AI人材の給料は億を超える? 世界のAI人材争奪戦の今

AI(人工知能)を研究・開発する人材が70万人足りないという。「AI世界一」を狙う米中は激しい人材争奪戦を繰り広げているが日本の対応は後手に回っている。

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AI(人工知能)はとても便利な技術だが、一般の人が直感的に便利さを感じるにはもう少し時間が必要だ。時間がかかるのは、AIがとても難しい技術で、誰でも開発できる代物ではないからである。

だからAIの発展には、特殊な知識と技術を持った「AI人材」が欠かせない。

しかしAI人材は簡単に育成できるものではない。AI人材は世界で100万人が必要とされているがいまは30万人しかいない。AIを教える人も不足しているからだ。

米中はAI人材の争奪戦を繰り広げているが、日本の対応は遅れ気味だ。

AI仕事

そもそもAI人材とは。IT人材とは異なるのか

AI人材はIT人材とは区別されるが、ITの知識が欠かせないのはいうまでもない。「システムエンジニアやプログラマーといったIT人材がAIのスキルを身につける」というのがAI人材のイメージだろう。

文部科学省はAI人材を次のように定義している。

・AIの問題を解決する人材

・AIを具現化する人材

・AIを活用する人

ひとつずつみていこう。

AIの問題を解決する人材

AIの問題を解決できる人材には、AIの先導的知識を有することが求められる。具体的には、知能情報学、機械学習、自然言語処理、知覚情報学、コンピュータービジョン、音声情報処理、知能ロボティクスなどだ。

また、より基礎的な研究に携わる者は、数学や統計学といった知識が必要になる。

AI研究はまだ黎明期なので、玉石混交の部分もあり、価値ある知見の選別も必要になる。AIの問題を解決できる人には、いまある技術や研究テーマの価値の判定も求められる。

AIを具現化する人材

AIは将来的には正真正銘の「知能」になり自律的に考えるようになるかもしれないが、現段階ではまだツールにすぎない。

ツールである以上、やはり人間がAIの使い道を考えないといけない。そのため、AIを具現化できる人が必要になる。

AIを具現化する人材には、コンピュータサイエンスの知識に加えて、データベースやネットワーク、IoT、プログラミングなど、従来のIT技術が必要になる。

AIを活用する人材

AIを具現化できたら、それを社会で活用しなければならない。AIを活用する人材はまず、社会のAIニーズを把握する必要がある。一般の人にとってAIは未知の存在なので、そもそもAIで何ができるのかわからないからだ。

AIが活用できる分野は、ものづくり、乗り物、健康、医療、介護、インフラ、農業、サイエンス、防災、防犯、スマートコミュニケーション・エネルギー、学習、情報セキュリティ、ウェブ、サービス業など幅広い。

AIを活用する人材はこの広大なエリアからニーズを拾うわけだが、まだ発展途上のAIがそのニーズに応えられるかどうかの見極める力も必要になる。

AIを活用する人材は、膨大な量の情報と格闘しなければならないだろう。2016年に世界でつくられたデータ量は16兆ギガバイトだったが、これが2025年には163兆ギガバイトへ10倍になる。この量の情報を処理・分析するにはAIの力が欠かせない。

そしてAIを活用する人材には、「163兆ギガバイトの情報をAIで分析して何が得られるのか」という全体像のデザインが求められる。

どれぐらい足りないのか。なぜ足りないのか

2017年12月、中国のネットサービス大手テンセントの研究機関であるテンセント・リサーチ・インスティテュートが「グローバルAI人材白書」を発表した。

それによると、世界の企業は100万人のAI人材を必要としているが、AI研究や開発に携わっている人は30万人しかいない。

70万人も不足しているのだが、AI研究を手がけているAI人材育成機関は世界に370しかなく、そこから輩出されるAI人材は年2万人にすぎないのである。

AI人材が不足しているのは、AI人材を育成できる「AI人材の先生」が少ないからだ。グローバルAI人材白書によると、AI開発をリードできるほどの人材は1,000人足らずしかいない。先生がいないのでAI人材志望者は効率よく学ぶことができない。

世界のAI人材育成はどのようになっているのか

AI人材の育成に力を入れているのは、AI分野の2大巨頭のアメリカと中国である。

中国のネット通販最大手アリババやテンセントは、アメリカで開かれるAI学会に足しげく通い、優秀な学生を獲得しようとしている。

中国がアメリカで「青田買い」をするなら、というわけでもないのだろうが、米グーグルは2018年春に、北京にグーグルAI中国センターを開設した。そこで堂々とAI研究者を募集している。

アメリカも中国も、国の威信をかけてAI開発に取り組んでいる。アメリカ政府は2018年5月に、ホワイトハウスで世界のAI研究者を集めてAIサミットを開いた。

中国政府は2017年にAI発展計画を発表し、「2020年に先進国に追いつき、2030年に世界のリーダーになる」と宣言した。

米中のAI人材争奪戦は、「札束が飛び交う」と表現されるほど熾烈だ。フェイスブックの「データサイエンティスト」という職種の年収は4,500万円に及ぶという。グーグル、アマゾン、IBMも似たような金額を提示しているが、それでも採用に苦労している。

AIの2強 人材争奪戦

日本のAI人材育成はどれくらい遅れているのか

日本のAI人材確保やAI人材育成はどれくらい遅れているのだろうか。

深刻なのは処遇面だ。IT人材の平均年収は、アメリカの1,200万円に対し、日本は600万円でしかない。

またアメリカのAI・IT企業は、AI・IT人材に対し、全産業の平均年収の2.4倍を支払っているが、日本では1.7倍でしかない。中国に至っては7~9倍に達するとみられている。

アメリカと中国は明らかにAI人材を特別視しているのに対し、日本のAI・IT業界にはいまだに年功序列の風潮が残っている。

経済産業省がIT企業の社員にアンケートを行ったところ、「能力・成果による違いはあるが、ベースは年功序列」と答えた人は全体の5割に及んだ。「完全な年功序列の給与制度」と答えた人も7%いた。

AI人材であっても特別優遇しない姿勢は日本企業らしいといえばそれまでだが、世界で通用する日本人のAI人材は、その給与体系では満足しないだろう。

つまりAI人材不足問題を解決するには、IT企業のあり方から改善していかなければならないということである。

ZOZOTOWNは「年収1億円払う」と宣言

AI人材の給与問題に一石を投じた日本企業もある。

「ゾゾスーツ」というITを駆使した新たな服の選び方を提案する、衣料品ネット通販大手のスタートトゥデイだ。同社はファッションサイトZOZOTOWNを運営している。

同社の前澤友作社長が2018年4月、ツイッターで「7人の天才と50人の逸材求む。天才には最大1億円の年報酬。スタートトゥデイテクノロジーズ始動。」と呼び掛けた。

スタートトゥデイはいま、「70億人のファッションを技術の力で変える」ことを目標にして、ビッグデータの活用やアパレルのIT化に力を入れている。

確かにアパレル業界の常識をAIやITでひっくり返すことができれば、年収1億円は高くない金額かもしれない。

トヨタはアメリカの国防関係者を副社長にした

トヨタ自動車は2015年に、米シリコンバレーに、AIを専門に研究するTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)社をつくった。ここのCEO(最高経営責任者)に、アメリカ国防高等研究計画局という機関のギル・プラット氏という人物を招聘した。さらに2018年1月、プラット氏を本丸・トヨタ自動車の副社長級に昇格させたのである。

プラット氏は、アメリカの国防機関でAIのプロジェクトを率いていた人物である。

トヨタは2015年からの5年間で、TRI社のAIを含む自動運転車技術の研究・開発に1,200億円を投入する。

TRI社にはもうひとつ狙いがあって、それはマサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学など、世界レベルのAIの知を吸収することだ。

TRI社はプラット氏の人脈やカリスマ性で、200人の人材を集めるとしている。トヨタ自動車の豊田章男社長は、プラット氏のことを「ロボットやAI開発の知見や人脈で余人をもって代えがたい」と称賛している。

トヨタのAI人材確保戦略は、アメリカに乗ることのようだ。日本の文科省が国内のAI人材不足に危機感を募らせているくらいなので、当然といえば当然の行動である。

文科省のAI人材育成戦略とは

文科省などは2017年3月、「人材育成タスクフォース最終取りまとめ」という資料を公表し、AI人材を育成する具体的な取り組み策を示した。

文科省が優先的に求めるAI人材は、即戦力になり得る人である。そこで同省は、現在AI開発に従事している社会人を対象に、体系的な知識を習得させる方針だ。

彼らが日本産AI開発のリーダーになり、その後、大学と企業との共同研究や、OJTによる人材育成などを進めて裾野を広げていく。

政府は財政的な支援を行う。産学官連携を推進し、企業による大学への投資を3倍にする目標を持っている。そのほか、若手研究者の処遇改善、投資ファンドの設立、AIチャレンジコンテスト、人材育成プログラムの考案などに取り組む。

米中のAI政策をみるまでもなく、国の支援なくしてAI分野で日本が勝つことはできないだろう。

まとめ~深刻な世界競争

経済力で日本が中国に抜かれてから大分時間が経つが、中国との差は広がる一方である。AI開発では米中が2強で、日本は3位に入っているかどうかもあやしい状況だ。

「日本はITで世界をリードしていたからAI時代も乗り切れる」と考えていると、さらに米中に引き離されていくことは間違いない。両国に追いつくには、企業や政府による積極的なAI人材投資は欠かせないだろう。


<参考>

  1. AI人材争奪、世界で70万人不足 日本勢は米中に後れ(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32164560T20C18A6MM8000/
  2. 人材育成タスクフォース最終取りまとめ(文部科学省など)
    http://www.nedo.go.jp/content/100862415.pdf
  3. トヨタがAIのトップ研究者を獲得、米国新会社に5年で10億ドル投じる(日経コンピュータ)
    https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/14/346926/111700380/
  4. トヨタはギル・プラット博士に何を託すのか!?──日本最大の自動車メーカーの熱心な取り組み(GQ)
    https://gqjapan.jp/car/story/20170613/the-100-heads-up-Issues-012
  5. 前澤友作ツイッター
    https://twitter.com/yousuck2020/status/980652290645217280
  6. AI時代に生き残る人たち 私たちは“AI人材”を目指すべきなのか(ITmedia)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1806/21/news033.html
  7. 《2017全球人工智能人才白皮布丨解世界顶级AI牛人的秘密(Tencent Research Institute)
    http://www.tisi.org/4960