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世界経済を変えるアメリカのAI企業5社

世界経済を変える事態が起きているとき、必ずアメリカ企業が登場する。数十年に一度のブレークスルーといわれているAI市場で存在感を示しているアメリカ企業5社を紹介する。

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世界経済を変えるのはいつもアメリカだった。そしてアメリカは、今後もその役割を担い続けるつもりらしい。

トランプ政権は自国最優先の保護主義的な貿易を進めようとしているが、アメリカ企業は「政治なんてどこ吹く風」といった調子で、グローバルにビジネスを展開している。

アメリカが牽引する経済分野の1つがコンピュータである。今回は、コンピュータの中でも「数十年に一度ブレークスルー」といわれているAIに関連するアメリカの5社を紹介する。

自動運転

1社目 エヌビディア(NVIDIA)はトヨタとソフトバンクも惹きつけた

日本経済新聞は企業に詳しい新聞社なので、滅多に「謎の企業」とは言わない。しかし日本経済新聞系の雑誌、日経ビジネスは、アメリカ半導体企業「エヌビディア(NVIDIA)」について「謎だ」と報じた。

ソフトバンクが4,000億円の投資を行い、トヨタが自動運転技術の開発で提携することを決めた。その企業が謎に包まれているとはどういうことだろうか。

謎の会社はこれまでGPUをつくってきた

エヌビディアはGPUというパソコンの画像処理などに使う高価な半導体を製造してきた。しかしGPUは高性能かつ高価格すぎて、通常の半導体で間に合うデバイスには使われない。GPUは例えば、高画質で高速処理が必要なゲームに使われる。エヌビディアはいわば、マニア向けメーカーだったわけだ。

ところがAI技術に欠かせないディープラーニング(深層学習)では、高性能な半導体が必要になった。それでAI業界の注目が一気にエヌビディアに集まったのである。

自動運転車の大量・複雑な計算もお手の物

さらにエヌビディアは、自社で自動運転車の開発に乗り出した。自動運転車にはAIが欠かせず、AIにはGPUが欠かせない。

「自動運転車にうちの部品が欠かせないなら、うちが自動運転車をつくってしまおう」ということである。

エヌビディアの自動運転車開発における強みは、大量のAIコンピュータだ。エヌビディアはAIコンピュータであらゆる道路のあらゆる環境を再現し、自動運転車のシミュレーションを行う。

通常の自動車づくりでは、研究室で試作品をつくり、それを走らせてうまくいけば少量生産し、再びそれを走らせてそれがうまくいけば大量生産する――というサイクルをひたすら繰り返す。まさに試行錯誤である。

ところがAIを使えば試行錯誤はすべてコンピュータが行ってくれる。

トヨタはエヌビディアの技術力を高く評価し、「エグゼビア」という、エヌビディアの新しいGPUの採用を決めている。

【2社目】電気自動車から自動運転車に進んだテスラの試練

AIが必ずしも順風満帆でない事例として、テスラを紹介したい。

テスラは、アメリカの新興の電気自動車メーカーである。昔の電気自動車は、バッテリーを大型化してモーターで走らせただけの「二流のクルマ」にすぎなかった。燃費効率に優れず充電に長時間かかって長距離走行ができなかった。

ところが現代はバッテリーの開発や充電方法の改良が進み、電気自動車は「環境に優しいクルマ」とみなされている。

高級という付加価値を電気自動車に持ち込んだ

その電気自動車の将来性にいち早く気がついたのがテスラだった。フェラーリやBMWのようなスポーティーでゴージャスなつくりにして、高級電気自動車という新ジャンルを築き上げた。

テスラはさらに、自動運転車でも業界をリードしていた。公道での実証実験も順調に進んでいた。

AI企業が落ちた製造業の穴

しかしそこに落とし穴が待っていた。

2017年にテスラの自動運転車が死亡交通事故を起こしてしまった。アメリカの規制当局は、テスラの技術の一部に欠陥があったと指摘した。

テスラの試練はまだ続く。2018年3月、テスラは12万台の同社製電気自動車をリコールすると発表した。リコールとはメーカーの設計ミスが発覚し、無償で修理を請け負うことである。

AI業界には新興企業が多く、短期間で成功を収めることが多い。しかし自動車産業などの従来型の製造業は、長年にわたって技術課題を1つひとつ解消しながら、安くて安全な製品を供給してきた。テスラの直面している危機は、他のAI企業も学ぶところが多いのではないだろうか。

ただテスラは、死亡交通事故については、それでも一般的な自動車より同社の自動運転車のほうが安全であると述べている。

【3社目】駐車場から街を変えるVIMOC

VIMOCテクノロジーズは、米カリフォルニア州のセンサーメーカーである。VIMOCがつくったAI技術が市営駐車場で使われ、世界中の経済ニュース媒体が報じた。どれほどすごい駐車場なのだろうか。

VIMOCは駐車場内の地面のアスファルト内に、車の通過を検知するセンサーを埋め込んだ。センサーが集めた車両情報をAIが分析し、駐車場内の空きスペースをリアルタイムで知らせたり、混雑時間を予測したりする。

さらにこの駐車場はIoT化しているので、AIが算出したデータをネット配信できる。駐車場のユーザーはスマホアプリを使って駐車場の情報をいつでもキャッチできるのだ。

AIの利活用にはセンサー技術が必要

VIMOCの取り組みは、スマートシティづくりのひとコマである。スマートシティとは、「AIな街」であり「ネットとつながった街」である。

つまり、街中にセンサーを張り巡らせて、センサーが集めたデータをネットで吸収してAIに分析させれば、街の近未来が予測できるし、より効率的で便利な街づくりのヒントが得られる。

AIの利活用には実はセンサー技術がカギを握ることを、VIMOCのAI駐車場は示唆している。

【4、5社目】VISAはIBMと組んでより便利なクレジットカードをつくる

半導体のエヌビディアの提携を紹介したが、どの企業もAI市場に参入すると業界の垣根を簡単に超えてくる。

クレジットカード世界大手のVISAとIBMのコラボもその1つである。

なぜAIにコラボが多いのかというと、未知の世界だからだろう。AIを利用したい企業は自社開発できないことが多いし、AIを提供したい企業は顧客をたくさん確保して大量生産してコストを下げたい。

AIコラボはWin=Winを築きやすいのだ。

VISAのAIニーズはクレジットカード決済の認証技術だった。クレジットカードの決済は遠隔操作のため、VISAは決済時に、常に事故リスクを負わなければならなかった。そのため決済を認証するには、厳格なルールを適用する必要があった。

しかし厳格なルールは顧客の利便性を落とす。誰しも一度は、クレジットカードが使える店で、有効なクレジットカードを正当な方法で使おうとしたのに、店側から「決済できない。このクレジットカードはいま使えない」と言われた経験があるだろう。

このような事態は、客も店もVISAも不利益を被る。ある調査会社によると、アメリカで発生した、正当な取引なのにクレジットカード決済が認証されなかった金額は年間1,180億ドルに及ぶという。

この課題を解決するためにVISAが導入したのがIBMの「ワトソンIoTプラットフォーム」である。IoTで情報やデータを集めAIで分析する基本構造は、先ほど見たAI駐車場と同じである。

これによりVISAの顧客は、クレジットカードの番号を使うことなく決済ができるようになるという。決済認証もスムーズに運ぶうえに、安全性も向上する。

まとめ~アメリカAI企業には未来のヒントがある

アメリカ企業の動きをウォッチしていると、日本経済の明日が見えてくる。AI業界はまさにその典型である。アメリカのAI企業がやっていることとやろうとしていることは、重要な経済調査といえるだろう。


<参考>

  1. 詳報:トヨタが頼った謎のAI半導体メーカー(日経ビジネス)
    http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/17/ai/051700001/
  2. NVIDIA対インテル、CESで火花 AIや自動運転(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25496450Q8A110C1000000/
  3. トヨタ、自動運転で脱・日本連合 NVIDIAとAIで提携(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO17828910Z10C17A6000000/
  4. テスラ車死亡事故、自動運転機能が一因と米当局(フィナンシャルタイムス)
    https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM13H1C_13092017000000/
  5. テスラ車事故、運転支援機能の作動中に発生(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28849880R30C18A3EA5000/
  6. テスラ「モデルS」、12万台超リコール 量産で試練(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28779020Q8A330C1MM0000/
  7. 洗練されたパフォーマンスと安全性(テスラ)
    https://www.tesla.com/jp/models
  8. 北米におけるIoT、AIの活用事例(日本貿易振興機構)
    https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/55c1b79aaf9ce90c/20170126.pdf
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