カメラやセンサーを搭載した機器がインターネットで接続されるIoT。端末から取得したビッグデータを人工知能(AI)で処理することで、さまざまなビジネスシーンで活用される。実際、カメラから取得した映像をAIに処理させる試みが数多く行われている。
そこでAIとカメラの相性がいい理由を踏まえながら、カメラへのAIの活用事例を確認していきたい。
続きを読むAIとカメラの相性とは
AIと相性のいい画像認識
AIを代表する技術が、ディープラーニング(深層学習)だ。2016年3月に囲碁の世界チャンピオンであったイ・セドルに勝利した囲碁ソフト「Alpha Go」に搭載されていたのが、ディープラーニングである。世間一般に注目を浴びた事例が囲碁や将棋のようなボードゲームであることから、ディープラーニングはボードゲーム、つまり完全情報ゲーム向きの人工知能(AI)だと思っている方がいるかもしれない。しかし、最初にディープラーニングが世に出たのは、画像認識の分野である。2012年に行なわれた画像認識コンテストで、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授がディープラーニングを引っさげて圧倒的な正答率で優勝して以降、Googleなどがディープラーニングに傾倒していくという流れが生まれ、現在の隆盛へと結びついている。
ディープラーニングが得意とするひとつが、画像認識であることは想像に難くない。事実、これら人工知能の技術がほかにも応用されている。そのひとつがWebカメラなどを活用した監視システムである。近年、市街地や商業施設、電車やバスといった公共の乗り物にまで、防犯カメラは設置されている。これらの防犯カメラは、犯罪の捜査や指名手配の人物の探索などに活用されてきた。とりわけテロなどの甚大な被害を及ぼす犯罪が、社会にとって脅威になっている。防犯カメラは、事件発生後の活用だけでなく、事件発生前に犯罪を未然に防ぐ役割を果たす。
AIのカメラへの応用にはプラスアルファが必要
防犯カメラに画像認識技術をそのまま活用したからといって、犯罪防止が完全に行なえるわけではない。確かに、膨大な情報から特定の人物を検索することは、これまでも開発されてきた。ところが、犯罪を未然に防ぐためには、ブラックリストに未登録であっても、不審と思われる人物を見つけ出す必要がある。
つまり、コンピュータが自分で物事を判断するようにはできていないのだ。そのため、カメラで人工知能の技術を活用するには、プラスアルファが必要になってくる。たとえば防犯カメラの場合、頻繁に人物のカメラへの出現パターンから、不審と思われる人物を探し出すというのが、一例である。
以下でみる三例でも、既存のAIプラットフォームに独自の工夫がなされているので、注目されたい。
AIを活用して未成年判別(チャオ)
店員による未成年判別は困難
チャオは、2009年に創業した業務システムのクラウドサービスを展開する企業だ。チャオが手掛けるのが、AIを搭載したクラウドカメラ「Ciao Camera」である。チャオはこのカメラを活用し、年齢認証における実証実験を行なったという。実証実験のために選ばれたのが、居酒屋チェーンを展開する養老乃瀧が経営する「一軒め酒場 新宿店」だ。居酒屋は未成年による飲酒に関しては罰則規定があるものの、その確認は店員にゆだねられているのが現状だ。ところが、繫忙期には確認漏れが発生するのだという。
そこで、Ciao Cameraにより未成年者へのアルコールの提供を未然に防ごうというわけだ。
2019年1月にチャオが公表したデータによると、未成年者の検知率は96.1%だったという。
AmazonのAIサービスをさらに工夫
Ciao Cameraでの実証実験では、Amazonが提供する「Amazon Rekognition」と呼ばれるディープラーニングを使った画像認識サービスが活用された。Amazon Rekognitionを活用すれば、画像に写っている物体や、顔の分析や比較が可能になるという。
実証実験の第1段階として、Amazon Rekognitionの顔認識機能を活用した。カメラが撮影した人物の顔を識別し、年齢結果を推定したという。その結果、検知率は90.7%にとどまった。そこで、精度向上と通知までの時間を短縮するために、未成年かもしれない「要年齢者」を判別する独自の識別エンジンをチャオは考案したという。これにより、検知率は96.1%まで上昇したのだ。
空席率に応じた割引率のクーポンを提供(オプティム)
AIやIoTなどを活用するオプティム
オプティムは、2000年に菅谷俊二氏によって設立されたベンチャー企業だ。佐賀大学出身の菅谷氏は、本店を2017年に大学構内に移転し、大学構内に本店を構える国内初の東証一部上場企業としてオプティムは注目を集めた。
オプティムはこれまで、医療や農業といった分野で、AIやIoT、ロボットなどの最新技術を融合させることに取り組んできた。たとえばドローンの画像やセンサー情報などを駆使し、効果的に作物の生育管理を行なう「圃場情報管理サービス」をオプティムは提供している。
1台のカメラだけで空席率をチェック
カメラを活用したオプティムのサービスに、AIを活用した画像解析による空席を検知するものがある。ネットワークカメラから取得した映像をAIを活用して、リアルタイムで画像分析しようというのだ。2016年10月末に開催された「2016 Japan IT Week 秋 IoT/M2M 展」では、自社セミナーの空席状況をTwitterからつぶやくデモが実施された。
空席検知のシステムはこれまでもあったものの、席ごとにセンサーやカメラを設置しなければならず、多額のコストがかかったという。オプティムの開発したシステムを使えば、カメラ1台で済むので、コストパフォーマンスが高い。
オプティムは店舗や施設など業界別・利用目的別に設置されたカメラからデータを収集し、画像解析することでマーケティングやセキュリティ、業務効率などを支援するサービス「OPTiM AI Camera」を提供している。オプティムによると、たとえば空席を検知し、その結果に基づいてクーポンを発行するという。発行するクーポンは検知した空席の数や割合に応じて、割引率の変更が可能になる。
AIを活用した来客予測システム(ゑびや大食堂)
デジタル化に取り組むゑびや大食堂
三重県伊勢市で商業施設を運営するのが、ゑびやだ。17年10月に社長に就任した小田島春樹社長は、ITを活用した店舗運営の効率化や合理化を推し進めてきたという。たとえば各テーブルにタブレット端末を設置し、画像付きのメニューが表示された端末から注文できるシステムを導入した。またレジにはPOSを導入しデータ収集に努めるなど、徹底したITを活用した経営改善を実施している。これにより、ECサイトのように入店率や購買率を把握できるようになったという。ゑびやによると、過去の売り上げ等のデータに加え、気温や天気予報、近隣の宿の宿泊者数などを取り込み、翌日や翌月の来客者数や料理の注文数を予測する独自のアルゴリズムを作り上げた。これにより、料理の提供時間が三分の一に短縮され、回転率も三倍になったという。また廃棄ロスも八割減少させるのに成功した。
既存の来客予測システムに画像解析AIを導入
ゑびやは、併設する小売部門に本格的な画像解析AIを導入した。Microsoftが提供するAzureの認知コンピューティング関連のAPI群である「Microsoft Cognitive Services」を活用し、来客店の数や植生、感情を認識する仕組みを構築したというのだ。「Microsoft Cognitive Services」には「Face API」と呼ばれる写った顔から性別や年齢、感情をAIで判定できるサービスが含まれている。
ゑびやがMicrosoft Cognitive Servicesを採用した目的は、来客予測システムの精度向上にある。たとえば来店客の顔を認識することで、女性の来店が多い月に売れるメニューなど、データが取得できるという。ゑびやによるとFace APIのほかに、感情認識APIの「Emotion API」を活用している。
まとめ
画像認識を行なえるクラウドサービスはAzureやAWSなど、すでに出そろっている。画像認識はディープラーニングが注目を浴びた最初の事例であり、得意とする分野でもある。しかし防犯カメラなどに人工知能の技術を応用するためには、既存のクラウドサービスを活用するだけでなく、プラスアルファが必要である。そのちょっとした工夫でバラエティに富んだサービスが生み出されるのだ。
<参考>
- AIカメラが「未成年」判別、居酒屋で実験 精度は96%超(ITmedia)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1901/23/news143.html - AIカメラで居酒屋における「未成年の年齢認証実証実験」結果を公表。検知率96.1%を達成(AMP)
https://amp.review/2019/01/21/ciao-camera/ - 待ち時間解消に朗報!? AI(人工知能)で空席をリアルタイムで探せるサービスが登場。(店舗オペレーション研究所)
http://store-operation.jp/news/584/ - カメラ画像をAIが解析し、 空席率に応じた割引率のクーポンを提供する特許保有について発表(OPTIM)
https://www.optim.co.jp/newsdetail/20190215-pressrelease - 「防犯カメラ映像から未登録の不審者を見つけ出す時空間データ横断プロファイリング」(『NEC技法』Vol.69 No.1)
- 「チャットボット、音声読み上げ、画像認識を提供するAmazon AI」(『Nikkei Linux 』2017年9月号)
- 「画像認識AIで来店客数や感情を把握 リアル店舗でECサイト並みの分析実現」(『Nikkei Cloud First』2017年12月号)
- 「カメラ画像に写った人の性別、年齢、感情 Face APIで分析する六つのプロセス」(『Nikkei Cloud First』2018年8月)
- 「お伊勢さんの食堂が「データドリブン経営」で生まれ変わる」(『商工ジャーナル』2018年11月)
- 「ドローンとAIで「外注検出」と「農薬散布」を実現」(『Fole』2018年10月号)
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