AI(人工知能)が社会の中に浸透し始めている。しかしどの様に導入すれば良いのか、その手順を理解した上で進めていかなければ、ITの導入と同じように費用がかかっただけで終わってしまう。しかしそこにはITの導入とは異なる、AI特有の難しさもある。今回はそれを紹介しよう。
続きを読むAIは最近、どのように活用されているのか
新聞やネット、そしてテレビなどで「AI」「人工知能」という言葉を聞かないまたは目にしない日はなくなったと言っても良いほど、社会ではAIの活用が進みつつある。先日、東京ビッグサイトで開催された「第3回 AI・人工知能EXPO」でも様々なサービスが紹介されていた。
目に付いたものから紹介すると、まずはAIの導入が進んでいる自然言語による対話サービスである。これは問い合わせに対して自動で返答するチャットボットや音声での会話が可能なロボットなどで実用化がされている。Google HomeやAmazon Echoのようなスマートスピーカーもこの技術を応用したものである。
そしてそれ以上に今回のEXPOで目立ったのが、AIによる画像解析技術を応用したサービスである。顔認証による防犯技術、カメラを使った無人レジなどである。IBMのWatsonが、人間の見落としたガンを発見したという医療系での応用も、画像認識AIの成果である。工場内での製品検査を行うAIや、これまで描いた絵からイラストレーターへの発注適正価格を判定するAIというものまで紹介されていた。もちろん画像認識AIには自動運転車への応用も控えている。ただし、本当にシビアな判断を求められる局面を全てAIに任せるのは問題があるため、必ず人間が結果をチェックするというのが重要だ。
それ以外にも、異常検知をAIによって自動化するソリューションや、人間の専門家を補助するAIも展示されていた。様々な波長の光を当てることで水質検査を行うAIというのもあった。カメラを取り付けるだけで、水中に各種センサーを入れずに検査ができるというのを売りにしていた。
一方、矢野経済研究所の発表では金融業がもっとも導入が進んでいる業界であるという。これは融資情報や預貯金・資産などの情報がデジタル化されているのが大きい。もちろんコールセンターへの導入も銀行が先鞭を付けている。
後述するが、AIの学習を支えるデータが大量に準備できるのであれば、基本的にはどんな分野であっても代替することができる。また、今後は社会全体がAIを活用することを前提として、IoTプラットフォームなどを通してデジタルデータを常に取得する様に変化していくものと考えられる。新しい通信規格である5Gも(テレビなどの報道によると今年は「5G元年」らしい)、データの取得と、AIが処理したデータの配信に活用されるだろう。
AI導入に必要なもの
ではもし、自社でAIを導入しようとした場合には、何が必要なのだろうか。AIには3つの要素があると言われており、それらは「アルゴリズム」「データ」「ハードウェア」である。
「アルゴリズム」は、ディープラーニングなどの、AIを構成する基本的なプログラムである。これはすでにいくつかのアルゴリズムがフリーで提供されている。例えばGoogleが公開しているTensorFlowなどがこの「アルゴリズム」にあたる。「AIの開発」というと、ディープラーニング用のソフトウェアを最初から構築しなければいけないと勘違いする人もいるが、研究目的でなければそこまでしなくても良い。
2つ目は「データ」である。アルゴリズムだけでは、AIは何も答えてくれない。アルゴリズムは与えられた大量の学習データから特徴を分析・抽出するためのものであり、学習データを与えないアルゴリズムは生まれたての赤ん坊と同じだからだ。
したがって適切な「データ」を与えて学習させることで、データの中にある「特徴量」を見つけ出し、AIは学んでいく。この学習の結果を「学習器」と呼び、我々はこれを利用するわけだ。
そして「アルゴリズム」に「データ」を与えて学習させるには、処理速度の高い「ハードウェア」が必要となる。データの量が増えれば増えるほど特徴量を見つけ出すのに必要な演算量が増えるため、処理速度が速くないと時間がかかりすぎるのだ。また、時間の経過とともに法律や社会の環境は変化するため、AIも常に学習をさせる必要がある。その際も処理速度の高い「ハードウェア」であれば、よりタイムリーに学習器を更新できる。
AI導入を阻害する要因とは
では、いざAIどう導入しようとした場合に阻害要因となるものには、どのようなものがあるのだろうか。そこには大きく7つの要因があるとされている。それらは
「使い方がわからない」「課題がわからない」「従業員の協力が得られない」「学習データがない」「作り方がわからない」「コストがかかりすぎる」「失敗が許されない」
である。
「使い方がわからない」は「AIって何でもできるんでしょ」という質問とほぼセットになっている。ここは上記の「導入に必要な3要素」を理解していればクリアできる。
次の「課題がわからない」は、自社内に課題がないのであれば無理に導入の必要はない。が、それは単に課題に気が付いていないだけという可能性もあるので、導入のためのコンサルタントをお願いするなどが必要になる事もある。
ここから先は結構大変だ。「従業員の協力が得られない」は「使い方がわからない」の裏返しとも言える。テレビなどで「人工知能が人間の仕事を奪う」などの報道がなされることが増え、「AIに仕事を奪われる」という危機感を抱いた従業員が協力を拒むと言うことが発生しうる。だが、それはあくまでも誤解で、AIによって奪われる仕事は、その人でなくてもできてしまうレベルの「作業」である。
「学習データがない」も深刻である。先にも書いた通り、AIを導入するには学習用データが大量に必要である。そして、それはデジタル化されていなければならない。時々「データはここにあります」と大量の紙書類を持ち出されることがあるが、これは何の役にも立たない。
あとの3つはコスト面や導入したい業務の特性に依っている。100%の精度を求めるのであればAIは導入できないだろう。そもそも人間でも間違いを犯すので、どの程度の精度で良しとするのかは業務内容とコストとの相談で決まる。「作り方」も業務内容次第なので、社内に詳しいスタッフがいないのであれば、コンサルタントなど、詳しい外部スタッフに加わってもらえば良い。
人とAIの共存
AI(人工知能)はテレビ番組で流されるような完全無欠の存在ではない。ルールが明確なゲームでは人間を上回っているが、社会問題をズバッと解決してくれるようなものでは決してない。
むしろ、人間が時間をかけてやってきた「作業」を代わりにこなしてくれるものであり、その成果を人間が活用するのだ、という視点を持って臨むのが良い。そこで、現在の業務のどこにAIを導入するのかを考えることが重要になる。
よく行われているのは、AIが得意な作業と人間にしかできない作業を切り分ける方法である。人間もAIもどちらもできる作業であれば、そこはAIに任せてしまえば良い。例えば単純な経理処理や申請された交通費のチェックなどはAIやRPAが得意な分野だ。
もしくは難易度で分けるという方法もある。単純なものはAIに任せてしまい、高度なものは人間がやるのだ。例えば企業への融資の可否や、ソフトの使い方についての問い合わせ対応などである。単純なものやよくある相談などはAIに任せてしまい、難易度の高いものやレアケースには人間が対応すれば良い。
そしてもちろん、ある一定の精度まではAIに任せてしまい、その結果を人間がチェックして精度を担保するという使い方もある。
どういう使い方をするのかは企業や業務の内容次第だが、重要なのはしっかりとAIを導入すべき所を見極めることだ。これは「阻害要因」の「課題がわからない」にも通じるところがあるので、業務プロセスの見直しまで含め、時間がかかっても最初に押さえておきたい。
まとめ
AI(人工知能)は自然言語、画像解析分野をはじめとして、様々な分野で利用されつつある。AIのアルゴリズム、学習に必要なデジタルデータ、そして必要なスペックのハードウェアさえ準備できれば、自社の業務に必要な新しいAIを比較的簡単に開発することができる環境が整っている。
しかし、そこにはAIの導入を阻む阻害要因もある。それを一つ一つクリアしていくことがAIを上手く導入し、業務に活用するためには必要となる。その際、AIに全てを任せるのではなく、人間とAIをどの様に組み合わせて業務を進めるのかという視点が重要となる。業務プロセスの見直しも含め、上手く要件整理を行えば、AIは強力なツールとなる。
<参考>
- 第2回 AIの活用トレンドとその導入方法(NTTデータ先端技術株式会社)
http://www.intellilink.co.jp/article/column/ai02.html - 第3回 AI導入に失敗しないために知っておきたいこと(NTTデータ先端技術株式会社)
http://www.intellilink.co.jp/article/column/ai03.html - 国内民間企業515社のAI導入率は2.9%、業種別では流通業が最も低く0.8%に留まる――矢野経済研究所発表(EnterpriseZine)
https://enterprisezine.jp/article/detail/11522 - 第3回 AI・人工知能EXPO 出展社・製品検索
https://content-tokyo2019.tems-system.com/eguide/jp/AI/index
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