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AIがタクシー業界のドライバー不足を解決

AIをタクシー乗客数予測に利用するというシステムが開発されている。AIによる働き方改革はタクシー業界にも影響が及びつつある。以下では、AIによってどの様にタクシー業界は変わりつつあるのかについて説明する。

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天気が悪いときや急いでいるときに限って捕まらない。タクシー営業台数が多い都市部でさえタクシー利用にはそんな場面が多い。だが、そんな思いはもうしなくともよいかもしれない。今後は、AIが予測する場所ごとの乗客数に応じてタクシードライバーが乗客がいそうな場所に移動することで、タクシーに関する需給バランスが改善される見通しである。AIによってタクシーの業務効率が改善され、少子高齢化によるベテランドライバーの不足を補うという効果も期待されている。ここではその様に業務にAIを用いたAIタクシーについて説明する。 AI(人工知能)-タクシー

AIタクシーとは

「AIタクシー」とは、NTTドコモが東京無線共同組合、富士通、富士通テンと2016年より共同開発している乗車台数予測システムを導入しているタクシーの呼称である。2018年7月21日から東京無線協同組合加盟のタクシー各社で利用が始まっている。

AIタクシーのコアとなるのはNTTドコモが携帯電話から受信した電波を基にエリアごとに人口をリアルタイムで予測することを可能にしたリアルタイム移動需要予測技術である。この技術を利用して日本全国を500mメッシュに分割し、ある時点のそれぞれのメッシュにいる人数の推定値を算出し人口統計データとしている。時系列でこの値の増減を見れば、マクロでの人の移動が把握できる。
モデルへの入力データは人口統計データ以外に、タクシーの運行データ、雨雲レーダーによる雨量などの情報を含む気象データ、需要を潜在的に持つイベント会場や駅、病院、学校などの施設データなどである。これらのデータを利用し2種類の機械学習アルゴリズムにより予測モデルを生成している。
1つめのアルゴリズムはエンジニアがタクシー乗車需要に影響を与える特徴量や構造を設計した多変量自己回帰であり、2つめのアルゴリズムはディープラーニングである。2つの予測モデルから出力された結果を過去のデータで評価し、より高精度で乗車数を予測した処理を、時間帯ごと、メッシュごとに選択して採用するハイブリッド予測を実現している。

一般的にディープラーニングには大量のデータが必要となる。AIタクシーの学習には、時間と場所(メッシュ)の組み合わせでさらに大量のデータが必要になるが、それらを網羅するデータをタクシー会社が準備できない場合も考えられる。そこでAIタクシーの開発では、Denoising オートエンコーダーという手法でデータ量を拡張している。Denoising オートエンコーダーは、元のデータに±数%の数値を加えたり、データを欠損させたりといった処理により様々なノイズを加えた後、オートエンコーダーという処理を行う技術である。この処理によって、様々な処理によってデータを増量しても、ノイズを除去しデータの特徴をニューラルニットワークで取り出すことが学習可能となる。

学習モデルは、メッシュ単位ではなく全体で一つのモデルを作っている。
したがって、類似のメッシュがあれば、そのデータも学習に利用可能となるため実質的にデータの増量となっている。

ディープラーニング

図1 需要予測モデル生成フロー概要

<関連記事>
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自動運転の仕組みとAIの重要性

AIタクシーでできることとは

AIが予測した500m四方のエリア内の現在から30分後までのタクシー乗車台数の予測値がAIタクシーの運転席にある500m四方のメッシュに区切られ地図画面上に表示される。更新は10分単位でありほぼリアルタイムである。過去のデータを用いた評価では、予測精度は93〜95%とかなりの高精度で予測できている。

AIタクシーを利用すれば、ドライバーは土地勘や経験の有無に関わらず、その時刻にどの場所に行けばお客がいるか予測することが可能となり、ベテランドライバー並の乗車回数を達成することができる。

タクシー表示画面

AIタクシーの効果とは

AIタクシーは、新人ドライバーでも普通のドライバー並の乗車回数を達成することができる。普通のドライバーでも乗客予想が不得意な地域を走る場合に、AIタクシーを利用することで乗車回数を増やすことが可能になると思われる。短期間の試行のアンケート結果から、効果を定量的にみると、1日あたり1台2,000円程度の売上向上が見込めるということであり、年換算にすると約28万円の売上向上となる。仮に全台に導入したと想定すると数億単位の売上向上となり、大幅な効率化になる。

なかなかタクシー捕まえることができず諦めていたり、不満を持っていた乗客に対する不満解消のきっかけになると共に潜在的な需要を発掘できることにもつながる。会社間の競争ではなく、タクシー業界全体に影響が波及するということにもなる。

また、AIタクシーは、人の移動や、イベント、気象など、時々刻々変動する様々な要因のデータを連携させリアルタイムで場所ごとに予測するという複雑な予測を可能にしたマーケティングツールとも見られ、今後は、同じように観光地でのマーケティングや観光地での混雑予測、交通ダイヤの最適配分にも応用が可能と考えられる。

AIタクシーでタクシー業界はどう変わるのか

現在、少子高齢化によって、就業人口が減少し全ての産業で慢性的な人手不足に陥っているが、タクシー業界も同様で、就業平均年齢の高齢化と人手不足が進んでいる。また、国土交通省の統計データによれば、タクシードライバーの年間所得は全産業平均の約半分であるが、労働時間は全産業平均よりも長い。その改善策としてAIタクシーを導入することによって、新人ドライバーでもベテランドライバー並に稼げることになるため年間所得も増加し労働時間の短縮も可能になる。したがって、タクシー業界が他業種からの転職や新社会人の就職先としての選択肢となり、人員不足が解消されると予想される。

国土交通省による平成20年以降、車両数も輸送人員も減少傾向であるが、タクシーの利用者の高齢化に伴い、ますます移動手段としてのタクシーの需要は高まることが予想され、需給マッチング手段としてのAIタクシーは重要となる。現在、東京無線ではAIタクシーは全3774台の3割だが、将来的には全車にすると予定している。

また、乗客がオンデマンドにアプリでタクシーを呼べるタクシー配車アプリとAIタクシーを組み合わせると一層の需給バランスの改善が期待されており、東京無線は配車アプリを運営するJapan Taxiとの提携を発表している。この流れは加速しており、NTTドコモだけでなく、ソフトバンクと中国ベンチャー企業のDidi連合や、DeNA、ソニーなどもそれぞれ複数のタクシー会社と共同で同様のAIによる需要予測システム、配車アプリを開発している。これらのシステムは2018年度後半から2019年度にかけてつぎつぎと利用開始されるため、2019年以降は、配車アプリのプロモーションを含めた乗客の獲得競争が激化するかもしれない。

まとめ 

従来、ベテランドライバーだけが持っていた土地勘や経験に頼るしかなかったタクシー待ち客予測を、AI技術によりデータのみから取り出した予測モデルを活用することで、経験に関係なく高精度で実現可能になってきている。この技術が広まりスタンダードになると、タクシー業界が直面している人手不足問題が解決されるだけでなく、配車アプリとの組み合わせでリアリタイムでの需給マッチングが容易に実現可能となり、タクシーに対する潜在的なニーズを掘り起こすことになると言える。

<関連記事>
自動車におけるAI活用事例 〜海外編〜


<参考>

  1. ドコモが開発の「AIタクシー」効果抜群 新人が中堅に勝った(日経XTREND)
    https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/18/00049/00010/?P=1
  2. 東京無線、AIタクシー導入でドライバー不足解消に期待(スマークワーク総研)
    https://swri.jp/article/425
  3. タクシー事業の現状について(国土交通省)
    http://www.mlit.go.jp/common/001087374.pdf
  4. Sony jumps into Japan taxi market with AI app plans(phys.org)
    https://phys.org/news/2018-02-sony-japan-taxi-ai-app.html
  5. 【最新版】タクシー配車アプリや提供企業を一挙まとめ 仕組みも解説(自動運転ラボ)
    https://jidounten-lab.com/y-taxi-call-app-company-service
  6. Denoising Autoencoderとその一般化(beam2d memo)
    http://www.beam2d.net/blog/2013/12/23/dae-and-its-generalization/
  7. NTTどこも
    https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/aitaxi/
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