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発送電効率化におけるAI活用事例(国内)

電力業界における発送電効率化は永遠の課題であり、現在人工知能を活用した需要予測システムの開発が急がれている。今後の電力完全自由化で主役となるであろう新電力と既存の大手電力会社によるAI活用事例を紹介する。

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今回はエネルギー分野における発送電の効率化に関するAI活用について、電力市場の完全自由化となる「発送電分離」を2020年に控えた日本の事例を紹介する。

発送電の効率化には正確な電力需要の予測が欠かせない。特に気象条件から需要予測を行う人工知能システムについて、今後の電力自由化の主役となる「新電力」と従来の大手電力会社の2例を元にAI活用の実情を解説してみたい。

電力AI

電力需要予測AIの実証実験、日本気象協会と丸紅新電力が実施

大手商社系で新電力事業者としては古参にあたる丸紅新電力は、2017年2月から日本気象協会の電力需要予測システムの実証試験を実施すると発表している。

電力需要は、天候や気温、湿度などの気象条件や、各地域の気候によって大きく変わってくる。日本気象協会は、気象予測の専門家として精度の高い天候予測システムを持ち、それを応用して太陽光をはじめとした再生エネルギーの発電に役立つデータサービスを提供している。日本気象協会の電力需要予測のAIは、同協会が持つ気象モデルと、発電設備から取得したデータを解析して電力需要を予測するものだ。

丸紅新電力によれば、数年先の「発送電分離」を見据え、日本気象協会と協力することでこれまでより精度の高い電力需要予測システムが構築できたという。丸紅新電力の16年に及ぶ需給調整の実績と、日本気象協会が開発した予測システムや人工知能を掛け合わせて、独自の電力需要予測自動化システムを実現した。丸紅新電力の参入当時と現在では顧客の地域や業種が多様化したため、各電力地域会社のエリア別に電力需要を予測するシステムとなった。予測期間は通常の気象予測と同様に7日先までで、30分ごとに電力需要量が推測できる。直近の電力需要実績を自動解析する機能も加えられており、当日の実績値による補正を行うなど、機動的な予測もできるようになっている。丸紅新電力と日本気象協会は実証実験の結果を踏まえ、この予測システムをより精度の高いものに発展させていきたいという。

これまで日本気象協会は主に太陽光発電業界へデータ提供を行っていた。日々の太陽光発電の出力状況次第では予備で火力発電も必要になってくる。気象変化により発電状況と電力価格も変化することから、電力価格の予測サービスの開発も目指しているという。将来的には様々な予測サービスを提供し、社会的な電力需給の円滑化や、再生エネルギー電力の導入拡大に貢献していきたいと日本気象協会の担当者は話している。

東芝、東京電力主催の電力需要予測コンテストで最優秀賞を受賞

東京電力ホールディングスは、子会社の東京電力パワーグリッドの電力需要予測を競う「第1回電力需要予測コンテスト」を2017年6月から開催した。国内外の100件を超える参加者の中で9件の応募者が最終審査に進み、2017年10月にコンテスト入賞者が決定した。コンテストは東電が実務として行っている電力需要予測と同様に、翌日の需要予測を行うというものだった。その中で、東芝が開発した人工知能の電力需要予測システムが、最高の予測精度を達成し最優秀賞を受賞した。審査員のコンテスト総評の中で興味深かったのは、コンテスト入賞者の中にはディープラーニングの手法を取らない参加者も多いが、今後は他分野のようにこの手法を採用する参加者が上位を席巻していくと面白くなるだろうとの講評だった。これは電力需要予測の分野では、AIの活用可能性がまだ模索されている段階にある証左といえるだろう。東電は電力自由化で、多様な発電施設による電源供給(電源の分散化)などによる電力需給予測の複雑化を予想しており、今後もこういった試みを取り入れ精度向上に積極的に取り組んでいきたいとしている。

現在の電力需要予測は、供給エリア内の特定の都市の気象予報を元に予測を行ったり、気象条件が似た過去の需要実績を流用することで代用している。今回のコンテストで最優秀賞を受賞した東芝の需要予測システムは、電力供給エリア内の多地点の過去の気象予報と電力需要の実績値を機械学習するシステムと、ディープラーニングを使った需要予測の両輪からなる。東芝が今回機械学習の手法として用いたのは、調査対象が広大で膨大なデータ収集がネックになる地学や天文学で採用されている「スパースモデリング」だ。これは、答えを導き出す元となる素因(高次元のデータ)自体を絞り込むことで、課題に対して現実的に適用できるようにしたAIだ。東芝はこのスパースモデリング技術とディープラーニングを最適に組み合わせることで、コンテスト参加者中トップとなる好成績を残した。

コンテストでは、朝8時までに翌日の1時間ごとの電力需要予測を行い、参加者の間でその精度の高さを競い合った。東芝のシステムの予測精度は、予測と実績の平均二乗平方根誤差が83.49万kWと、東京電力の火力発電所1ヶ所の総出力を下回る。これは東京電力管内全域の総需要に対しての誤差になり、広い管内の各地域の実績値との乖離度が不明なため、実用化の見込みはなんともいえない。東芝はこの人工知能システムにさらに多くの需要実績値を学習させて性能向上をはかり、電力事業者の持つシステムへの導入を目指していくという。

発送電効率化のためのAI活用はまだ緒についたばかり

既存の発電所や配送電設備を前提とする発送電の効率化には、設備運営の巧拙だけでなく、電力需要予測の正確さもその成否を左右する。電力需要に大きく影響を及ぼすのは天候などの気象条件となるので、各社とも気象データを元にした人工知能の需要予測システムを開発している。今回は新電力と既存の大手電力会社のAI活用事例を紹介したが、東電主催のコンテストの総評に見られる通り、電力需要予測における人工知能の活用はまだ緒についたばかりで、まだまだ改良の余地が多分に残されている。こういったシステムが国内の発送電事業者の間に広く採用されるようになるまでには、もう少々時間がかかると見てよいのではないだろうか。


<参考>

  1. 電力供給サービス:人工知能で電力需要を予測、7日間先までを30分単位で(スマートジャパン)
    http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1701/27/news089.html
  2. 太陽光:人工知能で電力需要を予測、日本気象協会が需給コスト削減に本腰 (2/2)(スマートジャパン)
    http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1606/03/news042_2.html
  3. 電力需要予測値の正確さを競う「第1回電力需要予測コンテスト」の結果について(東京電力ホールディングス)
    https://www4.tepco.co.jp/press/release/2017/1463817_8706.html
  4. 第1回 電力需要予測コンテスト(東京電力ホールディングスCUUSOO)
    https://cuusoo.com/projects/50136/challenges/result
  5. 数表でみる東京電力 > 電力供給設備 > 火力発電所(TEPCO 東京電力ホールディングス)
    http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/illustrated/electricity-supply/thermal-j.html
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