2019年の終わりまでに、AI(人工知能)はどこまで進化するだろうか。そしてAI技術は、節目の年の2020年にどのように引き継がれるのだろうか。
本稿では、次のようなAI最新トレンドやAI最新活用法を紹介する。
続きを読むAIロボットは2019年にここまで進化した
AIは夢の技術だが、負の側面が存在することも指摘されている。そのひとつがAI兵器だ。残念ながら2019年もAI兵器の開発は進んでしまっている。その舞台は、インドだ。
インドの科学者たちがAIロボット兵士の開発に乗り出した、というニュースが2019年5月5日に届いた。
AIロボット兵士を開発しているのは、インドのBELという企業で、目的は国境線のパトロールだという。インドは現在、隣国パキスタンと紛争状態にあり、バングラデシュとの国境でも緊張状態が続いている。
AIロボット兵士には、人物や物体を検知するセンサーが搭載されていて、それをAIが不審者・不審物かどうか判断する。その結果はコントロールセンターに連絡され、人の兵士が不審者・不審物の除去に乗り出す。
BELではこのAIロボット兵士の開発に、80人もの科学者やエンジニアを投入している。この最新兵器の強みはコスト安であることだ。1体1,200万円しかしないという。インドの陸軍は「大量に購入する」と表明した。
BELの担当者は、将来の戦争を次のように描いている。
・AIロボットが危険な任務や重要な軍事行動を担うようになる
・人間どうしの戦いはなくなるだろう
・AIロボットが人の兵士の命を救うこともあるだろう
・AIロボット兵士は異常を検知・連絡するだけでなく、そのまま攻撃することもできるようになる
これからも望ましくないAI進化が展開されていきそうだ。
AIを使った不正発見は2019年にここまで進化した
一般的なコンピュータでも異常を発見することができる。しかしAIならさらに、人間の能力では異常であると検知できないわずかな異常を検知することができる。
その能力は2019年にも磨きがかかり、AIによる不正発見の仕組みが進化した。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は2019年2月に、振り込め詐欺の形跡をみつけるAIシステムを開発したと発表した。
銀行での一般的な振り込め詐欺対策は、行員が顧客の取引明細や口座情報を調べ、普段と違う場所でATMを利用しているときなどに、異常を知らせている。
この一連の作業のうち、通常の取引状況をチェックして、これまで使ったことがないATMの使用を検知することはAIでも可能だ。そこで大手銀行では、AIに振り込め詐欺被害者が取りそうな行動を学習させる取り組みが始まった。
――ここまでが2018年までの出来事である。
NICTが開発した方法は、それぞれの銀行に同じ振り込め詐欺検知AIを導入する手法である。AIに顧客の取引明細や口座情報を分析させる以上、データの機密保持の観点から、そのAIを他行に移植することはできなかった。それで2018年までは、地方の金融機関では十分なデータが集まらず、AIの学習が思うように進まなかった。
NICTは、銀行のデータを外部に持ち出すことなくAIに学習させる仕組みを開発した。AIが出した結果を暗号化することで、例えばある銀行で学習したAIを別の銀行に移植することもできるようになった。
工場の自動化は2019年にここまで進化した
2018年までのAIを使った工場の自動化の目標は、熟練者のものづくりを代替することであった。つまり、若手作業員ではできない「匠の技」を、AIやAIロボットに覚え込ませて品質を維持することを目指していた。
その進化形を、三菱電機が2019年2月に発表した。最新のAI工場は、次のことができるという。
・製造機械の調整を自動で最適化する
・レーザー加工作業の「目視」判定を自動化する
・組み立て用ロボットの異常を自動で検知する
日本の最先端のものづく現場では、熟練作業員たちの「つくる技」が注目されがちだが、しかし匠の技は「調整」や「異常の発見」でも威力を発揮している。三菱電機はそこまでAI化、自動化したのである。
一般の人が工場を見学しても製造機械が次々製品を生み出しているようにしかみえないが、実はその裏で作業員たちが、製造機械に生じた誤差を微調整したり、加工された製品の小さな傷を発見したり、組み立て用ロボットが異常停止する前にメンテナンスを実施したりしている。
三菱電機の2019年版AI工場は、こうした縁の下の匠たちの技術や知識や経験までAIに学ばせているのである。
このAI工場について発表した三菱電機の担当者が、興味深いコメントを残している。
「(最新のAI工場づくりでは)現場が一番課題に感じていて、AI活用がしやすかった」というのだ。
AIの進化が話題になると、すぐに仕事が奪われるのではないかという議論が起こるが、ものづくりの現場ではそのような「悠長なこと」は語られていない。
三菱電機の担当者の言葉からは、「AIを使って工場をさらに自動化していかなければ世界に置いていかれる」という危機感が透けてみえる。
スマートスピーカーは2019年にここまで進化した
2019年も折り返し地点に到達しようとしているが(記事執筆は2019年5月上旬)、これまでのところ、スマートスピーカーがそれほど普及したという印象を持っている人は少ないのではないだろうか。
むしろ「メガネ式や腕時計型のウェアラブル端末のように、スマートスピーカーも廃れていくのではないか」と感じている人もいるだろう。
しかし、AI超大国のアメリカと中国に目を向けると、事情が異なる。
アメリカのアナリストが2019年4月に、スマートスピーカーは2018年に1億1,400万台が出荷され、2019年はその8割増の2億790万台に達するだろうとの予想を発表した。
この爆発的な普及は、まずアメリカで起こり、それが中国に飛び火する。アメリカのスマートスピーカー台数は、2018年の6,220万台から2019年には8,780万台へと41%も増加する。これもすごい数だが、ところが中国では2018年の2,250万台から2019年には5,990万台へと2.7倍に膨れ上がる。
しかも日本人は、スマートスピーカーといえばグーグルやアマゾンやアップルの製品を思い浮かべることが多いと思うが、中国では自国製のスマートスピーカーが存在感を増しているのだ。
世界のスマホをアップルとサムスンが牛耳ったように、世界のスマートスピーカーを中国勢が制する時代になってしまうのだろうか。
オリンピック向けAIは2019年にここまで進化した
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、さまざまなIT企業が新たなAI技術を投入しようとしている。したがってオリンピック関連のAI開発は、2019年に正念場を迎えている。
慶応義塾大学電子工学科、青木義満教授は東京2020に向けて、ラグビーの戦術分析を行うAIを開発中だ。
ラグビーの試合映像をAIに「見せて」分析させる。AIは試合映像の選手の動きやボールの動きから、パス、スクラム、キックなどのプレイを抽出して分類していく。分類したプレイを、統計情報を用いて分析するとより高度な戦術を編み出せるという。
青木教授は、AIがラグビーの最強の戦術を提案する時代がいずれ到来するだろうと予想している。
まとめ~可能性が先行している分野
2019年もAI開発の進化は止まっていない。止まるどころか、進化のスピードは加速している。
ある技術の進化が加速することは、それほど頻繁に起きることではない。研究者たちのモチベーションや企業の関心度、その分野の経済性と将来性、そして政府の力強いバックアップがないと、技術は進化しない。
そして技術の進化に集まるエネルギーは「可能性」によって増加する。AIの領域では、研究者や企業が「あれもできる、これもできる」と活発に可能性について語っている。
「できるならやろう」という機運が、2019年のAI分野にはある。
<参考>
- インド、国境監視用のAI搭載ロボットを開発:2020年にトライアル開始予定
https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20190505-00124949/ - パキスタン、インドの「空爆」に対抗すると カシミール地方で緊張高まる
https://www.bbc.com/japanese/47381612 - AIで振り込め詐欺発見 銀行連携でより賢く 情報通信機構が開発
https://www.sankei.com/economy/news/190223/ecn1902230040-n1.html - 「熟練者を超えるAIも」 日本の工場で顔を出す“技術革新”の芽
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1902/05/news140.html - 普及が加速するスマートスピーカーは2年以内にタブレットを追い越す勢い
https://jp.techcrunch.com/2019/04/16/2019-04-15-smart-speakers-installed-base-to-top-200-million-by-year-end/ - スポーツとAI
https://www.st.keio.ac.jp/education/learning/1810.html
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