【この記事は約 5 分で読み終わります。】

医療分野のAI活用事例 〜海外編〜

医療における人工知能の活用は、近年大きく飛躍している。アメリカでは、病気の早期発見や薬の開発などさまざまな分野で研究が進められている。こういった研究は、より多くの命を救い、私たちの生活にも大きな影響を与えるだろう。

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する

1970年代に起きた第一次AIブームにより、医療分野における人工知能の活用が期待されるようになった。医療分野における人工知能の活用は、ここ数年で大きく飛躍している。今回は、医療分野に対して画期的なAI技術の導入を行っている海外の事例についてみていく。

AI医療事例

医療分野のAI活用 事例 1 〜人工知能を用いた網膜眼底画像の解析による心疾患リスクの発見〜

アメリカのVerily Life Sciences社は、Google社との共同研究によって、網膜眼底画像の解析により心血管の疾患リスクを予測できる仕組みを開発した。心血管の疾患とは、脳卒中や心筋梗塞、狭心症などを指す。これらの疾患は発症しても自覚症状がないため、発見が遅れることが多い。そのため、処置も手遅れとなることがよくあり、世界的にみても主要な死因の1つだといえる。そういった点を考慮すると、この人工知能による新たな診断方法の開発は、今後の医療に貢献する重大なものといえるだろう。

Verily Life Sciences社及びGoogle社が公開した手法は、人工知能のアルゴリズムを利用した分析方法で、網膜眼底画像を撮影することで診断ができる。具体的には、28万4335人もの患者のデータを学習したディープラーニングによる診断システムだ。網膜眼底画像には目の血管が写し出されるため、それをもとにすることで、性別や年齢、喫煙の有無などについて分析することができる。そういった結果から、心血管リスクを予測することが可能だという。

このようにしてアルゴリズムを利用することで、心疾患の因子となる人種を推測することもできる。また、このシステムでは、網膜画像に色をつけた「アテンションマップ」も生成される。医師が診断時にこれを参照すれば、より診断が導きやすくなるだろう。

従来、心血管の疾患を判断するためには、冠状動脈CTスキャンといった高度な検査が必要であった。もしくは、患者の血液サンプルを利用することで診断を行うこともあるが、その場合、コレステロール値といった重要な観点を欠いてしまう恐れがある。

しかし、この網膜眼底画像と人工知能を組み合わせた分析方法よって、より簡単かつ正確に診断を行うことが可能になった。この方法を利用すれば、すぐに診断を下すことができる。体に対する負担も少なく、検査にかかる費用も安価なので、患者も気軽に診断を受けることができるようになった。

この研究の成果は、現地時間の2018年2月19日に論文として発表されたもので、アメリカ国内外から大きな注目を集めている。科学者たちは、この研究によって生み出されたアルゴリズムを利用することで、心臓発作などの心血管系の異常が5年以内に起きるかどうかを予測する実験も行っている。

人工知能の技術を利用した医療分野での診断方法については、このように実践的な研究が進んでいる。今後さらに、さまざまな疾患に対する人工知能を用いた分析の研究が進めば、人工知能の力で救うことができる命も増えるはずだ。

医療分野のAI活用 事例 2 〜 創薬分野におけるバーチャルスクリーニングでのAI活用〜

アメリカのAtomwise社は、創薬の分野において人工知能の活用を進めている。具体的には、バーチャルスクリーニングのプロセスに人工知能の技術を導入した。バーチャルスクリーニングとは、コンピューター上で、薬の候補となりうる化合物を選別することである。薬として利用できるかどうかは、ターゲットとなるタンパク質に対して有効かどうかという観点から判断される。従来は、ターゲットとなるタンパク質にどのような物質が結びつくのか特定する作業に多くの時間を費やしてきた。

しかし、同社が開発した人工知能AtomNetを利用すれば、この検証を簡単に行うことが可能だ。AtomNetは、自己学習によって学んだ知識やその洞察力によって、どの物質がターゲットとなるタンパク質と結びつきやすいかについてさまざまな角度から検証することができる。

同社はAtomNetにある程度の化学に関する知識を付与することで、AtomNet自身で理解を進められるように自己学習させた。AtomNetは、付与された化学に関する知識を活用することで、水素結合や芳香族性などの化学的分類を発見することもできたという。また、同社はAtomNetとスーパーコンピューターや分子構造を調べるアルゴリズムを組み合わせることにより、創薬のスピードや正確性を向上させることに成功した。このことによって、たとえば、他社と共同で実施したエボラ出血熱の研究において、既存の医薬品7000点が病原体に有効かどうかを1日足らずで調べ上げたという。

同社は、研究者がターゲットに適合する化合物を発見するために費やす時間や費用を削減することを目標としてかかげている。現在、同社は毎日1000万種類以上の化合物をスクリーニングしており、すでに50以上の分子発見プログラムを構築した。将来的には、1日に何億種類もの化合物のスクリーニングを行うことを視野に入れているという。同社は、新しい治療方法を必要とする疾患に対して、早急に成果を上げることを目指している。

同社の人工知能を利用したシステムは、創薬の手法そのものを大きく変える存在だ。今後も人工知能によるスクリーニングが進めば、さまざまな疾患に対して効果をもつ薬がより効率的に生み出されることになるだろう。新たな薬の開発は、これまで救うことができなかった多くの命を救うはずである。より多くの疾患に対する薬の開発が進むことに大いに期待したい。

人工知能の力で医療分野に革命を起こす

人工知能は医療においても、さまざまな方向性の模索が続けられている。診断支援や新薬の開発に対する人工知能の活用は、これまでにない大きな革命を医療分野にもたらす可能性を秘めている。今回はアメリカの事例を紹介したが、この動きは世界各地で着々と進められている。

人工知能によって医療分野がさらに発展すれば、命を守ることに加えて、健康の心配を減らすことも可能になる。医療分野におけるAIの導入は、私たちの毎日の生活にもさまざまな影響をもたらすはずだ。

<関連記事>

「AI医療のミスは医師の責任」で本当に大丈夫なのか


<参考>

  1. GoogleとVerily、ディープラーニングと網膜眼底画像による心血管リスク予測法を発表(IT Medeia)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1802/20/news051.html
  2. グーグル、ディープラーニング技術で網膜画像から心疾患リスクを予測(CNET Japan)
    https://japan.cnet.com/article/35115000/
  3. AtomNet(Atomwise社) AIによる創薬ベンチャー(科学とAI)
    http://blog.livedoor.jp/chem_ai/archives/17289111.html
  4. 米国におけるデータを活用した医療をめぐる動向(JETRO/IPA New York)
    https://www.ipa.go.jp/files/000054866.pdf
  5. AIで創薬プロセスを改善するAtomwiseが、シリーズAで4500万ドルを調達(Tech Crunch)
    https://jp.techcrunch.com/2018/03/08/2018-03-07-atomwise-which-uses-ai-to-improve-drug-discovery-raises-45m-series-a/
シェア

役にたったらいいね!
してください

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する