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栽培管理におけるAI活用事例 〜国内編〜

日本の農業界へのAI化事例を数種取り上げ、AI化の必要性や日本の未来の明るい農業の可能性を見ていく。

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農産業にとって、AIはこれから必須の技術になっていくであろう。特に深刻な少子高齢化問題を抱える日本では、担い手の不足を補うためにAIによる生産の効率化を図らなければ、日本の農産業の生き残りは難しいのかも知れない。

また、従来体力的な問題から人を選ばざるを得なかった農作業が、AIによってより楽にできるようにもなってくると思われる。これは女性や高齢者などの仕事の幅を拡げてくれ、雇用創出や機会均等の観点からも良い方向に向かいそうだし、大きい農業機械を遠隔で操作できるようになるなど、安全面でも優れた農業へと向かっていくのかも知れない。

栽培管理AI

自動収穫ロボット、営農管理、流通の事例

日本の農業は、アメリカなどと比べると規模の大きさなどの関係でこれまで機械化がそれほど進んでいなかった。従来の農業機械もいわゆる「杓子定規」なことしかできず、細かい作業はやはり人間がするしかなかった。

しかし、近年のAIによる柔軟な環境認識、状況判断能力が、日本の農業に革命を起こしそうな現況だ。このような時代の要請もあって、農林水産省は「スマート農業」を積極的に推進している。また日本の各企業も、農業機械へのAI組み込みやドローンの有効な活用など、AIを活用した農業への取り組みが加速気味だ。

こうした日本での農業へのAI活用の取り組みのうち、「栽培管理の効率化」の例を数例ほど取り上げてみよう。

営農管理の全体を統括する

日本の農業機械の大手メーカーであるクボタでは、先進技術の導入により圃場や作業管理の全体を適正に管理しながら作業も正確、精密性を確保して生産性の向上を図る」としており、農家の「頭」「眼」「手足」を支援するシステムを開発している。

食味・収量センサ付コンバイン(平成26年6月に販売開始)は、「『眼』(=食味・収量センサ)と『手足』(=収穫)機能が合体」したもので、従来の単作業の農業機械の常識を超える。特にAIが活用されているのは、これらコンバインや(農薬散布のための)ドローンなどと連携して統合し、営農管理全体を支援する「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」と呼ばれるものだ。

少子高齢化のため、農家あたりのほ場面積が広くなってきている日本の農業事情にも、KSASはAIを駆使して対応可能だ。従来の日本の農業のイメージとはまったく異なる、「日本の未来の農業」が、AIによって作られつつあるという事例だ。

ついに登場! 自動で作物を収穫する賢いロボット

先進的なロボットが(農業分野に限らず)出展される2017国際ロボット展で、パナソニックが展示したロボットの一つが、「トマト収穫ロボット」だ。

トマト収穫ロボットは、「ロボットの腕にあたるマニピュレータが赤いトマトだけを選んで果実にキズをつけずに上手に摘み取っていく」という器用ぶりだ。このロボットにAIを組み入れることによって、「収穫率は96%(従来約80%)と飛躍的に向上」したのだという。

従来の一般的な収穫ロボットでは、このような微妙な判断はほとんど不可能に近かったと思われるが、近年のディープラーニングをはじめとしたAI技術や機械学習の精度向上によって、画像・映像認識や概念獲得、判断、空間認識などの人間に近い高度な認知が可能にしたのだ。

農作業では(人間にとっては)単純ではあるが重労働の(しかし、機械・コンピュータにとっては非常に高度な)繰り返し作業が多く、以前からこのようなロボットの開発を期待していた人も多いはずだ。

しかも収穫ロボットは、機械だけに疲れ知らずで飽きたりもしない。夜間でも作業可能で、大幅に負担軽減や効率向上が期待できそうだ。農家にとっては夢に見たようなロボットではないだろうか。

流通やゲノムも・・・

まだ研究段階ではあるが、農産物の流通の分野でも、AIを活用して効率を上げようという取り組みもある。『平成30年度 「戦略的プロジェクト研究推進事業」について』の「AIを活用した食品における効率的な生産流通に向けた研究開発」によると、近い将来には、AIによって「需給予測」や「需給マッチング」が高速に最適化されることになりそうだ。

これが実現すれば余分な生産物を廃棄することも減り、また適当な場所への適当な作物を供給できる流通システムが構築される。そうなれば、農家からも、栽培管理の戦略も変わってくるだろう。

また、それにともなうコスト削減により、生産者だけでなく農産物の消費者にとってもメリットがありそうだ。 特定の花の育種では、非常に繊細で高い技術の必要なものがあり、「この花を育てられるのは何人もいない」ようなケースもある。

しかしAI化とともに技術・知識のデジタル化・オープン化をすることによって技術のしきいが低くなったり、今までみたことのないような新たな品種が生まれやすくもなる。

膨大なゲノム情報の解析、組み合わせも、AIによってより効率的に新たな発見を生む。消費者にとっても生産者にとっても、また経済にとってもありがたいことではないだろうか。

まとめ

AIは、数千年の歴史を持つ日本の農業の分野でも革命を起こしそうだ。従来、農業はその労働の大変さや汚れることを嫌って、若い世代から敬遠されがちだったように思う。しかし、今後数十年の間に、農業に対するイメージが大きく変わることになりそうだ。

農業後継者のなり手が少なかったことも、一農家あたりの耕地面積の増加につながり、手作業ではとても太刀打ちできそうになくなって機械化が進む要因となっている。日本の農業は、必然的に機械化・AI化に向かう機運になっているのだ。

農産業へのAIによる恩恵は、ロボットや機械による作業効率だけではない。ベテランの長年の経験による特殊技能がなければできなかったことが、情報のオープン化によって素人にも(ボタン一つで)できるようになるかも知れないし、また体力面でのサポートも機械とAIがしてくれる。

農産業界へのAIの積極的な活用によって、日本の農業は、老若男女問わずすべての人に開かれた農業に向かっていきそうだ。また、農業とは無関係だった業界からも、ビジネスへの参入が増えていくのかも知れない。


<参考>

  1. 元気農業 u35 (クボタ )
    https://www.jnouki.kubota.co.jp/agriinfo/einou_magazine/book/u35/u35.pdf
  2. パナソニックの「人に寄り添うロボットと技術」が集合~2017国際ロボット展 | パナソニックの「今」を伝える (パナソニック ニュースルーム ジャパン)
    https://news.panasonic.com/jp/stories/2017/52916.html
  3. 平成30年度 「戦略的プロジェクト研究推進事業」について (農林水産省)
    http://www.affrc.maff.go.jp/docs/attach/pdf/171227handouts-3.pdf
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