AIの活用事例は多岐に及ぶ。そのなかでも、フィンテック(FinTech)と呼ばれる金融業における技術進歩はすさまじい。
フィンテックは多種多様な技術から成り立つ。では、フィンテックにAIはどのように活用されているのだろう。
続きを読むFinTechとは
FintechとはFinance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語である。日本では近年よく耳にするFintechだが、用語自体は海外ではよく使用されていたという。ただし当初は、金融に関するICT(情報通信技術)を単に意味していた。業務効率化やコスト削減のために、ICTが金融業界で伝統的に使用されていたのだ。
とりわけ近年のICTの発達は目覚ましい。代表的なICTのひとつにP2P(Peer-to-Peer)が挙げられる。従来、データのやり取りを管理するためには、中央集権的なシステムが必要だった。ところがP2Pではネットワークに接続する端末でデータ管理が可能になる。P2Pが登場した当初はファイルの共有に使用されるのみだったが、仮想通貨の基盤となるブロックチェーンやスマートコントラクトにまでP2Pは活用されている。
仮想通貨の例が示すように、ICTの発展は金融業界への幅広い応用を可能にした。従来業務効率化やコスト削減のために使用されたICT技術が、フロントエンド、つまり顧客に見える部分においても活用可能になった。つまり、ICT技術による付加価値の創出がフィンテックの根幹にあるといえるだろう。
AIとは
フィンテックで重要視されるAIは、ディープラーニング(深層学習)をはじめとする新しいタイプのものである。1950年代にすでにチェスを行なうプログラムが作られるなど、AIは昔から存在した。だがディープラーニングが登場したのは近年の話。2014年に実施された画像認識コンテストでディープラーニングが圧倒的なスコアで優勝したことから、一躍有名になった。それからたった5年で、さまざまな分野にディープラーニングが活用されている。
AIとは、人間の指示を仰がなくても、機械が情報をもとに判断するシステムのことだ。従来は最小限の規則を与えることによって、機械が推論する「エキスパートシステム」のような存在がAIの代表例であった。一方ディープラーニングでは、このような最小限の規則すら与える必要はない。大量のデータから特徴量を学習によって自動で導き、それをもとに推論が可能になる。特徴量を求めるためにはビッグデータが必要になるが、人間が気づかないような特徴量が導き出され、結果として従来のAIよりも高い推論能力をディープラーニングがもつようになった。
フィンテックに関していうと、金融業界は以前からデジタル化に取り組んでいた。バックエンドでは顧客情報や取引履歴などデジタル化された金融情報が保管されていたのだ。これは、ディープラーニング等の機械学習が推論に必要なビッグデータが存在することを意味する。このビッグデータをもとに、フィンテックを発展させることが可能になる。
FinTechにAIはどのように活用できるのか
フィンテックといっても、モバイル決済やソーシャルレンディング、仮想通貨など幅広い金融サービスのそれぞれに対応した技術がある。そのため、AIの活用事例も挙げればきりがない。そこで、AIが活用される代表的な事例についてのみ取り上げたい。
AIスコア・レンディング
スコア・レンディングとは、AIがはじき出した点数をもとに融資やローンなどの額や金利を決定する手法を指す。通常個人の場合は、収入や年齢、勤続年数などが、企業の場合は会計や決算書、口座情報などが判断の材料になっていた。だが融資を決めるうえで重要な情報である将来性といった指標を人間が上手く算出できなかった。
インターネット上には商取引や決済の履歴など様々なデータがやり取りされている。AIを活用しこれらのビッグデータを学習すれば、将来性といった数値化しにくい指標も適切数値化できるようになる。
不正検出
ネットバンキングやECサイトからクレジットカードで決済、あるいは最近ではスマートフォンを使用したモバイル決済など、端末でのお金のやり取りが必要になる。ところが、これらの端末はネットワークに接続されているため、セキュリティの問題と隣り合わせである。
セキュリティの穴を突くサイバー攻撃は至るところで発生しうる。暗号化されていない情報のハッキングやゲートウェイなどの通信機器のセキュリティホールへの侵入、さらにはパスワードを盗んで乗っ取りなど、ありとあらゆる不正が想定される。
不正を検出するためには、取引時間や場所、金額などの情報が必要だが、これらの情報は多すぎるため、すべてをチェックするには人手だけでは賄えない。そこでビッグデータを処理可能なディープラーニング等のAIを使って、不正の検出が行なえるようになる。
株価の予測やポートフォリオ作成
AIの活用がもっとも期待されるのが、株式など金融資産への投資シーンだ。近年、金融資産の取引は、ヘッジファンドなどがアルゴリズムを使って自動的に行なう手法が採用されている。
どの金融資産をどのタイミングでどのくらいの額売買するか判断するためには、株価の変動を予測するテクニカルや、株価や原油価格などの支障に基づいて判断するファンダメンタルズといった手法がある。AIを導入することで、株価の変動を予測したり、どのように分散投資すれば利益を最大化できるかが判断できるようになる。
個人投資家の側から見れば、どの金融資産をどのくらい購入すればいいのかというポートフォリオの作成が必要になる。機関投資家ならいざしらず、個人投資家がこのようなポートフォリオの作成を行うのは困難で、ファイナンシャルプランナーなどの助言が必要になる。
近年注目を浴びるのが、「ロボアドバイザー」と呼ばれるウェブ上で適切なポートフォリオを提示してくれるシステムだ。このポートフォリオ作成にAIが活用され始めている。日経平均株価などの経済指標だけでなくニュース記事やSNSでの情報など株価の予測に役立ちそうなデータを取り込み学習させることで、適切なポートフォリオが作成可能になる。
AIDA Technologiesは金融機関のコンプライアンスリスクを検出する
以下では、フィンテックにおけるAIの活用事例として、シンガポール企業のAIDA Technologiesによるコンプライアンスリスク評価を取り上げたい。
コンプライアンスリスクとは
コンプライアンス(法令遵守)が近年、企業の経営に求められている。法律の遵守はもとより、企業倫理などが企業に求められている。コンプライアンスを無視すると、社会的信用を失うばかりか、行政による罰則が与えられるなど、企業は厳しく監視されている。
金融業においても、コンプライアンスが重要な意味をもつ。2018年にスルガ銀行がシェアハウスのオーナーに対し不正融資を行ない、トラブルを起こしたことは記憶に新しいだろう。フィンテックや海外展開といった金融機関を巡る急速な変化に伴って、コンプライアンスリスクが発生する可能性が高まっている。事実、金融庁はこれらの問題に対処するために、「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方」を2018年に公表し、外野から広く意見を求めたばかりだ。
その一方で、コンプライアンス違反による損失リスクを計量化するのは難しいという問題がある。
AIDA Technologiesの取り組み
AIDA Technologiesは2016年に設立されたシンガポールの企業である。ディープラーニングをはじめとする機械学習によって、意思決定などの自動化を実現するのが、同社の目標である。
AIDA Technologiesが提供するソリューションのひとつに、コンプライアンスリスク管理がある。同社は、テキストマイニングを使って不正を検出するシステムである「AIDA-KYT」を開発した。「AIDA-KYT」は、トレーディングフロア(立会場)で行なわれる取引や会話データをモニタリングし、不正を検出できる。これにより、コンプライアンスの違反が阻止可能になる。
まとめ
フィンテックひとつ取っても、さまざまなAIの活用事例が存在する。フィンテックを加速するのは、仮想通貨などの新しい技術が登場するからだけでなく、グローバル化によって各国間の障壁がなくなっていることも一因である。
このような複雑な金融業界のシステムで迅速かつ正確な処理を行なうためには、AIが不可欠な状況になっている。今後、フィンテックにおけるAIの需要は増え、ますます金融業界を活気づかせるのはないだろうか。
<参考>
- 求められるコンプライアンス・リスクの予兆管理態勢の確立(デロイトトーマツ)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/financial-services/articles/bk/jp-bk-kinzai2018-2.html - AIDA Technologies
https://www.aidatech.io - AIDA Technologies: Where Predictive Analytics Meets Human Intelligence(APAC CIO Outlook)
https://artificial-intelligence.apacciooutlook.com/vendor/aida-technologies-where-predictive-analytics-meets-human-intelligence-cid-2458-mid-125.html - 「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)の公表及び意見募集について(金融庁)
https://www.fsa.go.jp/news/30/dp/compliance.html - スルガ銀の借金返済要求 シェアハウスオーナー苦悩(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASM583VP9M58UUPI001.html - 『Fintechとは何か』(隅本正寛、松原義明 著)
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