人工知能(AI)の活用は、私達の身近な生活にも浸透してきた。たとえ直接人工知能を使っている意識がなかったとしても、私達の生活の一部では、気付かないうちに人工知能が使われている。
たとえば、近年では水・ガス・電気のような、私達にとって重要なライフライン・インフラの設備でも利用されてきているし、その設備の防衛手段としても、人工知能は活用されている。
また、都市の設計そのものでも、IoTセンサーと組み合わせのセットで利用されることが多くなってきた。今や、私達の生活の基盤には、人工知能が深く入り込み始めているのだ。
それだけに、企業にとってもインフラ産業での大きなビジネスへのきっかけをつかむチャンスであるのかもしれない。
もちろん、これは日本だけでなく各国でも事情は同じだ。それぞれの国・政府が主導し、積極的にインフラ産業への人工知能の活用へ動いている事例も多い。
ここでは、AI先進国のアメリカや、アメリカを抜くAI先進国を標榜する中国などで、どのようにインフラ業界で人工知能が使われだしているのかを見てみよう。
アメリカとシンガポールでの住宅環境が、変わる
まずは、これまで世界のAIをリードしてきたアメリカでの事例を見てみる。日本貿易振興機構(ジェトロ)のリポートによると2016年にフロリダ州オーランドでの住宅にて、マイアミに本社を置く大手技術・建設企業のレナー(Lennar Corporation)社は、携帯機器から遠隔操作することにより、照明・センサー警報システムを作動させる機能を提供している。
この機能は、IoTセンサーによって室内の人の動きを察知し、自動的に電力や水の消費量を(AIが)調整する。
また、同社はApple社のiPhoneやiPadなどを利用し、ホームキット(HomeKit。Appleのスマートハウス用ソフトウェアフレームワーク)を使って住む人がとても便利な生活を営める住宅の建設を始めるという。
アメリカ第2位の技術・建設企業であるエイコム(AECOM)社のシンガポール法人は、シンガポールの公営住宅へのIoT/AI事業を手掛けている。
公営住宅に設置されたセンサーによってリアルタイムに情報を収集し、水道料や電気の使用料を監視したり、住宅に住む高齢者の見守りをするという。
これからの住環境には、AI/IoTの技術は欠かせないものとなりそうだ。
上司のかわりをAIが!? 中国での事例
インフラ産業で、人工知能がすでに運用されている例としては、香港の地下鉄での事例がある。香港の交通インフラではAIが「上司のかわり」をしているというのだ。
地下鉄のエンジニア(1万人)の勤務シフトを、「上司のかわりに」AIが組んでくれる。「人間では把握しきれない地下鉄網の修繕ポイントを見極めるアルゴリズム」、つまりAIが、最適なスケジュールを割り出し、効率的に人的配置を行うという。
このAIは、「地下鉄の全システムを把握している」とし、「人間には不可能なレベルで仕事を組み合わせる」ことができるというから、驚きである。
中国は、AIに特に力を入れている国である。
2020年までに北京を中心とする『1時間圏路線交通ネットワーク』の構築を完成させる計画など、中国政府主導の巨額のインフラ投資が複数あり、海外企業にとってもビジネスチャンスが大きいという。
中国では新型都市化及び新型中小都市へのインフラ整備に力を入れ、「スマートシティの建設に対する投資は急速に成長する見込み」とのことだ。
中国でも、IoT&ビッグデータ&人工知能を組み合わせた、新しい都市計画が活発に進行中である。
重要インフラへのサイバー攻撃へもAIが活躍
インフラ産業は、当然ながらセキュリティ機能が非常に重要な分野である。しかし、近年インフラへのサイバーテロが増加傾向にあり、心配する向きも多いだろう。
それでは、世界のインフラ産業でのセキュリティ事情はどういう状況にあるのだろうか。
サイバー攻撃は、悪意のある個人や組織はもちろん、一部の国家の機関が行っているケースもある。敵国からの軍事施設、情報インフラや原子力関連設備などのインフラへのサイバー攻撃もあるし、私達の生活に密着する電気・ガス・水道設備への攻撃もあり、特に最近は電気インフラへの攻撃が増加しているという。
「大丈夫。うちのインフラは重要なんだから、もとから外部ネットワークになんか繋げていないと。だから安心」。なんていう今までの考えも、現在のマルウェアには通用しなくなっている。さらに、攻撃者が設備内部の仕組みを知らなければ大丈夫、ということも、マルウェアが自ら分析することで突破されてしまう。
実際に2010年頃から「Stuxnet」というマルウェア、また2015年には「Black Energy」という強力なマルウェアが登場し、外部ネットワークに繋げていなくても感染してしまった事例もある。「ウクライナでは電力システムを狙ったサイバー攻撃によって大規模停電が2015年と2016年に連続して発生」したようだ。
このような重要インフラへのサイバー攻撃への対策としても、人工知能は活用されている。
フィンランドの電力会社が電力系統の監視システムに、アメリカの人気クイズ番組で優勝したことで有名になった人工知能、IBM WatsonのIoTプラットフォーム「Watson IoT」を導入している。
インフラ産業でも、AIによるセキュリティ技術は必須のものとなっているのだ。
まとめ
以上、インフラ産業界で人工知能を利用した海外での事例を見てきた。人工知能は、IoTやビッグデータとの併用によって、世界中の都市や生活スタイルを大きく変えてくれそうだ。
特に中国での人工知能ビジネスのインフラ産業への活用は成長著しく、また他のアジア諸国や中東などでも人工知能の市場は規模を急速に拡げていきそうだと感じる。
日本の誇る良質な鉄道産業や家電産業でも、海外展開する上でIoTと人工知能の活用が必須となっていると思われる。そこに日本企業のビッグビジネスのチャンスが広がっていきそうだ。
<参考>
- 米国の新ビジネスの動き IoT、AIなどの活用事例調査(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/41f2ea19eaa8009f/20160154.pdf - AIが上司のかわりに地下鉄エンジニアの勤務シフトを生成するという試み(GIGAZINE)
http://gigazine.net/news/20140708-ai-deploy-subway-engineers/ - 第13次5カ年計画ー中国経済の構造改革と世界経済のとの融合(KPMG)
https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/cn/pdf/jp/2017/09/13fyp-opportunities-analysis-for-chinese-and-foreign-businesses-j.pdf - 重要インフラに対するサイバー攻撃の 実態と分析(NEC)
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g17/n02/pdf/170204.pdf - 米国における電力インフラと IT をめぐる動向(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2016/c370a43cce9fa649/rpNY_ITinfra201606.pdf
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