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物流をAI化した会社がネット通販を制する(海外編)

ネット通販企業の競争は「品ぞろえ」から「届く速さ」に変わりつつある。そこにいち早く気づき、物流改革を進めたのがアマゾンだ。同社の倉庫ロボットを紹介する。

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ネット通販世界最大手のアマゾンのすごさは「品ぞろえ」だが、もしかしたらそれよりすごいのは「運ぶこと」かもしれない。商品を顧客に速く届けることは、顧客満足度を上げるだけでなく、他社に注文しようという気を起こさせなくする効果もある。物流スピードを上げることは、売上を上げることと同じなのだ。

物流スピードを速めるといっても運送トラックを制限速度以上で走らせるわけにはいかないの。そこでアマゾンは、物流の要である倉庫での商品の仕分け作業を速くすることにした。

いま海外ではAI(人工知能)を使った物流革命が起きている。その現状を紹介する。

商品を取りに行く時間がネックになる

ネット通販会社では通常、取り扱う商品数を増やせば増やすほど、倉庫での仕分け時間が長くなる。例えば顧客が2つの商品を注文し、その商品が倉庫の東のはじと西のはじに保管されていたら、倉庫作業員は東のはじから西のはじまで走らなければならない。

また、顧客が10個の商品を発注したら、倉庫作業員はまず、10個の商品がそれぞれどの棚に保管されているかを探索しなければならない。

物流スピードのカギを握る倉庫作業の時間短縮は、こうした課題を1つずつ解消していかなければならない。そのためには倉庫の自動化が欠かせないというわけだ。

倉庫ロボットは作業員のところに商品棚を運ぶ

2012年はまだ「倉庫をロボット化することはできない」と言われていた時代だった。しかしアマゾンはその年、キヴァという倉庫ロボットベンチャーを買収した。

さすがに無謀な投資と言われたが、アマゾンとキヴァは見事その難題をクリアし、2014年に倉庫のロボット化に成功した。

キヴァは現在、アマゾンロボティクスに社名を改めている。

アマゾンの倉庫ロボットの見た目は、掃除ロボットの大型版だ。円盤型で底面に車がついていて、上面は真っ平である。

アマゾンの倉庫の内の商品棚は固定されていない。倉庫ロボットは商品棚の下にもぐり、数センチ持ち上げる。商品棚が宙に浮いたところで、倉庫ロボットが商品棚を持ち上げたまま自動で走り出す。

商品棚を持ち上げた倉庫ロボットが向かう先は、作業員が仕分けをしている場所だ。作業員は目の前に現れた商品棚の中から目当ての商品だけを取り抜き、顧客に配送する段ボールの中に入れる。

仮に作業員が4つの商品を顧客宛の段ボールの中に入れなければならないとき、最高4つの商品棚が目の前にやってくるというわけだ。

作業員が商品棚から商品を取りだすと、倉庫ロボットは再び商品棚を持ち上げて元の場所に戻って行く。

AI制御だから衝突しない

アマゾンの倉庫は広大だ。その中を、商品棚を持ち上げた倉庫ロボットが走り回るわけだが、なぜか衝突することはない。しかも誰かがラジコンカーのように倉庫ロボットを操作しているわけではない。作業員は必要な商品をパネルに打ち込むだけだ。

倉庫ロボットはAIを搭載したコンピューターによって動かされている。

なぜ倉庫ロボットを動かすのにAIが必要なのかというと、何十台何百台という倉庫ロボットを衝突させずに倉庫内を走らせることは、人がつくるプログラムでは対応しきれないからだ。

作業員が必要とする商品は事前に予測できない。作業員が求める商品が奥のほうに置かれた商品棚にあれば、前方の商品棚をずらして「通り道」をつくってあげなければならない。もしよく売れる商品を入れた棚を倉庫の奥に置いてしまったら、取り出すときに時間がかかる。だからあまり売れない商品を保管している商品棚は、後ろのほうに置いておかなければならない。

倉庫ロボットは単に「運ぶ」だけでなく「予測」もしなければならない。それは人の頭脳では難しすぎる。

AIなら自分で学習することができるので、作業員がいる作業場までの最短ルートや、複数の商品を効率よく運ぶ順番もすぐに計算できる。走行中の倉庫ロボットの次の動きも計算に入れながら、どの倉庫ロボットに運ばせたほうがいいのかも決めることができる。

60分の作業が15分に短縮

アマゾンの工場では、倉庫作業員が商品を選んで段ボールに入れる時間が、従来は平均60分ほどだったが、倉庫ロボットを導入したことで15分に短縮したという。

倉庫ロボットのメリットはそれだけではない。倉庫ロボットは床に貼られたバーコードを読みながら走行するので、倉庫ロボットに取り付けた小型のライトさえあれば、倉庫内が真っ暗でも動くことができる。作業員の場所だけ電灯を照らせばよく、倉庫内の電気代が浮いたのだ。

メリットはまだある。人が商品棚に向かうには、商品棚と商品棚の間に人が通過できるスペースを確保しなければならない。しかし倉庫ロボットは商品棚の下の空間を走るから、商品棚どうしを密着させることができる。同じ面積でも、倉庫ロボットを使った倉庫はより多くの商品を保管できるというわけだ。アマゾンはさらに取り扱い商品数を増やすことができる。

新人トラックドライバーに渋滞を回避させて速く運ぶ

冒頭で、運送トラックは道路の制限時速の規制があるから配送スピードを上げることは難しいと述べたが、走行スピードは上げられなくても近道をすれば速く到着することができる。

近道探しや道路の渋滞予測はこれまで、ベテランドライバーほど有利だった。「長年の経験と勘」が定時配送を支えてきたといっても過言ではない。

しかしアメリカのオートモティブ・リソーシズ・インタナショナル(ARI)社は、ビッグデータを解析することで、長年の経験と勘がないドライバーでも近道を通り渋滞を回避する方法を編み出した。

ARI社は92万台のトラックにセンサーとGPSを搭載し、大量の交通情報と位置情報を集め、さらに天候データと合わせて最適ルートをドライバーに知らせている。

まとめ~待ちたくない顧客をつかまえるために

いくら便利さを追求しなければならないといっても、商品を顧客の元に速く運ぼうとして運送トラックを急かして事故が増えたり労働が強化されたりすれば、コスト高な社会になってしまう。それでは意味がない。しかし消費者は、商品を1秒でも速く届けてくれるネット通販会社を選ぶ。

つまり物流のAI化は、小売企業が避けて通れない投資案件といえる。日本企業も海外企業に負けない物流スピードを確保する必要があるだろう。


<参考>

  1. Amazonの倉庫ロボットKivaがもたらすイノベーション(ECStarter)
    http://ecstarter.com/amazon-makes-an-inovation-in-its-warehouse-systems/
  2. 食とAI 物流編~自動運転トラックに物量予測も。食品卸の人手不足をまかなう人工知能のこれから(フーズチャネル)
    https://www.foods-ch.com/shokuhin/1510193231341/?p=2
  3. 第266号物流拠点を考える(SAKATA)
    http://www.sakata.co.jp/logistics-266/

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