EV(電気自動車)とともに自動車に革命を起こすのが自動運転。日本だけでなく中国やアメリカといったAIに巨額の投資を行なう大国が、全力で完全自動運転実現に向けて取り組む。当初の予定よりも早く完全自動運転が可能になる見通しだ。では、なぜ自動運転にAIが必要になるのか。その点について解説する。
自動運転とは
2019年1月7日にJR山手線で自動運転による実験が行なわれた。自動運転ひとつとっても、電車や自動車などさまざまな乗り物が対象となる。本稿では自動車に限定して、自動運転について紹介しよう。
・6つに大別される自動運転のレベル
アメリカの非営利団体SAE(Society of Automotive Engineers)が2016年に策定した自動運転のレベル分けによると、次の6種類に分類される。
レベル | 概要 |
レベル0
運転自動化なし |
運転者がすべての運転操作を行なう |
レベル1
運転支援 |
システムがハンドル操作し、運転手を支援する |
レベル2
部分運転自動化 |
システムが加速あるいはハンドル操作し、運転手を支援する |
レベル3
条件付運転自動化 |
高速道路など限定的に、システムが運転を操作する。運転者はシステムへの応答が必要。 |
レベル4
高度運転自動化 |
無人でも、高速道路など限定的にシステムが運転を操作する |
レベル5
完全運転自動化 |
無人で、システムがすべての運転操作を行なう |
高速道路等で前の車に追従するといった自動運転は、すでに製品化されているという。一方、システムが運転を主導するレベル4以上の自動運転に関しては、現状製品化されていない。とはいえ、Googleをはじめとした企業が、自動運転可能な自動車の研究や開発に心血を注いでいる。日本でも、トヨタやホンダといった大手自動車メーカーが完全運転自動化した自動車の製品化のために、しのぎを削っている。
とはいえ、完全運転自動化した自動車の開発は、自動車メーカー単独で行なうのが困難だ。アメリカのNVIDIAのような人工知能に強い企業とタッグを組んで、完全運転自動化した自動車の開発を行なっている。
では、なぜ自動運転に人工知能が必要なのだろうか。まずは、自動運転の仕組みについて復習しよう。
自動運転の仕組み
自動運転システムのプロセスは、次の3種類に大きく分類される。
・認知
・判断
・制御
認知プロセスでは、道路標識や歩行者、対向車や駐車中の車といった自動車の周辺状況を把握する。認知プロセスで得られたデータを分析し、自動車が通過すべきルートを予測するのが、次の判断プロセスだ。最後に、予測ルートから安全性の分析や走行経路などを判断するのが、制御プロセスだ。これら3つのプロセスを経て、ようやく実際の運転操作が始動する。
自動運転システムにおける3つのプロセスの中で要となるのが、認知プロセスだ。障害物などを認知し、走行可能なルートを認識しなければならない。この認知プロセスで利用されるのが、まさに人工知能である。人工知能を代表する深層学習(ディープラーニング)が注目を浴びたのは、2012年の画像認識コンテストで驚異的な認識率をはじき出したからに他ならない。人工知能は、画像処理の分野で力を発揮する。
AIは自動運転でどのように使われているのか
では認知プロセスにおいて、どのように障害物や歩行者などが判断されるのか。
高度な自動運転を実現するためには、地域や天候、一般道路かあるいは高速道路かといった周辺環境にシステムが対応可能な必要がある。そのため、世界中から周辺環境に関するビッグデータが必要になる。何百万時間、何百万キロメートルもの情報がデータとして蓄積されるという。これらのデータからディープラーニングによって特徴量を抽出し、最終的に自動車なのか障害物なのかが判断される。
ディープラーニングによる処理には、高い処理能力をもったコンピューターが必要だ。AIを使った車載用コンピューターがすでに開発されている。NVIDIAが開発した「DRIVE Pegasus」は、レベル5の完全自動運転に対応するという。ドイツの自動車メーカーDaimlerやBoschが、DRIVE Pegasusの採用を決定した。
NVIDIAが開発した車載コンピューターのGPUには、スーパーコンピューターと同じものが使用されている。NVIDIAによると、開発したスーパーコンピューターを並列処理することで、約48万キロメートルものデータを5時間で検証できる。これは、アメリカのすべての舗装道路を2日で処理する能力に相当するという。
自動運転が社会に及ぼす影響
では、AIを活用した自動運転が、どのようなシーンで使用されるのか。日本だけでなく、アメリカや中国、シンガポールなどで、公道を使って自動運転車の実証実験が行われている。地域や道路は限定されるものの、ドライバーが必要のない自動運転(レベル4)の実証実験が行われているという。どんな場所でも走行可能な自動運転(レベル5)が最終目的であるにせよ、その実現の難易度は非常に高い。テスラが2018年に実施した自動運転の実験で死亡事故が起きたのは、記憶に新しい。自動運転モード中に、テスラの「モデルX」が中央分離帯に衝突し炎上、死亡事故を起こしたという。実行された自動運転モードはレベル2であることから、レベル4以上の自動運転の実現に不安に感じる人もいるだろう。
しかし、現状ではレベル4での自動運転は、技術的には問題ない段階に到達しているという。同じルートを通るバスや地域に限定したタクシーであれば、その地域で取得したデータを深層学習させることで、誤った判断をする確率は低くなる。とりわけ、地方では人手不足が深刻な状況であることから、過疎地域のバスやタクシーへの自動運転システムの使用が予想される。時間帯は限定的だが、スイスではすでに自動走行するEVバスが運用されているという。
自動運転のメリットはこれだけにとどまらない。隊列走行するトラックの自動化が欧州やアメリカで商用化に向けて開発が行われているが、これが実現すれば人件費の削減に大きく貢献するだろう。また自動運転は、事故の減少にもつながる。自動運転により人為的な操作が少なくなれば、自動車事故が発生しにくくなるだろう。加えて、自動運転により、交通利便性の向上にもつながる。カーシェアリングで有名なUberでは、効率よく配車が行えるよう、最適な経路をAIに決定させるという。道路状況を加味して、自動運転が可能となれば、渋滞が緩和されるであろう。
自動運転車・自動運転社会の実現はいつするのか
先述のように、技術的にはレベル4での自動運転は問題ない段階にほぼ到達しているという。とはいえ、実際に自動運転が実施できるかというと話は別だ。
2018年に政府がまとめた「官民ITS構想・ロードマップ2018」によると、2020年までに限定された地域で無人のバスやタクシーの運行が開始する予定だという。また自家用車においても、2020年代前半に速度などが制限された条件付きの自動化(レベル3)が可能になり、2025年ごろには特定の道路環境で完全に自動化(レベル4)が可能になると予想される。
技術的に高度な自動運転が可能であるにもかかわらず、法的な整備が整っていない現状だ。道路交通法の上位規範であるジュネーブ条約には、車両にはドライバーが乗車することが義務付けられているのも大きい。また、事故が発生する確率がゼロにはならない。そのため、事故が起こったときに、その倫理的あるいは法的な責任の所在をどこに求めるのかという問題が残る。とりわけ、前方のトラックが急ブレーキを踏んだ場合、ブレーキをかけても事故は避けられない。このような状況下で、AIが取るべき選択は難しい。被害者を少なくなるようにするのか、他人を巻き込まないようにするのかなど、多くの選択肢が想定されるが、どれが選択されるべきかの判断も難しい上に、社会的なコンセンサスがあるとも言い難い。AIの技術的進化のスピードが速すぎて、統制する人間が追い付いていないかたちだ。
まとめ
技術的にみれば、人間の操作に頼らない完全自動運転はほぼ可能だといえる。限定された地域でのバスやタクシーの完全自動化は、労働者不足の問題を解消するのに貢献するだろう。それだけではない。自家用車での完全自動化も、限定された領域では、まもなく開始される見通しだ。自動運転可能な自動車の開発動向から目が離せない。
<参考>
- 官民 ITS 構想・ロードマップ 2018(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20180615/siryou9.pdf - 「車両の先進安全技術開発による道路交通の展望」(『月報 司法書士』2018年12月号)
- 「トラックおよびバスにおける自動運転化の開発動向」(『高速道路と自動車』 Vol.61 No.5)
- 「欧州でバスが実用段階に 日本も小型車両で実験」(『エコノミスト』2017年11月14日号)
- 「人の眼を超える認識力と熟練運転者をしのぐ判断力」(『Nikkei Automotive』2018年2月号)
- 「BMW、約10年以内にレベル4 自動運転の専門家に聞く」(『Nikkei Automotive』2018年6月号)
- 「DaimlerとBoschの完全自動運転車 NVIDIAの“頭脳”など「中身」判明」(『Nikkei Automotive』2018年9月号)
- 「センサーで集めた情報などを基に教師データを効率的に作成」(『Nikkei Automotive』 2018年10月号)
- 「AIが加速させる自動運転技術」(『ニュートン』Vol.38 No.8)
- 「自動車の自動運転開発の現状と課題」(『粉体技術』Vol.10 No.11)
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