スマートフォンやスマートスピーカーの普及により、遠隔操作や音声操作によって家電を扱えるようになった。電子機器がネットワークで接続され、従来よりも効率的な操作が行なえるのがIoT(モノのインターネット)の根幹である。
IoTを代表する製品であるスマートスピーカーには、音声認識可能な人工知能(AI)が搭載されているため、IoTとAIとの違いをよく理解していない人がいるかもしれない。だが、IoTとAIとは効率的なシステム実現のための両輪だといっても過言ではない。そこでAIとIoTとの違いや2つのつながり、活用される分野等について記してゆきたい。
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時代とともに変化するAIの考え
人工知能とは何かという定義は、時代によって変わってきている。現在では、ディープラーニング(深層学習)をAIとして想起する人が多いかもしれないが、その歴史は古い。世界初のデジタルコンピューターENIACが1948年に開発され、1950年代にはすでにチェスを行なうプログラムが完成されていた。そのため、人工知能という言葉がない時代からそれに類する対象があったといえよう。
人工知能という言葉が最初に登場したのが、1956年のダートマス会議だ。会議参加者によって話し合われたのが「機械が知的な作業を行なえるために必要なこと」であり、これをもって人工知能と考えることができる。ともかく、人間の力を借りずに自動的に推論するというのが、AIのミソである。
複雑な知的作業が可能になった歴史
当初のAIの試みは、探索が基本だった。チェスを例にとれば、チェスの進行をツリー状に表現できる。このようなツリーから駒(ピース)の最適な置き方が推論される。現在でいう探索木の手法は、デジタルコンピューター黎明期から存在したのだ。
人工知能は発展してゆき、専門家のもつ知識から推論を行なう「エキスパートシステム」や、脳を模した数理モデルに基づいたディープラーニングが登場し、その度にAIブームが起きた。現在では、チェスなどのゲームに限らず、画像認識等のパターン認識や未来予測など幅広い応用が可能になっている。
loTの定義とは
電子機器の普及とユビキタス
IoTとは電子機器等の端末(モノ)がネットワークで接続されたシステムを指すが、その起源はAIよりもずっと最近の話である。1990年代前半に、ゼロックスの研究所にいたマーク・ワイザー氏が「21世紀のコンピューター」という論文の中で「ユビキタス」、つまりコンピューターがどこにでもある社会へと将来なるだろうと予言しているのが始まりだろう。これは絵空事ではなく、現に実現する素地は当時からあった。日本初のOSであるTRONを開発した坂村健氏は、PC用ではなく組み込み機器用のソフトウェアとしてTRONを位置づけている。PCだけでなくハードウェアを搭載した機器がどこにでもある状況というのが、ユビキタスである。
ネットワークの普及とIoT
IoTという言葉が使われる以前は、M2M(Machine to Machine)がユビキタスを代表する概念だった。機械同士を結びつける通信技術がM2Mの根幹にある。それに対し、IoTはあらゆる端末をインターネットで接続するのが特徴だ。M2Mでは工場など一部での利用が想定されていたものの、IoTでは製造業だけでなく家庭や地方自治体、サービス業におけるあらゆる端末がインターネットを介して接続されるようになる。
M2MにせよIoTにせよ、根幹にあるのは端末に搭載されたセンサーだ。これによりデータを見える化することで、高度な判断処理やリアルタイムでの状況判断が可能になる。まさにユビキタスを実現したシステムこそが、IoT(モノのインターネット)である。
いずれにせよ、IoTの起源はAIとは別の概念に由来し、必ずしもAIを必要とされてこなかったことは頭にとどめておくべきだろう。
AIとloTの関係性とは?
では、電子機器群のネットワーク化から出発したIoTがなぜAIと結びついてくるのか?その橋渡しとなるのが、「ビッグデータ」である。
外界から収集される有用なビッグデータ
端末に搭載されたセンサーは外界からさまざまな情報を収集する。たとえばカメラの場合、イメージセンサーで画素ごとに光の波長や強さを計測する。これらの情報をもとに、写真が再現される。写真の場合、外界から収集したビッグデータから2次元の画像へと単に変換するだけなら、大掛かりなソフトウェアは必要とされない。だがセンサーが得たビッグデータをもとに地震の予測や画像認識をするためには、膨大な情報を処理するためのソフトウェアが必要になる。そこで登場するのがAIである。ディープラーニングをはじめとするAIは、大量のデータを学習することで、最適な回答を与えることができる。カメラの場合、単一の電子機器からデータを収集するが、IoTは複数の端末を包含するシステムなので、ビッグデータを処理できるAIが必要不可欠なのだ。
データの見える化がビジネスへの応用を可能に
AIとIoTとの融合が期待されているのが、製造業だ。経済協力開発機構(OECD)加盟国において、1人当たりの労働生産性が平均を下回るなど、わが国において労働生産性を上げることは急務になっている。この目的のために必要なのが、工場にIoTを導入することだ。センサーで収集されたビッグデータをもとに、効率的な生産システムが実現される。そのためには、多くのセンサーやリアルタイムでAI処理するためのエッジコンピューターが工場内に必要になってくる。
IoTの肝は、どのような情報を可視化するかという点にある。写真による画像認識やマイクによる音声認識の場合、収集するビッグデータは光や音の波長や強度といった物理量であるため、比較的わかりやすい。しかし、労働生産性を上昇させるために必要なビッグデータを導き出すには、工夫が必要だ。効率性を判断するためのあらゆる指標を見える化する必要が出てくる。マーケティングの場合、店舗内にカメラを設置し、どのくらい滞在したかや、何を購入したかなどをビッグデータとして収集する必要が出る。これらの指標さえ揃えば、AIを使って顧客に購買させる戦略を組むことが可能になる。
つまり、AIやIoTを単独で運用するだけでは不十分で、2つの要素が組み合わさることで、最大限の力が発揮されるといっても過言ではないだろう。
AI×ioTで人々の生活にどのような影響をもたらすのか?
個人で役立つスマートホームやヘルスケア
先述したように、マーケティングや製造業など、企業にとってメリットの多いIoTだ。だがわれわれの生活にとって身近な事例でもさまざまな活用方法が存在する。その代表がスマートホームだ。スマートスピーカーはIoTを代表する製品のひとつであり、搭載されたAIアシスタントによりわれわれ人間の会話が認識できる。これによりスマートスピーカーから家電の操作が音声だけで可能になり、わざわざ本体が設置された場所まで移動して手動で操作する必要がなくなる。余った時間は趣味などに利用すれば、われわれの生活も効率化されるだろう。
健康・医療データの活用もIoTの活用法のひとつだろう。ウェアラブルデバイスにより、心拍数や体温、歩いた距離などが計測可能になった。この情報をもとに、われわれ自身が、健康な生活を送っているか判断できるようになる。アメリカでは、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)により、健康は自分で管理することが求められている。その背景には医療費の高騰があるが、健康・医療データをウェアラブルデバイス等で収集すれば、健康異常などいち早く認知できるだろう。
製造業だけでない活用事例
もちろん、IoTは企業への恩恵も大きい。製造業の事例以外にも、流通業でも自動運転やモビリティの最適な運用、在庫管理などさまざまなシーンのおいてIoTが必要になってくる。また電力業界においても、効率的な電力運用のために、家庭に設置されたスマートメーターで電力消費量などビッグデータを収集。これをもとに、電力量の予測や効率的な電力供給が可能になる。
企業から個人に至るまでIoTが利用できるシーンは多く、その恩恵は大きいといえるだろう。
まとめ
IoTの運用にはAIが欠かせないことから、IoTとAIとを混合する人がいるかもしれない。AIの背景には知的作業の自立化、IoTの背景にはコンピューターを搭載した電子機器の普及とネットワーク化があり、その起源は別だ。だが、その進化の過程で両者がビッグデータの活用を避けられないことから、互いを必要としたといえるだろう。
<参考>
- 「21世紀のコンピューター」(『日経サイエンス』1991年11月号)
- 「人工知能とは」(『臨床検査』1988年1月号)
- 「Programming a Computer for Playing Chess」(『Philosophical Magazine』 Vol. 41, No. 314)
- 『ユビキタス、TRONに出会う』(坂村健 著)
- 『基礎からわかる「IoT」と「M2M」』(瀧本往人 著)
- 『M2M/IoT教科書』(稲田修一 監修、富田二三彦、山崎徳和、MCPC M2M IoT委員会 編著)
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