商品のアイテム数が少なかった昔は、物流が経済発展の足かせとなるとは考えられていなかった。工場でモノを大量につくり、鉄道貨物で一気に運び、スーパーマーケットに並べることで価格を下げれば客が押し寄せた。
ところが現代日本には、モノがあふれている。しかも消費者は、特別に高性能なモノや人と違うモノを求めるようになった。少量多品種の商品群を運ぶのにはコストがかかるが、値段を上げることは消費者が許さない。
そこで小売業界の新規参入組であるネット通販企業は、物流革命を起こすことで他社との差別化を図ろうとしている。
国内ネット通販企業が取り組んでいる、AI(人工知能)やドローンを使った最新の「モノ運び」を紹介する。
アスクルは前夜と10分前に荷物の到着を知らせる
文具品や日用品のネット通販会社アスクルは、AIを使って商品を受け取る人の不在による再配達ロスを減らした。まだ東京都内など一部地域での試みだが、アスクルの運送ドライバーが商品を顧客の元に届けたときの不在率は3%である。一般的な運送会社の不在率が20%なので、その優秀さがわかる。
その画期的な配送サービス「Happy On Time」を使うには、顧客は350円の料金を支払いアスクルのアプリをスマホにダウンロードする必要がある。
その代わり顧客は午前6時から午後24時までの18時間の間に、1時間刻みで配達時間を指定できる。そして配達する前日の夜に、アスクルはスマホアプリのプッシュ通知機能を使って、荷物を受ける人に到着時刻を伝える。
プッシュ通知とは、スマホユーザーにリアルな情報を提供する機能のことである。
アスクルではさらに、荷物が到着する10分前にもプッシュ通知する。
荷物を受け取る側は、アプリを使って荷物を積んだトラックの現在地を確認することもできる。顧客側も無駄な待ち時間を省けるから、Happy On Timeを使おうというモチベーションが生まれる。
この説明を聞いただけでは、このシステムのすごさがわかりにくいだろう。宅配便の到着時間を知らせてその通りに届けるだけなら、難しいことはなさそうだ。
しかしこのサービスはAIがなければ実現できないのである。
配送中に起きる無数の出来事を予測して最適解を出す
アスクルのHappy On Timeのすごさは、到着時間を知らせることではなく、到着時間を約束して、到着時間を予測しているところだ。
顧客から1時間刻みで配達時間の指定を受けることは、その時間に届けるという約束である。そして前日夜と到着10分前に配達時間を知らせるためには、トラック、倉庫、道路などの諸条件をすべて細かく把握し配送環境を予測しなければならない。
アスクルは日立製作所のAIを使って、配送の約束と予測を実現したのである。トラックの状況、倉庫の状況、道路の状況は刻一刻と変化するし、しかもトラックの状況は倉庫の状況に影響を与えるかもしれない。配送中に起きる不確定要素は無数に存在する。これらの無数の要素を把握、分析して最適解を出すことは、人間の脳では不可能である。AIに無数の要件の組み合わせを分析させ、最も効率のよいモノの流れを考えてもらうしかない。
アスクルは、再配達の課題を解消してネット通販などの電子商取引(EC)の歴史を変えると意気込んでいる。
楽天は空から攻める
楽天は2016年から、ドローンを使った配送サービスを開始している。空から届けるから「そら楽(そららく)」という。まだゴルフ場で使っているだけだが、きちんと料金を取るビジネスになっている。
そら楽のサービスは、プレー中のゴルファーがコース内で使う。ゴルファーたちは軽食や飲み物がほしくなったら、スマホのアプリで注文する。注文を受けたゴルフ場側は、ドローンに商品を積むだけだ。ゴルフ場の社員がドローンを操縦するわけではなく、ドローン自身が自律飛行機能を使って目的地に向かう。
ドローンは商品をゴルファーに届けた後、また自律飛行で元の場所に戻っていく。ゴルファーは料金をスマホの決済機能を使って支払う。
確かにユニークな取り組みだが、これで終わっては物流革命とは呼べない。楽天の構想は、もちろんもっと大きいものだ。
過疎地配送、救難活動にも拡大へ
楽天がそら楽のサービスをゴルフ場で始めたのは、ドローン飛行の障害物が少ないだけではない。ゴルフ場の広大な土地を正確に安全に飛ぶことができれば、次の展開がしやすいからだ。
楽天が想定しているのは、過疎地や山岳地帯への配送だ。買い物難民になっている住人の利便性が高まることで社会貢献ができるうえに、ドローン配送はトラックによる宅配よりコストがかからないから収益性も期待できる。
また災害時の救援物資の運搬にもドローン配送は使える。救難者の生命を救い、救助者の二次被害を最小限にすることができる。
まとめ~AIはビジネスと社会貢献を融合させる
アスクルも楽天も民間企業なので、当然ながら収益と利益を大きくするためにAI物流やドローン配送を開発している。しかしAIによって再配達が減れば、ドライバー不足の一助となる。ドローン配送は買い物難民や遭難者の助けになる。つまり両社の取り組みは社会的な要請の基づいているのだ。
ビジネスと社会貢献の融合こそ、新しい業者であるネット通販企業に求められる新しいビジネスモデルといえるだろう。
<関連記事>
調達物流でのAI活用事例 (国内)
<参考>
- ネット通販の配送時間、30分単位で通知 アスクル(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ28H85_Y6A620C1000000/
- LOHACO
https://lohaco.jp/event/happy_on_time/
- ドライバーの負荷軽減、再配達の減少を実現! AIを使ったアスクルの配送サービスとは?(ネットショップ担当者フォーラム)
https://netshop.impress.co.jp/node/4191
- 楽天、ドローンを活用した配送サービス「そら楽」を開始(IoTNEWS)https://iotnews.jp/archives/18699
- 食とAI 物流編~自動運転トラックに物量予測も。食品卸の人手不足をまかなう人工知能のこれから(フーズチャネル)
https://www.foods-ch.com/shokuhin/1510193231341/?p=2
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