アパレル大手のユニクロが2018年夏に始めたスマホアプリ「ユニクロIQ」が「使えるAI(人工知能)」と話題だ。
AIを実用化している企業は少なくないが、なかにはデモンストレーションのようなものや利便性が実感できないものもある。AIはまだ玉石混交の状態である。
しかしユニクロIQは、ユニクロの膨大な衣料品のなかから、ユーザーが求めるアイテムを「きちんと」紹介してくれる。ユニクロIQは要するにコンピュータによる自動コーディネートなのだが、そのセンスはプロのスタイリストも及第点を出しているほどだ。
ユニクロIQの概要や機能を紹介しながら、洋服のユニクロがなぜ今、最新のコンピュータ技術に食指を動かしたのか解説する。
続きを読むAIを活用した「ユニクロIQ」とは
ユニクロは公式ホームページで、ユニクロIQのことを「あなた専用のお買い物アシスタント」と説明している。
すでにスマホにユニクロアプリをダウンロードしている人は、そこからユニクロIQを利用できる。またアップストアやグーグルプレイからもダウンロードすることも可能だ。
ユニクロIQでできること
ユニクロIQを使えば、ユーザーは洋服の相談をすることができる。おすすめのコーディネートをチャットで依頼すれば、「こんな服はどうですか」と画像付きで提案してくれる。設定すれば毎週新しいコーディネートが自動で送られてくる。
ユニクロIQは、コーディネートを押しつけるだけでなく、ユーザーの好みもきいてくれる。ユーザーがチャットで「寒い」といえば、厚手の服を紹介するといった具合だ。
もしユーザーが、自分の好みをうまく表現できなければ、ユニクロIQはトレンドワードを提示してくれる。トレンドワードには、ボルドー、ハイネックブラウス、ベロアといった単語が並ぶ。ユーザーは「そうそう、ベロアがほしかったの」と思うことができ、「ベロア」と入力するとユニクロのベロアがスマホに表示される。
また、ユーザーがこれから向かう店舗に求める洋服が在庫しているかどうかもユニクロIQでわかる。そしてユニクロの店舗に入り、商品の前にスマホをかざしてバーコードを読み込めば、その商品と他の商品を組み合わせたコーディネート画像が表示される。
ユーザーはお目当ての商品だけでなく、他の商品も買ってしまうだろう。
つまりユニクロIQは、自宅にいるときから店舗に入るまで、ずっとユーザーの服の悩みをきいてくれ、そして常にいろいろな提案をしてくれる「服トモ」である。
だから「あなた専用のお買い物アシスタント」なのだ。
それでは次に、ユニクロIQの基本機能をみていこう。
ただその前に、なぜ今、衣料の製造・販売のユニクロがAIを活用し始めたのか、その背景を解説する。ユニクロは、単に目新しいモノ狙いでAI投資を行っているわけではないのである。
なぜユニクロがAIなのか
AIはマーケティング業務との相性がよい。マーケティングは、ビジネス用語のなかでもとりわけ広い概念を持つ言葉であるが、端的に言い表せば「顧客の心をつかんで収益を上げる」仕事だ。
つまりマーケティングで使われるAIは、小売店の顧客の気持ちをつかむことが期待され、小売業の売上を高めることも期待されている。
しかしユニクロといえば、顧客の心をつかむのが上手であるし、売上高もものすごい金額になっている。
AIが必要なのだろうか。
2兆円企業
ユニクロを運営している株式会社ファーストリテイリング(本社・山口市)は、資本金約103億円、店舗数3,445店、従業員数約5万人(連結)のメガ企業である。
2018年8月期(1年間)の売上高は2兆1,301億円で、初めて2兆円の大台にのった。前期(前年)が1兆8,619億円だったので14%も増やしたことになる。
2018年8月期の最終利益は1,548億円で、こちらは前期より30%も増えた。いうまでもないが、最終利益とは仕入にかかった費用や店舗運営費や人件費や税金などを支払ったあとに残るお金である。
「ユニクロはすごい」と騒がれ始めてから20年以上が経過しているが、それでもいまだに成長し続けている。AIを導入しなくても顧客の心をつかみ売上を確保している、といえる。
アパレルは冬の時代
ユニクロを含め、AIを本格的に導入している企業に共通しているのは危機感だ。つまり、これまでのITやインターネットやWebやアプリだけでは足りず、「AIを使わないとこの危機を乗り越えることができない」と思ったとき、経営者たちはAIに投資する。
では、2兆円企業になったユニクロが抱える危機感とは何かというと、アパレル業界そのものである。
実は日本のアパレル業界は危機的状況にある。ユニクロやしまむらといった元気のある企業がとりわけ目立っているので「日本の衣料は強い」と思っている人は少なくないが、この2社は例外中の例外だ。アパレル業界では多くの企業が倒産したり廃業したりしている。
したがってユニクロは常に「明日は我が身」と考えている。
例えばユニクロの2019年8月期第1四半期(2018年9~11月の3カ月間)の連結決算では、売上高は前期比4.4%増だったが、営業利益は8.1%減、最終利益は5.2%減だった。
これは国内ユニクロ、海外ユニクロ、GUなどを含めた連結決算だが、国内ユニクロに限定すると、売上高は前期比4.3%減、営業利益は29.9%減だった。四半期決算なのでわずか3カ月分の業績ではあるが「ボロ負け」状態である。
では、なぜ2兆円企業が、一時的とはいえ業績をこれほど悪化させてしまったのだろうか。ユニクロはこう説明している。
「2018年10、11月が暖冬だったから」と。
つまり、冬物衣料を売らなければならない時期に、冬物衣料が売れなかったから営業利益が3割も減ったというのである。
これが、国内アパレル業界の実態である。消費者は、暖かい冬に冬物衣料を買わなくなったのだ。これは当たり前のことではない。なぜなら、暖かい冬であってもいつ寒くなるのかわからないから、必要であれば冬物衣料を買うからだ。
なぜ日本人は、暖かい冬に冬物衣料を買わなくなったのだろうか。自宅の洋服棚を想像してみてほしい。「必要な服」は不足しているだろうか。もちろん「ほしい服」はまだまだあるかもしれない。しかし、少なくとも向こう3カ月ぐらい1着の服を買わなくても、なんら支障は起きないはずだ。
アパレル企業が日本人に服を売るためには、「必要だ」と思わせるだけでは足りない。強く「ほしい」と思わせなければならない。
だからユニクロは、国内市場にAIを使ったマーケティング手法「ユニクロIQ」を導入したのである。
Eコマースの存在感、高まる
アパレル業界で「ある意味で」ユニクロ以上に有名な企業がある。ZOZOタウン(以下、ゾゾ)である。ゾゾのビジネスモデルは他社の服を自社サイトで売ることなので、衣服を製造してリアル店舗で販売するユニクロとは業態が異なる。
しかし、服を買う消費者からすると、1着の服をユニクロで買うかゾゾで買うかで迷う。つまりユニクロとゾゾはれっきとしたライバルなのである。
ゾゾが急成長したのはEコマースだからだ。試着を希望する客が多いことから「ネットで服は売れない」という常識を覆したことが、ゾゾの成功の秘密である。
そこでユニクロも今、Eコマースに力を入れている。
ユニクロの2019年8月期第1四半期連結決算で、Eコマースの売上高は前期より30.9%も増えた。そしてユニクロ全体の売上に占めるEコマースの割合は9.7%に上昇した。
少々言葉は悪いが「ユニクロの1割はすでにゾゾ化している」のである。
これが、ユニクロがAIを必要としている理由のひとつである。
EコマースとAIはとても相性がよい。Eコマースを強化しなければならないユニクロがAIに多くの資金を投資するのは、厳しい競争が強いられるアパレル業界で生き残るためである。
ユニクロIQの基本機能とは
ビジネスパーソン向けサイト「ビジネスジャーナル」は、ユニクロIQのコーディネートの実力を、プロのスタイリストに判定してもらうというユニークな企画を行った(*)。
*:https://biz-journal.jp/2018/10/post_24955.html
結論を先にいうと、このスタイリストはユニクロIQを「ケチをつけるところが思い当たらない」と絶賛している。
どれほどの実力なのだろうか。
気遣いもしてくれる
ユニクロIQのチャットに「暑い」と入力したところ、「お客様から『涼しい』とコメントしてもらっている商品はいかがでしょうか」と答えた。
回答しているのはAIだ。チャットで人と会話ができるAIのことをチャボットという。「チャットをするロボット」という意味である。
ユニクロIQが推薦した涼しい商品とは、ユニクロのドル箱商品エアリズムだった。
ここでのポイントは、ユニクロIQのチャットボットが、他のユーザー(「お客様」のこと)のコメントを参考にしている点である。つまりユニクロIQは、ユーザーと服についてチャット会話をすればするほど、スタイリストのスキルを磨いていくわ。
これは自己学習できるAIならではの機能だ。
ユニクロIQはすでに、ユーザーがぽっちゃり体系であることを告白すると、ゆったりめの服をリコメンドする能力を身につけている。だぼだぼの服は体型を隠してくれる。心憎い気遣いだ。
客の体型を気遣うことはアパレル店員の基本だが、ユニクロIQはそのレベルに到達しているのである。
まとめ~強い企業をより強くする
ユニクロがなぜAIに投資するのか。先ほど、危機感があるから、と解説した。そしてもうひとつ理由がある。ユニクロには、AIに投資できる資金力があるからだ。
AIはまだ高価な製品だ。しかも玉石混交状態だから、思ったほどのマーケティング効果が得られないこともある。したがって、資金に余裕がある企業しか、現代のAIを試すことができない。
もしかしたら現代のAIは、1年も経たずに使い物にならなくなるかもしれない。AIの進化スピードは速いので、1年もあればより便利でより低価格のAIシステムを生み出せる。
それでも現在のAI投資は無駄にならないだろう。ユニクロのようなAIユーザーが積極的にAIを使うことで、AIシステムを構築する企業はさまざまなノウハウを蓄積していく。そして現在AI投資をしているユニクロのような企業こそが、「使えるAI」ができあがったときに、優先してそれを使うことができるのである。
そのときユニクロはまた、他社を先んじることができるはずだ。AIは強い企業をより強くするのである。
<参考>
- ユニクロIQ(ユニクロ)
https://www.uniqlo.com/jp/iq/ - 連結業績推移(ユニクロ)
https://www.fastretailing.com/jp/ir/financial/past_5yrs.html - ユニクロ新アプリ「AIスタイリスト」めっちゃ感動!自分に合った超理想的コーデ提案!(ビジネスジャーナル)
https://biz-journal.jp/2018/10/post_24955.html - ファストリ18年9〜11月期決算、国内ユニクロ事業が暖冬で売上不振(FASHIONSNAP.COM)
https://www.fashionsnap.com/article/2019-01-10/fastretailing-19q1/
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