらせても、30万人分を分析するのに625日かかる。
スタッフ10人の2年分の仕事をAIにさせる
そこで新生銀行はAIを導入することにした。顧客分析の対象は、同行がデータを保有している300万人のうち上位1割の30万人とした。まずはこの30万人の顧客について、次のデータを集計した。
・個人情報
・属性情報
・取引情報
・ネットバンキングの利用情報
ここからAIが顧客1人ひとりの購買予測と行動予測を割り出した。そのうえである顧客が投資信託、保険商品、外貨預金などを購入する確率を出す。行員たちは購入する確率が高い商品から順番に顧客にPRしていく。顧客にPRする中で、嗜好やニーズが判明すれば、それもAIに読み込ませて、商品別の購入確率の精度をさらに高めていく。
銀行の営業手法はこれまで、とにかく顧客に少しでも多くの金融知識を持ってもらおうと商品説明に力を入れてきた。しかしリスク商品に興味がない顧客に外貨預金をすすめても効果は薄い。AIが顧客の好みそうな金融商品を絞り込んでくれれば、行員は無駄なアプローチをしなくていいし、顧客は早くお目当ての商品の説明を聞くことができる。新生銀行ではこの手法を住宅ローンや無担保ローンのマーケティングにも広げていくという。
メールのA/BテストでもAIは有効
電子メールを使ったマーケティングの1つにA/Bテストがある。A/Bテストではまず、内容はほぼ同じだが、件名」や「レイアウト」「文体」などを変えた2つのメール文章を用意する。片方をメールA、他方をメールBと呼ぶ。メールAとメールBを一斉に顧客に送信し、リアクションがよかったほうのメール文章を「正」とする。これを繰り返すことで、優れたメール文章をつくることができる。しかしこのアナログなやり方では、何度もメール文章を書き換えて、何度も送信を繰り返さなければならなかった。
しかしアクティブコアが開発したAIは、A/Bテストを1回行うだけで効果的なメール文章を突き止めることができる。その仕組みはこうだ。例えば「激安」という件名のメールAと「本日限り」という件名のメールBを一斉送信する。するとAIがすぐにメールの開封率やクリック率を比較し、文章の有効性を瞬時に判定するのである。
同じ手法はレコメンド・マーケティングでも使える。これまでのレコメンド(商品の推薦)は、顧客の閲覧履歴やコンバージョン履歴、購買履歴からおすすめ商品を選んで顧客に紹介していた。しかしアクティブコアのAIレコメンドは、ある顧客の特性を把握したら、似た特性を持つ顧客の嗜好を検索する。そして似た特性を持つ顧客がよく買う商品を最初の顧客にレコメンドするのである。似た特性を持つ人なら、同じ商品を好むはずなので、レコメンドのヒット率が上がるというわけだ。これなら顧客1人ひとりの閲覧履歴、コンバージョン履歴、購買履歴を集める必要がない。
AIを使わないマーケティングはなくなるのではないか
AIマーケティングの事例を知るほど、将来的にAIを使わないマーケティングがなくなるのではないかと感じるはずだ。マーケティングは人の心を先読みする仕事なので、最終的には人がマーケティング戦略をまとめることになることは変わらないだろうが、しかしAIの提案に耳を貸さないとヒット率は上がらない時代が来るかもしれない。
<参考>
- JINS BRAIN(JINS)
https://brain.jins.com/about/
https://brain.jins.com/ - 人工知能を活用したモデルのリテールバンキング業務への本格導入について(新生銀行)
http://www.sxi.co.jp/pdf/20161128_press_release.pdf - マーケティングにどう活かす?アクティブコアが語る「AIの本質」(MarkeZine)
https://markezine.jp/article/detail/28230 - 人工知能(AI) ~マーケティングでの利用が進む理由と価値~(富士通)
http://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/intelligent-data-services/digitalmarketing/column/column033.html
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