ビジネスにAI(人工知能)を導入すれば省力化、効率化、高生産性が実現できる――。
そのように考えている経営者やIT部門責任者は少なくないはずだ。しかし闇雲にAIを導入してもさほどの効果は出ない。現代のAIはまだ万能ではないので、AIにはAIが得意とする仕事を任せないと効率化は図れない。
では、AI導入を先延ばししてもよいのかとういと、それでは時代に逆行してしまう。IT化が遅れたことで業績を悪化させた経験を持つ企業もあるだろう。同じ轍を踏んではならない。
AIを導入するには自社の業務を1つひとつ徹底的に分析し「AI向き」かどうか検証する必要がある。手間のかかる作業であるが、業務の見直しにもなるので、この機会に一気に進めてみてはいかがだろうか。
続きを読むAIが得意なこととAIに期待できること
AIには得意なことがあり、AIに期待できることもある。このことはつまり、AIには苦手なことがあり、AIに期待を裏切られることもある、ということでもある。
人材教育であれば長所を伸ばして短所を克服させることが必要だが、AI導入ではAIの長所のみに注目したほうがよいだろう。
AIにさせたほうがよい仕事は次の5つにまとめることができる。
社内のあらゆる業務を洗い出したら、それらを「この5項目かその他の仕事か」にわける。その他の仕事はAI向きの仕事ではないから、当面はAI導入の対象から外してもよいだろう。
そして5項目に分類された仕事のなかで、コストを払ってでもメリットが出るものからAI化していく、という段取りを踏む。
それでは上記のAI向きの5つの仕事の性質を解説する。
1)「複雑な」単純作業
単なる単純作業は普通のコンピュータ・システムで処理したほうが効率化できる。したがって単純作業ながら複雑な工程が必要な作業をピックアップしてAI化を検討することになる。
例えば、パソコンのデータ入力作業のなかには、仕事の流れをつかんでいるベテラン社員にとっては「単純な単純作業」でも、新入社員には「複雑な単純作業」になるものがある。
その手の入力作業を新人に任せると、いちいち作業マニュアルを確認したり、現場に問い合わせたりしなければならない。しかも高度な内容でないので、新人はフラストレーションを溜めるばかりでスキルを向上させられない。離職につながるパターンだ。
そこで注目されるのがRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)である。デスクワークをロボットに代行させるシステムであるが、AIの登場によりRPAが実用化レベルにまで進化した。AI化されたRPAは、ベテラン社員のパソコン操作を学習し「その通り」に入力作業を進めていく。
したがって複雑な単純作業はAIに任せたほうがよいのである。
2)時間がかかる作業
AIもコンピュータの一種なので、疲れることを知らない。したがってコストをかけてAIを導入したら、フル稼働を目指そう。
そのためには、会社の業務のなかで時間がかかる作業をみつけ、それらを集めて整理して効率よくAIに処理させていく必要がある。理想は24時間365日、AIに働かせることだ。
例えば、膨大なネット情報のなかから必要な情報だけをピックアップするサーチ業務や、膨大なデータを解析して最適な組み合わせをみつけるマッチング作業などは、AIに任せることができる。社内公募でサーチ業務やマッチング作業を集め、AIにさせる仕事のボリュームを増やすといった取り組みは有効である。
3)熟練作業
AIはすでに、医師でも見逃してしまうCT画像の微小な異変をみつける能力や、生産ラインから出てきたばかりの完成品の小さな傷を発見する能力を身につけている。
こうした作業はこれまで熟練者しかできなかった。
熟練者のスキルをAIに移植すると、効率化を果たしながら品質を維持することができる。
4)大量の情報処理からの分析
人が最も苦手な仕事のひとつに、大量の情報の処理がある。人の記憶力には限界があるので、大量の情報を渡されてもすべてを使いこなすことができない。
一方、AIが搭載されていない非AIコンピュータは大量の情報を処理できるが、そこから分析につなげることができない。
ところがAIは、大量の情報を整理してから、そのなかに潜んでいる法則をみつけることができる。つまり分析ができるのである。
もう社内にあるあらゆる分析作業はAIに任せてしまおう。そして人の社員は、AIの分析結果をビジネスに活用する方法を考えてほうがよい。
5)高度な作業
ニューヨークのウォール街では、株の売買にAIを使うことはもう珍しくない。AIは既に、ベテラントレーダーでも短時間では処理しきれない数多(あまた)の指標を一瞬で把握して、売りなのか買いなのか判断できる能力を身につけている。
またAIによる天気予報は「もう人間が勝てるレベルにない」と嘆く著名な気象予報士もいる。
付加価値性が高い高度なサービスを提供している企業は、AIを導入してクオリティを上げないと、AIで武装した新興勢力に簡単に負けてしまうかもしれない。
非構造化データを有効活用できるメリットは大きい
AIの有効性については、「AIは非構造化データの処理に優れている」という指摘がある。そこで、構造化データと非構造化データの違いを解説したうえで、この領域でのAI活用法を考えていく。
構造化データとは、非構造化データとは
AIを搭載していない非AIコンピュータは、構造化データしか処理できない。構造化とは、数値化と呼んでもよい。イメージとしては、エクセルで表記できるデータは構造化データである。
世の中のすべての情報は、元々は非構造化データであり、一部のデータのみ構造化できる。
例えば、「A店のショートケーキは200円」「B店のショートケーキは300円」「C店のティラミスは500円」というデータであれば、次のように「構造的に」データ化できる。
店名 | ショートケーキの価格 | ティラミスの価格 |
A店 | 200円 | ― |
B店 | 300円 | ― |
C店 | ― | 500円 |
しかし、人の話し言葉や印象、画像、動画、動き、においといった非構造データでは、なかなか構造化することはできない。
例えば、次の情報はどうだろうか。
・A店は店内がおしゃれ
・B店のコーヒーセットで出てくるショートケーキはおいしい
・C店の客単価は2,000円にもなる、高すぎる
いずれもスイーツ店の情報だが、構造的なデータにすることは困難だ。したがって非AIコンピュータではこれらの情報は処理できない。
なぜAIを使って非構造化データを活用すべきなのか
AIは「賢い」ので、AIを搭載したコンピュータなら非構造化データを有効活用できる。問題は、AIを使ってまで非構造化データを使う意義があるのか、ということだ。
先ほど紹介した非構造化データをもう一度みてみる。
・A店は店内がおしゃれ
・B店のコーヒーセットで出てくるショートケーキはおいしい
・C店の客単価は2,000円にもなる
これは、スイーツ店やスイーツに関連するビジネスをしている企業にはとても重要な情報だ。この情報をデータ化できれば、「スイーツ店分析」や「ツイーツ価格分析」や「スイーツの好感度分析」や「スイーツ店での消費行動分析」ができる。いずれもマーケターがほしがる分析結果だろう。
ところが非AIコンピュータしか持っていないと、こうした非構造化データは「使い物にならない情報」になってしまう。
したがって、もし企業が大量の非構造化データを捨てていて、そのデータのなかに「宝物」が隠されていることがわかったら、AIの導入を検討したほうがよい、となる。
AIが苦手なことを知っておこう
AIの導入を検討するときは、AIには苦手なことがあることを知っておいたほうがよい。
例えば、AIはRPA(事務の自動化)や異常の検知、データ分析は得意だ。これらの業務を行うAIシステムにはすでにひな形ができあがっているので、企業がこのタイプのAIを導入してもそれほどコストはかからない。
一方、自動運転車やパーソナルアシスト、最適化の仕事は、AIは得意ではない。不可能ではないが、この仕事を完璧にこなすAIをつくるのには「苦労」するだろう。
苦労とは、AIシステムを開発する企業とクライアント企業が試行錯誤しながらAIシステムを構築していくことである。
AIに苦手な仕事をさせることはコストもかかる。その点はAI化の大きなデメリットだが、もし高効率を実現できるAIシステムが開発できれば、ライバル会社を大きく引き離すことができる。
会社のAI化において経営者は、一般的な設備投資と同じくらい重要な決断が求められる。
まとめ~「AIの前にやるべきこと」の検証を
非AIコンピュータのシステムやソフトで十分な効率化が図れるのであれば、無理にAI化する必要はない。AI導入のためのAI導入にならないように、経営者もIT部門の責任者も注意しなければならない。
AIの判断結果にはまだ「信頼度」がつきまとう。信頼度とは、AIが出した結論をどれほど信頼してよいのか、を示した数値だ。
非AIコンピュータは非構造化データを処理できない代わりに、構造化データの処理では間違うことはない。間違った答えが出てきたら、それはプログラムミスであり、非AIコンピュータのミスではない。
会社の業務のAI化を検討するときは、「AIを導入する前にやるべきことはないか」という自問が必要である。コスト安のシステムで解決できるものは、無理にAI化せず、まずはシステム化やIT化をしていこう。
しかし、「AI化したほうがよい業務」探しは続けなければならない。なぜならその問い(「AI化したほうがよい業務はないか」)をやめてしまうと、AIに関する情報の収集すらやめてしまうかもしれないからだ。
AI化できる仕事を厳選したらAI化していくことをためらわないことが、今の企業のトップには求めらている。
<参考>
- AIをビジネスに活用する際のポイント(AIに何を期待するか)
https://thinkit.co.jp/article/13335 - 非エンジニアでも知っておきたいビッグデータとデータベースの話【NoSQL解説】
https://community.mapr.jp/nosql-topic-bigdata-and-database.html - RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは?基本から導入の進め方までまとめて解説
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