野村総研によるレポートによると、2030年には労働者人口の約49パーセントがAIやロボットに代替可能だという。とくに、タクシーやトラック、バスの運転手等の業種における代替可能性は高リスクだと報告されている。
その一方で、日本では少子高齢化による労働者不足が深刻だ。とりわけ地方では過疎化が進み、公共バス運営の存続が難しい状況に陥っている。このような状況を打破する方策として期待されるサービスが、NTTドコモが開発した「AI運行バス」である。
続きを読むAI運行バスとは?
AI運行バスは、NTTドコモがインターネット関連企業のDeNAや日産自動車とともに開発したバス運行サービスである。NTTドコモは携帯電話などの無線通信サービスを手掛ける日本最大級の通信会社だが、なぜ自動車産業に触手を伸ばしたのだろうか。
NTTドコモとコネクテッドカービジネス
自動車産業と無線通信との接点は「コネクテッドカー」である。自動車に通信機能を搭載し、ネットワークに接続させることで、さまざまなサービスを展開するのがコネクテッドカーの目的である。自動運転はもちろんのこと、「インフォテインメント」と呼ばれるカーナビや音楽、TVを提供する車載システムなど、コネクテッドカーの将来性が期待されている。
コネクテッドカーを実現するためには、大量のデータを送受信できる通信機器が必要である。2019年にアメリカや韓国が商用化に成功した5G(第5世代移動通信システム)。日本でも2020年春から5Gのサービスが開始予定だが、これら通信サービスを提供するのがNTTドコモなど通信会社である。5Gの威力を発揮するのは、スマートフォンなどの携帯機器ではなく、自動車のような「巨大端末」である。そのため、5Gの利活用が見込まれるNコネクテッドカーサービスにNTTドコモが乗り出すのは自然な流れといえよう。
NTTドコモが開発したオンデマンドバスサービス
NTTドコモが開発したAI運行バスもまた、通信技術を十二分に活用したサービスである。その一方でNTTドコモは自社のAI技術を社会インフラ整備のために役立てようと、他企業との連携に積極的である。AI運行バスは、NTTドコモが提供するAIを利活用したビジネスのひとつにすぎない。
AI運行バスはAIを活用したオンデマンドバスサービスである。地方の市町村では一定数の住民の需要があれば、バスで目的地まで運ぶオンデマンドバスサービスが提供されている。とくにバス運転手の就業者数が減少していることから、効率よいバスの運行が求められる。オンデマンドバスやAI運行バスは、公共バス運営の効率化には不可欠なのだ。
AIによる配車の仕組み
オンデマンドバスの仕組み
通常のバスサービスと、オンデマンドバスサービスとの違いは、利用者の予約によってバス運行が決まる点にある。通常のバスの場合、バスの乗客が不在かどうかにかかわらず、すべての停留所を経由する。だがオンデマンドバスの場合、バスの予約がなければ運行は中止される。人件費や維持費のカットに貢献できるのが、オンデマンドバスのメリットである。
AIをどう活用される?
オンデマンドバスにどのようにAIが活用されるのか。まず、バスの最適な経路の算出だ。バス運転手に手渡されたアプリやバスに搭載された通信機器、ユーザーが予約に使用するアプリを通じて、どの停留所で乗り降りするかやバスの運行状況等のデータがクラウドコンピューターに送信される。集められたデータをもとに、どの乗客をどのタイミングで乗り降りさせれば、最短時間で最短の経路にて配車できるかがAIで算出可能になる。
加えて、運行台数もAIが算出する。通勤・通学時間帯ならば、多くのバスが運行される必要がある一方で、オフピーク時には少ないバスで運行が可能だ。
事例の多いAI配車サービス
AI運行バスはバスを利用したサービスだが、このようなAIを利活用した配車サービスは今に始まったことではない。アメリカを中心にライドシェアサービスを展開するUber(ウーバー)は、乗り合いのライドシェア配車システムをすでに導入している。AIを活用し、どのタイミングでどの乗客を乗降させれば最短の時間と経路で移動できるかが算出される。NTTドコモによるAIバス配車サービスはバス停があらかじめ用意されているので、Uberやタクシー配車と比較して計算量も少なくて済む。
AI運行バスのメリット
AI運行バスのメリットは、運行効率が向上されることだ。時間帯によって、バスが混雑したり、ほとんど乗客がいない場合が発生する。乗客が少ない場合には運行するバスの本数を減らすことが可能だ。その結果、人件費やバスの維持費を削減できるどころか、二酸化炭素の排出量や交通渋滞の緩和にも貢献する。また予約の入っていない停留所の前を通過する必要もないので、目的の停留所までの最短経路をバスが辿れる。結果として、移動時間の短縮にもつながるのだ。
運転手の立場からみれば、近年長時間労働が問題視されている。バスやトラック、タクシーの運転手は交通事故に細心の注意を払いながら、長時間運転することが課せられる過酷な労働でもある。安い人件費で長距離移動を提供する高速バスで、居眠り事故が発生したことは記憶に新しいだろう。運行効率を上げることで運転手の負担が少なくなれば、事故のリスクはグッと減るだろう。
さらに近年の労働力人口の減少から、バス運転手の就業者数も減少している。都市部の場合、都や政令指定都市が運営するバスだけなく、区が運営するコミュニティバスや観光バスがあるなど、バスの需要は非常に高い。その一方で地方の過疎区域では、公共バスの運営が非常に難しい。乗客が少ないことに加え、バス運転手の人手が不足していることから、さらにバスの運行本数が減らされ、住民は不便なバスを利用しなくなるという悪循環が起きる。AIがバスの運行を最適化することで、輸送人員の減少の危機から救うことも可能である。
九州大学へ導入!
滑り出し上々の実証実験
NTTドコモが商用化したAI運行バスは、2014年から実証実験が続けられた。たとえば横浜市のみなとみらい21と関内エリアにて、2018年10月から12月にかけて実験が行われた。横浜市以外にも東京都副都心や兵庫県神戸市、鹿児島県肝付町などで実施されている。この実証実験を通じて、効率的なバス配車と経路に磨きをかけたという。その結果、一定の品質と性能を実現できたとNTTドコモは報告している。また利用者も延べ9万人と上々の滑り出しといえよう。
AI運行バスの利用方法
AI運行バスの利用にはアプリのダウンロードが必要だ。アプリから目的地を選択すると、乗車・降車の両方のバス停が表示される。ユーザーは、バス停と乗車人数、乗車時間をアプリから設定して完了だ。
最初に商用化を行なった九州大学
2019年4月からNTTドコモはAI運行バスの商用化サービスの提供を開始した。実証実験にも参加した九州大学において、AI運行バスの商用化が開始された。九州大学は2018年に、都心部にあった3つのキャンパスを伊都キャンパスに移転させた。伊都キャンパスの敷地面積は、東京ドーム58個分の275ヘクタールにも及ぶという。キャンパス内には車道や交差点、信号機まで設置されており、AI運行バスの運用に格好の場所といえるだろう。
九州大学敷地内には37ものバス停が設置されているが、バスの時刻表は一切存在しない。AI運行バスのシステムがバス停に到着する時刻や運行台数を決定するためだ。バスとして乗客8人乗りのハイエースが用いられ、最大5台で運行されるという。
九州大学では以前から、固定ルートのバスを運行していた。しかしながら運行効率は4パーセント程度と、非常に悪かった。ところがAI運行バスに置き換えたところ、運行効率は東京都営バスに近い19パーセントにまで改善したという。
AI運行バスは初期導入費用が50万円、月額利用料は18万円から提供され、NTTドコモは2020年度末までに100エリアでの導入を目指すとしている。
まとめ
AI運行バスのように、自動車にAIを活用し効率化を図る計画が世界中で進行している。「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれる、自動車をサービスとして提供するプラットフォームが注目されているためだ。車を効率的に運用することで、交通渋滞を緩和。二酸化炭素の排出量が削減されるだけでなく、道路のスペースを公園など緑のスペースにシフトすることもできる。
日本の場合、法的にライドシェアやカーシェアリングサービスの実施は難しいが、既存のタクシーやバスを利用したサービスならば可能だ。NTTドコモによるAI運行サービスが、その模範例となることを期待したい。
<参考>
- AI運行バス(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/ai_bus/ - AIを活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」提供開始(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/03/26_00.html - aimo
https://aimo.mobi/ - ドコモの「AI運行バス」が出発、九州大学の学内バスで初の商用導入
https://japanese.engadget.com/2019/04/02/ai/ - 「NTTドコモの“コネクテッドカービジネス’’の取組み」(『自動車技術』Vol.73, No.2)
- 「快走支える「和製」配車アプリ」(『日経コンピュータ』2017年11月23日号)
役にたったらいいね!
してください
NISSENデジタルハブは、法人向けにA.Iの活用事例やデータ分析活用事例などの情報を提供しております。
No related posts.