海外でのディープラーニング活用成功事例5選

AIのなかでも代表的な手法であるディープラーニング。今回は、海外でのディープラーニングの成功事例を紹介する。

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ディープラーニングが注目を浴びて5年ほどだが、その活用事例の幅広さには目を見張るものがある。そこで、ディープラーニングを活用した海外の成功事例を5つ紹介する。

AI(人工知能)ーディープラーニング

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PhotoMath(MicroBlink社)のディープラーニング活用事例

画像認識の自動化を追究するマシンビジョン技術に従事するクロアチアの企業がMicroBlink社だ。スマートフォンで数式を読み取り、その答えを求めるソフトが、MicroBlink社の開発したPhotoMathである。

文字を画像から読み取る技術はOCR(Optical Character Recognition)と呼ばれ、長年研究されてきた分野だ。文字が表示された画像ファイルが含むのは、文字に関する情報ではなく、個々のピクセルの情報だけだ。そこで、画像から文字情報を抜き出す必要がある。これがOCRの骨子だ。

OCR技術を飛躍的に増大させたのが、ディープラーニングによる画像認識だろう。ディープラーニングの第一人者であるカナダのトロント大学のヒントン教授が2012年の画像認識コンテストで驚異的な正答率で優勝したことは、世界に衝撃を与えた。

話をPhotoMathに戻すと、ディープラーニングが脚光を浴びた2012年にMicroBlink社はスタートアップ企業としてスタートした。2014年にiPhoneなどに搭載されるiOS用に、2015年にはAndroid OS用にPhotoMathをリリースした。当初は算術式やべき根、二次方程式や不等式に対応するのみだったが、現在では微分や積分、三角関数などにも対応しているという。

操作方法はいたって簡単。スマートフォンに搭載されたカメラで問題を写すだけで、一瞬にして答えが表示される。国立情報学研究所が開発したAIにより大学入試センター試験を受験させ偏差値57.1を記録したことは記憶に新しいが、数学の問題でもPhotoMathを使えば、簡単に問題を解けることが実証されたかたちだ。

Descartes labsのディープラーニング活用事例

衛星から撮影された地球の画像から情報を取得し、農業分野に売るのがDescartes Labsである。ニューメキシコ州に本拠を構えるDescartes Labsは、ロスアラモス研究所からスピンオフした企業だ。

宇宙空間には、地球観測衛星が数多く飛んでいる。Google Earthを利用した人なら、衛星から撮影された画像を非常に高解像度で提供されているのをご存じだろう。可視衛星画像だけでなく、赤外線などを含む画像などさまざまな撮影が、地球観測衛星から行なわれている。

このような衛星画像データは無料で使用可能で、ホームページから簡単にダウンロードできる。そのため、衛星画像データを活用するビジネスも登場している。

Descartes Labsが取り組むのは、地球全体の農業の調査だ。米国など一部では農業のデータが充実するが、地球規模だと十分とはいえない。そこで地球観測衛星からの画像を利用し、データを取得する。ビッグデータを扱うため、処理にはディープラーニングなどの機械学習が不可欠だ。

Descartes Labsは、衛星画像の分析にGoogleクラウドプラットフォームを利用している。一から大規模なシステムを開発することなく、比較的低コストでAIを活用できるのは強みである。ディープラーニングを活用し、農作物の健康状態や生産量を予測可能だという。

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Enliticのディープラーニング活用事例

画像により病巣を検出する画像診断支援は、1980年代に導入されはじめた。人工ニューラルネットワークとAIベースのコンピュータ支援(CAD)検出ソフトが導入され、X線写真やCTスキャンから肺結節を検出したり、良性か悪性かなどを判別可能だ。画像認識とディープラーニングの親和性が高いのは先述のとおりだが、日本でも厚生労働省が保険医療分野で、AIに基づいた画像診断支援を重点化している。

サンフランシスコに本拠を構えるEnlitic社は、患者の病歴や兆候、医療画像といった医療情報に基づいてデータ分析によって、適切な処置を行なえることを目的としたベンチャー企業だ。データ分析にはディープラーニングを用いるが、従来のCADとの違いは、一度の多くの病気を診断できる点にある。初期の症状や治療計画、病気のモニタリングまで一挙に可能だ。

Enlitic社は肺に位置する悪性腫瘍を検出するシステムを開発した。レントゲン写真の解像度は3000×2000ドットであるのに対し、悪性腫瘍の大きさはわずか3×3ドットにすぎない。写真に映し出された影が悪性腫瘍であるか判定するのは困難な作業だ。

Enlitic社が開発したディープラーニングを搭載したシステムに、放射線技師が撮影した悪性腫瘍の有無や場所を記した画像を大量に学習させた。肺癌の画像データベースを使って検証したところ、放射線技師よりも高い精度で肺癌の検出が可能になった。このシステムを使用すると、21パーセントの作業のスピード化が可能だという。

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Trusting Socialのディープラーニング活用事例

金融業務とICT(Information and Communication Technology)とが結びついたのが、フィンテックだ。フィンテックに大きな影響を及ぼしたのが、人工知能である。ロボアドバイザーや株価予測など、人工知能を活用した事例も多数存在する。

銀行業務のひとつに融資審査がある。企業や個人に投資する際に、債務不履行に陥らないか、あるいはデフォルトになる確率はどのくらいなのかを踏まえる必要がある。金融機関もまた、リスクに見合うだけのリターンを求めている。

「クレジットスコアリング」と呼ばれる、さまざまな要因からデフォルトの判別を行なうモデルが、金融分野で研究されている。2000年以降、金融商品の多様化や融資の拡大により、クレジットスコアリングの需要が高まったという。

クレジットスコアリングには、高い精度が求められる。そこで登場するのが、ビッグデータを活用しクレジットスコアリングを実施する方法である。

クレジットスコアリングには、ビッグデータが欠かせない。アメリカをはじめとする先進国では、個人の信用度を判定するだけの情報が溢れている。他方インドやベトナムといった発展途上国では、信頼できる情報が十分記録されていない。事実ベトナムでは、クレジットの履歴をもつ国民がたった5パーセントと不足し、クレジットスコアリングさえできない状況だという。

Trusting Socialはニューヨークに本社を構えるフィンテックのスタートアップ企業だ。Trusting Socialが目をつけたのが、SNSやモバイルデータを活用し、クレジットスコアリングを実行する。ディープラーニングの詳細をTrusting Socialは明らかにしていないが、通話履歴や誰と通話したか、水道光熱費などから収入を見積り、クレジットスコアリングを行なうという。

これにより融資を判定できるだけの情報を十分もちあわせていない95パーセントのベトナム国民に対しても、クレジットスコアリングが可能になる。

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Gastrographのディープラーニング活用事例

ICTによるデジタル革命により、従来のトップダウン型のマスマーケティングから、データドリブン型のデジタルマーケティングへと変化しつつある。ビッグデータを活用して、潜在的な顧客のニーズをつかみ、最大限の収益を求めるのが、デジタルマーケティングの目的だ。

顧客のニーズをつかむには、その心理に着目する必要がある。近年、知覚や知識、記憶といった知覚資源の研究が進み、これらによって消費者の行動のモデルが作成される。

ニューヨークのアナリティカル・フレバー・システムズ社は、データサイエンティストのジェーソン・コーエン氏が創業した企業だ。地ビールが好きで、ビールの仕込みが思い通りにならないのを悩んでいたという。そこで、ビッグデータからビールの味のよしあしを判定するシステムの開発に乗り出した。それがGastrographだ。

味の判定といっても、化学的な情報を用いるのではなく、消費者の主観的な味覚に基づいて実施する。消費者の味覚と嗜好をモデル化することで、消費者の嗜好の変化を理解し、将来のトレンドになるであろうフレーバーを予測するという。

食品や飲料の新製品の95パーセントは発売から3年以内に市場から消えるという、厳しい環境だ。Gastrographにより、顧客の心を掴む食品や飲料の開発が可能になるだろう。

まとめ

以上、海外の企業が試みるディープラーニングの成功事例を5つ紹介した。取り上げた多くの企業がスタートアップであることも注目すべき点だ。アイディアさえあれば、Googleなどが提供するクラウドで、AIを容易に利用可能なのも大きい。

またディープラーニングが得意とした画像認識でのAI活用だけでなく、クレジットスコアリング等の従来手法の改良にもディープラーニングが役立つ点も見逃せないだろう。

AI(人工知能)ー海外ディープラーニング事例

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<参考>

  1. 数式をスマホで写すと解法を教えてくれて勉強がはかどること間違いなしの無料アプリ「PhotoMath」(Gigazine)
    https://gigazine.net/news/20180325-photomath/
  2. 数式をカメラで写すと答えがわかる『PhotoMath』が便利すぎ! (AppBank)
    http://www.appbank.net/2015/06/10/iphone-application/1040579.php
  3. From OCR to DeepOCR (MicroBlink)
    https://microblink.com/blog/from-ocr-to-deepocr
  4. 国の研究所からスピンアウトしたスタートアップDescartes Labsは衛星画像の分析データを農業分野などに売る (TechCrunch)
    https://jp.techcrunch.com/2015/05/02/20150501deep-learning-image-analysis-startup-descartes-labs-raises-3-3m-after-spinning-out-of-los-alamos-national-labs/
  5. Descartes Labs: Advancing global food security (Google Cloud)
    https://cloud.google.com/customers/descartes-labs/
  6. ディープラーニングの肺がん検出率は人間より上、スタートアップの米Enlitic (日経 XTECH)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/15/061500148/122400043/
  7. Enlitic
    https://www.enlitic.com/
  8. Trusting Social Data: A Credit Scoring Based on Mobile and Social Media (Medium)
    https://medium.com/@FintechSIN/trusting-social-data-a-credit-scoring-based-on-mobile-and-social-media-a0f3cabeee04
  9. スマホやSNSの個人情報からAIが信用力を判断!~ベトナムのFintechクレジットスコアリング~ (アプリ開発ラボマガジン)
    https://vitalify.jp/app-lab/20181124-vietnam-fintech-credit/
  10. 未来のフレーバーを予測する食品&飲料産業向けAIプラットフォーム (Cornes Technologies)
    https://www.cornestech.co.jp/tech/webmagazine/wm-1708/
  11. AIプラットフォーム Gastrograph (Cornes Technologies)
    https://www.cornestech.co.jp/tech/products/products_analyticalflavorsystems-1/
  12. おいしい地ビールはビッグデータとGPUが作る (日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO91526710Z00C15A9000000/
  13. ディープラーニングを活用する世界の企業 (マイナビニュース)
    https://news.mynavi.jp/article/deeplearning-5/
  14. 「文字認識にAIを搭載した汎用画像検査ソフト」(画像ラボ 2017年10月号)
  15. 「時代はここまで来ている!無料で使える衛星画像の世界」(Interface 2017年10月号)
  16. 「がんの総合的診断:肺がん類似画像検索システム」(医学のあゆみ Vol.267. No.4.)
  17. 「階層ベイズ・モデルによるクレジット・スコアリング・モデル」(日本統計学会誌 Vol.42 No.1)
  18. 「AIに学習させやすい知覚データの取得方法」(人工知能 Vo.33 No.2)