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中国のAI(人工知能)技術が圧倒的と言われるわけとは

AI(人工知能)分野で日本の姿が見えない。アメリカの独走に加え、中国AIの台頭が目覚ましい。経済専門家は日本が中国からAIを輸入する時代がくることを懸念している。

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AI(人工知能)で圧倒的な強さをみせているのはアメリカである。これは多くの日本人ビジネスパーソンが認識していることであろうし、仮にその事実を知らなかったとしても、アメリカがAIで一番であると聞いても驚かないだろう。

しかし日本のAI技術が、中国AIにまったく太刀打ちできていないことをご存知だろうか。それを聞いても「確かに現状はそうかもしれないが、日本人は持ち前の勤勉さで研究・開発を続けるから、じきに中国を追い抜くだろう」と考えているとしたら、楽観的すぎる。

TS・チャイナ・リサーチ代表の田代尚機氏と、日本総研調査部副主任研究員の田谷洋一氏の2名の中国経済ウォッチャーは、中国AIの強さが相当なものであり、日本が追いつくどころか今後さらに引き離される可能性が大きいことを指摘している。

中国_人口知能_世界

中国経済ウォッチャー、田代氏の見解

田代氏は、AI関連の資料や情報を探っていても、出てくるのは英語か中国語ばかりで、日本語はまったく見当たらない、と話している。日本の存在感が薄いのだ。

そしてレポート「AI先進国の中国、国家主導でさらなる発展を目指す計画」では、中国AIはアメリカと肩を並べる水準に達しているのではないか、と述べている。

田代氏は、東京工業大学大学院卒業後、大和総研の北京駐在員などを経て中国ビジネスのコンサルティングを行うTS・チャイナ・リサーチ株式会社を設立した、中国ウォッチャーだ。

田代氏は中国への投資をアドバイスすることもあるため、同氏が中国AIに関心を持っていることは重要な意味を持つ。中国AIは投資価値が十分にある、将来性が有望な事業なのである。

田代氏が注目しているのは、中国工業情報化部という政府組織が2017年12月に発表した「新世代のAI産業発展を促進するための3年行動計画(2018~2020年)」(以下、「AI3年計画」と呼ぶ)だ。ここには、AIという科学技術を単に深掘りしていくだけでなく、AIと実体経済を融合させる具体的な計画が盛り込まれている。

簡単にいうと、AIを使って国の経済力を高めようというのである。さらに露骨にいうと「AIで外貨を稼ぐ」のである。

いち企業がAIを使って社員の事務作業量を減らすといった話とは次元が異なる。

中国共産党は2017年、ビッグデータに関する勉強会を開いた。中国は共産党一党だけが国家を運営している。つまり政治を主導する組織である共産党がビッグデータについて勉強しているのだ。しかもこの勉強会は、国家主席の習近平氏が主導している。

ビッグデータが大きければ大きいほど、AIはますます賢くなる。AIがコンピューターの脳なら、ビッグデータは血液であり栄養でありエネルギーである。

つまり先ほど紹介したAI3年計画とこのビッグデータ勉強会は完全にリンクしている。

この動きを日本で例えるなら、内閣総理大臣が経済産業省と国土交通省と文部科学省にAIに注力するよう指示して、政権与党の総裁が自分の党の政治家を集めてIT勉強会を開くようなものだ。

それをやらない日本と、習氏、中国共産党、中国政府が三位一体となってAI開発とAIビジネス投入を目論む中国では、やはり次元が違うのである。

さてAI3年計画の中身は、次の5つに集約される。

・中央政府と地方政府が協力して計画を体系化していく

・産業発展の弱点に資源を集中させる

・産学共同を進める

・業界のトップ企業がその他の企業をけん引する

・国際協力や技術やサービスの開放を進める

田代氏はこの5項目を「国家が一丸となってAIを進める姿勢」と評している。

これも日本で例えてみると、「北海道から沖縄県まですべての都道府県がAI振興政策を打ち出して、トヨタやパナソニックや日立などが中小企業のAI事業を支援し、なおかつ世界にAI技術を開放して、その見返りとして世界のAIの知を国内に集める」となる。

壮大な国家プロジェクトだ。

ただかつて日本では、似たようなことが起きている。会社の事務所や家庭に次々とパソコンとネット回線が導入された。また、テレビがアナログ放送から地デジに切り替わったときも、一気に「薄いテレビ」が広まった。スマホの普及も瞬く間に老若男女の間に浸透した。

中国はそれと同じように、AIを国中に広げようというのである。

中国はこの国家一丸AIプロジェクトを推進するために、具体的に次の4つの行動を取っていく。

1つめはAI市場の拡大だ。自動運転車、ロボット、ドローン、医療機器、図形映像認識、音声認識、自動翻訳の事業を拡大させる。AIで儲けられる事業をつくっていくわけだ。

2つめは、AIの基礎研究の強化だ。センサー技術を確立し、ニューラルネットワークチップの量産化を果たし、オープンソースプラットフォーム産業を発展させていく。

3つめは、製造業のインテリジェント化だ。具体的には工場の自動化と自律化を進めていく。工場の無人化を進め、さらに工場自体をAI化して不具合が起きる前に補修を要求するシステムを導入する。工場の自動化と自律化が進むと、人は工場に材料を供給して、ときどきメンテナンスを施すだけでよくなる。

4つめは、AIを支えるシステムの強化だ。大量のデータの貯蔵庫をつくったり、テスト体制を築いたり、安全を確保したりする。AIが活躍できる環境を整備するわけだ。

アメリカはFAGA(フェイスブック、アマゾン、グーグル、アップル)やマイクロソフト、アドビ、エヌビディアといったITの巨人がAI開発とAI市場をぐいぐい引っ張っている。自由な経済活動のなかからイノベーションを起こす手法が奏功し、現在のAI・IT世界1の地位を築いた。

一方の中国は、以上でみたとおり、社会主義国らしく政府が計画を立てて全国民で猪突猛進していく。田代氏は「中国のAI戦略には『予算』という概念がない」と述べている。どういうことかというと、AI開発に必要な「お金の問題」は国有銀行がなんとかして、それで足りなければ市場から資金を調達するのである。「予算がない」とはつまり、無制限にAI開発、AI投入が拡大していく可能性があるということだ。

日本のAI開発スタイルはもちろんアメリカ型だ。しかしいまだにFAGAレベルの企業は生まれていない。そのため日本が中国AIに対抗していくことは簡単ではない。

田代氏は、AIを使って経済発展をさせる体制としては中国の政治・経済環境は強力だ、としている。

世界のIT動向をみている田谷氏の見立て

日本総研調査部副主任研究員の田谷氏は2018年5月に「人工知能(AI)強国を目指す中国」という論文を公表した。田谷氏はITを切り口にして世界経済の動向を追っている。本稿では、経済成長が鈍化した中国が、AIをてこにして雇用環境の改善や経済発展を図ろうとする姿を追っている。

田谷氏の見立てによると、中国はAIを次のように位置づけている。

・AIは新産業の創出と既存産業の発展を同時に進行させる中核技術である

・共産党と中国政府は具体的かつ積極的なAI促進計画を掲げて進めている

・AI自体がイノベーションであるが、AIは中国のイノベーション能力を高めることにも寄与する

・2030年には中国がAIで世界のリーダーになる

・民間企業が主体となってAI産業を創出し、政府は資金や規制面で支援する

このあたりは先ほどみた田代氏の観察と異なるところはない。

田谷論文で注目したいのは、中国AIの現状の実力と将来性についての言及だ。

田谷氏は、現在の中国AIは、アメリカにまったく追いついていないとみている。例えば、AI研究における大学ランキングでは、上位20校中、アメリカの大学は13校(65%)を占める。中国は北京大学12位、清華大学16位、香港科学技術大学17位と3校(15%)しかない。

ちなみに残り4校は、カナダ・トロント大学9位、イギリス・エジンバラ大学13位、日本・東京大学14位、シンガポール国立大学20位となっている。

AI系大学はAI産業の人材育成を担うので、今後もアメリカの優位性は揺るがないとみられる。

さらにAI企業数も、アメリカの1,078社に対し、中国は592社である。

米中のAI差はまだある。AIスタートアップ企業の資金調達額は、アメリカの3.4兆円にたいし、中国は1.7兆円にとどまる。

さらに中国は、AIが発展するほど経済環境が悪化するかもしれない、という自己矛盾を抱えている。

中国経済はこれまで、圧倒的な人数の低賃金労働者を動員した労働集約的なビジネスで発展してきた。しかしAIが社会に浸透すると国民の仕事を奪うことになる。あぶれた労働者を支援することに国力が割かれるようになると、経済成長を押し下げる効果を持つことになる。

田谷氏は、中国AIの発展のカギは、スマートシティなど都市開発事業にあると考えている。スマートシティとは、街のあらゆるモノやサービスがネットにつながり、AIでコントロールされ、人々が効率的で省力化された生活を送ることができる都市のことである。

中国が国内でスマートシティをつくり、そのノウハウを東南アジアなど新興国に輸出するようになると、中国AIが世界で存在感を増すことになる。

スマートシティはITとAIをふんだんに使うから、中国の規格が世界標準になるかもしれない。そうなるとネット界のFAGAのような企業がAI界に現れ、それがことごとく中国企業になっているかもしれないのである。

世界トップの中国のAI(人工知能)

まとめ~日本はAI輸入国になってしまうのか

田谷氏は、日本のAI活用はまだ、特定領域にとどまっていると指摘している。そして「日本は後れを取っている」と明言する。冒頭に紹介した田代氏と同じ見解といえる。

すでにシェアリングエコノミーでは、先行する中国企業が日本に進出してきている。同じことがAIビジネスでも起こりうる。

日本がAI後進国になることは考えにくいが、しかし中国の動向をみていると日本がAI輸入国になることは十分起こり得る。そうなると技術を輸出して稼ぐ「株式会社ニッポンのビジネスモデル」が根底から揺るぐことになりかねない。

それを防ぐためにも中国AIの動向をつぶさに追跡することが今後も欠かせないだろう。


<参考>

  1. AI先進国の中国、国家主導でさらなる発展を目指す計画(田代尚機、マネーポストWEB)
    https://www.moneypost.jp/231802
  2. 人工知能(AI)強国を目指す中国(田谷洋一環、太平洋ビジネス情報)
    https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/10456.pdf
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