端末をネットワークで接続し、収集したデータを効率化等に生かすIoT(モノのインターネット)。IoTはAI(人工知能)を活用することで、製造業や流通業などさまざまな業種に応用可能だ。
そこで、AIとIoTを活用した事例をいくつか紹介したい。
続きを読むAIとは?
人工知能(AI)とは、人間の作業に頼ることなく自律的に知的作業を行なうプログラムを指す。直観的に理解しやすいのが、チェスや囲碁といったボードゲームを行なうプログラムだろう。Google傘下のDeepMind社が開発した囲碁プログラム「アルファ碁」が2016年3月に囲碁の世界チャンピオンに勝利したことから、AIが世間に注目されることになった。このアルファ碁には、対局を行なうことで碁石の最適な置き方を学習する「強化学習」が用いられている。つまり、碁のルールのほかに、囲碁棋士や開発者が「このように碁石を置くのが最善だ」のようにプログラムされておらず、アルファ碁は自律的に最適なゲーム進行が可能なのだ。
これ以外にも、防犯カメラから不審者を特定したり、ヒトの発話を認識したりするなど、AIはさまざまな応用を期待されている。
IoTとは?
他方IoTを訳すとモノのインターネットだ。モノとは、小型計算機が内蔵された電子機器端末を指す。これらの端末がネットワークで接続されるのが、IoTだ。ネットワークに接続されると、ほかの端末やサーバーなどの計算機にアクセス可能なことだけが、IoTのメリットではない。端末には、外界からの情報を収集できるセンサーが搭載されている。このセンサーから収集されたデータがクラウドコンピューターに送信される。クラウドコンピューターでの計算処理は元の端末だけでなく、ネットワークに接続されたあらゆる端末に送受信可能なため、情報の利用範囲が格段に広がるのだ。スマートスピーカーを思い浮かべるといいだろう。スマートスピーカーに向かって行なわれる発話はクラウドコンピューターで認識されるが、その処理内容はスマートスピーカーだけでなく、ネットワークに接続された家電に送信可能だ。そのため、スマートスピーカーから家電を音声操作可能になるなど、利便性が高まるのだ。
AI×IoTで新たな価値を創出
AIとIoTとは相補的な関係にある。AIといっても、近年注目されているのがディープラーニング(深層学習)だ。大量のデータを学習させることで、人間以上の知的判断が可能になる。アルファ碁に搭載された強化学習のように自ら学習用のデータを生み出せるAIもあるが、成功事例が多いのが参照するデータを大量に学習させる方式だ。そのため、十分なデータなくしてAIが威力を発揮できない。
他方IoTにおける高度な判断を支えるのが、クラウドコンピューターでの処理だ。ムーアの法則が示すようにハードウェアは年々進化するものの、処理を行なうソフトウェアがなければただの箱だ。つまり、ネットワークに端末を接続させるだけでは、従来のインターネットの機能と大差ない。
このようにAIとIoTは、お互いの足りない部分を補うことで、実力が十二分に発揮される。AIが処理すべきビッグデータはネットワークに接続された「モノ」から収集し、IoTにおける高度な判断のためにAIが活用されるのだ。
AI×IoTの事例
センサーで取得した情報を農業に活用(日立)
日本の農業において、少子高齢化による後継者不足や低収益性といった問題により、生産性向上に向けた取り組みが急務になっている。日立は、リモートセンシング技術をもとに、農業情報管理システムの研究・開発に取り組んでいる。農業情報として近年注目されているのが、宇宙空間を飛行する人工衛星からの映像だ。人工衛星は従来、天気予報や地形データ等を収集していた。これらのデータは大量なため、それを処理できる計算機は限られていた。近年、計算機の高速化やAIといったビッグデータを処理できるソフトウェアが誕生したことから、さまざまなシーンに人工衛星データが利用できるようになった。農業もそのひとつで、日立もまた人工衛星やドローンから撮影したデータをAIで処理されるシステム「統合型農業GIS」で、農地管理などが可能だ。
活動量計で作業状態を計測(東芝)
健康管理などに利用される活動量計は、ビジネスへの応用も可能だ。東芝は活動量計を作業員の動きをとらえるために活用、作業の効率化を図ろうとしている。活動量計に代表されるウェアラブルデバイスは、腕に巻きつけるだけでいいので、作業の邪魔にならないのも大きい。X軸、Y軸、X軸という3方向の加速度を捉えられるセンサーを使い、台車移動や歩行、手作業、静止といった4種類の作業内容が推定可能だ。これらの情報はたった1日で分析され、標準作業工数とのギャップを把握し、改善が行なわれる。作業エリアを分類し作業状態を計測すれば、どこにギャップが存在するかが詳細にチェックできる。
配送ルートの最適化や自動運転(ロボネコヤマト)
ヤマト運輸が運用する配送ルート最適化システムがロボネコヤマトだ。近年運送業で問題視されているのが、受取人の不在だ。不在の場合には、再びドライバーが配送する必要があるため、コストがかさむ。そのため、配送の最適化が急務だ。ヤマト運輸はDeNAとともに、ロボネコヤマトを開発し、宅配便配送の実証実験を昨年実施した。
配送ルートの最適化が第一弾ならば、無人配送は第二弾といえよう。荷物の配達前にアプリやパソコンから希望する時間と場所を入力し、無人配送車が注文した荷物を運搬する。実証実験では時速10キロメートルと低速だが、完全自動運転が実現されれば、無人で宅配できるサービスが完成するなど、コスト削減にもつながる。
需要予測で最適な棚卸を実現(NEC)
NECは、製造、卸、物流、販売といったバリューチェーンにおける需要と供給を最適化するサービスを研究・開発している。最適な在庫管理により、無駄のない生産へとつながる。とりわけ、食品ロスの問題は大きい。食品には賞味期限が存在するため、賞味期限が切れると破棄される運命にある。食品ロスを解消することは、単に無駄な生産を抑えるだけでなく、発展途上国などの食糧不足の現状と照らし合わせて望ましい。また日本も自給率が低いことから、できるだけ無駄のない棚卸が必要とされるだろう。
NECが開発したNEC the WISEと呼ばれるAIシステムには、混合学習が用いられている。混合学習は、場面ごとに法則性を導き出せることから、きめ細かい需要予測が行なえるようになる。またディープラーニング(深層学習)と異なり、予想の根拠が人間に理解できるのも大きい。
クルマやロボットの認知(NTT)
自動運転を可能にするのが、障害物や歩行者、対向車といった物体の空間認知である。深層学習の進歩により空間認知が可能になり、自動運転にも応用されるようになった。空間認知は、自動運転だけでなく、ロボットの視野やルンバのような自動掃除機にも応用可能である。NTTは、これらの基礎となる空間認知の研究・開発を行なっている。
ロボットやクルマに搭載されたセンサーは、空間認知するための外界の情報を収集する。これらのデータをAI処理するのに必要なのが、通信網だ。2020年には5G(第五世代移動通信システム)が始まる。5Gの威力は、スマートフォンなどの個人端末ではなく、クルマやロボットといった大量のデータを活用する「モノ」で真価を発揮する。通信を手掛けるNTTはグループ全体で、5Gと関連あるIoTやその処理プログラムのAIに力を入れているのだ。
顔認証で入退管理や顧客チェック(大興電子)
ビルメンテナンスや通信機器の保守事業から出発した大興電子は、防犯用カメラでの顔認証の研究・開発を行なっている。顔認証システムは、単に不審者の検出だけに役立つものではない。従業員の入退管理や、店舗へのリピーター検知にも役立つ。とりわけ、Amazon Goに代表される無人コンビニでマーケティングを行なう場合にも、これらカメラを利用した情報が重要になってくるだろう。
降雪のセンシングで効率よくロードヒーティング(エコモット株式会社)
エコモットは札幌を拠点としたベンチャー企業だ。北海道はメートルスケールの雪が降るため、雪を融かすロードヒーティングが普及している。ロードヒーティングを機能させるためには、センサーが雪を検知する必要がある。だが雨に反応する場合があるなど、最適な運用が行なえていなかったという。そこでエコモットは、「ゆりもっと」を使い降雪のセンシングを行なった。その結果、電気やガス、灯油などのコストを約30パーセント下げることに成功した。
まとめ
IoTにより、ある端末で収集されたビッグデータが、ネットワークに接続された端末すべてに活用可能になった。だが、それを処理するにはAIや通信網となる5Gの力が必要だ。各企業とも持ち味を生かして、さまざまなサービスを展開している。ベンチャー企業でもアイディア次第で独自サービスを誕生させられるだろう。5Gサービス開始まで間もなくだが、今後の展開が期待される。
<参考>
- 「ロボネコヤマト」4月24日に神奈川県藤沢市内で 自動運転車による配送の実証実験を実施(ヤマト運輸)
http://www.yamato-hd.co.jp/news/h30/h30_08_01news.html - 不在率わずか0.53%、自動運転ロボネコヤマト好評(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL4S3HYJL4SULFA009.html - ドライブレコーダーの音声、映像、センサーデータをAIが解析することで、交通事故における自動検知の精度向上に成功(NTTコミュニケーションズ)
https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2018/1003_2.html - AI/IoTの取り組み(大興電子)
https://www.daikodenshi.jp/solution/ai_iot/ - 「NECの生産拠点における需要予測の取り組み」(『NEC技報』2017年9月号)
- 「札幌ならではの”雪”の問題を解決 センシングから保守運営までIoTサービスの一貫体制で躍進する」(『月刊ビジネスサミット』2019年1月号)
- 「技術トレンド「環境認知ロボット」「プレシジョンライフサイエンス」」(『NTT技術ジャーナル』2017年8月号)
- 「装着するだけで作業内容をデータ化」(『日経情報ストラテジー』2017年2月号)
- 「日立グループにおける農業の取組み」(『電子情報通信学会技術研究報告』Vol.117, No.310)
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