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AIを導入している企業は業務改善に着々と成功している

ビジネス界がAI(人工知能)に期待するのは、業務の効率化だろう。退屈な仕事をAIで処理できたら人は創造的な仕事に集中できる。AI業務のいまを探った。

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ビジネスパーソンのなかには、「AI(人工知能)は多くの人が仕事を奪うと言われてきたが一向にその気配がない」と感じている人も少なくないだろう。AIがチェスや囲碁の世界チャンピオンを破ったニュースを聞いたころは、事務仕事くらい楽々こなせそうなイメージがあったが、そこまで便利になっている印象もない。

しかしAIはいま、人々に気づかれないようにオフィスに入り込み、業務を淡々とこなしている。目立たないだけで、AIを導入している企業は着々と業務効率を改善させている。

人口知能_AIの仕事

AIができる仕事は1つだけ

AIが行う業務を考えるとき、人の業務を検討するときと同じレベルで考えることはできないだろう。例えばビジネスパーソン(人)には「得意な仕事」と「苦手な仕事」がある。営業パーソンは総務の事務仕事を苦手とするが、やってやれないことはない。

しかし現代のAIはまだ、「できる仕事」と「できない仕事」に明確に分かれる。例えば、囲碁の世界チャンピオンを破ったAIはチェスをまったくできない。

つまり、1つのAIができる仕事は1つであると考えておいたほうがよさそうだ。顔認証を行うAIとチャットボットをするAIと社内システムに組み込まれるAIは、それぞれ独立している。

これが現代AIの限界である。

しかし多くの会社員は「この仕事さえなければ、もっと創造的な仕事に打ち込むことができるのに」という悩みを抱えている。しかしその仕事は重要でありボリュームもあるので、なかなか他人に任せることができない。

ビジネスシーンでのAIの活用は、そのような「重要かつボリューム感がある雑用」を処理するのに適している。

ビジネスシーンでの具体的なAI事例をみていこう。

ビジネスシーンにおけるチャットボット

株式会社ティファナイ・ドットコムは2000年に設立された、東京都目黒区に本社を置くWebとAIの会社である。同社が開発した「AIさくらさん」は接客をするコンピュータシステムで、バンダイナムコのアミューズメント施設や、イオンモール、渋谷109、みなとみらい線、セブンイレブンなどですでに客の案内係を務めている。

例えば渋谷109の「ゆう」は、縦1メートル、横70センチほどの専用モニターに映し出される、アニメ絵の若い女性キャラクターだ。来店客が専用モニターの会話ボタンを押しながら質問をすると「ゆう」が答えてくれる。その応答はほぼ人対人で、利用者を驚かせている。

例えば次のような会話が可能だ。

客「ゆうちゃんはまだ見習いなの?」

ゆう「そうなんです。まだ緊張しています」

客「お腹が空いているんだけど」

ゆう「え、お腹が空いているんですか。店内の左側にクレープやタピオカの店がありますよ」

客「おすすめのクレープは?」

ゆう「私はブルーベリーホイップが好きですが、お腹が空いているなら、厚切りベーコン・チャーハン・クレープにチャレンジしてくださいね」

質問を受けて「ゆう」が回答するまでの時間は1秒もない。会話の内容もさることながら、反応の速さも自然だ。

「ゆう」を活用すれば案内係だけでなく、営業もできそうだ。

ビジネスシーンにおけるAI経営

2007年に設立した株式会社ココペリ(東京都千代田区)はAIで経営アドバイスをする「シェアーズAI(SHARES AI)」というサービスを販売している。

販売対象は中小企業で、特に起業間もないベンチャーを想定している。

企業の継続は起業することより難しいと言われている。それは、起業家は株式会社を設立した途端に本業以外のことをしなければならないからだ。

例えば、融資の獲得、人材の雇用、就業規則の作成、助成金の申請、商標登録といった業務は、経営に大きな影響を与えるものの専門分野に特化してきた起業家が苦手とすることが多い。しかも創業間もない中小のベンチャー企業は、優秀な総務パーソンや凄腕の経理パーソンを確保することは簡単ではない。

シェアーズAIの特徴は「AIだけに任せない」ことだ。シェアーズAIは、AIと人でソリューションを提供する。

AIは経営課題の抽出に専念し、浮かび上がった経営課題を解決するのはその道の専門家(人)である。

シェアーズAIのサービスの流れは次のとおり。

シェアーズAIのユーザー(中小企業やベンチャー企業)はまず、労務データ、会計データ、給与データなどの経営データをココペリ社に渡す。

ココペリ社はAIにそれらの経営データを読み込ませる。AIにはすでに数万社の経営データが入力されているので、ユーザーの経営データの異常を発見することができる。その異常こそが経営課題となる。

例えばユーザーの会計データの数値が、数万社の会計データの傾向と著しく異なっていたら「いびつな会計をしている」ことがわかる。

AIがピックアップする課題は具体的で、例えば次のような内容になる。

「労働者が常時10人以上になったので、就業規則を届け出る必要がある」

「役員に変更があったので、変更登記が必要になる」

「〇〇といった従業員を雇用したので、△△という助成金が使えるかもしれない」

「売上の回収より仕入れの支払いのほうが早いので運転資金が必要になる。銀行からの資金調達を検討してはいかがか」

AIの仕事はこれで終わる。つまりシェアーズAIのAIは、経営者に「経営上のアラート(警告)」をするだけである。

後はユーザーの判断にゆだねられる。ユーザーである中小企業の経営者はAIが提示した複数の課題に優先順位をつけ、解決を目指す。

そしてシェアーズAIでは、ユーザーに課題に合った専門家(人)を紹介する。ユーザーはチャットで気軽に相談することもできるし、本格的に解決を依頼してもよい。

例えば就業規則が必要になれば社会保険労務士に相談できるし、資金調達なら税理士と話すことができる。

シェアーズAI事業には、弁護士、弁理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、公認会計士、税理士、中小企業診断士の8種類の専門家が所属している。

シェアーズAIのビジネスモデルは、経営者に危機意識を持ってもらうことと、専門家を利用してもらうことだ。

経営者は経営課題の1つひとつが明確になりピンポイントで専門家に相談できるので、多くの専門家を「顧問」などの形で抱え込む必要がなくなる。専門家は単発の仕事を確保できる。

ココペリ社はAIを導入することで、専門家紹介ビジネスに付加価値をつけたわけである。

人口知能_専門家

ビジネスシーンにおけるAIメール対応

ソフトバンクは「テクノマーククラウドプラス(technomark Cloud +)」というブランド名で、「AIメール」サービスを提供している。基本技術はIBMのワトソンを使っている。

AIメールは企業向けのサービスだ。コールセンターを持ち、客からメールで問い合わせを受けつけている企業への販売を想定している。

テクノマーククラウドプラスのAIメールは、導入したてのころはまだそれほど「賢くない」。導入した企業が従来持っていたFAQ(想定問答集)に沿って回答するだけだ。また、しばらくは人のオペレーターがつくことになる。

しかしAIメールは、人のオペレーターの回答を学んでいき次第に「賢く」なっていく。客から「車がパンクした」といった文章を受信しただけで、正しく「自動車のタイヤがパンクをしてユーザーが困っている」と認識できるようになる。そして「ロードサービスを手配しますので、落ち着いて車を路肩に停めてお待ちください」といった回答メールを作成しユーザーに送信するのだ。

このAIメールは、問い合わせメールの振り分けもできる。

客が送ってきた文章に盛り込まれている単語から、苦情なのか、製品の使い方の説明を求めているのか、どの製品の問い合わせなのか、などを判断する。

この機能を聞いて、「それをしてくれるだけでかなり助かる」と感じるコールセンターの責任者は少なくないだろう。というのも、クレーマーに悩まされている企業は、まずは客が怒っているのかどうかを知りたいはずだ。客が不快感情を持っていればベテランのオペレーターが対応し、通常の質問は新人に任せることができる。

ソフトバンクはテクノマーククラウドプラスの利用料を公表していて、メールサーバ接続設定を含む初期費用が30万円以上で、月額使用料は24万円以上となっている。

このAIメールを導入している自治体もある。

岡山県和気町は移住希望者からの質問メールの対応にテクノマーククラウドプラスを活用している。

AIメールは運用開始1カ月で5,000件の問い合わせに回答し、町役場の職員の業務効率を向上させた。

まとめ~強力な脇役として存在感を示す

ここで紹介した事例からは、ソリューションを求める企業が「AIで何ができるのか」を把握していなければならないことがわかる。そのためにまずは、自社の課題を発見し「この仕事をAIに任せられないか」と想像する必要がある。現代AIはすでに、強力な脇役になっている。AIに「丸投げ」できる業務は意外に身近に転がっているかもしれない。


<参考>

  1. 人工知能接客システム、AIさくらさん(ティファナ・ドットコム)
    https://tifana.ai/
  2. Technomark Cloud+(ソフトバンク)https://www.softbank.jp/biz/ai/watson/planning/solution/technomark/
  3. 導入事例、岡山県和気町様(ソフトバンク)https://www.softbank.jp/biz/case/list/wakecho/
  4. SHARES AI(ココペリ)
    https://www.shares.ai/page/ai
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