中国の小売はすでにAIを組み込んでいる。【アリババの構想とは】

中国のネット通販大手、アリババが新しい小売業の形「ニューリテール」構想を提唱している。AI(人工知能)を武器に独自の経済圏を築こうと目論んでいる。

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「日本の小売業は中国のAIに学ぶべきことが多い」
電子立国ニッポンとしては不名誉なことに聞こえるかもしれないが、日本のAI(人工知能)技術はアメリカに遠く及ばないだけでなく、中国にも水を空けられている。
小売業の「AI度」を比較すると、日本企業は人の業務の一部をAIに置き換えるレベルだが、中国では小売業の一大変革をAIで成し遂げようとしている。
中国のネット通販大手、アリババが展開している「新小売(ニューリテール)」構想に注目してみたい。

ai(人工知能)-小売店舗

ニューリテールはオムニチャネルと似ているが違う

アリババのジャック・マーCEOは、ニューリテールのことを次のように定義している。
「スーパーや百貨店などの伝統的な小売業でもなく、現行のEC(ネット通販)でもない、新しい小売りのスタイル」
しかしこのコンセプトは、日本のセブンイレブンなどが展開しているオムニチャネル構想と似ている。オムニチャネルも、ネット店舗とリアル店舗の融合を目指している。
ではニューリテールとオムニチャネルは何が異なるのだろうか。

流通革命を起こしリアル店舗の魅力を高める

日本では流通が小売ビジネスの拡大のボトルネックになっているが、日本の25倍の国土を有する中国の流通課題の深刻さはその比ではない。
そこで中国・アリババのニューリテール構想では、流通革命を起こそうとしている。

ECをただ拡大させるだけでは、流通の混乱も流通のコスト増も拡大してしまう。そこでアリババは、これまで蓄積した顧客データを活用することにした。アリババのユーザーは6億人ともいわれていて、これだけのビッグデータがあればどの地域でどの商品が売れるかがわかる。
アリババは、ある商品が売れそうな地域のリアル店舗に対象商品を在庫するようにした。

ネット通販は、購入前に商品を手に取ることができず、顧客体験が薄くなるという欠点がある。
しかしアリババのニューリテール構想であれば、リアル店舗で買い物を実体験できる。
つまりアリババは、ビッグデータ分析によってリアル店舗の魅力を向上させようとしているのである。ネット通販がリアル店舗を敵視するのではなく、飲み込んでしまおうというのだ。

AIを含むテクノロジーを駆使する

アリババのニューリテールは、ビッグデータの活用以外でもテクノロジーを駆使している。
その一例が無人店舗の導入だ。無人店舗は、店内にセンサーと監視カメラを配置して、客が手に取った商品を認識して支払いを済ませる仕組みになっている。支払いはクレジットカードで行うが、アリババにはすでにネット決済システム「アリペイ」があるからそれを応用できる。

アリババの無人店舗が優れているのは、商品認識をAIにさせているところだ。入店客の確認はAIの顔認証システムを使い、商品の認識はAIの画像認識技術を使う。
他社の無人店舗には、商品にICタグをつけて、無人レジがそのICタグを読み取る方式を採用しているところもあるが、これだとすべての商品にICタグをつける作業が必要になるし、ICタグの費用も必要だ。
その点AIなら、一度商品を認識させれば、それ以降は手間がかからない。

ニューリテールは、流通をスムーズにして、リアル店舗の魅力を高めてECとの相乗効果を生み、さらに無人店舗で新たな小売のスタイルを提供する。
しかしニューリテールは、これだけにとどまらない。アリババは、他の企業を巻き込んでニューリテールを推進しようとしている。

AIクラウドでニューリテールをさらに拡大させる

アリババのニューリテール構想の大きさは、ネット店舗とリアル店舗の融合を、自社だけで進めるのではなく、他の小売業者も巻き込んで進めようとしているところにある。
アリババは、「アリババクラウド」というクラウドサービスを展開していて、他の小売業者にも提供している。
アリババクラウドはいまやアマゾンやグーグルのクラウドサービスと遜色ないほどにまで成長している。

アリババクラウドの強みは、AI技術を搭載している点だ。通常のクラウドサービスは、ユーザー企業からデータを預かり、ユーザー企業にシステムやソフトを貸与している。これではユーザー企業は、データとシステムサーバを「自社に置かないで済む」というメリットしか享受できない。
しかしアリババクラウドにはAIが搭載されているので、預かったデータを分析して最適解をユーザー企業に提供することができる。

市と協力して交通環境を改善させアリババのビジネスを拡大させる

アリババが本社を置く杭州市(中国浙江省)もアリババクラウドのユーザーのひとつだ。
杭州市は道路の混雑状況を撮影した監視カメラ映像やタクシーの運行記録、公共交通機関の利用者のICカード利用記録、道路の信号機の管理システムのデータを、アリババクラウドに集約している。
アリババクラウドのAIはこれらのビッグデータを解析し、渋滞予測や事件事故の検知を杭州市に提供した。杭州市はその情報を使って防災体制を見直し、その結果、救急車と消防車の到着時間を50%短縮させた。また杭州市内の道路の通行速度が15%上昇し、渋滞緩和に寄与できた。

都市部の交通環境が改善することは、小売業の流通事情の改善に直結する。
つまりアリババクラウドは、それ自体で収益を上げつつ、同時に都市情報を利用してニューリテールを拡充させているのである。

メーカーにまで手を伸ばすアリババ

アリババクラウドはメーカーも利用している。中国のタイヤメーカー、中策ゴムは、アリババクラウドのAIを使って、研究開発、工場のライン、下請け企業からの供給、販売網を整備した。これにより品質の指数が5%向上したという。
ニューリテールは「新小売」というとおり、メーンは「売ること」だ。ただ小売は商品があってこそ成り立つ。つまり小売セクションだけ効率性を高めてビジネスの拡大には限界がある。そこでメーカーの効率化を支援すれば、生産セクションも高効率化でき、それがニューリテールの拡大につながる。

アリババが中心にいる

アリババのニューリテール構想を整理しておこう。
ここにパワポ資料を入れてください(ライター、アサオカ2018.10.21)

アリババは最新のAIビッグデータ解析やAIクラウドを、自社で活用したり他社に提供したりている。
しかしこの概念図が示しているとおり、アリババからの「ギブ(give)」は、必ずアリババのニューリテールに返ってきている。つまりアリババのギブは、そのまま自らの「テイク(take)」になっているわけだ。
アリババは小売業とその周辺をAI技術やビッグデータやクラウドなどで引きつけ、自身をその経済圏の中心に置こうとしているのである。
これができるのは、小売業でありながらネット企業でありIT企業であり、そしてAI企業であるアリババだけかもしれない。

AI(人口知能)-アリババ

まとめ~高い技術と大きな構想力〜

日本の小売業がアリババのニューリテールから学べることは、「高い技術力と大きな構想力の両方を持つ必要がある」ということではないだろうか。
日本にはイオンやセブンイレブン、楽天といったメード・イン・ジャパンの小売の巨人がありながら、アマゾンの急拡大を許してしまっている。
技術でも構想力でも中国に学ぶべきところは大きいといえそうだ。


<参考>

  1. 中国アリババの”ニューリテール戦略”は小売業界をどう変えていくのか?!(Digital Innovation Lab)
    http://digital-innovation-lab.jp/alibaba-newretail/
  2. 業種別展開図る中国アリババのAIプラットフォーム「ET Brain」、スマートシティから製造、医療、オリンピックまで(Digital Innovation Lab)
    http://digital-innovation-lab.jp/etbrain/
  3. オムニチャネル(コトバンク)
    https://kotobank.jp/word/%E3%82%AA%E3%83%A0%E3%83%8B%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB-189781