AI(人工知能)の利活用が企業の成長には欠かせない様になってきているが、日本はアメリカや中国と比較しても導入が遅れている。特に社員数10人未満中小企業ではICTツールの導入すら4分の3では行われていない状態である。今回は大手企業が導入を始めているツールや分野を紹介し、AI導入に取り組みやすい分野や、導入に必要な条件などについて紹介する。
続きを読む日本がアメリカや中国に比べて人工知能の開発が遅れた理由とは?
残念ながら日本は諸外国、特にアメリカや中国と比べるとAI(人工知能)の導入が大幅に遅れている。その遅れは周回遅れとも言われており、数年で新しいステージに変化してしまう今のスピード感から考えると、もうあと数年で手遅れになってしまいかねない遅れへと繋がってしまう。では何故、日本ではここまでAIの開発が遅れてしまったのだろうか。
東京大学でAIの研究・開発を行っている松尾豊特任准教授は、そこには日本特有の事情があるという。それらは1)若者に発言権がない、2)グローバル化に乗り遅れた、3)新技術に対して消極的、4)データサイエンティストの不足、5)AIに対する否定的な考え方であるという。
1)はAIをはじめとするIT系は、若者のアイデアが新しい商品を生み出す原動力となる。それはAIも同様なのだが、日本の企業では20~30代の若者には決定権がなく、50~60代の新たなアイデアを出せない層が決定権を手放さないため、開発が進まないというのだ。
2)はバブルの崩壊以来、世界的企業の凋落が激しいというものです。実際、日本の企業もグローバル化を進めているのですが、諸外国はそれよりも春香に速い速度でグローバル化を進めたため、日本が遅れてしまったのだ。そしてグローバル化の遅れは多様な価値観の融合による新規アイデアの創出を阻害している。
3)は、そもそも日本企業が新たな技術の導入に対して消極的だというものである。世界的に、大企業はどうしても守りの経営になりがちであるとされているが、日本の場合はその傾向がさらに強い。そしてアメリカであれば大企業やエンジェルと呼ばれる投資家が新たな技術に対する投資を行うが、日本の大企業はそれも行わない。
4)はAIの開発は統計学の知識が不可欠である。それを持っているのがデータサイエンティストであるが、残念ながら日本では文系人材の方が多く、理系人材でもデータサイエンティストとしての素養を持っている人材がほとんどいない。そうなると、AIの学習に必要なデータの作成が行えず、AIを投入すべき業務で必要なデータの見きわめもできない。
最後の5)は「AIが人間の仕事を奪う」など、否定的な考え方をする人が多い点である。3)の保守的というのにも繋がるかも知れないが、日本人は変化を嫌うと言われている。自分の仕事を奪う可能性のあるAIは、生活を変化させてしまうものであるため、受け入れられないのだろう。もっとも、スマートフォンなどの便利なものはどんどんと受け入れているため、AIはイメージが悪いだけかも知れない。
日本のAIブームは過去3度
世界ではこれまで3度のAIブームが起こっている。最初は1950~60年代。ダートマス会議が開催され、AI(人工知能)という言葉が登場した時代である。2回目は1970~80年代。ここでは「エキスパートシステム」の開発が進められ、日本国内でも、政府も多額の研究資金を投入していた。この時は日本でも本気でAI開発をしており、世界のトップレベルを行っていたし、最も盛り上がっていたのだ。
だが、この2回目の波の際に、投資された金額に対して結果が芳しくなかったため、1990年代以降はAI開発の冬の時代となった。これは日本だけでなく、世界的にだ。この2回目のブームでの問題点は、AIに学習させるデータがほとんど無かったこと、そしてコンピューターの処理能力が不足していたこと、この2点である。まだ機が熟していなかったのだ。
その後、1997年にはIBMのディープ・ブルーがチェスの世界王者ガルリ・カスパロフを破るなど、コンピューターの処理速度が飛躍的に伸び始めた。そして2012年、ディープラーニング(深層学習)を用いたAIがそれまでの精度を飛躍的に更新した。この年に開催された画像認識コンテスト「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」で、ヒントン教授らのグループがエラー率大幅な削減に成功したのだ。これが第3次AIブーム、そして現在へと繋がっているのだ。
企業へのAIの導入状況は?
とは言いながらも、AIは企業を中心に少しずつではあるが導入が進んでいる。ただし、その速度はアメリカと比較すると雲泥の差である。平成28年版 情報通信白書によると、「AIを導入済み」「導入を検討中」を合わせた割合は、日本では10.6ポイントであるのに対し、アメリカでは30.1ポイントと、約3倍の開きがある。
そもそも、ICTツールの導入もあまり進んでおらず、令和元年版の情報通信白書でも「勤怠管理」「在籍管理」「業務管理」「スケジューラー」「ワークフロー」のいずれも導入は5割を切っている。社員数が1000人を超えている大企業であれば80%以上が導入しているものの、逆に社員数が10名未満の企業では4分の3はまったく導入されていない。当然、AIも規模の大きな企業がまずは導入していくことになる。
また、平成30年版 情報通信白書によると、アメリカ、イギリス、ドイツと比較したときに若干遅れてはいるものの、大きく差を開けられているわけではないところまで回復してきている。しかし、2020年以降には差が開き始める。つまり全体的には導入に対して腰が重い。その理由として挙げられているのは、「データ収集・整理が不十分」「AIの導入を先導する組織・人材の不足」が他の3カ国に比べて高い。その上、AIを利活用する上での問題点として、企業・組織風土の問題や、ビジネスモデルの構築に難があると答えている企業の割合が高い。
つまり、まとめると日本の企業では、導入を先導する組織・人材が不足しており、それが故にどう活用するのかが、ビジネスモデル的にも組織風土的にも成立していないということであるようだ。
企業に導入されているAIの役割とは?
では現在AIを導入している企業は、どの様に利活用しているのだろうか。これから導入する予定の企業にとっての参考になる事例とまではいかなくても、AIの役割をどの様に考えれば良いのかを見てみよう。
最も多いのは画像認識を利用したものである。例えば工場での製品検査で、不良品チェックを行うのに利用されている。また同様に、音や機械に流れる電流の値をチェックすることで、動作不良を起こしている機械が無いかどうかをチェックするのにも使われている。工場は自動化を推し進めやすい部分であり、しかも人間の目視では発見しきれないものを自動で高速にチェックできるという点が優れている。
同じ工場でも、ロボットアームと組み合わせた部品をピックアップして組み付ける作業などは、単純作業であるが故にAIの活用部分として向いている。同じくピックアップ作業としては、物流倉庫で必要な商品をピックアップして発送先毎にまとめるロボットも実用化されている。AIは在庫の配置やロボットの移動経路を確認し、ロボットの移動経路が最短になるよう、同時に注文されることの多い商品を近くに配置するよう継続して学習を行う。これが2つ目の利用方法である。
ここまでは工場や物流倉庫などブルーカラーの現場で利用されているものであったが、3つ目はホワイトカラー分野で利用されているものである。例えば人事部向けでは勤務状態をタイムカードの時刻やアンケートなどで把握し、退職してしまうかも知れない社員をピックアップし、何らかの対策を打てるようにしているシステムが提供されている。経理部向けにも手作業で行っていた請求書の入力を、AIがOCRデータから自動的に行うというソリューションが出ている。もちろん、書類のOCR分野はAIによる自動認識が得意としているところでもある。
その他、名刺の読み取りをAIドクターを使って自動化し、営業情報として共有化を進める取り組みも進んでいる。
まとめ
日本はこれまで欧米や中国と比較するとAI(人工知能)の開発や利活用が遅れていると言われてきた。しかし、大手企業を中心に利活用は進みつつある。利活用の問題点は、中小企業への導入が進んでいないことである。もともとICT化も進んでいないことが足かせになっていると言って良いが、AI導入に必要な組織や人材の不足が導入を阻む大きな要因となっている。
一方、この人材不足はAIそのものの開発の遅れにも繋がっている。1980年代の第2次AIブームでの失敗が後遺症となり、人材育成を積極的に行ってこなかったツケがここへ来て顕在化しているのだ。今後の政府・民間の取り組みに期待しよう。
<参考>
- 日本のAI(人工知能)開発が世界よりも遅れている5つの理由とその背景(AIZINE)
https://aizine.ai/ai-japan-0611/ - 日本企業がAIで周回遅れになった理由(日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/122000032/060800024/?P=1 - なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか 東大・松尾豊さんが語る“根本的な原因”(ITmedia AI+)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1809/18/news011_4.html - 第3章 第4節 本格的なデータ活用社会の到来(平成26年版 情報通信白書)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/pdf/n3400000.pdf - 第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~(平成28年版 情報通信白書)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc143310.html - 第3章 第2節 ICTによる生産性向上方策と効果(平成30年版 情報通信白書)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/pdf/n3400000.pdf - 第2章 第3節 人間とICTの新たな関係(令和元年版 情報通信白書)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/pdf/n2400000.pdf - ニトリも導入した自動搬送ロボット「バトラー」物流倉庫の自動化を加速!4.2倍のピッキング効率を達成するしくみ(ロボスタ)
https://robotstart.info/2018/11/28/greyorenge-ceo.html - 経理がAIに乗っ取られる、は本当か?(#SHIFT)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/25/news031.html - 【人工知能】名刺を解読する「人工知能」技術の確立に挑戦するデータサイエンティストを大募集!(PRTIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000211.000014848.html
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