「中国AIは日本よりすごい」ことを思い知らされる3社とは

中国のAI(人工知能)の進化が止まらない。ここで紹介する中国AI3社のことを知れば「日本がなぜAIで中国にかなわないか」がわかる。

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中国の3大IT・Web企業といえば「BAT」と称されるバイドゥ、アリババ、テンセントだ。5大IT・Web企業になると、これにiFlyTekとセンスタイムが加わる。

この5社はビジネスで成功しているから「5大」なのではなく、中国政府から直接、AI(人工知能)業界を牽引するよう指名されているから特別視されているのである。

この5社のうち、本稿ではバイドゥとセンスタイムの動向を紹介する。

そしてバイドゥとセンスタイムを紹介する前に、中国AIをウォッチするうえで注目しなければならない企業、iCarbonXの事業内容をみてみる。

この3社を知れば「中国AIは日本のAIよりすごい」ことを思い知ることになるだろう。ジャパンAIが世界のトップグループに入るには、トップグループまでの距離を知っておく必要がある。

中国のAI開発は、単に「AIという技術」を進化させているのではない。ここで紹介する3社の動きには、既存の産業をAI化して世界を牛耳ろうとする野心すら見え隠れする。

AI(人工知能)-中国

iCarbonX

iCarbonXは2015年10月に設立されたばかりのスタートアップ(企業)だが、それからわずか半年で「10億ドルの価値がある企業」といわれるまでに成長した。

iCarbonXは遺伝子配列を解明し、AIとビッグデータを使って医療に革命をもたらそうとしている企業だ。

iCarbonXの創業者のWang Jun氏はメディアに「人類の生活データをデジタル化して解読し、そこから価値ある教訓を得ることで生活の質(QOL)を向上させる」と、同社のミッションを説明している。

遺伝子解析による治療の壁

ただ、遺伝子解析をすることで革新的な治療法を確立する研究では、アメリカが先行している。日本の研究機関も多数取り組んでいて、例えば国立がん研究センター東病院は、がん患者に投与する抗がん剤の選択において患者の遺伝子を解析する。

遺伝子解析はすでに医療現場に入ってきていて、とりわけ新しい医療技術というわけではない。

ただそれらはいずれも「成果」をあげているが「革新的な成果」かというと、どうもそうでもないようだ。

遺伝子解析による治療には高くて厚い壁がある。遺伝子の変異と病気の因果関係がみつけられないのだ。

いくつかの深刻な病気は確実に親から子へと遺伝しているのだが、遺伝子変異を引き起こす要素の多さと、病気を引き起こす要素の多さから、なかなか「この遺伝子変異がこの病気を引き起こしている」「この遺伝子変異を止めればこの病気は発症しない」ということが断定できない。

例えばインフルエンザの症状は、インフルエンザウイルスに感染しない限り生じない。この場合、「インフルエンザウイルスがインフルエンザの症状を引き起こしている」「インフルエンザウイルスに感染しなければインフルエンザの症状は出ない」と断定できる。

遺伝子解析医療では、このような明瞭さを示せていないのだ。

それゆえに、この壁を乗り越えようとしているiCarbonXの野心の強さは相当なものといえる。

100万人の遺伝子データを集めAIで解析する

iCarbonXは100万人の遺伝子データを集めることで、遺伝子解析による医療を推し進める。具体的には、被験者の血液を採取し、血中内のタンパク質の変化や新陳代謝の様子を測定する。さらにウェアラブル端末で被験者の血糖値をモニタリングしたり、尿や便からも特定の成分を調べたりする。

血中タンパク質や血糖値、尿や便の成分のことを、生体検査データという。

生体検査と遺伝子解析を組み合わせることで、がんなどの病気の原因を特定しようというのである。

なぜ中国でできて日本でできないのか

遺伝子解析の技術はアメリカにも日本にもある。血糖値などの生体検査データは日本の内科クリニックでも集めることができる。なのになぜ、日本企業はiCarbonXが取り組んでいる事業に乗り出さないのか、あるいは乗り出せないのか。

理由のひとつは遺伝子データを集めるコストだ。中国では、遺伝子データを含む大規模個人データを低コストで収集することができる。

そしてもうひとつの理由が、AIの技術力だ。1人分の遺伝子解析と生体検査データの収集だけでも、その情報量は莫大になる。100万人分の解析となると、それが100万倍になる。

AIの「ビッグデータのなから特殊な傾向を発見する能力」がなければ、このプロジェクトは推進できない。

つまり力があるAI企業が遺伝子解析医療に乗り出さないと、この事業は成功しない。中国はそれを理解しているのである。

バイドゥ

中国ではグーグル検索ができない。アメリカのグーグル社が中国政府と対立し、2010年に中国から撤退したからだ。

しかし中国には、バイドゥというネット検索エンジンがある。そのためバイドゥは「中国のグーグル」と呼ばれるが、似ているのは検索エンジンの運営だけではない。AIへの積極投資でもバイドゥはグーグルと似ている。

バイドゥのAI部門には1,300人の技術者が在籍しているという。この規模だけでも、日本のITや電機の企業関係者は脅威を感じるのではないだろうか。

AIをデザインする能力

バイドゥの脅威の源は、AIの技術力やAI開発陣の規模だけではない。バイドゥはAIをデザインする能力が高い。

インターネットやITが世の中に出始めてきたころは、すぐに飛びついた人はまれで、多くの人々は「ネットのなかには何もない」「ITを導入するのが面倒」と様子見ムードだったはずだ。それがいまや、ネットのない生活やITのないビジネスが考えられない状況になった。

これはネットやITが次第に、一般消費者がなじめるようにデザインされてきたからである。

そしてバイドゥは、一般消費者が受け入れやすいようにAIをデザインしようとしている。

例えばバイドゥが2017年11月に発表したAIスピーカー「レイブンH」だ。ユーザーが口頭でレイブンHに用事をいいつけると、レイブンHに搭載されているAIがネット検索をしたり家電を動かしたりする。

これだけなら、アマゾンのエコーやグーグルのホームと同じだ。しかしレイブンHには、外形がとても「かっこういい」という付加価値がある。

アマゾン・エコーもグーグル・ホームも、外形は円筒形に細かい穴が開いているだけだ。

しかしバイドゥのレイブンHは、プラスチック製の薄い板を8枚積み重ねた斬新なデザインになっている(*)。外形からそれがAIスピーカーであることを推測することはできないだろう。

バイドゥはスウェーデンの家電メーカーと共同開発することでレイブンHの優れたデザインを獲得した。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1711/17/news075.html

ライフ機器において、デザインのよさが製品の爆発的な普及を生むことは、アップルが証明している。

デザインはときに、機能より人々の生活を変えるのである。バイドゥはそれを実行している。

AI(人工知能)-デザイン力

インフラをデザインしやすい環境

バイドゥのデザインへの野心は、ひとつの製品の見映えをよくするだけにとどまらない。というよりインフラのデザインこそ、バイドゥの力の見せ所といえる。

バイドゥは、これまたグーグルと同じように、AI技術を活用した自動運転車の開発に力を入れている。しかもバイドゥは中国政府から直々に、自動運転車開発の推進を託されている。アメリカでも日本でも自動運転車開発は交通当局の規制との調整に苦労しているが、バイドゥは中国政府公認なのでその懸念は最小限にとどまる。

つまり交通インフラをデザインしやすい環境にあるのだ。

センスタイム

中国AIの5強の一角であるセンスタイムは、中国政府から顔認証技術の開発を推進するよう要請を受けている。

センスタイムも若い企業で、創業したのは冒頭で紹介したiCarbonXの1年前の2014年だ。

それにも関わらず、センスタイムの顧客はすでに400社を超え、なかには中国最大のクレジットカード「中国銀聯」も含まれる。

驚くほど貪欲にAIで稼いでいる

センスタイムの強みは、技術力に裏打ちされたビジネス力だ。少々俗ないい方をすると、AI技術で儲けようという意欲が旺盛だ。

センスタイムにはソフトバンク系のファンドが10億ドル規模の出資を検討していたりと、マネーが集まる。これだけ大きな投資を続けているにも関わらず、センスタイムは2017年に黒字化できた。

センスタイムは確立したAI技術を素早く製品化して、コンピュータ業界、金融業界、小売業、電気業界、自動車業界などに売っているのだ。

センスタイムのシュー・リーCEOは、中国政府のテコ入れによって同社が好業績を叩き出している、との世間の見方を明確に否定している。

リー氏は「政府関連の売り上げは多く見積もっても30%程度、残りはスマホメーカー、自動車メーカー、ネットサービス企業などからの売り上げだ」と強調する。

まとめ~それはかつての日本企業にあった「元気」

中国AI企業に共通しているのは、スケールの大きさと、ビジネス化の速さだ。社会主義国の中国では、経済は政治のコントロール下にある。したがって中国の経済の推進力は経済力と政治力の2馬力になる。

日本の場合はその真逆で、政府は経済の規制や監督の役割を担う。

もちろんそれは良し悪しの問題ではない。中国は21世紀になっても公害を発生させ続けているが、日本は環境ビジネスやクリーンエネルギーが得意だ。

ただ経済の力だけを考えると、断然中国に分がある。中国のAI事業は国家プロジェクトになるので、スケールが大きくなるのは当然だ。

しかしビジネス化の速さは企業努力によるところが大きい。かつての日本メーカーは、技術力を惜しみなく製品に落とし込むことで世界市場を席巻してきた。

中国企業に奪われたその「お株」を再び奪還してもらいたいものである。


<参考>

  1. 中国のバイオテック・スタートアップIcarbonx(碳雲智能)、設立半年でバリュエーションが10億ドル超(THE BRIDGE)
    https://thebridge.jp/2016/04/highspeed-unicorn-chinese-biotech-startup-valued-1b-months-founded
  2. 中国で100万人のDNAを解析するプロジェクトが始まる、遺伝子と病気の関係をAIで解明(Emerging Technology Review)
    http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:RFjShqXfF_YJ:ventureclef.com/blog2/%3Fp%3D3364+&cd=2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-b
  3. がん関連遺伝子を網羅的に調べる遺伝子検査のご案内(国立がん研究センター東病院)
    https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/d001/info/innovative_medicine/genetic_testing/index.html
  4. 中国ヘルスケアスタートアップiCarbonX、シリーズAで約170億円を資金調達…アジア史上最速のユニコーン企業へ(pedia)
    https://thepedia.co/article/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97icarbonx%E3%80%81%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BAa%E3%81%A7%E7%B4%8417/
  5. グーグル、検索で中国再進出? 「検閲容認」か、米報道(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33700120S8A800C1000000/
  6. 中国の百度が遊び心で狙うAIの勝者の座(Newsweek)
    https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/12/ai-26_2.php
  7. 中国政府が選ぶ「AIトップ5社」にセンスタイムとiFlyTekら(Forbes)
    https://forbesjapan.com/articles/detail/24223?n=1&e=23453