人工知能の普及は目覚ましい。日本では労働者不足から人工知能のビジネスへの活用は不可欠だと考えられているが、アメリカでは人工知能が職を奪うという意識が強いという。そこで人工知能の今後に発展についてみていきたい。
続きを読む人工知能とは?
人工知能自体のアイディアは古く、SF小説や映画などでも登場するほどだ。ただ人工知能を定義するのは現在でも難しく、SFの世界と混同する人がいるかもしれない。
2種類の人工知能
人工知能には、従来から研究されてきた「エキスパートシステム」と、現在注目を浴びている「計算知能」の2種類に大別される。エキスパートシステムとは、専門的な知識に基づいて、専門家のような判断を行なうシステムを指す。エキスパートシステム研究は1980年代の第2次AIブームを生み出したものの、下火になってしまった。エキスパートシステムは暗黙知を扱えない困難を抱えていたというのが、その理由だ。専門的な知識を集めたデータベースが用意されていても、それをもとに行なう推論は、数理論理学など人間が設定したルールに基づくものだ。ところが、人間は明示化されない暗黙知を推論に活用できる。エキスパートシステムが人間の推論に原理上及ばないことが、研究が行き詰ってしまった原因になったのだ。
一方計算知能の代表例がニューラルネットワークである。エキスパートシステムの推論が数理論理学に基づいていたのに対し、計算知能では発見法的な学習が重要視される。
人工知能ブームをけん引するディープラーニング
人工知能でもっとも話題になるのが、機械学習、とくにディープラーニング(深層学習)だろう。データを学習させて、最適な答えを導き出すのが機械学習の特徴である。機械学習としては、囲碁ソフトAlphaGoにも使われたディープラーニングが有名だが、それ以外にも統計的機械学習などが挙げられる。
ディープラーニングが特徴的なのは、その性能の高さだけではない。統計的機械学習の場合、特徴量を人間が前もって用意する必要があった。他方ディープラーニングの場合、ビッグデータから特徴量を自動的に生成することが可能である。このように一見便利なディープラーニングだが、学習させるデータ量が膨大になるというデメリットもある。ディープラーニングが実現可能になったのは、計算機が高速化したのも大きい。
人工知能の現状とは?
ディープラーニングが最初に注目を浴びたのが、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授が参加した画像認識コンテストILSVRCで優勝した2012年10月のことだ。その後Googleが開発した囲碁ソフトAlphaGoが囲碁の世界チャンピオンを破ったのが2016年3月。それから3年程しか経過していないが、人工知能の応用事例は急増している。
急増する応用事例
AIの応用事例としては、たとえば
・掃除ロボット
・自動車の自動運転
・製品の安全検査
・コールセンターでのオペレーション業務サポート
・為替の取引支援
・がん細胞の特定
・食品原材料の品質管理
・エレベーターや空調設備の遠隔診断
などが挙げられる。
これらに共通するのが、膨大な情報を扱う作業であったり、人間の労働力による業務の割合の大きい「労働集約的」な作業であったりする点である。
製造業への応用が多い日本
日本に特徴的なのは、製造業でのAI活用の多さだ。日本のGDPの約2割弱を占めるのが製造業であり、我が国のまさに基幹産業である。とりわけ労働者不足に悩む昨今、AIやRPAで代替することが急務になっている。製造業にAIが活用される事例が多いのも頷けよう。
他方、アメリカでのAI活用が多いのがサービス業だ。日本もサービス業の割合が35パーセントと非常に高いが、アメリカは43パーセントとさらに上をいく。とくに80年代からアメリカでは、製造業主導から金融業主導へと産業の構造がシフトしている。金融とITとが融合したフィンテックが隆盛となり、AI活用が試みられている。たとえばローンの与信などがAIで行われている。またマーケティングへのAI活用も特徴的だ。リーマンショックにより金融業の人材がマーケティング業界に流れたことから、マーケティング分野でのデジタル化が進んだ。その結果、デジタルマーケティングなど、機械学習を活用した手法などが開発されていったのだ。
日本とアメリカとの大きな違いは、人口動態の違いである。日本では高齢化社会を迎えているため、労働者不足を補填するために、AIの導入が急務になっている。製造業でのAI活用事例が多いのも、それが一因だろう。他方アメリカでは高齢化社会を迎えていないため、人手不足を補うツールとしてAIが活用される必要はない。代わりに、多くの生産性を生み出す金融業にITなど多くの投資が行われているというのが実情だろう。
人工知能の将来性とは?
汎用型AIと特化型AI
人工知能と一口にいっても、ディープラーニングだけではない。ディープラーニングは、画像認識や音声認識など1つの問題に特化することで高いパフォーマンスを発揮する「特化型AI」である。他方、どのような問題に遭遇しても、自ら考えて臨機応変に対応できる「汎用型AI」と呼ばれる人工知能がある。汎用型AIの実現性については現状での見通しは不透明なものの、AIが人間の能力を完全に超える「シンギュラリティ」は2045年に到達するといわれている。
特化型AIの抱える問題点
もっとも、特化型AIも多くの問題を抱える。一番大きいのが、高パフォーマンスであるにもかかわらず、ディープラーニングの動作をわれわれが理解しにくい点である。通常ディープラーニングは、答えを求めるために、ビッグデータを学習し、規則性を見出すというプロセスを経る。ところが、このディープラーニングが導き出した規則性が、われわれが直接理解できるよう表現されていないのだ。これが「ブラックボックス問題」と呼ばれる問題である。
ディープラーニングのブラックボックス問題は、AIの活用へも影響を及ぼす。たとえば、品質管理や病巣の発見、自動運転といった安全性にかかわる分野にAIを適用するケースが増えている。だがディープラーニングの判別結果の根拠を説明できない場合、われわれがAIの判断を無根拠に信用するのかといった問題が生じよう。たとえば癌の認識をAIが見落とした場合の責任を誰に負わせるのかという問題が発生するのだ。
問題点を解決するアプローチも
このようなブラックボックス問題に対するアプローチも存在する。アメリカ国防高等研究局は「説明可能AI(XAI)」への投資プロジェクトを開始した。XAIでは、ディープラーニングのようなブラックボックス化した処理に対し、解釈性を与えようとする。たとえばAIによって画像に写っているスポーツを野球が判別されたとしよう。XAIでは、「プレイヤーがバットを握っているから野球の写真である」と判別の根拠まで与えられる。これにより、従来ブラックボックス化していたディープラーニングのようなAI処理も、人間が理解できる判断に置き換え可能になるのだ。
AIが汎用性をもつかが鍵
いずれにせよ、高精度のパフォーマンスを発揮するディープラーニングは技術的には活用事例はますます増加するだろう。ただ、「ブラックボックス問題」のよう現状抱えている問題の解決なくして、現実のシーンでディープラーニングの使用は一筋縄ではいかないといえよう。つまり、ディープラーニングが汎用性に耐えられるかが、今後の人工知能を占ううえで重要になってくるのだ。第2次AIブームをけん引したエキスパートシステムは暗黙知を取り扱えないという問題を抱えていたため、一過性のブームで収束してしまった。ディープラーニングが取り扱えない問題があるとすれば、第3次AIブームもまた終焉するだろう。
AIが変える仕事の未来とは?
AIの進化と切り離せないのが、IoT(Internet of Things)である。モノを接続し、デジタル化を進めることで、より生産性を高めようとするのがIoTだ。IoTを円滑にするための道具がまさにAIである。モノに取りつけられたセンサーから取得したビッグデータを処理するために、AIが活用されるのだ。
日本では製造業が、アメリカではサービス業へのAI活用が多いが、IoTやロボットなどの組み合わせにより、あらゆる産業のビジネスモデルが変化することが考えられる。事実、アメリカでは農業へのAIの応用事例がみられる。ドローンなどを使って農薬を散布するだけでなく、収穫量を最大化する環境を求めるためにAIが活用されるという。つまり、AIと労働者の協働が、今後ますます盛んになるだろう。
まとめ
AIにはビッグデータを処理するための大型計算機が必要なため、誰でも簡単に導入できないと思われるかもしれない。だがAIを利用できるクラウドサービスは増加しているだけでなく、プログラミングの必要なくAIを使えるサービスがGoogleなどによって提供され始めている。このことから、AIがわれわれにとってますます身近なものになるのではないだろうか。
<参考>
- サービス産業の拡大と雇用(労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/01/pdf/005-015.pdf - 我が国の産業構造を支える製造業(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2015/honbun_pdf/pdf/honbun01_02_01.pdf - Explainable Artificial Intelligence (XAI)(DARPA)
https://www.darpa.mil/program/explainable-artificial-intelligence - 「機械学習とは何か?」(『統計』2018年1月号)
- 「人工知能の基本的なことを知る」(『Interface』2018年5月号)
- 「ビッグデータ×機械学習の展望」(『情報管理』2017年11月号)
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