AI(人工知能)×人事のスタートアップ紹介 ーVol2 社員の能力・状態を把握する

人事部が社員の能力やチーム編成を行うのにAI(人工知能)の活用が進みつつある。社内の様々な情報をデジタルデータ化することで、企業のカルチャーを理解し、最適なチーム編成などを提案するピープルアナリティクスを中心に、最新の人財管理を紹介する。

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従業員の能力育成や最適なチーム編成はどうあるべきか。企業内に溜まった大量のデータをAIが解析することで、企業の成長をサポートできるようになった。

人口知能(AI)×_人材(HR)

人材管理におけるAIのインパクト、業界への影響

社内には様々な人事情報がデータの形で存在している。これらのデータを上手く活用すれば、企業内での人員配置やチーム編成、そして研修などによって人材を育成する際に大変役に立つ。そしてそれらはこれまでもある程度行われてきたが、今後はそこをAIが最適と考えられる状態を提案してくれるようになる。今回は社内の人事業務での利用方法やサービスについて紹介する。

個人の勤怠管理データから個別の傾向を割り出し、そのエンゲージメントをAIが分析するのが、株式会社ネオキャリアの提供する「jinjer」だ。このサービスでは、採用・人事・労務管理を一元的に行い、そのデータからモチベーションの下がっている従業員を割り出し、退職しそうな傾向が現れたらアラートを出してくれる。これにより離職率を下げ、人事戦略を強化しようとしている。

AIを使って従業員の適職やキャリアパスを示唆してくれるのが、アメリカのワークデイが展開する人事クラウドサービス「HCM(Human Capital Management)」だ。
①人事管理(社員情報、休暇・休職管理、報酬管理、福利厚生など)
②タレントマネジメント(目標管理、パフォーマンス管理、後継者育成プランニング、キャリア・能力開発プラン)
③その他(人員計画と分析、プロジェクト・業務管理、リクルーティング)

の3つの機能を持ち、従業員が売上に対してどの程度貢献しているのかなどを分析できるようになっている。日本企業でもソニー、日立製作所、日産自動車、ファーストリテイリングと、大手が利用しているサービスである。

そしてこのWorkdayは、機械学習によって社員個々のタレントや働き方の希望と、仕事・プロジェクトを的確にマッチングさせる「タレントモビリティプラットフォーム」を開発・提供するRallyteamを買収した。このプラットフォームを自社のサービスに組み込むことで、最適な人事配置を提案できるシステムに進化させている。

日本国内で、同じ様なAIを活用した戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」を開発したのが、人材サービスの株式会社ビズリーチである。社員の成果やそれに対する上長のコメント、出退勤や経歴データを分析し、企業が伸びるために採用すべき人物像を洗い出す。

これまで「なんとなく」という感覚で判断していた部分を、しっかりとしたデータをベースに視覚化することにより、同じ業種であってもA社とB社では活躍する人材のイメージが異なるというのをあぶり出そうとしている。

企業向けの健康経営支援クラウドを手掛ける株式会社FiNC(フィンク)は、従業員にアンケートで心身の状態を分析する「FiNCウェルネスサーベイ」を展開している。このアプリでより速く、正確に従業員の健康状態および健康リスクを分析し、従業員や組織の状態を「フィジカル・メンタル・エンゲージメント」という要素に分解している。

FiNCは株式会社竹中工務店と一緒に、実証実験を行っている。アプリで収集されたデータと就労時のワークスタイルデータとを組み合わせて相関分析することで、「健康なワークスタイル」とはなにかを模索している。

このように、人材のパフォーマンスから働き方まで、様々な観点でAIの活用が進んでいるが、基本的にはデータの解析にAIを利用している点が、社内における人材管理の要点になっている。

どんなデータが必要なのか

ここで重要なのは、実はデータの種類と量である。データの種類は多ければ多いほど良い。様々なデータを組み合わせることで、これまでは想像もしなかった関係性をAIが発見することがある。これまでは人間が様々なデータを組み合わせ、相関関係があるかないかなどを調べてきた。しかしこれだと、データの種類が増えれば増えるほど、組み合わせの数が増えるため、解析を行うのに限界があった。従って、

「AのデータとBのデータを組み合わせると、こういうことが結果として導けるはず」

というのを想定した上で、解析を行うのが常であった。

一方、この手の作業はAIが最も得意とする。従って、とりあえず全てのデータをAIに学習させれば、これまで人間が調べていた相関関係も含めて、全てのデータ間の関係性を自動的に解析してくれる。当然の事ながらあまり意味のない組み合わせも多く出てくるが、中には人間が想像もしていなかった関係性を見つけることがある。これがAIにデータ解析を行わせる最大のメリットである。ただし、その場合、その関係性にどういう意味があるのかを考える必要はある。そこは人間がやらなければならない。

図1 AIによる相関関係の発見

そしてその際に重要なのは、データの量である。例えデータの種類が多くても、それなりの量のデータがないと、偽の相関関係を拾い出すことがある。例えば、サイコロの1の目が出る確率は六分の一であるが、これはサイコロを6回振れば、それぞれの目が1回ずつ出ることを意味しているわけではない。何千回、何万回とサイコロを振れば、自分の思っている目が6回に1回の確率で出るというだけであり、6回だけ振ると、3の目が2回出たりもする。すると、その6回のデータからはサイコロの3が出る確率は三分の一であるという、変な結果が導かれる。データの数が少ないと、たまたま変な関係を発見してしまう事が起こりえるため、正確を期すためには多くのデータが必要となるのだ。

人口知能_確率

図2 サイコロの2の目が出る確率

AIによる人材活用を推進するスタートアップ企業の紹介

HR分野でのAI活用という点では、大手だけではなく、多くのスタートアップが参入している。

コグニティ株式会社の「UpSighter」は、営業メンバーの育成をターゲットにしたサービスだ。「売れるトークのパターンが見つかる」とうたっている通り、その企業の営業メンバーのトークを録音・アップロードすると、AIによる解析が行われ、7つの項目での成績が表示される。その中で最も成績の良い営業メンバーのパターンをチェックし、他のメンバーが足りていない部分を育成する、または複数人数を組み合わせて営業を行うことでクロージングまで持って行ける可能性を上げようというのが狙いだ。面白いことに、「HRMOS(ハーモス)」のところで紹介した通り、同じ業種であっても、A社のトップ営業マンとB社のトップ営業マンは同じタイプではないらしい。

株式会社エーアイスクエアは「人事・総務ロボット」を提供している。「要約エンジン」「キーワード抽出エンジン」「QAエンジン」という3つのAIエンジンを駆使し、これまで社内に蓄積されているQ&Aをベースに、人事や総務に関する質問を自動回答する。

例え少しずれた質問の仕方をしても、結婚や出産などのライフイベント関係なのか、駐車場の案内なのかなどを解釈し、回答を出せるという。

これにより人事・総務の時間も削減され、従業員も周囲の社員に訊いて回らなくても、ここで回答を受け取ることができるようになる。

アメリカのGustoは経理、福利厚生、採用と、人事に関する幅広い作業を管理できるオール・イン・ワン型プラットフォームを提供している。従業員が100人以下の中小企業やベンチャー企業を主なターゲットとし、シンプルかつ一括でさまざまな作業を管理できるのが特徴だ。少ない人数で多くの事務作業を並行して行わなければならない中小企業では重宝されるソリューションである。

このように、スタートアップもHRへのAI活用という分野に積極的に参入している。HR分野は社員の教育やパフォーマンス管理、事務手続きのサポートなど、どれか一つを取ってもそれなりの規模のマーケットとなる。これらのどこかに特化して、よりディープなところまで対応できるソリューションでも良いし、広く浅く、オール・イン・ワンパッケージを提供しても構わない。

次にスタートアップが提供している、AIを中核に据えたサービスの事例を2つ紹介する。

データから未来を予測

カナダの企業Visierは、全ての従業員のデータを統合的に管理する。このデータを分析し、未来予測を行うサービスを提供している。

従業員の能力開発、採用の効率化、多様性の度合いなど、カテゴリー別に従業員に関する疑問への分析結果を提供する。カテゴリーは数百を超えるとされる。

YAHOO!やNISSANでの導入実績があり、例えば「優秀な人材維持」カテゴリーでは、離職と社員のパフォーマンスの関係、どのようなメンタリティが離職に影響しやすいかなどを分析・提示してくれる。これを上手く活用することにより、導入企業は客観的な事実に基づいた人材戦略をとれるようになる。

ピープルアナリティクス

Institution for a Global Society株式会社が提供する「GROW360」というサービスのピープルアナリティクスは、ネットワーク分析によって、孤立している従業員を探し出したり、コンピテンシー調査によって活躍できていない従業員を探し出す。これにより、活躍できていない従業員を配置転換して、よりパフォーマンスを発揮できる部署に異動させることで、エンゲージメントを高める施策を打てるようにしている。

実は同じ様なサービスをドイツのBunchも行っており、膨大なデータから「性格」や「思考のクセ」を見える化し、組織やチームがどのようなカルチャーを持っているかを明らかにする。そして現在のチームが会社の向かうべき方向に合っていないと判断できる場合は、チーム編成を変更したり、新たな人材を投入するなどして最適化する事を支援する。

この分析は膨大な種類のデータを処理する必要があるため、AIの出番となるわけだ。

まとめ

今回はAIを人事部の仕事の領域で、どの様に活用できるかを示した。やはり従業員についての数多くの種類・量のデータを持っている、そしてそれがデジタル化されている場合に、AIによる自動解析が、様々な役に立つ分析結果を出してくれるというのが、重要なポイントである。

これらの解析により、社員のエンゲージメントやチームのパフォーマンスを測るようなサービスもあれば、健康状態を調べたり、人材育成の方針をアドバイスしてくれるものまで、多種多様なサービスが展開されている。これらのサービスを上手く使いながら、自社の戦略に合った活用方法を上手く見いだせた企業が、今後伸びていくものと考えられる。


<参考>

  1. AIは日本の人事部の仕事をどこまで変えたのか(ダイヤモンド・オンライン)
    http://diamond.jp/articles/-/132188
  2. 【人事×AI】誰でもすぐに使えるAIエンジンがスゴい!人事にどう役立つかを考えてみた(HR NOTE)
    https://hcm-jinjer.com/media/contents/b-contents-hitoteku-aisquare-0415/
  3. 人工知能(AI)とビッグデータが、人事を『科学』にする。勘と経験に頼らず人を選ベる仕組みとは(ハフィントンポスト日本語版)
    https://www.huffingtonpost.jp/enjapan-success/big-data_a_23303409/
  4. 人事業務を人工知能で効率化(日経ビジネス)
    https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/041700251/ 
  5. HRテックとは何か? 人事・採用・人材育成はどう変わる? 注目の3分野16製品を解説(ビジネス+IT)
    https://www.sbbit.jp/article/cont1/34497
  6. 米Workday、機械学習ベンチャーRallyteamを買収、「AIで人材活用」が重要テーマにhttps://it.impressbm.co.jp/articles/-/16231
  7. 今後伸びそうなアメリカのHRテック(HR Tech)サービス10選【2017年版】(mitsucari公式ブログ)
    https://mitsucari.com/blog/hrtech_america/
  8. 人材採用から人材管理まで AI×HRのサービス10選!(Aidemy Tech Blog)
    http://blog.aidemy.net/entry/2017/11/19/115205
  9. 採用を論理化する ~人事データを最大限に活かすピープルアナリティクスの実践~(前編)(HR TECHNOLOGY PRO)
    http://www.hrpro.co.jp/hr_tech/article047/
  10. 採用を論理化する ~人事データを最大限に活かすピープルアナリティクスの実践~(後編)(HR TECHNOLOGY PRO)
    http://www.hrpro.co.jp/hr_tech/article048/
  11. ドイツ発の“AI人事”は何が違う? 企業成長にAIが役立つ理由(AI+ by ITmedia NEWS)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1708/07/news016.html
  12. AIで離職率を半減させた会社(日本経済新聞オンライン)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33110240Y8A710C1000000/
  13. AIを活用した海外HRTechサービス6選(HR PRO)
    https://www.hrpro.co.jp/agora/4272
  14. コグニティ株式会社
    http://cognitee.com/indexJ.html
  15. Veriato
    https://www.veriato.com/
  16. GROW360
    https://grow-360.com/ja/
  17. Bunch
    https://www.bunch.ai/