農業分野のAI活用事例 〜国内編Part2〜

農業分野におけるAIの活用は、人口減少に伴って必要不可欠な課題となっている。日本国内でも少しずつAIが農業分野に導入されるようになっており、高品質な作物の生産や農作業の効率化に一役買っている。

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人口減少によって、第一次産業就労者数は減少傾向にある。このような状況においては、農業分野におけるAI活用が、今後の農業発展のカギとなる可能性が高い。農業にAIを導入することで、少ない人員で効率的に農業を営むことが大きな課題である。現在、国内ではどのように農業分野におけるAIの導入が進められているのだろうか。今回は、日本における農業分野でのAIの活用事例について紹介したい。

農業で活用されるAIの画像

事例1「須藤物産におけるAIを利用した高糖度トマトの生産」

栃木県大田原市に本社を置く須藤物産では、AIを活用した高糖度トマトの生産に力を入れている。同社は、日本で初めてAIを導入した農場を作った企業として有名だ。同社は、数年前まで休耕地だった約5万平方メートルの土地を活用し、2015年からイスラエル製のAIを導入した植物工場を稼働させている。この土地には、ガラス張りの大型ハウスが4棟設置されている。温度や湿度の管理といった役割をAIが担い、肥料散布もロボットが行う。ここから1日につき約2000パックのトマトが出荷されているという。

トマトの生産にAIを活用することで、葉の成分などを細かく測定し、育成のはやさをコントロールすることができる。これにより、トマトの甘さや成分を調整している。こういった徹底的な管理のもとで生産されたトマトは、濃度が一般的なトマトの2倍になっているという。AIによる高品質なトマトの生産を後押しするため、同社の研究員による分析にも余念がない。トマトの糖度やカリウム、ナトリウムの量などを調べることにより、肥料の量を微調整するそうだ。AIという画期的な技術とともにこういった地道な努力を重ねることで、よりおいしいトマトの生産を目指している。

これらのトマトは、100gあたり1000円程度で販売されている。これは、一般的なプチトマトの3~5倍にもあたる価格である。トマトが「ドルチェ」「ジュエルズ」「プレミアムルビー」と名付けられていることからも、高級感をウリにしていることがうかがえる。これほどの高値でも需要に対する供給が追い付かないほどの人気ぶりで、首都圏の百貨店などでは品薄状態が続いている。また、綿密な研究に基づく栄養価の高さは海外でも注目を集めており、高糖度トマトは香港にも輸出されているという。医療分野で役立つような低カリウムのトマトの生産も進められており、今後の可能性はまだまだ計り知れないものがある。

現在の日本では、「農業は儲からない」というイメージが、第一次産業就労者数の減少に拍車をかけている状況ともいえる。そのような中で、こういった高級志向の野菜の人気ぶりを目にすると、農業に関する新しい可能性を感じることができる。こういった徹底的な野菜の品質管理は、AIの力があってこそ成せる業だ。AIを導入した須藤物産の農場は、日本の農業の新しい方向性を示している重要な事例だといえるだろう。

事例2「農家によるきゅうり仕分けマシンの開発」

静岡県湖西市できゅうり農家を営んでいる小池誠氏は、独自の研究によって、AIによるきゅうりの仕分けマシンの開発に成功した。小池氏は、もともと自動車部品メーカーのエンジニアとして7年間勤務していた。きゅうり農家を始めてから小池氏は、さまざまな課題を感じるようになったという。たとえば、きゅうりの仕分けには、非常に多くの時間がかかる。農繁期には、500kgにも及ぶ約4000本のきゅうりの仕分けに、1日8時間以上の時間を費やしている。きゅうりを仕分ける際は、太さや長さ、曲がり具合などによって、等級を細かく分ける必要がある。小池氏のきゅうりは、9つの等級に分かれている。対象となるきゅうりは、自然の産物だ。そのため、仕分けの際に、数値などによる明確な基準を設けるのが難しい。生産者の経験やこだわりが色濃く反映される部分だが、選別を行う人物によってばらつきが出やすいという問題もある。しかも、きゅうりの選別は、それにいくら時間をかけたところで、きゅうりの品質を上げることができるわけでもない。小池氏はこういった課題を解決することを目標とし、エンジニア時代の経験を活かすことで、ディープラーニングを用いたきゅうりの仕分けマシンの開発に至った。

このマシンによるきゅうりの仕分けは、ベルトコンベアによって送り出されたきゅうりをwebカメラが撮影するところから始まる。その画像のデータは、AIを搭載したシステムに送信される。そして、何千枚にも及ぶきゅうりの画像と等級の情報を学習したディープラーニングの成果に照らし合わせることによって、そのきゅうりの等級の決定を行う。その結果に基づいて、機械のアームがきゅうりを正しい箱の中に入れるという仕組みになっている。小池氏はこのきゅうり仕分けマシンには、まだまだ改良の余地があると語る。さまざまな試行錯誤を重ねながら、より効率的なマシンへの改良に力を入れているそうだ。

小池氏は、元エンジニアという経歴を活かすことで農業分野にAIを上手く応用した。農業に対してAIを導入するには、このように実際の現場のニーズに即した技術開発に取り組むことがとくに重要だ。多様な働き方が広がっていく中では、小池氏のようにITの知識に精通した人物が農業に携わる機会も増えることだろう。そういった農業従事者によるAI技術の開発にも期待したい。また、各AI関連企業がより現場の声に耳を傾けることで、現場に合った技術開発を行うことも課題であるといえる。

国内の農業におけるAI活用は進化を続けている

日本の農業におけるAIの導入事例は、まだまだ多いとはいえない状況である。しかし、人口減少やそれに伴う農業従事者の減少を考慮すれば、農業に対するAIの活用は、より積極的に実施されていかなければならない。AI活用による農業は、作物に対してそれまでにない新しい価値を付与したり、より効率的に作業を進めたりする可能性を秘めている。アイデア次第では、今後さらにAIが活躍できる範囲は広がっていくはずだ。国内における農業分野でのAI活用がより活発に進むことに期待したい。


<参考>

    1. 上田市武石の「次世代型植物工場」を視察!移動市長室で! 長野県 上田市(東信ジャーナル)
      http://shinshu.fm/MHz/22.56/a12589/0000477068.html
    2. ルビーの輝き「高濃度フルーツトマト」 (Sai+)
      http://saiplus.jp/special/2018/02/463.php
    3. 企業情報 (株式会社須藤物産)
      http://www.sudobussan.co.jp/touch/company/
    4. 人工知能が、きゅうりの仕分けをします。農家の小池誠さん、自動仕分けマシーンを作る(パーソナル テクノロジースタッフ)
      https://persol-tech-s.co.jp/i-engineer/product/cucumber
    5. AIが農業界に旋風を巻き起こす! ‐農業にAIが活用されている事例‐6選(Leonis)
      http://leonisand.co/ai%E3%81%8C%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%AB%E6%97%8B%E9%A2%A8%E3%82%92%E5%B7%BB%E3%81%8D%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%81%99%EF%BC%81-%E2%80%90%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%ABai%E3%81%8C%E6%B4%BB%E7%94%A8/
    6. ディープラーニングを用いたキュウリ選果機の開発
      http://aitc.jp/events/20170919-Seika/20170919_%E6%8B%9B%E5%BE%85%E8%AC%9B%E6%BC%94_%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%92%E7%94%A8%E3%81%84%E3%81%9F%20%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%82%A6%E3%83%AA%E9%81%B8%E6%9E%9C%E6%A9%9F%E3%81%AE%E9%96%8B%E7%99%BA_AITC.pdf