二酸化炭素の排出量増加や焼却費用の高騰につながるため、ゴミの分別は欠かせない。一般市民の分別では不十分なため、収集施設でのゴミの分別が必要になる。
作業を絞れば高いパフォーマンスを発揮する人工知能(AI)。画像認識でも威力を発揮するAIだが、ゴミ分別に応用できるだろうか。AIによるゴミ分別の活用事例を確認しながら、AIとゴミ分別の相性についてみていきたい。
続きを読むゴミ分別とAIの相性とは
ゴミ分別の必要性
家庭用ゴミでも、燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミなどと分別の必要があるため、その作業を煩わしく感じる方もいるだろう。ゴミを分別するのは、リサイクルの必要があったり、燃焼させるゴミを最小限にし、リサイクル可能なものは再処理するためだ。家庭でのゴミ分別が課せられるとはいえ不十分なため、実際にはゴミ処理施設でもゴミの分別が行われる。
ゴミ収集車で処理場に運ばれたゴミの分別は、重労働である。機械に巻き込まれたり、粉塵を吸い込むリスクがあるという。きつい、汚い、危険を意味するブルーカラーの「3K」。ゴミ処理もまた3Kを代表する業種のひとつだろう。とくに近年、労働者不足により3Kに分類される職業に就くことは忌み嫌われる。この労働者不足を補う候補として、AIが挙げられる。
AIの側面からみた利点
AIの側からみて、ゴミ分別を行なうとしてどんな強みがあるだろうか。
Googleが開発した囲碁のコンピューターAlpha Goが2016年3月に囲碁の世界チャンピオンを破ったことは記憶に新しいだろう。このAlpha Goに搭載されているのが、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれるAIである。過去の棋譜をもとに学習を繰り返し、最善の手を導き出すのだ。ディープラーニングでは、囲碁の世界で長年培われた棋理や定石に囚われない、データから抽出した規則性が求められ、これにより人間を上回る実力が発揮できた。つまり、人間の勘よりもAIの導き出した規則性のほうが役立つのだ。
これはゴミ分別でも同様だ。ゴミ分別のための最適な運搬方法や分別方法は、作業員の勘や経験に基づいていた。他方ディープラーニングでは、人間が気づかなかった方法を導き出しうるので、より効率的にゴミ分別が可能になる。
加えて、ディープラーニングはゴミ分別に向いている。ディープラーニングが得意な作業に、画像処理が挙げられる。ゴミ分別の場合、カメラやセンサーで収集された画像などを学習にかけるのが一般的だが、これはディープラーニングの得意とする分野だろう。
作業員の重労働を代替できる、勘や経験に頼らない、画像処理が得意と、ゴミ分別とAIとの相性は最高だといえよう。
横浜市イーオのAI活用方法紹介
チャットボットを活用してゴミ分別を支援
横浜市資源循環局は、2016年からNTTドコモと共同で、AIを活用したチャットボット「イーオ」でゴミ分別案内を行なう実証実験を開始した。「イーオ」はホームページから利用可能で、出したいゴミの名前や品目を入力すると、分別方法を答えるという。
チャットボットは近年注目を浴びるサービスだ。チャットボットを可能にするのが、AIである。ユーザーの打ち込んだ文章をAIで解析し、適切な答えが返される。オペレーターに入電しなくてもチャットボットが適切な回答を与えるので、人件費の削減につながる。またホームページに掲載されたFAQと異なり双方向のコミュニケーションが可能なため、ユーザーに優しいサービスが可能になる。
パートナーを組む横浜市とNTTドコモの思惑
横浜市が抱えていた問題は、十分に分別がなされていない点である。2005年以降、10分別15品目に分別を拡大したにもかかわらず、依然として分別の必要なプラスチック製容器包装や古紙などが約15パーセントも含まれていたという。ゴミの焼却量を減らすことで、コストや二酸化炭素排出の削減につながることから、ゴミの分別を徹底させる方法を模索していたという。
他方NTTドコモはAIを活用して、地域創生や社会的課題の解決に取り組んでいた。AIや自然言語処理の活用を模索していたところで、パートナーとして横浜市が浮かび上がった。横浜市とNTTドコモ双方の思惑が一致し、「イーオ」の開発へとつながったのだ。
Oscar紹介
AIやIoT関連製品を販売するAutonomous
アメリカ・ニューヨークにあるベンチャー企業Autonomousがデザインしたゴミ分別可能なゴミ箱がOscarだ。
Autonomousは2014年に設立され、机などの家庭用品を製造・販売している。販売されている製品には、ディープラーニングを搭載したロボット以外にも、スマートオフィスに必要な机や椅子などが含まれる。IoTやAIに関連する製品を販売するのが、Autonomousの特徴である。Oscarもまた、AI技術を活用した製品だ。2018年7月に、アメリカのクラウドファンディングサイト・Kickstarterにて、Oscarの資金調達が開始された。
クラウドファンディングで資金調達
Oscarは生ゴミやペーパータオルといった有機物質、プラスチック製の容器、紙、ペットボトルや缶、歯磨き粉のチューブなどを分類できるという。Oscar上部には、ボタンに触れると自動で開くフタがあり、ゴミを入れることが可能だ。フタの内側にカメラが搭載されていて、それでゴミを分別するという。
ゴミの分別には、ディープラーニングが応用されている。Autonomousによると、ゴミの画像データ1万枚を学習に用いたが、分別の精度は高くなかったという。そこで10万枚の画像に加え、10種類にも及ぶ物質や、マイクから採取した物質から放たれる音1万程が学習にかけられた。その結果、80パーセントまで認識率が上昇したという。
Autonomousはゴミ分別について新しいアイディアが浮かんだことから、Oscarの資金調達を一旦ストップし、Oscar 2の開発に向けて目下準備中だという。
Sadako紹介
革新的な製品に取り組むスペイン企業
Sadakoは2012年に設立されたスペインのベンチャー企業だ。Sadakoは、広島平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデルである佐々木禎子に由来して命名されたという。
Sadakoは、AI、コンピュータビジョン、ロボット技術によって、革新的な製品を生み出すことをスローガンに置いている。とりわけ、AIとロボット技術との融合は、革新的な製品を生み出す上で欠かせない。ロボットといっても、アニメやSFに登場するものではなく、自律した機械である。ロボットがうまく作動するためには、外界からの情報をセンサーやカメラで取得し、それに基づき動作を行わせる必要がある。ビッグデータの処理にはディープラーニング、外界からのデータ取得にはセンサーがそれぞれ必要になる。
センサーで取得される情報はあくまで2次元情報なため、外界の3次元情報をそのまま画像処理することができない。そこで必要になるのが、「コンピュータビジョン」と呼ばれる分野だ。2次元情報と3次元情報との橋渡しすることで、3次元の画像処理が可能になるのだ。
コンピュータビジョンを活用したゴミ分別装置
Sadakoが開発したゴミ分別装置Max-AIもまた、AI、コンピュータビジョン、ロボットが融合した製品である。ペットボトルや燃えるゴミなどゴミの分別し運搬するためには、3次元の画像処理が欠かせない。そこでコンピュータビジョンの技術を駆使しながら、ゴミを分別し、効果的にアームで掴む場所等をAIで判断するのだという。
Sadakoが最初に開発したゴミ分別装置「Wall-B」ではペットボトルだけを認識し1分間に20個運搬できたが、Max-AIでは分別できる種類も増加し運搬スピードも数倍にすることができた。
今後普及していくのか
では、ゴミ分別にAIが活用される機会は今後も増えるのだろうか。
単純かつ厳しい労働が強いられるゴミ処理
ゴミの分別は、労力がかかるうえに危険な作業である。そのため、ゴミの分別に従事したい労働者が少なく、労働者不足に陥っている。とりわけ、少子高齢化により労働者人口が減っていることから、ゴミ分別のような業種に人材が集まることは難しい。
その一方で、ゴミ分別のような単純作業は、AIやロボットによって代替可能なリスクの高い職種であると考えられる。野村総研のレポートによると、今後10年で労働者人口の約49パーセントがAIやロボットによって淘汰されると報告されている。そのため、既存の業界からの反発もありうる。事実、ライドシェアのウーバーが日本に参入しようと企てたとき、まっさきに反旗を唱えたのがタクシー業界である。雇用機会を奪う動きには、反対する勢力があるのも事実だ。
生産性の高いAIやロボットへの代替は不可避か
ゴミ分別AIのメリットは生産性の高さだろう。これまでもイノベーションによって、既存の職種が淘汰され新しい職種が生まれるが繰り返えされた。生産性の低い飛脚は、生産性の高い郵便業へと移り変わったのだ。
AIやロボットが既存の職種を淘汰することばかりがクローズアップされるが、その一方で新しい職種の誕生や、人間にしかできない作業に集中できるといったメリットもある。AIやロボットによって淘汰される可能性の高い職種のうちでも、危険度の高いゴミ分別はAIやロボットが行なう流れが生まれるのではないだろうか。
まとめ
ゴミ処理を効率的に実施するのは、二酸化炭素の排出量削減や厳しい労働環境から労働者を開放することにつながる。とりわけディープラーニングのようなAIとゴミ分別の相性は非常によい。
環境問題への対応が世界中で検討されるなか、AIの活用がゴミ処理を含めた環境問題の解決に道を開いてくれるのではないだろうか。
<参考>
- Oscar (Kickstarter)
https://www.kickstarter.com/projects/autonomous/oscar-the-worlds-first-ai-trash-can/description - Autonomous Inc.
https://www.autonomous.ai/ - Sadako Technologies
http://sadako.es/ - 「チームの闊達な風土が生んだ 横浜市「イーオのゴミ分別案内」(『人材教育』2017年11月号)
- 「センサーやAIを駆使 作業員を重労働から解放」(『Nikkei Ecology』2017年10月号)
役にたったらいいね!
してください
NISSENデジタルハブは、法人向けにA.Iの活用事例やデータ分析活用事例などの情報を提供しております。
No related posts.