人事部が悩む「採用」のシーンでAI(人工知能)が活躍している。世界の最先端を行く人事採用AIサービスが企業の成長をサポートする時代がやって来た。
人材採用におけるAIのインパクト、業界への影響
AI(人工知能)の話題が新聞などのニュースに出てこない日はもう無いと言っても良い。様々な分野で活用されているAIだが、人事分野でのAI利用が2017年後半から大きく盛り上がっている。それまでもアメリカをはじめとした海外では動きはあったものの、日本国内でのAI利用に火を付けたのは2017年5月にソフトバンクが発表した
「AIによるエントリーシートの自動振り分け」
からであろう。
実際、採用における人事部の負担は大変大きい。特にソフトバンクの場合、人事部は毎年3000人分のエントリーシートを読む必要があったという。この事が苦になった人事担当者が、彼らが提携しているIBMのAI(IBMはコグニティブ・コンピューティング・システムと呼んでいる)である「Watson」に、これまで採用した学生のエントリーシートを学習させ、同じ様な傾向の学生を絞り込むということに使ったのだ。
このプレスリリースが影響し、日本でもAIを活用しようという流れが本格化した。実際にこのプレスリリースが出るや否や、ソフトバンクには数十件の問い合わせがあったというので、それだけインパクトが大きかったのだろう事は想像に難くない。
以来、エントリーシートの自動振り分けをはじめとして、企業はさまざまなAIの利用方法を考えるようになり、一気に人事分野での利用が広がってきた。実際にHR系の展示会でも、AIの利用をうたう企業が一気に増えてきており、1年前の状況と全く異なる様相を示している。
では実際にどの様なサービスがあるのかを幾つか紹介しよう。
例えばタレンタの展開する「HireVue(ハイアービュー)」というサービスは、Web上での録画やライブ形式での面接を行うものであるが、ここにAIを利用することで、有能な人材の発掘を支援しようとしている。
フォーラムエンジニアリングの「Insight Matching」は人材マッチングシステムである。ユーザーとのテキストチャットを通し、履歴書のみでは知ることが難しかった趣味や性格などの人間的な側面も分析し、スキルやモチベーションなどを数値化する。チャット内容はWatsonを利用して解析し、独自のアルゴリズムを用いることで数値化に繋げている。企業は自社にマッチングするかを各指標の数値から判断する。
2016年2月にLinkedInに買収されたConnectifierは求職者情報をデータベース化している。採用担当者がキーワードやロケーションなどの条件で検索すると、データベースに登録された人材から、適合性の高いターゲットをピックアップする。
このようにAIはエントリーシートの自動振り分けや面接、人材のスキル判定からマッチングまで、採用や選考における様々な領域でAIを利用したサービスが増えつつある。これらのサービスを利用するメリットとしてよく挙げられるのは、採用担当者の業務負荷軽減や業務効率向上であるが、より重要な視点はAI採用サービスを利用することでできた時間を、社員としっかり向き合い、活用や育成に腰を据えて取り組めるようにすることである。また、採用の過程で蓄積されたデータをもとに、次年度以降の採用計画を練り直すこともできるだろう。これまで経験と勘に頼ってきた部分をデータ化することには、それだけの意味がある。
AIによる人材採用を推進するスタートアップ企業
HR Techとして注目されているだけあり、当然のことながらこの分野にも大手だけではなく、多くのスタートアップが参入してきている。ここからは大手とは異なるアプローチで独自のサービスを展開している幾つかのスタートアップ企業を紹介する。
タレントアンドアセスメントはAI面接アプリ「SHaiN」を提供し、エントリーシートの段階で取りこぼしていた層からも優秀な人材をすくい上げようとしている。アプリとAIを活用することで、24時間365日いつでも、どこからでも面接を受けられるようにしたサービスである。
すでに幾つかの企業に採用されているが、三菱UFJキャピタルが運営するファンドによる出資を受けることで、事業を加速させようとしている。また、このアプリはエン・ジャパンが導入し、学生の就職活動支援の一環として、模擬面接システムとしても利用している。これは自社で採用する人材の面接を行うのではなく、面接慣れしていない学生が練習できるようにしているという点で、面白い利用の仕方である。
次に株式会社WORKUPは「AI人事部長」というサービスを展開している。業種・職種に関わらず、アンケートの結果から深層心理を分析し、社員の特性・価値観を導き出す。これにより日常業務だけでは把握できない社員の姿を知ることができるとされている。
またこの性格診断システムとAIを応用し、面接アシスト機能も展開している。こちらもやはりエントリーシートや履歴書による経歴判断だけではわからない、応募者の特性をあぶり出し、採用した後に社内の雰囲気がどの様に変わるかを考えるためのデータを提供しているという。
このように、スタートアップも採用時におけるサポートをメインとし、書類審査を自動化したり、面接をサポートしたり、そして書類だけではわらない応募者の特性をあぶり出す事で、採用担当者の負担を下げようとしている。
だが、スタートアップが提供しているAIを中核に据えたサービスはこれだけではない。ここからは採用におけるAIの可能性を感じさせてくれる2つの事例を紹介する。
ヘッドハンティング・人材マッチング
人材マッチングは大手も行っているが、スタートアップも独自の尖ったサービスを展開している。scouty(スカウティ)は、2016年5月に創業したばかりだが、エンジニアに特化したヘッドハンティングに活用できるサービスをリリースしている。エンジニアが良く使う、プロジェクトの共有が可能なGitHubや、ブログやSNSなどの情報を組み合わせることでAIが自動的に履歴書を作成する。ヘッドハンティング企業はこの自動作成された履歴書を利用してアプローチする人材を特定していく。
エンジニアに特化しているだけあって、導入している企業も会計クラウドのfreeeにインターネット広告事業を展開するCyberAgent、通販サイトの楽天、スマホゲームからスタートしたDeNAなど、IT系のそうそうたる企業が並んでいる。
同じ様なサービスはアメリカで以前から始まっていた。そのうちの1社であるenteloもSNS、GitHubやStack Overflowなどのプログラミング技術に関するコミュニティサイト、そしてブログなどをクロールしてデータを収集し、データベース化している。エンジニアの実力は履歴書や面接だけでは、適切に評価することは難しいため、これらのデータから解析することで、レベルを可視化する。
また、機械学習を利用し、これから転職しそうな人材を予測し、優先的に表示することも行っている。Facebookも主な顧客であるとされている。
図1 AIマッチングのイメージ
候補者に響く言葉で採用を効率化
一方、2014年に創業したTextioは、面接やマッチング・スカウトではなく、採用候補者に向けて、個々人に特化した内容の文章を提案するサービスを行っている。これまでのオファーメールや求人の文言、人材獲得に効果のあった内容などを機械学習と自然言語処理を駆使して解析し、採用候補者の属性に応じて効果的な、またはネガティブに捉えられる可能性のある文言や文章を発見する。
彼らのコンセプトは「Augmented Writing(補強された書き込み)」であり、「言葉には人の行動を変えるだけの力がある」としている。ただし、ほとんどの人はそれを忘れているとも。
そこで、数多くある求人情報やスカウティングメッセージの中から、確保したい候補者の心に響く言葉を送ることで惹きつけ、候補者がその企業に就職したいと思わせるように動かすのだ。これにより望む人材をしっかりと確保しようとしている。
Textioの提供する「Textio Hire」は、GPUの開発で有名なNVIDIAや、ヘルスケア製品大手のJohnson & Johnsonで採用されている。
まとめ
HR Techというキーワードのもと、採用活動に使えるAIを利用したサービスを大手からスタートアップまで、数多くの企業が展開している。
単純に採用の手間を減らそうというサービスである「エントリーシートの自動振り分け」を始め、面接にAIを使うことで、いつでもどこからでも面接ができるサービスや、その中で話される内容からその人物を深く掘り下げるサービス。
もっと進んで、おもに中途採用を行う際に役に立つ、インターネット上にアップされている情報からその人物のスキルや性格を判断してデータベース化するサービスや、そのターゲットとする候補者の心に刺さる殺し文句を教えてくれるサービスまで展開されている。
あなたが人事部におり、採用担当であるならば、会社のために良い人材を確保することが求められているだろう。今の採用の方法で本当に良いのか、もっと出会えていない人材にまでアプローチする方法を求めるのか、それともアプローチ自体は今の範囲で良いが、もっと採用の手間を減らし、その分を入社後研修に振り向けたいのか。どのようにしたいのかを考えて、これらのサービスを利用してみてはいかがだろうか。
<参考>
- AIは日本の人事部の仕事をどこまで変えたのか(ダイヤモンド・オンライン)
http://diamond.jp/articles/-/132188 - 【人事×AI】誰でもすぐに使えるAIエンジンがスゴい!人事にどう役立つかを考えてみた(HR NOTE)
https://hcm-jinjer.com/media/contents/b-contents-hitoteku-aisquare-0415/ - 面接、採用…人事部の仕事は「人工知能」でこんなに変わってしまう(現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52801 - あなたの人事がAIで決まる?(NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_1212.html - 人工知能(AI)とビッグデータが、人事を『科学』にする。勘と経験に頼らず人を選ベる仕組みとは(ハフィントンポスト日本語版)
https://www.huffingtonpost.jp/enjapan-success/big-data_a_23303409/ - 人事業務を人工知能で効率化(日経ビジネス)
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/041700251/ - HRテックとは何か? 人事・採用・人材育成はどう変わる? 注目の3分野16製品を解説(ビジネス+IT)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/34497 - 今後伸びそうなアメリカのHRテック(HR Tech)サービス10選【2017年版】(mitsucari公式ブログ)
https://mitsucari.com/blog/hrtech_america/ - 人材採用から人材管理まで AI×HRのサービス10選!(Aidemy Tech Blog)
http://blog.aidemy.net/entry/2017/11/19/115205 - 採用を論理化する ~人事データを最大限に活かすピープルアナリティクスの実践~(前編)(HR TECHNOLOGY PRO)
http://www.hrpro.co.jp/hr_tech/article047/ - 採用を論理化する ~人事データを最大限に活かすピープルアナリティクスの実践~(後編)(HR TECHNOLOGY PRO)
http://www.hrpro.co.jp/hr_tech/article048/ - 就活現場を変える「AI採用」最前線 —— SNS分析スカウト、高度なAI面接、機械学習で適職マッチ(BUSINESS INSIDER JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-160657 - 人工知能を用いたHRテクノロジー3選とHRの未来(O2O INNOVATION LAB)
https://abejainc.com/o2o/leading-edge-technology/ai-leading-edge-technology/deepleaning/post-9025/ - 「AI採用」メリットとデメリット、企業の事例にみる採用フロー見直しポイント4つ(Beyond NEWS)
https://boxil.jp/beyond/a3863/?page=3 - textio
https://textio.com/ - entelo
https://www.entelo.com/ - Institution for a Global Society株式会社
http://www.i-globalsociety.com/ - Indeed Assessments(旧Interviewed)
https://www.indeed.com/assessments - 新卒採用選考におけるIBM Watsonの活用について
https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20170529_01/
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